Fish On The Boat

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『二都物語 上下』

2017-02-16 23:43:58 | 読書。
読書。
『二都物語 上下』 ディケンズ 中野好夫 訳
を読んだ。

フランス革命の前後の時期、
イギリスはロンドンと、
フランスはパリの二都市を舞台に進む物語。
ひとりの女性を愛するふたりの男。

18世紀のイギリスやフランスの大衆の様相を読み知ると、
今よりも「世も末」感を感じます。
すさみ方がすごい。
イギリスは追剥だとか夜盗だとかが跋扈していて、
また、ちょっとした罪でも、死刑になる裁判が大流行り。
裁判で死刑判決が出るところを見に来る、
地に飢えたような大衆も大勢いる。
フランスは王侯貴族の権力が強く、
民衆は虫けらのごとく扱われて、
また、密告などにより罪のない人たちが
厳しい監獄送りにされていたりする。

フランス革命はそんな王侯貴族中心の国家体制への
強烈なしっぺ返しだった。
根こそぎに、根絶やしにする暴力でもって、
暴走ともいえるような革命がなされたのだった。
王侯貴族は、たぶん全部が全部ではないのだろうけど、
庶民を虫けら扱いし命をも軽んじた。
その結果、根絶やしみたいになって滅ぶ。
「少しでも疑わしきは罰する」の精神で、
粛清が進むくらい、その反動は大きかったみたいです。
フランス革命の根絶やし的暴力性は、
この革命時に生まれたギロチンそのものが象徴している。

そんなものすごいエネルギーの暴走の中に生きている主要人物たち。
フランス人はすべて、時代のうねりに翻弄されないことはまずない状況。
イギリスはイギリスで荒んでいるし、
そのなかでの美しさを読者は主要人物たちに見るのだけれど、
社会が悪いから美しいわけで、嘆きの美しさだ。

残虐シーンも容赦ないですが、
小説自体が猟奇的ってわけでもなく、
微笑ましいところやユーモラスなところもある。
『クリスマスキャロル』以来二作品目のディケンズで、
でも、ディケンズの深い温かみみたいなのを裏に感じはするんです。

名前は出てこないで王妃とされていたが、
監獄にいれられて髪が真っ白になって
ついに処せられたマリー・アントワネット。
絶対大丈夫だ、この栄華は永遠のものと信じきっていたのかなあ。
驕慢はおそろしい。
いや、でも、無垢なだけだったのかもしれない。

と、時代の状況にばかり目が行ってしまいましたが、
ストーリーも登場人物たちも魅力的な小説でした。
1967年の翻訳版で読んだので、
よく辞書を引きながら読みましたが、
そういう難しい単語をのぞけば、
外国大衆文学の金字塔とも言えそうです。
翻訳者の解説によれば、
手厳しくも「傑作ではない」と書かれていましたが、
楽しむつもりで、冷笑的にならずに読めば、
おもしろくて没入する読書体験になるでしょうし、
僕の読んだところでは娯楽作品として一流でしたよ。

群像劇ですが、
主要の二人の男のうちのひとり、
シドニー・カートンがよかったですね。
僕自身が彼になったかのように感情移入して読んでしまいました。

上下巻合わせて800ページもなんのそのでした。
続きを読むのが楽しみでならない感覚です。
いまは、同じ新潮文庫から新訳がでているようで、
そっちは700ページもなくて一冊の分量だそうです。

演劇になったりもする名作です。
じっくり物語にハマりたい方は、どうぞ。




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