Fish On The Boat

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『夜と霧』

2017-03-07 00:41:21 | 読書。
読書。
『夜と霧』 ヴィクトール・E・フランクル 池田香代子 訳
を読んだ。

「生存競争のなかで良心を失い、
暴力も仲間から物を盗むことも平気になってしまっていた。
そういう者だけが命をつなぐができたのだ」
「わたしたちはためらわずに言うことができる。
いい人は帰ってこなかった、と。」
第二次世界大戦ユダヤ人強制収容所の体験から書かれた
心理学者の本です。

強制収容所は、
人間だれしも内部に宿す「生命の火種」すら
踏み消してしまうような場所だなあと思いました。
ただ殺すより、労働力を搾取してから殺すというやり方で、
食事も粗末で、衣服もぼろぼろで、
居住棟もベッドも粗野で、
殺される可能性が高いという精神的な圧迫があり、暴力がふるわれる。
ましてや、その労働なんか、重労働の最たるものだし、
マイナス20度で素手ってなんなんだって思いますよ。

過酷な環境で生きていくこと、
たとえば強制収容所での生活では、
ほとんどのひとは無気力状態か堕落におちいるのだけれど、
ほんのわずかな人々はそんな状況下で内的成長を勝ちとるといいます。
誰しもそうだというわけじゃなく、
「逆境がひとを強くする」場合もあるということです。

そして、
環境などの外的条件でその人間のありようがすべて決まるのではなく
(つまり、場がひとを完全につくるのではなく)、
生活の随所に究極的な選択があってそこでどの道を選ぶかで、
堕落して幼稚な精神性に退行するか、
人間性を高めるかに別れるようです。

保身や暴力や利己心、
それに立場によっては(カポーという立場などでは)
支配欲に身を食われた一匹となるか、
その過酷な環境でも自分を失わずにいて
さらに無私の精神やプライドをもったままでいられるか。
あるいは勝ちとるか。
後者はわずかなひとにしか実現できないというけれど、
やはり僕が常々考えているのですが、
心には生きるための火種ってあって、
その使い方をどうするかなんだと思いました。
火で脅かすタイプや放火するタイプもいれば、
暖をとってエネルギーとするタイプもいるでしょう。
勇気のないのが前者のタイプでしょうか。
いや、もっとも勇気のないのは火種を使わないタイプかもしれない。

僕の母なんかは、
この本で書かれているような感情の消滅や鈍磨の状態にあります。
それは病気のせいでもあり、
その病気を受けとめられない父が
強制収容所の支配層のような行動を取るせいでもあります。
母は強制収容所の被収容者のようなんです、かわいそうだけど。
(まあ、ほんとうの強制収容所ほどひどくはないけどね)

また、父はそういう母の異常性に接するがために、
暴力的になったりいらいらしたりするというのは、
異常性に接したまともな人間のまともな反応らしいことも
この本には書かれている。
まともな人間ならば、異常な状況になじめないということです。
著者は心理学の医師ですからね、
そういう見地から収容所生活を振り返っている。

一角の人物である著者にしても、
感情消滅や鈍磨にあるチフス患者に対応するのに怒鳴ったりもしたし、
手をあげそうになるのを全身の力で制したともあります。
となると、ぼくの父がイライラしたり怒鳴ったり、
ときに手を出したりするのは、ノーマルなことだとも言える。
残念なことですけどね。

でも、それは、人間として「一匹」になり下がることです。
睡眠不足になったり、各種手続きの書類書きなどをしていたとしても。
ぼくはまだ距離を取っているところもある。
現実を見据えてこそ、内面成長の勝利はあるとありました。
運命はぼくに、堕落か成長かの二者択一を申し入れているかのようです。

この「馬鹿たれ」であるぼくに、
運命はなにを望んでいるのかねえ。
浦沢直樹さんの漫画『ビリー・バット』がそうらしいけれど、
自分が生まれてきて生かされてきた使命としての何かがあるんだと
捉えないわけにはいかなくなります。
ぼくはそう考えて、小説で何かを伝えていくべきなのかな。

まあ、それにしたって、
たとえば、僕に対してよい部分が見えるとすれば、
それは日常生活状況が過酷というか、
まるで安らげないときがあるというか、
そういうのによって育まれたものでしょう。
まあ、身体を壊したりもした経験もそうだね。

閑話休題。

『夜と霧』はいい本でしたよー。
おすすめですな。
特に、毎日がつらい、苦しいっていうひとで、
だけれど、まともでありたいプライドをもっているひとに。

ノーベル賞作家・ソルジェニーツィンの小説、
『イワン・デニーソヴィチの一日』はソ連の強制労働の話でしたが、
そういう強制労働のありようについては、共通するところもありました。

最後に。
苛酷な環境にいるひとが堕落しないためには、
未来になにか目的をもつことが解らしいですよ。


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