リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

学習能力のないマッちん

2017-08-13 07:06:00 | オヤジの日記

この銀河系宇宙で、女から腹に6発もパンチを受けた男はいるだろうか。

 

2人の女に3発ずつ。

そのうちの一人、長谷川七恵と墓参りに行った。

もう一人は、七恵の養母の長谷川邦子だった。邦子は墓にいた。

七恵については、コチラコチラコチラに書いたことがある(時間の無駄だと思う方は、無視してください)。

 

墓参りのあと、七恵に「空を見て」と言われた。

見た。

空を見上げたとき、七恵に「プロポーズされた」と言われた。

その答えは?

「正式に言うとプロポーズではなくて、結婚を前提に付き合ってほしいって言われた。バイクのツーリング仲間のうちのひとり」

26歳だから、そんなことがあっても不思議ではない。むしろ、ない方が悲しい。

受けるつもりか。

「断るつもり」

そうか、好みではないということか。

「好き嫌いは別にして、あたしはまだ結婚する気はないから。まだ、母さんのやり残したことを、あたしは何もしていないから。母さんは、独身を貫いて仙台支社を大きくした。そして、もっと大きくする途中で死んだ。それを受け継ぐのがあたしの役目だと思う」

だが、それは結婚してもできるのではないか。

そこまで母親の真似をすることはない。

 

空を見上げながら、七恵が唐突に「あたし、最近、本当に母さんのおなかから産まれてきたんじゃないかって、すごく思うんだよね」と言った。

それを聞いて、きっとお母さんも喜んでいると思うよ。

「だとしたら」と言いながら、七恵が空を見上げながら、顔を私の方に向けた。

不気味なほどの笑顔だった。

「だとしたら・・・父親は誰だろうね」

 

俺じゃないことは確かだな。こんなお転婆む・・・。

 

腹にパンチが飛んできた。

3回目のパンチだ。

私は、学習能力がない。

不適切なことを言ったら、パンチが飛んでくるのは当然なのに、それができないのだ。つい言ってしまう。

 

七恵が、呆れたような顔で肩をすくめた。

「今日一日、母さんに黄泉がえってもらって、腹にパンチしてもらおうかな」

それは、いいアイディアだ。だが、君はまだ考えが浅い。一日ではなく永遠に黄泉がえった方がいいんじゃないか。

七恵の笑顔が弾けた。

「いいね、毎日パンチしてもらおう」

そういうことではないのだが・・・・・。

 

 

東京駅。

「見送らせてあげるから」と脅されて、新幹線のホームまで連れてこられた。

これから、七恵は仙台に帰る。

新幹線の中で食べたいからお弁当を作ってきて、と前日に言われたので、弁当を持ってきた(ご丁寧に保冷バッグに入れてある)。

鶏のそぼろご飯。おかずはツナの唐揚げとブロッコリーとベーコンの炒め物、ポテトサラダ、だし巻き卵。

どれも七恵の好物だった。

 

ホームで、挑戦的な目をした七恵に睨まれた。

「あたしの尊敬する父親は、6歳まで育ててくれた父さんだから」

お父さんとは会っているのか?

「父さんは6年前に震災で死んだ」

やっちまった。また、不適切発言だ。俺は自民党の2回生議員と同じくらいバカだと思った。

 

「でもね」と七恵が、線路に目を落として、口を開いた。

普段は、必ず人の目を射るように見つめて話す七恵には珍しいことだった。

「東京でのお父さんは、マッちんだと思っているから」(笑えることだが、七恵は私のことを「マッちん」と呼んでいた)

ぶっきら棒な声だった。

長谷川ではなく? と私は聞いた。

長谷川は、私の大学時代の同級生で、長谷川邦子の一つ上の兄だった。

七恵は、仙台の大学を卒業したあと、長谷川の会社に就職し、長谷川の世田谷の家に同居していたことがあった。

つまり、長谷川は私よりも濃厚に父親の資格があった。

 

「長谷川の伯父さんが、マツを東京での父親だと思えって言ったの」と七恵。

「俺よりもあいつの方が相応しい、とも言っていた」

 

腑に落ちない。

しかし、腑に落ちないと言ってしまったら、七恵との関係が崩れるような気がした。

遠ざかるような気がした。

娘は、いくらいてもいいではないか。

息子が、いくらいたって俺は平気だ。

それは、とても楽しい。

 

わかった。俺が、お転婆娘の父さんになってやる。

そう言ったら、腹にパンチが来そうになった。

しかし、寸前で七恵の拳が止まった。

「父さんにパンチはいけないよね」

 

あったりまえよー、俺をソンケイしろー、と言ったら、パンチが飛んできた。

ただ、いつもよりは弱いパンチだった。

おそらく遠慮したものと思われる。

だから、このパンチは七恵の名誉のために、カウントしないことにする。

 

でも、ちょっと痛かった。

嬉しくもあったが。

 

 

俺は学習能力がないなと、どこか温もりを感じさせる痛さがいつまでも腹に残った。