杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

静大理学部の大地震&放射能講座

2011-04-15 12:08:55 | 東日本大震災

 昨夜(14日)は静岡市産学交流センターB-Nestで開かれた『サイエンスカフェin静岡特別版~地震と放射能、今知っておくべきこと』を聴講しました。

 サイエンスカフェというのは御存じの方も多いと思いますが、県内大学の理系の先生方が開く市民講座。今回は「サイエンスカフェは、まさにこういう時こそ大学が有する知識を社会に伝える使命がある」との企画者の思いで、急きょ予定を変更し、静岡大学理学部地球科学科の生田領野先生が巨大地震のメカニズムについて、同部付属放射科学研究施設の奥野健二先生と大矢恭久先生が放射線のイロハと人体への影響について解説してくださいました。

 

 

 

 実は今週末、急きょ、被災地へ取材に行くことになったので、少しでも予習をしておきたいと、ネットで偶然見つけたこの講座にはせ参じることに。テレビやネットや週刊誌等で不安をあおる情報ばかり目にしていたので、専門家による分析と解説が聞けて冷静に取材に行けるとホッとしているところです。

 とくに静岡大学理学部は、予想される東海地震についての研究実績があるし、放射科学研究部門は昭和29年の焼津第五福竜丸のビキニ環礁水爆実験による放射能汚染を調査研究がベースとなって開設されただけに、今回は現在国内で開かれている市民講座の中でもトップクラスの内容ではないかと、素人ながら実感しました。

 

 

 

 かなり専門的な内容でもあったので、素人が1度聴いただけで知ったかぶった解説ができるはずはなく、講座の内容はサイエンスカフェの公式HPブログを参照していただくとして、ここでは素人ながら“目からウロコ”になったキーワードを挙げておきます。

 

 

 

 

アスペリティ/海溝型地震で強い地震波を起こす場所のこと。海溝型地震は急に起こるようになったり起こらなくなることはなく、過去に起こった場所では、特定の時間間隔で、特定の規模のものが必ず起きる。十勝沖ではM8クラスのアスペリティが、三陸沖ではM7.5クラス、関東~南海沖ではM8クラス、九州日向灘沖でM7クラスのアスペリティが存在していることがわかっていて、いくつかのアスペリティが連動する場合もある。

 今回はこれまで知られていたアスペリティを複数個含み、かつプレートの沈み込み量が300年分に相当するパワーだった。これはまさに“想定外”だったそう。

 

 

 

想定される東海地震は津波より揺れ/想定される東海地震のアスペリティモデルは、安政東海地震の震度分布がベースになっている。駿河湾は伊豆半島が“くさび”になっているので沈み込み量は少なく(→大津波は起きにくい)、震源域直下で10キロメートルと浅いため、津波よりもまず揺れに注意。県でもその方針に基づいて、防波堤の整備よりも建物の耐震に力を入れてきた。

 

 

 

想定外の東海地震は東南海・南海と連動し、津波の被害も大きいが、緊急地震速報は役立ちそう/東海・東南海・南海の3連動型の場合、震源地は紀伊半島沖あたり。地震動は東(静岡方面)と西(四国方面)に分かれ、それぞれ進行方向に向かって振幅が大きくなる。震源地から離れていたとしても静岡県中部~西部の揺れは甚大。想定を超えた大津波も起こり得る。ただし静岡が揺れるまで発生から100秒ぐらいの間があるので、緊急地震速報は大いに機能すると思われる。

 

 

 

今回得た電離層予知/今回、発生前にある部分で電離層がグッと増えたデータが得られた。電離層感知システムを実用化できたら今後の地震予知に有効かもしれない。

 

 

 

 

宇宙も地球も放射線でいっぱい!/ビッグバンで生まれた宇宙も地球も、もともと強い放射線を持っていて、徐々に減っていき、2億5千年前に恐竜が、200万年前から人類が住めるようになった。ウランは半減期が45億年なので、ちょうど45億年前の地球誕生の頃は、今の2倍の量が存在していた。このウラン=放射線の存在を1896年に初めて発見したのがアンリ・ベクレル。1903年にはノーベル物理学賞を受賞し、その名がそのまま放射能の単位ベクレルになった。

 

 

 

