店主のたわごと

まれ助堂店主、八神まれ助の煩悩吐き出し処。
小次健、やおい、BLが含まれます。意味の分からない方嫌いな方はご遠慮下さい

こころのありか

2021-12-29 12:59:00 | 若誕




若島津はチームドクターと別れ、タクシーに乗り込むと、知らずため息をついた。
渡された書類一式を入れてある鞄が、やけに重く感じる。

今季の試合、若島津はどこか本調子ではなかった。自分の動きに納得行かないまま迎えたリーグ終盤に、それは起きた。
相手チームとの激しい接触。脳震盪を起こした若島津だったが、すぐに気が付き、大事には至らなかった。
だが、それから肩に違和感を感じるようになった。
その内にこれは不味いと思う痛みが走った。痛みで肩が上がらない。
チームドクターに連れて行かれた、病院の診断は、肩腱板断裂との事だった。
幸いリハビリ療法と投薬で、なんとかなりそうだったので、チームとの話し合い後、途中から欠場して治療に専念した。

そしてもう大丈夫かと思った頃、担当医からチームドクターと共に来るように指示があった。若島津は復帰後の注意点と来季リーグが始まるまでのリハビリ療法を、チームドクターに申し送りするのだと思っていた。だが医者が申し訳なさそうに言ったのは、正反対のことだった。

「若島津さん、この2ヶ月間リハビリ療法と投薬で治療してきましたが、状態が芳しくないです」
「えっ?」
「一般生活レベルなら、この状態でも問題はありません。ですが若島津さんはプロのゴールキーパーです。このまの状態で試合に出る事は、選手生命を縮める事になります。なのでキチンと治療した方がいいと思います」
方法としては手術をして、切れかけている腱をつなぐというものだった。

その後手術の説明を受け、病院を後にした。
もう復帰できると思っていただけに、医者の言葉はショックだった。
手術をすれば、専用の器具を約4ヶ月はめたままでいなければならない。それからゴールキーパーとして使えるようになるまで、更に数ヶ月かかるだろう。そうなれば来季の出場は絶望的だ。

だが今のままでは遠からず、キーパーとして使い物にならなくなってしまう。であるのなら、まだ回復が早い今のうちに、手術をした方がいいと思われた。
同席したチームドクターも同じ意見だった。




若島津は再びため息をついた。
チームに連絡して、話し合わなければ。
詳細はチームドクターの方から話してもらえるが、今後のことがある。
戦力外通告を受けるだろう事は予想内だが、来季契約への交渉が始まろうかというこの時期、下手したら解雇通告を受けるかもしれない。

「とんだ誕生日プレゼントだな…」

今日が29日だと気が付いた若島津は、やり切れない思いを、ため息と共に言葉に乗せたのだった。




マンションに着いたのは午後3時過ぎだった。朝イチで病院に行ってこの時間まで飲まず食わずだったが、若島津に食欲は無かった。

もうため息しか出ない…

そう思いながら玄関の戸を開けた若島津は、たたきに靴があるのを見つけた。
凝視する。
見覚えのあるそれは…

若島津は慌ててリビングへと向かった。


「日向さん!」
「よう、若島津。おかえり」

そこにはイタリアにいるはずの日向が居た。

「な、んで…」
状況が把握できていない若島津が、狼狽えて呟くのに、日向はニヤリと笑った。

「泣き言ひとつ言わない、意地っ張りな恋人に、会いに来たに決まってんだろ?」
「っ…!」

思わず持っていた鞄を投げ捨てて、日向に抱きついた。
自分の胸に迎え入れた日向は、ギュッと背中にしがみつく若島津を、同じ様に抱きしめ返した。

「あんた…、なんで、なんでこんなタイミングで…っ!」
「お前の誕生日だからだろ」

日向の肩に顔を埋めたまま、そう呟く若島津の冷えた髪を、ゆるりと撫でる。

「日向さん…」
日向はまだ手術のことを知らない。だから来たのは、試合を欠場してまで、肩の治療をしている自分を心配してきてくれたのだろう。
でも、それでもこの不安を抱えている今、日向が側にいてくれる事に、張り詰めていた気持ちが、我慢し切れなくなっていた。


感情が抑え切れず、泣き出しそうだ。
潤んだ瞳で日向を見れば、色を滲ませた日向の瞳とぶつかる。
そっと自分から口付ける。

「若島津…」
官能を呼ぶ日向の低い声。
若島津は不安を覆い隠すべく、日向を求めた。





「あっ……っ」

夕闇の落ちる中、中途半端な体勢で日向からの口付けを胸に受け、若島津は体を震わせた。
「んっ…」
鎖骨の下にピリッとした痛みが走り、日向が口付けの痕を残したのだと知る。

「もっと…もっと強く付けて…」
荒い呼吸に途切れながら、若島津は乞うた。
「あんたと一緒に、いるんだって、思えるくらい…」
帰ってしまっても、この不安に立ち向かえる勇気が欲しい。
溢れそうに目尻に溜まった涙もそのままに、切望する若島津は余裕がないように見えた。
「いいのか?」
「いい…っ、おねが、い、っぅ」
日向の吐息を耳で受け、若島津の腰がビクリと跳ねる。

