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ロンドンから徒然に

Once ~ 映画とミュージカルと

2014-02-28 | 映画・演劇
 低予算映画というのがけっこう好きです。
 俳優にもセットにも金かけられないとなると、当然他の部分で知恵を絞るしかなく、そこで見せる関係者のセンスみたいなものが光ると、思わず嬉しくて頬がゆるみます。
 さらにそれが興行的にも成功となると、その快挙を讃えたくもなるというものです。

 その意味では、ロンドンに来て最初に見た映画(いや、家探しでその前に一週間足らず訪れた時だったかな?)として思い出深い「ONCE」なんて良い例だと思います。アイルランド人のストリートミュージシャン(映画中では名前がなくGuyと呼ばれる)とチェコ系の移民(これまたGirlの呼称だけ)との、音楽を間に挟んだ悲しいラブ・ストーリー。

 この映画を下敷きにミュージカルが作られたと聞いた時は、興味を持ったものの、何だか安易に作られていて失望したらイヤだなと思ってそのままにしていました。
 それが先日何故かやたらと映画の中で使われた歌が頭の中をリピートし、これは何かの暗示かと、このミュージカル版のチケットを取ることにしました。



 少し早めに劇場に到着すると、アイリッシュ・パブをイメージした舞台の上には既に出演者達が。ただ、よく見ると彼らに混じって明らかに違和感のある人達も。
 そう、これが実はこの日の観客達。この舞台上のパブは実際にビールを売っているんです。
 そのうち出演者達によるトラディショナルなフォークソングの演奏が始まり、それを囲む観客達という図が出来上がります。
 これがまるでコンサートの前座のようにうまく機能しています。さりげなく観客達を本来の席に戻すと、さぁ本編の始まり、始まり。

 このパブの他にセットで印象的だったのは、舞台奥(つまりパブのカウンターの後ろ)にある大きな鏡。
 時には観客側に背を向けてピアノを弾くGirlの正面を映し出したり、あるいは舞台を暗くして俳優にスポットライトを当てると、そこに写るのは彼らの心象風景のように見えたりもします。

 さらには舞台上方に設けられた字幕。
 この字幕に映し出されるのはチェコ語。いや、もちろんチェコ語を理解する観客など多いわけがなく、出演者は英語で話すのですが、Girlを初めとするチェコの移民達同士の会話の時にはチェコ語が使われているのだということが、ここで観客達には分かる仕組み。
 いや、そう書くだけではこの字幕の効果がいまいち伝わらないかと思いますが、実はこれがもどかしいほど初々しいふたりの主人公達の会話中のGirlの悲しい告白「I Love You」の時に生きるわけです(そう、アイルランド人のGuyはそれを理解できないんですよ)

 これらが映画との外見上の違いですが、何よりも大きく異なっているのはGirlのキャラクターでしょう。
 チェコのシンガー&ソング・ライター マルケタ・イルグロヴァによって演じられた映画版の方は素朴で繊細な女性でしたが、ミュージカル版の方(こちらはクロアチア出身の女優Zrinka Cvitešić。どう発音するんだろう?)はもっと陽気で口数も多く、ユーモア溢れる女性に描かれていました。それだけに最後が悲しいとも言えるのですが。
 このキャラクター設定に関しては異論もあるかもしれませんが、僕はこちらもオリジナリティをきちんと出して、成功していたと思います。

 でも、色々ある要素の中で、やっぱり映画もミュージカルも一番の成功の原因は何と言っても歌でしょうね。Best Original Song部門でアカデミー賞を獲得した一連の楽曲は本当に素晴らしい!

 こんな話を友人にしたら、自身アイルランド人の血を引く彼女も映画は観たらしく面白い感想を。
 (歴史上、国が貧しかった時期もあって)アイルランド人はずっと外国への移民として外に出て行くので知られていたけれど、この映画の中では逆に外国からアイルランドに移民が入ってきていて、何だか時代が変わったんだなって感じたわ。
 この映画の公開年度は2007年。この年以降アイルランドは急激な経済の落ち込みに見舞われるわけです。低予算とはいえ、内容を考えるとこの時代でなければ出来なかった映画なのかも。

Happy Birthday!

2014-02-25 | 日常
 これだけ重ねてしまうと、果たして祝っていい年齢かどうかも疑問なんですが、ともかくまた誕生日が来ました。

 そしてたくさんの祝福メールとメッセージ。やっぱり素直に喜ぶことにします。
 皆さん、どうもありがとう!

