MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

付き合いのいいヴィオリスト

2011-07-06 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

07/06 私の音楽仲間 (282) ~ 私の室内楽仲間たち (256)



          付き合いのいいヴィオリスト



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 泊まり込み室内楽の第一日目も、いよいよ夜を迎え、佳境に
入ってきました。 次はフルートを迎えての共演です。




 Mozart が残したとされる4曲のフルート四重奏曲のうち、
もっとも有名なのは 第1番ニ長調 K285 (1777年) でしょう。
活気に満ちたⅠ、Ⅲの両端楽章では、フルートが華やかに
駆け回ります。

 この曲、「Violin で演奏してもいい」と楽譜に記してあるので、
私も一度だけ弾いたことがあります。 もちろん遊びで。

 しかし、あの華麗なフルートの音色が頭にあるので、どうしても
弾きながら欲求不満になってしまいます。 それとも、私の腕の
せい…?



 第2番 ト長調 K285a (1778年)、第3番 ハ長調 K.Anh.171
(285b、1781年) は、"偽作"、または、少なくとも一時はその
疑いが持たれていた曲です。 第2番の方は、"Andante" と
"Tempo di Menuetto" の2つの楽章しかありません。

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 最後に作られた 第4番イ長調 K298 (1786年) は、第Ⅰ楽章に
"Andante" (または Andantino) と書かれています。

 変奏曲の形を取っていますが、落ち着いたテンポが指定されて
いるのは、「主題が歌曲のもの」だからでしょうか。 (上記のサイト
4曲のフルート四重奏曲]には、「ホフマイスターの歌曲『自然に寄す』の主題
による」とあります。
)




 この Franz Anton Hoffmeister (1754~1812) は、Mozart
(1756~1791) の同時代人です。

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 ホーフマイスターのフルートを用いた室内楽、協奏曲の中に
は "フルート四重奏" も見られ、今日でも出版されているもの
があります。

 編成は、同じ「フルート、Violin、Viola、チェロ」です。 以下は
出版目録によるものですが、私自身は不勉強で聞いたことが
ありません。

  ・ 四重奏曲 ト長調

  ・ 四重奏曲 ハ短調 Op.16-2

  ・ 2つの四重奏曲  Op.27




 さて、このたび演奏したのは、Mozart の 第4番イ長調 から、
その第Ⅰ楽章。 第3変奏では Viola が活躍します。 



 曲は、フルートの奏する主題で始まります。

 ところが、「あっ、これ、ボクには速すぎるんじゃないかな…!」
曲が始まるなり、まずそう感じてしまったのです。 "Andante"
ですから、本来はかなり "ゆっくりめ" のはずなのですが…。

 このテーマは、楽譜を見ると、ほとんどが4分音符と8分音符
だけ。 ところが私の "第3変奏" になると、16分音符が実に
たくさん出て来るのです。



 いよいよ第1変奏が始まりました。 引き続きフルートが
主導権を握ります。 やはり、「4分音符と8分音符だけ」
しか無いのでしょうか?

 いや、16分音符も出てきます。 でもそれは、フルート
向きの軽やかな動きなので、テンポはますます "快適"
になっていくばかりです。

 「誰か、少し "ゆっくり" にしてくれないかな…。」




 そんな私の期待は見事に裏切られました。



 Violin の活躍する、次の第2変奏になると、16分音符がたくさん
出てきます。 でも H.さんは、何と鮮やかに、それを弾きこなす
のでしょうか!

 楽譜を見ると、基本になっているのは、なだらかな "音階" の
形。 それほど複雑ではありません。 でも、16分音符が1小節
の中に16個もあります!



 変奏の前半部分を見てみましょう。 8小節ありますが、最後
の1拍以外は、すべて 16分音符なのです。 これを計算すると、
16分音符の数は124個。

 後半の8小節もまったく同じ。 2倍すると248個。 "繰り返し
記号" を忠実に守れば、496個になります。



 ところが H.さんは、何の問題も無く、すらすら弾いています。
テンポは、依然として "Allegro" のまま! ウワ~ン…。




 いよいよ私の第3変奏です。 まず、少しだけテンポを落とし、
様子を窺うことにしました。

 ところが、みんなのテンポはほとんど変わってくれません。
少なくとも、「やりたければどうぞ…」というふうには感じられ
ないのです。 このまま我 (が) を張れば、空中分解! 演奏
はストップしてしまいます。



 ここは、Viola弾きとしては特に歌いたい部分です。 音符
には、すべてスラーがかかっており、歯切れのいい音符は
見られません。 「もっとたっぷり時間をかけて弾きたい。」



 テンポが速ければ、技術的にも間に合いません。

 「せめて、もう少し腕が達者ならなー…。」

 でも、たとえ鮮やかに弾き切ったとしても、聴き手の印象に
残るのは、おそらく目まぐるしさだけでしょう。 書かれた音楽
自身が、もっとも相応しいテンポを要求しているのです。



 そんなジレンマの中で、私は結局、それまでと同じテンポで
弾くことにしました。 ところどころヨレヨレ、ヨタヨタしながら。




 俗に、「楽器は、その人の性格を決定する」と、よく言われます。
真理とは言えないまでも、少なくともその傾向はあるようです。

 "我儘な Violin弾き"。 "付き合いのいい Viola弾き"…。



 もし私がこのとき、Violin を持っていたらどうだったでしょうか?
流れている演奏を止め、「そこは…、…!」などと、もしかしたら
注文を付けていたかもしれません。

 でも、手にしていたのは Viola…。 しかも、楽章はもう終わり
に近づいています。 あとはチェロの第4変奏を残すのみ…。

 「ここまで来たら、波風を立てることは無いか…。」 それが、
私の無意識の決断でした。



 別に、喧嘩になるような間柄ではなく、和気藹々と音楽
を楽しむ仲間同士にすぎないのですが…。 "習性" とは、
こんなにも恐ろしいものなのでしょうか。




 ヴィオリスト (Violist) という言葉があります。 "ヴィオラ奏者"
のことですが、"Violinist" に比べると、それほど知れ渡っては
いないようですね。 説明を要する場合もあります。

 ちなみに私自身は、自己紹介する際には "Violin奏者" として
います。



 これはおかしいかもしれません。 「オーケストラで Viola を
弾いていた」という、自分の経歴からすると。

 まして、「プロという名目でお金を得た」回数では、比べものに
なりません。

 でもそうなると、「プロとは何か?」という、とても大きな問題に
関わってきます。 これはまた別の機会にお聞きいただければ
幸いです。




 今回ご一緒した演奏者は、Violin H.さん、Viola 私、
チェロ N.さんです。



 あれ? 肝心のフルートさんの名前がありませんね。
実は、どういう方なのか、所属もお名前も訊き忘れて
しまったのです。

 ただ一点、判っているのは、"妙齢の女性" だった
ということです。



 「な~んだ…。 それが Violist の習性なのか!」
…なんて、言わないでね…。




         第Ⅰ楽章 第3変奏の演奏例
            (談笑の声が入っています)

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              音源ページ