MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

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グリンカの『スコットランドの主題による変奏曲』

2009-06-09 00:36:09 | その他の音楽記事

06/09  グリンカの『スコットランドの主題による変奏曲』

            グリンカのピアノ曲 ④





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    (4) 『ホタ・アラゴネーザによる華麗な奇想曲』 ~ スペインの果実

    (5) 『マドリ(ッド) の夏の夜の思い出』      ~ スペインの薫り


    (2) 幻想曲『カマーリンスカヤ』 ~ グリンカの青りんご ①

    (3) 幻想曲『カマーリンスカヤ』 ~ グリンカの青りんご ②



   グリンカの歌曲

     ① 『用が無いなら構うなよ』

     ② 『舟歌』 (1) 熱き思い

              (2) 愛の破綻

     グリンカの「旅立ち」



   グリンカのピアノ曲

     ① 『舟歌』

     ② 『マズルカの思い出』

     ③ 『祈り』





 グリンカ (1804-57) の、ピアノのための四つのエッセイ、『祖国
へのあいさつ
』の第4曲は、『スコットランドの主題による変奏曲』
です。




 これは "The Last Rose of Summer" に基づいているので、
実際にはアイルランドの音楽になります。



 サイト、『世界の民謡・童謡』の『夏の名残のバラ』という
ページには、以下の内容が記されています。

    「夏の名残のバラ (庭の千草・夏の最後のバラ)」は、
   アイルランドの国民的詩人、トマス・ムーア (Thomas
   Moore/1779-1852) による美しい詩に、ジョン・スティー
   ブンソン (Sir John Stevenson/1761-1833) が曲をつけた
   もの。

    日本では、「庭の千草」のタイトルで、1884年(明治17
   年) 刊行の音楽教科書『小学唱歌第3編』で初めて日本
   に広く紹介された。日本語版では、「バラ」ではなく「白菊
   (しらぎく)」が歌詞の中で登場する。




 グリンカが旅行を愛し、全ヨーロッパ大陸に足跡を残したこと
は、すでにお読みいただきました。 しかし、ドーバー海峡
渡ったという記録はありません。 では、なぜアイルランドの
が、『祖国へのあいさつ』に収められているのでしょうか。

 これはおそらく、グリンカの若き日の思い出が関連している
のでしょう。




 グリンカは少年時代 (13~18歳、1817-22年) を、ペチェル
ブルクの貴族寄宿学校で過ごしました。 これは裕福な子弟
が学ぶ名門校です。 父、イヴァン・ニカラーェヴィチは地主
階級で、作曲家ミハイールは恵まれた家庭に育ちました。

 家には、叔父の抱える農奴オーケストラがしばしばやって
きたものです。 幼いミーシャ (ミハイールの愛称) はその中に
紛れ込み、ヴァイオリンやフルートに親しみました。 これは
後に貴重な体験となります。



 11歳でピアノを本格的に習い始めていたミーシャが、
ペチェルブルクに来てみると、そこには名高いジョン・
フィールド
がいました。 このアイルランドのピアニスト
・作曲家
からは、おそらく大きな影響を受けたものと
思われます。




 この曲の主題はアイルランドのものですが、どういうわけか
『スコットランドの主題による変奏曲』と名付けられています。

 曲は、短い前奏テーマ二つの変奏、そして曲の大半
を占める、長いフィナーレから成っています。




 ところでこの曲の冒頭には、ある詩の一節が短く記されて
います。



   おお 心の思い出よ

     お前は

       分別ある悲しい記憶よりも強烈だ


           ~ バーチュシコフ (拙訳)




 コンスタンチン・バーチュシコフ (1787-1855) は、プーシキン
にも大きな影響を与えた詩人なのだそうです。 そしてこの
一節は、かつてグリンカ自身が作った歌曲の冒頭部分です。

 23歳のグリンカの作品、『心の思い出』 (『心の記憶』とも訳
される、1727年) は、この詩人の "失恋の詩" に作曲されて
います。 すでに取り上げた『用が無いなら構うなよ』 (1929
年) 同様、グリンカの初期の歌曲には、悲観的、感傷的な、
恋愛の歌が多いのが特徴です。




 この歌詞の冒頭が、なぜ20年後の "変奏曲" の楽譜に書かれて
いるのかは解りません。 でもひょっとすると、グリンカ自身の失恋
の思いが込められているのかもしれませんね。

 もしそうなら、それは歌曲を作った当時の23歳の頃のことか?
あるいは43歳の胸に去来した、過去の様々な感慨なのか…。



 原曲の単純な美しい響き。 そして、その上にグリンカが
凝らした趣向。 これらを併せて聴きながら、そんなことを
考えてしまいます。




    音源



        Mikhail Glinka Musical Essays
         Variations Scottish theme
  The Last Rose of Summer   Victor Ryabchikov




   原曲 "The Last Rose Of Summer" 音源ページ




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