うたことば歳時記

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四葉のクローバー

2017-02-21 16:12:27 | その他
 四つ葉のクローバーは、日本では幸せのシンボルと理解されて、珍重されています。 クローバーの学名Trifolium(トリフォリウム)は「三つ葉」という意味で、和名を「詰め草」と言います。もともとは長崎貿易でオランダからギヤマン(ガラス器)が輸入される際に、破損しないようにクッションとして隙間に詰め込まれていたことによる呼称です。日本にはアカツメクサとシロツメクサが帰化植物として野生化していますが、牧草としても利用されています。いわゆる四つ葉のクローバーは、このシロツメクサの三つ葉がたまたま四つ葉に異変したもののことなのですが、ある時にはあるもので、一カ所でいくつも見つけたことがありました。 ちなみにツメクサ(爪草)という可愛い草がありますが、それとは全くの別種です。
 クローバーはアイルランドの国花となっていて、アイルランドのエアリンガス航空の垂直尾翼に描かれたり、アイルランドに縁のあるもにしばしば描かれています。また緑と白の組み合わせはアイルランドのナショナルカラーで、国旗にも取り入れられています。アイルランドのネイティブはケルト民族なのですが、キリスト教が伝えられるより前から、クローバーは「シャムロック」と呼ばれて神聖視されていました。このケルト人のアイルランドにキリスト教を伝えたのは、パトリキウス(パトリック)という司祭で、生没年は387年~- 461年3月17日とされています。彼はケルト民族の異教徒に布教するに当たり、彼等の信仰を否定することなく、彼等が大切にしていたクローバーの三つ葉を上手く利用して信仰を説きました。三枚の葉は、父なる神・その子なるキリスト・その霊力の発動である聖霊が本来は一体であること、つまり「三位一体」をわかりやすく教えるのに役立ちました。また新約聖書「コリント人への第一の手紙」13章13節に、「それゆえ、信仰と、希望と、愛、この三つは、いつまでも残る。その中で最も大いなるものは、愛である。」と記されているように、信仰と希望と愛の三つが、キリスト教で最も尊ばれるべきものであることを象徴していると説いたことでしょう。もっとも聖書には、「三位一体」という言葉は、どこにも記されてはいません。
 そのようなわけでアイルランドではクローバーは神聖なものという理解が古くからあったのですが、四枚葉のクローバーを珍重するという理解がいつ頃にどこで生まれたかについては、よくわかっていません。ただ4枚のクローバーは十字架に見え、まためったに見つからないことから珍重されたことは十分に可能性があります。かなり信憑性のある良心的なネット情報ですが、「四つ葉のクローバーが幸福のシンボルになったのは、イギリスでは1620年に書かれた占星術の本に出ている」そうです。残念ながら原書で確認しようもなく、そのような説があることを御紹介するに留めておきます。
 パトリックによってキリスト教的に意義づけられたクローバーの理解は、その後アイルランド移民によってイギリスからアメリカを経て、世界各地に伝えられました。19世紀半ばのこと、アイルランドでは「じゃがいも飢饉」と呼ばれる大飢饉となり、百万人単位のアイルランド人がアメリカに移住しました。彼等は同化しても、なおアイリッシユとしての自覚を持ち続けていることが多く、その過程でクローバーについての信仰的理解がアメリカに広まったものと思われます。そしてキリスト教的文化の一つとして日本にも伝えられ、四葉のクローバーは幸せのシンボルとされたのでしょう。ちなみにジョン・ケネディー大統領は、アイルランド系移民の子孫です。
 パトリックの命日である3月17日は、「聖パトリックの祝日」として、アイルランド系の人々の間では現在でもにぎやかに祝われています。「シャムロック」と称して三つ葉のクローバーを服につけたり、川を緑色に染めたり、小池都知事のように緑色の服を着たり、とにかくクローバーの葉や緑色に縁のあるものでいっぱいになるのです。アメリカ東部にはアイルランド系の移民の子孫が多く、盛大に祝われています。最近は日本でも行われるようになりましたが、「聖パトリック」はお題目だけで、事実上の「アイルランドの日」となっているようです。
 戦前歌われていた「四つ葉のクローバ」という歌を知っている人は少なくなりました。アメリカの詩人エラ・ヒギンソンの詩を和訳したもので、明治末期から大正初期に東京音楽学校(東京芸術大学の前身)の音楽教師であったアメリカ人ルドルフ・アーネスト・ロイテル が曲をつけたものです。
 歌詞を御紹介しておきましょう。

四つ葉のクローバ

うららに照る日影に 百千(ももち)の花ほほえむ 人知らぬ里に生ふる 四つ葉のクローバ
三つの葉は 希望 信仰 愛情のしるし 残る一葉は幸福(さち) もとめよ疾(と)くその葉
希望深く 信仰固く 愛情厚くあれ  やがて汝(なれ)も摘みてとらん 四葉のクローバ

 槇原敬之作詞作曲の同名の歌がありますが、それとは全く関係ありません。ユーチューブでかつてのレコードを聴くことができますから、一度お聞きになってください。詩は新約聖書の前掲の聖句に基づいたもので、曲も格調高く、当時は女学生好みの歌だったのですが、私も大好きな歌です。四枚目の葉である「幸」は、人知らぬ里にこっそりと生えているのです。きっといつかその葉に出会う日があると信じて、辛い時に心励まして歌ってください。