 この数年を振り返ってみると、当然ロンドンに来てからの年月が思い出の多くを占めますが、思い出すのもいやな辛かった日々と、逆に言葉に出来ないほど楽しかった日々とがあります。

 うまく説明できませんが、それらが交錯しているという感じではなく、ふたつのことが並行して、ふたつの人生を過ごしたような妙な感覚。

 誰にとっても幸不幸があざなうのは当然のことで、これまでつい差し引きで幾らという計算をしてきたように思いますが、そうではなくどちらの自分の人生も素直に受け入れられるようになったこと…くらいが歳取ってよかったことかな。

 そういうことで、自分にも一言 Happy Birthday!

OSに恋する

2014-02-22 | 映画・演劇
 音楽と映画は大好きなので、仕事上のことも含めてこれまで多くのミュージシャン、俳優、監督などにお会いして、機会があればレコードやCD、LDやポスターなどにサインをもらったりしているうちに(あぁ、我ながらミーハーだなぁ)、気が付いたらかなりの数がコレクションされていました。

 その中で、本人に会ったことがないのに、頼んで入手したサインがあります。リヴァー・フェニックス。
 これが結果的に非常に貴重なサインになってしまいました。もっともっと歳を重ねてからの演技を見たかったですが、23歳での死というのはあまりに映画界にとってもったいないことだったと思います。

 で、リヴァーの死後弟のホアキン・フェニックスが注目されるわけですが、正直言って兄の存在感が大きすぎて物足りなく感じていました。どうしても兄と同じようなキャラクターを求めてしまいますからね。

 ところがこの10年くらい、そのホアキン・フェニックスがすごくいい!
 「Walk the line」から数えても、「We own the night」、「Two lovers」、「The master」とか、まるで違うキャラクターを見事に演じきっています。
 で、最新作が「Her」。これは映画自体がすごく好きです。



 時は2025年という近未来、内向的な青年がコンピューターのOS(これが声だけの出演のスカーレット・ヨハンソン)に恋をするという、一見突拍子もない話なんですが、脚本が巧みに計算されていて、他の女性陣(エイミー・アダムス、ルーニー・マーラ、オリヴィア・ワイルド)もすごく良い存在感。そのリアリティには全然問題なく、見ているうちに引き込まれてしまい、全ての登場人物(もちろんOSも含む)が愛おしく思えてきます。

 最近の映画によくある「Based on a true story」というのもいいけれど、やっぱりたまにはこうしていちからじっくり練られた想像力(&創造力)のある映画に出逢うと嬉しくなります。
 それにしても映画の設定の年までにあと10年ちょっと。ITワールドの進歩の早さを考えたら、あながちありえない話ではないのかも。

どこの国の映画?

2014-02-19 | 映画・演劇
 先日書いたようにハーフタイムホリデーの真っ最中(残念ながら僕は休みは取れません)。幸い天気も回復して、どこもかしこも子供達で一杯です。
 この時期、通常なら映画館のプログラムもけっこう子供向けにシフトするんですが、今は映画賞のシーズンなので、まだ見応えのある作品がかかっています。

 数ある映画賞の中でも、やはりアカデミー賞の知名度が一番高いとあってか、他の映画祭が“前哨戦”と見なされることが多いですが、そういう意味ではゴールデン・グローブ賞と並んで英国アカデミー賞 British Academy Film Awards(BAFTA Awardsの方が一般的には通りがいいかな)も注目されます。これが先週末開催されました。

 両方とも英語の映画中心だし、表彰される部門も殆ど似ているんですが、その中に Outstanding British Filmというのがあって、ここでは文字通りイギリス映画のみがノミネートされます。
 で、賞を取ったのが 「Gravity」。
 でも、待てよ?何を以て“イギリス映画”と定義付けるの?この映画、製作国にはイギリスのみならずアメリカも絡んでいるし、監督のアルフォンソ・キュアロンはメキシコ人だし、主演のサンドラ・ブロックと助演のジョージ・クルーニーはアメリカ人……ううん、これをイギリス映画と言っていいものか。
 いや、批判しているんじゃなくて、そういう定義付けって難しくなるくらい、今や世界中のスタッフが絡む映画作りが当たり前な時代なんだな、と感心する次第。

 その意味では今回の作品賞を取った「12 Years A Slave」も同様に、製作国はイギリス&アメリカ(プロデューサーにブラッド・ピットが入っているのはご存じの通り)、監督のスティーヴ・マックイーンと主演のチュイテル・エジオフォーはイギリス人、助演のマイケル・ファスベンダーはドイツとアイルランドのハーフ、脚本のジョン・リドリーはアメリカ人………
 もう〇〇映画という定義付けが無意味な感じがするくらいですね。



