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ロンドンから徒然に

『短編(と長編)を三つ、読んだ順』

2015-02-03 | 文学
 日本に一時帰国する時は、いつも最低限に少ない荷物なのに、すかすかのスーツケースの中に、さらに折り畳めるビニールのバッグを入れます。
 ロンドンへの、戻りにはそのバッグに軽い服や下着を詰めて別に持ち、スーツケースの中に入るのは(日本でしか買えない食品とかももちろんあるんだけれど、メインは)本。それもかなりの冊数買い込むので、相当重たくなってしまいます。

 こちらで日本語の新作を買うと定価の3倍ほどにも膨らんでしまうし、Amazonで買っても配送料が高いしで …… もっともこんなにたくさん買うんなら配送料を考えてもその方が得かもしれないなぁ。でも、本屋に入って棚から取り出しぱらぱらめくるあの瞬間が嬉しかったり、またできるだけ初版・元帯でなどという、レコードコレクションの時のように変なこだわりがあったりで、結局こうなってしまいます。

 前回もいつものように買い込んできたのですが、当たりの本が多かった(嬉しい)!
 必ずしも最近発刊されたものではないけれど、どれも新鮮な印象で面白い。その中から3冊だけ簡単に。と言っても、短編の2冊はまるでペアみたいな雰囲気だし、長編は上・下巻なので、これらを何冊と数えたらいいやら。差し引きでこの数ということで。
 
 短編では片岡義男の2冊。『短編を七つ、書いた順』と『ミッキーは谷中で六時三十分』。もうこのタイトルを見ただけで興味をそそられません?
 場所や登場人物の設定が、東京に住んだことがある人にとっては非常に具体的でありながらどこか非現実的で、登場人物達の会話は上手に翻訳された外国小説みたい。全体に何とも言えないおとなのエロティシズムも漂っているし(あ、決してそういう内容ではないんですが)、何だか洒落たヨーロッパ映画を観ているような気になってしまう。
 それにしても、村上春樹が人気者になる以前に、こういう登場人物達の会話を楽しめる日本の作家って片岡義男くらいじゃなかったっけ。
 僕の主な読書時間は電車の中かお風呂の中。これを読むに当たっては後者で、逸る心を抑えて一晩に一編だけと決めて、就寝前にその余韻を楽しみました。

 そして長編は西加奈子の『サラバ!』。タイミング的にも直木賞受賞で話題になっているんでしょうね。売れる前に初版を手に入れてよかった(笑)
 それにしてもこの人がこんなに凄い作家だとは思わなかった(ごめんなさい。以前の作品はまともに読んでいない。また今度)。イランやエジプトという場所のスケール感(わけわからなさとも言える)を利用してあっけらかんと明るい世界観を描いているのかと思ったら、思いがけず傷だらけの内面世界を抉り出していて、それが誰の立場になっても痛いほど身にしみてよく分かる(辛かった!)、でも、誰も彼もが欠点がありながら、読み終わる頃には皆を愛してしまう、そんな素敵な作品。
 また、視点を変えれば、何故小説を書くのか、という作家にとっての本質的な疑問(これは仕事内容と職業を置き換えると誰にでも当てはまるのだけれど)に対するひとつの回答みたいに昇華されている気さえもします。
 この作品、もう先が気になって気になって、電車とお風呂だけでは足りず(笑)週末に一気に上・下巻を読み終えてしまいました。

 でも、そろそろ英語の小説を同じ程度に楽しめるくらいになってないといけないよね。そうすれば、わざわざ日本から運ぶなんて重たい思いをしなくても済むのに。