杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

天晴れ門前塾の酒蔵出張講座

2009-02-26 10:18:32 | 吟醸王国しずおか

 昨日(25日)は天晴れ門前塾(県内の大学生有志が学外でさまざまな社会人講師に学ぶ自主ゼミ)の学生5人を、青島酒造(喜久醉)と初亀醸造に案内しました。

 

 3月6日に5つのゼミ(講師は私のほかに、キャリアカウンセラーの杉山さん、中山間地の限界集落の再生支援活動をする大国さん、県観光コンベンションの佐野さん、元新聞記者の河合さん)の成果発表会があるというのに、昨年暮れに岡部のイーハトーヴォで試飲&交流会を開いて以来、すっかり怠けてしまって、学生に尻を叩かれる始末(苦笑)。私みたいに、自分の仕事に手一杯で現場を走り回るライターには、ゼミの講師なんて荷が重かったかなぁと後悔しつつも、せっかく静岡の酒について学びたいと手を上げてくれた学生たちに、発表会で恥をかかせるわけにはいきません。とにかく趣旨を理解し、受け入れOKの蔵を駆け足で回ることに。

 

Imgp0548  昨日は朝からあいにくのドシャ降り。青島酒造に着くと、ビニールシートを屋根代わりに設置しての洗米作業が始まっていました。雨降りの洗米作業を観るのはめったになかったので、まず私自身が「おぉーっ」と興奮してしまいました。

 

 

 蔵元杜氏の青島孝さんが、1回目の洗米で浸漬時間を目視判断し、「〇分〇秒」と指示し、洗米前と吸水後の米の重量をチェックして吸水歩合を確認します。本来なら集中しなければImgp0546 ならない作業中なのに、寸暇を惜しんで学生たちに原料米や精米歩合の説明をしたり、浸漬中の米の変化を解説し、その後も酒造工程に従って、蒸し釜、麹室、酒母、もろみ、貯蔵と順に案内してくれました。

 その落ち着きぶりと貫禄さえ感じられる態度に、彼の杜氏としての歩みの確かさを実感しました。ニューヨークから帰って来たばかりの頃は、ほんと、ホワイトカラーのおぼっちゃんだったからなぁ(笑)。

 

 年末、イーハトーヴォで松下明弘さんから米作りの話を聞き、松下米ヴィンテージの試飲をさせてもらった学生は、蔵で黙々と洗米作業やラベル貼りに従事する松下さんを見つけてビックリ。

 そして酒造りを子育てのように愛情豊かに語る青島Imgp0556 さんに大感激したようで、「わたし、ファンになっちゃいました」と目を潤ます子も。

 「こうして間近でお話を聞くと、思い入れが強くなります。お店で喜久醉を見かけたら語りたくなっちゃう」「映像で見るよりやっぱりホンモノは深い!」と素直に喜ぶ学生たちを見ていたら、私の役割とは、自分が偉そうに講釈をしたり映像を見せて終わるのではなく、こうやって現場で感動体験させることに尽きるなと思いました。

 

 

 

 

 お昼をはさんで午後に訪問した初亀醸造では、蔵元社長の橋本謹嗣さんから、蔵の歴史、酒米をとりまく農業の問題、神神社のある岡部が藤枝と合併したことで藤枝全域で酒造のまImgp0576 ちとしてアピールしていく動きなどを、1時間余りたっぷりと“講義”してもらいました。

 

 その後、昭和と平成の建造物が融合した蔵内を見学。外車1台分の高額洗米機やチタン製のタンクなど、最新の機材に学生たちは目がテン状態。「同じ地域の酒蔵でも、まったく違うんですね」と口々にこぼしていました。

 

 

Imgp0568  学生の中には、日本酒がやたら好きな子もいれば、このゼミに参加するまでほとんど呑んだことがないという子もいます。喜久醉では大吟醸と純米吟醸を、初亀ではヤブタから搾られたばかりの新酒をテイスティングさせてもらいましたが、「こんなに強いアルコールは初めて」と恐る恐る舐める子も。コンパや飲み会で呑むのは、呑み放題コースの低アルコール酒やカクテルばかりで、「味や香りがキツイのに、食事と一緒で平気なの?」と橋本さんから質問されていました。彼ら、酒と料理の相性とか食べ合わせなんて、まったく考えたことがないみたいですね。逆に「日本酒みたいにアルコール度が強いお酒はどうやって食事と一緒に飲むんですか?」と聞かれた橋本さん、「日本酒はどんな料理にも合うんですよ」と答えるも、今の学生たちにその実感を伝えるのは容易ではないと、私も傍で感じました。

 

 6日の発表会のために、学生たちは、青島さんと橋本さんに、サインと「ひとこと」をスケッチブックに書いてもらいました。

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 青島さんの端正な文字、橋本さんのちょっぴり遊び心のある文字…それぞれに味があって、私がつねづね彼らに話していた、「お酒というのは、造っている人の気持ちや性格が味になるんだよ」という言葉が、モノのみごとに表現されていました。

 

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 とにもかくにも、急なお願いにもかかわらず、また、直接酒の売上や広報にはつながらない相手にもかかわらず、快く受け入れてくださった青島さん、橋本さんには心から感謝いたします。

 

 28日にはもう1軒、大村屋酒造場(若竹)を訪問し、静大生の先輩でもある副杜氏日比野哲さんに若者目線で語ってもらい、その様子を『吟醸王国しずおか』の映像にも収めようかと思っています。

 

 6日の発表会(18時30分~、県教育会館4階会議室…新静岡センター前)は一般の人も参加できますので、興味があったら、こちらをご覧くださいまし!