生の小澤征爾を初めて聞いたのは、今は「LINE CUBE SHIBUYA」と呼ばれる「旧渋谷公会堂」だった。たぶん1970年代前半のことで、当時の文化放送の「東急ゴールデンコンサート」というラジオ番組の公開録音だったのではないだろうか。応募ハガキを出して当選して嬉々として宇田川の坂を登って会場へ向かったのを覚えている。一時間枠で他に何を演ったかの記憶は全くないのだけれど、チャイコフスキーの交響曲第4番が入っていたように記憶している。流麗で、勢いがあり、輝かしい、それまでに聞いたこともないような「めちゃくちゃかっこいい」音楽だった。その時の音楽の印象は、かろうじてパリ管を指揮して録音された同曲の音盤(1970年録音)で振り返ることができる。しかし私にとっての小澤の価値はこの初期の段階で終わっていて、その後どんどん蒸留水のように”純化”されていく彼の音楽には、どうも面白さを感じることができないままになってしまったことは誠に残念だった。ただこれは私の極めて主観的な好みの問題であって、西洋音楽の本場で、アジア人が真の音楽家として認められる先鞭を切って走り続け、最後にはその頂点に立った小澤の才能と努力は、どんなに言葉を尽くしても言い尽くすことができないものだったのだと思う。市井のクラシック音楽愛好家の一人として、心から哀悼の意を表したい。ただ近年の録音のうちにも唯一私の心を強く打つものがある。それはサイトウ・キネン・オーケストラと演ったバッハの「ロ短調ミサ」(2000年録音)だ。これは純化された音楽とミサという形式の融合が生んだ稀代の名演だと思っている。これを聞きながらその60余年の足跡を偲んでみたいと思う。
goo blog お知らせ
プロフィール
最新コメント
ブックマーク
カレンダー
goo blog おすすめ
最新記事
- 紀尾井ホール室内管第141回定期(9月20日)
- 東フィル第1004回オーチャード定期(9月15日)
- 東京シティ・フィル第372定期(9月6日)
- 第44回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティバル (8月28日〜30日)
- ロッシーニ・オペラ・フェスティバル2024(8月17日〜21日)
- 読響フェスタサマーミューザKAWASAKI 2024公演(7月31日)
- 京都市響第691回定期(7月27日)
- 東京二期会「蝶々夫人」(7月21日)
- 新国「トスカ」(7月19日)
- 東響オペラシティシリーズ第140回(7月7日)
- 東京シティフィル第371回定期(6月29日)
- 都響第1002回定期(6月28日)
- アーリドラーテ歌劇団「シチリアの晩鐘」(6月22日)
- 紀尾井ホール室内管弦楽団第139回定期(6月21日)
- 山響さくらんぼコンサート2024(6月20日)
- 東響オペラシティシリーズ第139回(6月1日)
- 二期会「デイダミーア」(5月25日)
- 新国「椿姫」(5月22日)
- 東響オペラシティシリーズ第138回(5月17日)
- 東響第720回定期(5月12日)