薄闇に上気したした肌。切な気にすがめられた瞳。
壮絶なまでの色香を目の当たりにして、日向が息を詰める。

「くそっ!」
唸るように日向は吐き捨てると、若島津の肌に噛み付いたのだった。




「…そうか…」
嵐のような激情が去った後、二人はベッドの中で抱きしめ合っていた。
そこで若島津は今日の事を話した。
「お前としてはどうしたいんだ?」
「俺は…」
肩にメスを入れるのは怖い。本当に痛みがとれるのか、自分が望むように動くようになるのか…
「本当のことを言えば、怖い、です…でも…」
若島津はふいっと顔を上げて、日向を見た。
「このまま、キーパーを続けられなくなるのは嫌だ」
ふっと日向は笑った。
「んじゃ、お前の中で覚悟は決まってるんだろ?お前はキーパーでいたいんだろ?」

そうだ。戦力外とか解雇通告とかそんなものよりも、キーパーでいられなくなるのが嫌だ。

「俺が日本に帰ってくる時、お前は俺のキーパーでいてくれるんだろ?」
日向の言葉に、コクリと頷く。

今はイタリアにいる日向だが、遠からず日本に帰ってくる。
その時に自分は、日向のキーパーでありたい。
それは何よりも捨てられない、若島津の思いだった。

「大丈夫だ。お前はやれるよ」
チュッと指に口付けられる。
その手を握り返し、若島津は大きく頷いたのだった。


「そう言えば、まだ言ってなかったな」
やっと気持ちが凪いで、微睡み始めていた若島津は、その言葉に重くなった瞼を上げた。

「誕生日おめでとう、若島津。お前が生まれてきてくれて良かった」

愛してるよ
そう囁く日向の声を子守唄に、若島津は笑みを浮かべて、目を閉じたのだった。


******************

こんばんは〜!まれ助でございます!
ギリギリセーフ?セーフ?

日向誕が終わらず、中途半端なことになってますが、今日は我らが若島津の誕生日!

おめでとう!おめでとう〜!

今年も日向さんをプレゼントです!
思いっきり甘えちゃってください♡


毎年のことですが、12月最後の3日間は仕事柄怒涛のように忙しいです(T ^ T)
若島津のためのケーキも買えなかった…_| ̄|○


さてさて、今年の投稿はこれで最後です。
お馬さんが来年になってしまって、本当にすみません(^◇^;)
来年、頑張ります!

それではみなさま良いお年を〜!
今年一年、まれ助堂を気にかけていただき、ありがとうございました!

まれ助拝




コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

幸福の温度

2020-12-29 21:10:00 | 若誕



若島津は大きく伸びをして、湯船に身体を沈めた。
チャポンと水音が響く。寒波が襲来してきている現在、気温はかなり下がっている。
雪こそ降らない南関東とはいえ、やはり寒さは厳しくなっていた。

温かい湯に知らず息が漏れる。
なんの変哲もない、自宅マンションの風呂。
長身の若島津では、足も伸ばせない大きさだが、柚子を入れた風呂は、極楽の極みだった。
半分に割った柚子を入れてある、木綿袋を手で揉むと、新たな香りが立ち昇る。
それを肺にいっぱい吸い込んで、大きく吐き出した。

「贅沢だなぁ…」
ぽろりと言葉が漏れる。

シーズンが終わり、あれこれと忙しかった時期も終わり、完全にオフに入った。
天皇杯に残れなかったのは残念だが、今年肩を手術して、復活した身としては、ギリギリまで酷使せずに済んで、助かった気もする。
負ける事全てに納得できず、いつも気を張っていた20代の頃に比べると、自分も随分と歳を食った考えになったなと、苦笑する。33歳で歳を食ったと言うのも、世間的にはおこがましいのだろうけど。

