06/29 私の音楽仲間 (280) ~ 私の室内楽仲間たち (254)
いい曲でしょ!
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
プフィッツナー の 弦楽四重奏曲 ニ短調
この、我々にはとても "読みにくい名前" の作曲家。
「予め下唇を歯で軽く噛み (摩擦音 f)、閉じていた両唇を
開き(破裂音 p)、同時に発音する。」 そう教わりましたが、
いまだに私には出来ません。
リンゴ (Apfel) が好きでなかったら、正確な発音への挑戦
など、とっくに諦めていたことでしょう。
生没年は 1869~1949 ということで、前回のレーガー (1873
~1916) とは同世代です。 時代的には、ともに後期ロマン派
に属し、半音階的な和声を常用する点では、共通しています。
しかし、レーガーが Bach の対位法を志向し、劇音楽に背を
向けて器楽作品に集中したのに対して、プフィッツナーの作品
は "歌" に関連するものがほとんど。
作品には美しい旋律が目立ち、代表作とされる『パレストリ
ーナ』 (3幕からなる音楽的伝説) も、実質的には歌劇です。
一方器楽の分野では、ピアノのための作品は大変少ないの
ですが、交響曲や、10曲を超える室内楽曲も残しています。
その中には4曲の弦楽四重奏曲があり、成立年代順に以下
のとおりです。
ニ短調 (1886年)
ニ長調 (1903年) Op.13
嬰ハ短調 (1925年) Op.36
ハ短調 (1942年) Op.50
ここでは "第*番" とは、敢えて記していません。 それ
は、最初の "ニ短調" を含む数え方と、そうでない場合の、
2とおりがあるからです。
この "ニ短調" は、17歳の年に作られたもので、作品
番号もありません。 これを "第1番" と呼ぶこともあれ
ば、次の "ニ長調" をそう呼ぶこともあります。
この4曲は、それぞれ 17歳、34歳、56歳、73歳の年
に作られています。 第2次大戦後の1949年に、80歳
で亡くなっているので、ほぼ年代ごとに「万遍なく書き
分けた」と言えるでしょう。
このうち、最初の "ニ短調" の楽譜を用意してきたのは、
またしても K.君。 私など、知っているのは作曲者の名前
そこそこなのに…。 まったく頭が下がります。
いよいよ、この作曲家の四重奏の音が聴けるのです!
さて、ちょっと座を外して戻ってくると、みんなは楽器
を構え、私を待っていました。 譜面台には、もう楽譜
が乗っています。 「急がなきゃ…!」
最初のページを見ると、"ニ短調" だけあって、調号
は♭が一つ。 4/4拍子です。
まずは休符でお休み。 10小節ほどだったでしょうか。
しばらくは聴いていられます!
いつまで経っても楽器を構えない、そんな私を見て、
K.君は「!??」。 「早く構えろ」…という意味です。
でも私が、「最初、休み…」と言うと、「あっ、無いの!?」
そして、3人だけで弾き始めます。
その合図の掛け声は 「1 2 3、2 2 3…」でした。
一瞬、「変だな…」と思いました。 自分の譜面には、"4/4
拍子" と書かれているから。
でも、近代の曲だから、「そういうこともあるだろう」と、軽く
無視しました。 最初の2拍の中に "三連符" が書かれて
いれば、6拍子になるからです。
音楽が始まりました。 美しい、ワルツ調の 6/8拍子です。
「でも、これ、ニ短調じゃないぞ! もちろんヘ長調でも
ないし…。」
変です! 何から何まで。 それに、聴いていると、「何だか
音が足りない…!」 つまりハーモニーを形作る三和音のうち
一つが、どうも無いのです。
仕方なく、指定どおりの箇所で弾き始めますが、出て来たの
は、とんでもない響き…。
「それにしても変な "半音的" 和声だな…?」
みんな、こっちを見てます。
ここまで来れば、私でも気が付きます。
弾くのを止め、試しに譜面を1ページめくってみると…。
書いてありました。 「6/8拍子。 ♭が4個。」
それに最初から音符だらけ。 休符など、どこにも
書かれていません。
「何だ、第Ⅱ楽章だったのか…。」
これを聞いて、他の3人は仰天。 一方ギャラリーは大喝采!
「おっかしいなぁと思った…!」と、K.君。 本人はきっと何度か
演奏したことがあるので、「全員が最初からある」のを知っていた
のでしょう。
この楽章、その後は無事に弾き終わると、「いい曲でしょ!?」と
K.君。 聴いていた者たちも、全員で「いい曲だ、いい曲だ!」
半分ふて腐れた私。 (Viola が弾かなきゃ、もっと綺麗な曲
だったんじゃないの? …だから、「トイレ、行ってくる」…って、
ちゃんと断ったのに…。)
その間に、みんなは "第Ⅱ楽章" だと聞かされていたのに、
ボクには誰も、何にも言ってくれないんだからね…、もう…。
ウチの "まるチャン" なら、「ひどいよ、ひどいよ!」…です。
(いい曲だ! よかった、よかった、終わってよかった。)
この種の事柄、演奏には "つきもの" です。
たまには本番でもあるもん。 ね…?
でも、間違えたときに限って喝采するなんて、
みんな、ひどいよ、ひどいよ…。
メンバーは、前回もご一緒した、Violin K.君、H.さん、
Viola 私、チェロ T.さんでした。
[第Ⅱ楽章からの演奏例]
(談笑の声が入っています)
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