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『うわさとは何か』

2016-09-06 20:48:02 | 読書。
読書。
『うわさとは何か』 松田美佐
を呼んだ。

戦時中に流行ったうわさや、
70年代にはみんなが知っていた口裂け女のうわさ、
銀行破たんのうわさから、当て逃げ集団のうわさ、
ワンギリで大金の請求がくるといううわさなどなど、
一度は耳にしたことのある、
そして、もしかすると、
いまでもそれは本当だったのだ、
と記憶しているようなものまでを扱って
うわさを見ていくような本です。

全6章からなっており、
最後の6章目は現代に入ってからの、
込み入っていて、そして身に覚えのある身近なうわさの
メカニズムを解いていくような内容になっています。
とはいえ、うわさの起こる動機など、
うわさが生じるときの精神分析的な解析は行われていません。
精神学的というよりは、心理学的で社会学的な性格の論考でした。

著者はケータイなどのコミュニケーションについて、
学識に優れているひとらしく、
インターネット以後のコミュニケーションについての解説が、
わかりやすく深かったです。
たとえば、メールの非同期性と記録性といった面から、
メールの情報を伝えるメディアとしての性質、
そして、メールでのコミュニケーションの性質をあかるみに出し、
そういった面から、うわさの発生の仕方、
伝達の仕方などを解いていく。
インターネットの場合でも、
その記録性や、増殖性、などを見ていって、
うわさの伝達、発生、終息までを解いていきます。
そういうところは一番おもしろかったです。

ただ、本書の大半は、インターネット以前のうわさについてのものでもあり、
そこらあたりに物足りなさを感じる人もいるかもしれない。
しかし、うわさというのは、ただ情報を伝えるばかりではなく、
ひととのコミュニケーションのネタとして役立つ面があったり、
「おわりに」で書かれているように、
___

情報であると同時に、事実性を超えた「物語」である。
___

ということでもあるようです。

本書半ばでは、
コミュニケーションは、道具的な面と自己目的的な面とがあると
教えてくれるところがあります。
道具的な面とは、情報の伝達としての役割を意味し、
自己目的的な面とは、情報の中身など実はどうでもよくて、
なにか言葉を交わし合うこと自体、その行為に意味があるということでした。

この自己目的的な面については、
T・カポーティが『草の竪琴』で書いた言葉、
(これはこのブログで何度か紹介していると思います)
___

話の内容というのはさして大切なものではないんです。
大切なのは、信頼をもって話し、共感を抱いてそれを聞く、
そこにあるんですよ」
___

が、如実にその意味するところを表現しています。

また、本書では、うわさとともに、
終盤では風評被害についても扱っています。
0と1という分け方でリスクをみるのではなくて、
0と1のあいだのグラデーションでリスクをみるという
あいまいさに対する耐性が大事だという結論で、
興味のある方はぜひ読んでほしいところです。

デマ、都市伝説、ゴシップ、流言…。
いまなお、そしてきっとずっと未来まで、
そういったものがつきないのが、
人の世なのかもしれません。

こういう本を読むことで、
ちょっと引いた感覚で、
これからは口コミの話題に触れるようになれるかもしれない。
翻弄されすぎないために、知っておきたいこと、
ですよね、この分野って。


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