人間は年間3.8ミリシーベルトの放射能を受けている/体重60kgの日本人は年間平均、4000ベクレルのカリウム40、2500ベクレルの炭素14、500ベクレルのルビジウム87、20~60ベクレルのセシウム137を受けている。日本人の平均年間線量は一人当たり3.8ミリシーベルト。世界平均は3.1ミリシーベルト。

 

 

 

日本人は医療機器から、海外ではラドンから/日本人の平均線量3.8ミリシーベルトの内訳は、医療2.25、体内(食物等)0.41、ラドン0.4、宇宙線0.29等で半数以上は医療機器が要因。世界平均ではラドン1.26、医療0.61、大地から0.48、宇宙線0.39、体内0.29という順。ラドンは大地や建材に含まれる微量のウランやトリウムが崩壊する時発生する。

 

 

食物中のカリウムも放射線です/食物にはカリウム40という放射線があり、米・食パンには30ベクレル(1kgあたり)、牛乳50(以下同)、肉や魚には100、生わかめ200、ホウレンソウ200、干しシイタケ700、干し昆布2000含まれる。ちなみにアルコールでは日本酒1ベクレル、ビール10ベクレル、ワイン30ベクレル。日本人の体内摂取が世界平均より多いのは、海産干物を好む食生活にも影響?

 

 

 

地球上では年間400ミリシーベルトの地域でも人が住んでいる/大地が発する自然の放射線は日本では平均は0.38ミリシーベルトだが、ケララ、タミル・ナドゥ(インド)は3.8、グアラバリ市内(ブラジル)は8~15、ラムサー(イラン)には年間400ミリシーベルト以上の地域が存在する。また温泉や岩盤浴効果などで親しまれる花崗岩にはカリウム40が500~1600ベクレル(1kgあたり)、ウラン238とトリウム232がそれぞれ20~200ベクレル含まれる。

 

 

 

ホルミシス効果/鳥取県の調査では、ラドン温泉周辺の住民は、全国平均や県内他地区よりも発がんリスクが少なく、ホルミシス効果(微量の放射線は健康に役立つ)があるという研究者も。中国広東省の高自然放射線地区でも同様の結果あり。

 

 

  

米ソ核実験の影響/1950年代後半から60年代前半にかけ、世界各国で行われた核実験の影響で、デンマークの例では1964年ころ、セシウム137が穀物に年間18ベクレル(1gあたり)、肉には7ベクレル(同)、牛乳にも3ベクレル(同)増加した。

 

 

 

 いただいた資料では、米ソ核実験による核分裂(メガトン)数は1962年前後がピーク。1962年生まれの私としては、ギョッとする数字でした。日本は高度成長の時代だったと思いますが、乳児だった私はもしかしたら知らず知らずのうちに通常よりも高い放射線を摂取していたのかもしれないと思うと、今回の原発事故も身近に感じられます。

 

 

 放射線物質は自然界のあらゆるところに存在し、適切に扱えば広範な利用ができることがわかって少しはホッとしました。数値を見れば、水を買いだめしたり、北関東の野菜をボイコットするようなヒステリックな行動は愚かしいと冷静に思います。

 とくに福島から避難してきた小学生を、受け入れ先の千葉の小学校の児童たちが差別したり、福島県の震災ゴミやガレキの受け入れを決めた川崎市に抗議電話が殺到したというニュースには本当に心が痛みました。幕末の黒船来航や太平洋戦争時じゃあるまいし、これだけ情報化が進んだ現代でも、正しい情報を得て正しく読み解く力が得られないと、人は簡単に差別や偏見を持つのだと恐ろしくなりました。

 

 放射能は人類誕生の前から地球に存在していて、地球が生まれる前から宇宙に存在しているもの。後から来た人間があれこれ騒ぐのは、地球から見たら滑稽な話かもしれませんね。

 そもそも人間が放射能をコントロールしようなんて実におこがましい話なんだと肝に銘じ、せめて原子力や核物質を扱う立場の人間は情報を適切に開示し、市民も適切に判断できる努力をすべきだと、深く実感しました。

 

 

 なお、急なお知らせですが、明日4月16日(土)16時から、東海大学海洋学部清水校舎3号館3401室で、『東日本大震災関連特別セミナー』が開かれます。昨日お話くださった静岡大学理学部の生田領野先生と、東海大学海洋地球科学科の原田靖先生が、東海地震発生時の津波被害予想や防災について解説してくださいます。一般向けの市民講座ですので、興味のある方はぜひ!