 おまけですが、これはイギリスの映画祭でないとまずないだろうという場面。
 BAFTA Fellowshipという、イギリス映画に対する貢献を讃える賞のプレゼンターを務めたのが、なんとウィリアム王子。紹介のスピーチでは受賞者のヘレン・ミレンのことを“おばあちゃんgranny”と呼びました(「The Queen」でエリザベス2世を演じていますからね)



雨、雨、雨

2014-02-14 | 日常
 ロンドンで仕事していて打合せをやろうとしても、なかなか相手が捕まらない時期があります。
 ひとつはクリスマス休暇、そしてもうひとつは夏休み。どれも日本と比べたら期間が長いですしね。

 実はこの他にまだあるんですよ。
 それがハーフターム half-termと言われる時期。これ文字通り学校の学期の真ん中一週間(土・日を入れるから実質9日間です)が休みになるんですが、けっこうそれに合わせて休みを取るおとなも多くて、一緒に旅行に出かけたりしているみたいです。羨ましい!

 で、明日からそのハーフタームホリデー。通常だとわくわくなんでしょうが、今年は連日の雨、雨、また雨。なんでも先月の降雨量はイギリスの観測史上最高の記録となったそうで、各地で洪水の被害が発生しています。テムズ川の水位も上昇中で各地に厳重な警戒が呼びかけられています。

 雨で可愛そうなのは今日も同じ。せっかくのバレンタインデーで、お洒落してディナーを計画しているカップルも多いでしょうに、これまた雨にたたられています。
 電車で見かけた薔薇の花束を持った男の子。今日のデートがうまく行くといいね。
 Happy Valentine!



厳しい基準

2014-02-11 | 日常
 ロンドンは雨が多い、というのは周知の事実でしょうが、それにしてもこの冬は度を超しています。日本から戻ってきて一ヶ月以上経ちますが、雨が全然降らなかった日というのは一日もないくらい。

 そんな中でのほんのひとときの救い。雨が上がった時の見事な虹。



 この時ばかりは普段の空気の悪ささえ忘れそう。そう、ロンドンの街の中心部に出かけて戻ってくると鼻の穴が真っ黒になるんです。
 排気ガスの規制の違いのせいでしょうか、日本ではあれだけ車が溢れていてもこんなことはないですよね。

 そう言えば70年代のマスキー法の時代から、日本では次々と厳しい排出基準を設けては、メーカー側が改善していきました。
 そもそもアメリカから出てきたこのマスキー法の基準自体が当時は厳しすぎてクリアーするのが不可能と言われていたわけで、それでも最初に見事にクリアーしたのが日本のメーカー(ホンダ、続いてマツダ)。やっぱり日本の技術力というのは誇らしいですよね。
 これって、でも最初に厳しい基準がなければ果たしてその努力をしたかどうか?クリアーする目標がなければ、やっぱり人間って楽な方に安住しますもんね。

 その意味では原発ってどうなんだろう?
 原発ゼロ、っていう厳しい基準を先に設けないことにはやっぱりそこに向かって動こうとはしないんじゃないのかな? 
 代替案なしにそれを主張するのは無責任という意見もよく聞くけれど、それこそこれは車の排気ガスみたいにメーカー単位で取り組める問題ではなく、国がまず基準をきちんと決定することの方が先に来るべきかと。

 原発ゼロ=経済が停滞、というのも(特に短期でものごとを考えたら)まぁ常識的な発想なんでしょうが、これだって本当は分かりませんよね。準えるのは強引なんだけれど、先のマスキー法のクリアーで躍進したのは日本車ですもの。

 世界で最初に原発に変わる安全な代替案を発明するのが日本、となったら本当に誇らしいんだけど。一丸となって取り組めばそれもできると信じてみたい気が。

俳優の役作り~Dallas Buyers Club

2014-02-08 | 映画・演劇
 電車を待っている間に映画のポスターを眺めていたら“Grudge Match”というタイトルが目に入って、ボクシングのリングで向き合う二人の男の姿が。よく見るとスタローンとデニーロと書かれています。それぞれが過去にボクシング関連の名作(“ロッキー”と“レイジング・ブル”)に出演しているのはご存じの通り。なので、最初はそれのパロディかと思ったんですが、どうやら本物のふたり(67歳と70歳!)の出演らしく、こわいもの見たさ(失礼)の好奇心はあるものの、今のところ観ていません。

 もっとも、デニーロはその“レイジング・ブル”の中で、筋肉隆々の鍛え上げられた若手ボクサーの姿で現れたと思ったら、その後に引退して年老いた中年男を演じるために20kgも太った惨めな肉体を晒したのは周知の事実。もしかして今回も文句のない身体を見せるんでしょうかね(ううん、70歳という年齢がやっぱり気にかかる)。

