2年に渡った東京リング再演もいよいよ大詰めの「黄昏」である。今回初回のようにオーケストラが変わるというような変則事態も起こらず、前回降板させられた東フィルがオペラ・オケとしての実力を発揮し、見事雪辱を果たした。昨晩は、何と言ってもジークフリートのフランツとブリュンヒルデのテオリンの圧倒的な歌唱が素晴らしかった。その他も実力ある歌手を揃え、実に充実した舞台となった。この四部からなる巨大なオペラの中でも最もオペラティックな音楽が詰まった第2幕では、新国立劇場合唱団(男性)が本当に充実した惚れ惚れするような響きを聴かせてくれた。エッティンガー率いる東フィルの奏でる音楽は、伴奏音型の隅々に至るまで神経が行き届き、あらゆる音が意味を持って響く。それゆえ、最後まで退屈する瞬間を一時も与えないことは誠に称賛に値しよう。そうした音楽の持つ方向性は、視覚的にあらゆるところに暗示的・明示的な意味を仕込んた演出と不思議と折り合いが良く、強力な歌手達を引き立てる揺るぎない基盤を作っていた。当夜の各幕の所用時間から推察すると、エッティンガーの当夜の平均テンポはこれまでよりいささか早目であったように思われる。これが21日マチネーの大ブーイングを意識してかどうかは推測の域を出ないが、この演出の象徴とでも言いたい極めて独創的な大詰めに関しては、もう少しゆったりとしたテンポで余韻を感じさせながら現代の映写室へ繋げて欲しかったと思う。とは言え、2年に渡って観せてもらったウォーナー+エッティンガーの東京リングは、一生の劇場体験のうちでもかけがえのないものになったことは事実である。
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