 考えてみたら、こうして自分の肉体を改造して役作りをするというのは、その後何人もの俳優さんに受け継がれていますね。
 “モンスター”のシャーリーズ・セロンは、もともとがとびきりの美人だけに、その贅肉の付いたお腹はけっこうショックでした。もっとすごいところでは、クリスチャン・ベールなんて、“マシニスト”で30kg減量した後に、そのすぐ後の“バットマン”のために、また同じだけ増量ですからね。

 もちろんこういった役作りが“演技”そのもの以上に話題になって、正当な評価に結びつかないという意見もあるでしょうが、この映画の中のふたりにはそんな議論さえ失礼な気がするくらいです。
 “ダラス・バイヤーズ・クラブ Dallas Buyers Club”の主演マシュー・マコノヒーとジャレッド・レト。AIDS患者を演じるために、普段の役柄からは想像つかないくらいやせ細った姿に驚きます。しかし、それ以上にその演技の見事さに感動すると思います。



 映画自体は前半のぎらぎらとした挑みかかるような映像からすると、後半のヒューマン・ストーリーになってからの優しさ(これは主人公そのものの心の変化に対応しているのかもしれませんが)が物足りなくもありますが……いや、これは僕の偏屈な好みですから気にしないで下さい。むしろ普通の人には後半の方が素直に感動ものかも。ともかくそんなことはこのふたりの演技に圧倒されて、気にする時間もないと思います。

 日本ではまだ封切りされていないでしょうからストーリーは詳しく書けませんが、鑑賞後に僕が感じた何とも言えない悲しさの源は、この映画の舞台となる80年代半ばという時代の、AIDSに関する情報の乏しさです。あらゆる偏見や悲劇はみんなそこから生まれているような気がします。

 それにしても最近のマシュー・マコノヒーって迫力あるなぁ。昔は人気女優相手にコメディの相手役みたいな軽いイメージだったのに、このところ主演でも脇でも、彼が出るだけでグッと引き締まるもの。
 いよいよオスカーも近づいてきたかな。

ケルン大聖堂とリヒター

2014-02-05 | 旅・イベント
 最近あるイギリス人の友人から受けた質問。
 日本人の目で見て、西洋の教会って美しく感じるのかい?

 そんなこと考えたこともなかったので一瞬質問に何か裏の意味があるのかと戸惑いましたが、もちろん答はYESです。
 それじゃ、とその質問を彼に返すと(じゃ君にとって、日本の神社仏閣や中東のモスクは?)彼も肯定するわけです
 
 何かこう心の拠り所となるものが放つ気高さというのは、宗教の違いを超えても存在するような気がします。

 先月仕事で訪れたケルン。ここは特に目立った観光地はないのですが、最も有名なのが大聖堂。ゴシック様式の建築物としては世界最大というこの教会は壮観です。
 駅に隣接しているので、電車で着いてもその全貌が一時には視界に入って来ずに、まずは大きさに圧倒されてしまいますが、その荘厳さも含めて、やはり誰もが美しいと感じるはずです。



 ケルンは第二次世界大戦中に英米軍の大空襲を受けており、この大聖堂も14発の直撃弾を浴びて、“とりあえずの修復”といった状態が続いていましたが、近年大々的な復旧が行われています。
 その一環としてステンドグラスを担当したのが世界的に有名なドイツの画家ゲルハルト・リヒター。
 彼が“当たり前”のデザインをするわけがなく、出来上がったものはコンピューターを利用した乱数プログラムによる72色の幾何学的なステンドグラスだそうな。

 そう、こちらの“美”も確認したいのに、3回目の訪問にして未だに機会がありません。昼間は展示会場にこもりきりだったり、朝早く出かけるとミサの最中で奥まで入れなかったり…
 今回もまた夜中に、その飲み込まれるような大きさを下から眺めて、ため息です。

さぼりぐせ

2014-02-02 | 日常
 歳取ってくると、感情の振れ幅なんて小さくなってきて落ち着くものだと思っていましたが、このところ逆にそれが強くなってしまったように感じます。
 身内に不幸があったり、逆に新しい生命の祝福があったり(まぁ日本とこれだけ離れていると、どちらにしてもそういうことにすぐに対応できないわけですが)、それに自分自身にも色々と環境の変化もあって……それやこれやで気が付くとまたブログに長いブランク。病気じゃないかと心配してくれるやさしい友人達もいるので(ありがとう!)さぼりぐせを克服して再開しようかと思います。