いや、34か。

フッと笑みが漏れた。

今日で34歳だ。

そう、今日は若島津の誕生日なのだった。
今こうして、ゆっくりと風呂に浸かっているのも、日向からのプレゼントだった。

「若島津。そろそろ洗ってやろうか?」
ドアの向こうから日向の声がする。
「お願いします」
そう答えると、日向がドアを開けて入ってきた。短パンにタンクトップ。頭にはタオルが巻かれている。
「あんた、その格好できたの?三助さんですか!」
思わず突っ込んで、ケラケラと笑う。
「全部脱いでくれば良かったのに」
笑いながらそう言えば、日向はちょっと困ったように、眉尻を下げた。
「濡れないためにはその方がいいんだろうけどよ。……我慢できなさそうだからよ」
何がとは言わない。それが何かは言わなくても、分かる若島津は、カアッと顔を赤くした。
「だからこの格好って訳だ。ほら、こっちに頭出せ」
「ん」
胡座をかいて、頭を湯船の縁に乗せる。首の下には、シリコンのまくらが置いてあるので、痛いという事はなかった。
シャワーが流れて、生え際からゆっくりと湯がかけられる。
シャンプーが泡立たられ、日向の手が若島津の頭皮に塗り込んでいく。
若島津は日向にされるままに力を抜くと、気持ち良さに目を閉じた。手の感触を追う。
丁寧に洗われる感触は、まるで愛撫の様で、若島津の肌を粟立たせた。
「んっ…」
耳裏を洗われて、ヒクリと震えてしまった。
そのままゆっくりと、耳裏からこめかみに指が滑っていく。
ゾクゾクとした感覚が皮膚下を走り、若島津は息を詰めた。
だがそれ以上の感触はこず、代わりにシャワーの音が響く。
ホッとして息を吐き出したが、生え際から再び手を滑らせられると、先程と同じ様にゾクゾクと官能を刺激される。
「っ…んっ、ぁ」
思わず吐息と共に、漏らしてしまた小さな声を飲み飲んで、身体を震わせると、不意に日向の手が止まった。
シャワーの音だけが響く。長い沈黙に若島津が恐る恐る目を開けると、口元を手で覆った日向が見えた。
「どうし…」
若島津はどうしたのか問おうとして、途中で言葉に詰まった。色黒な日向が、それと分かるほど赤くなっていたからだ。
「お前な…」
漸く若島津に目を向けた日向が、唸る様に呟く。
「俺を煽ってんのか?ここでしちまうぞ?」
「えっ?いや…あの、えっと…」
知らず煽っていた事に気が付いて、若島津は日向を見上げたまま、オロオロと言葉を紡いだ。
「……ちゃんとベッドでお願いします…」
消え入りそうな声で言うと、調子を取り戻したらしい日向は、ニヤリと笑った。
「お前からのおねだりなんだから、我慢してやるさ」
おねだりと言われ、羞恥に更に顔を赤くする。
誕生日に何をしたいかと問われて、ゆっくり風呂に入って、ベッドでもゆっくりして、日向に甘やかされたいと言ったのは、確かに自分だ。
ちなみにそれを聞かれたのは、日向の誕生日のすぐ後。丁度復帰したものの、万全の体調とはいかなくて、少し凹んでいた頃だ。
それをずっと、覚えていてくれたのは嬉しい。嬉しいけど…
甘やかす方向がどこを向いているのか、ちょっと心配な気がする。

「ほら、終わったぞ」
髪をギュッと絞って、器用に纏めて上げてしまう。
「身体も洗ってやろうか?」
ニヤニヤとそう言われて、若島津は全力で遠慮したのだった。


日向が髪を鋤く手が気持ち良い。
ドライヤーで髪を乾かしてもらいながら、若島津は心地良い感触に、半ば意識を持っていかれていた。
着ているのは紺のピンバイスが入った、白いシルクのパジャマだ。
ずっとスウェットで寝ていたが、20代後半で再び肩を痛めてから、滑りの良い素材に変えた。
このパジャマは、去年日向からもらった、誕生日プレゼントだ。

「危ねぇから寝るなよ?」
船を漕ぎ出した若島津の頭を、さり気なく戻しながら日向は声をかけた。
「うん…大丈夫…でも気持ち良くて…」
半ば寝ている若島津に、日向はため息をつくとドライヤーを止めた。
「ベッド行ってるか?俺は風呂に入ってくるから」
「うん…」
フラフラと立ち上がって、若島津はリビングを後にした。
「出たら、起こして…」
この後はベッドで、日向に甘やかしてもらうのだ。
「絶対、起きるから…」
眠い…。寝たくない…。眠い…。
そう思考が堂々巡りを始めたところで、若島津はベッドへと倒れ込んだ。

絶対に、甘やかしてもらうんだから…

そう思ったのを最後に、若島津の意識は安寧の暗闇へと沈んでいったのだった。

**********


フッと掬い上げる様な感覚と共に、目が覚めた。
ほんの僅かな明かりが、部屋の中を薄闇に染めている。
シン…と静まり返った部屋の中で、若島津は自分が、これまでどうしていたのか、分からなくなっていた。身体を起こそうとして、ガッチリと日向に抱きしめられている事に気付く。

ああ、そうだ…

自分の状況を思い出す。

眠ってしまった後、俺は起きなかったのか…

折角日向が、甘やかしてくれるはずだったのに。
なのに寝てしまった自分にガッカリだ。

若島津はそっと身じろぐと、自分を抱きしめている日向の顔を見上げた。
実際の身長は若島津の方が高いが、ベッドに入ると、日向が若島津を胸に抱き込もうとするので、日向の顔が若島津の視線よりも高い位置に来るのだ。

寝息を立てている日向の顔を、穏やかな気持ちで眺める。
寝ていてさえも引き結んだ唇に、苦笑が漏れる。この唇で自分の名を呼ぶのだ。

不意に口付けたい衝動に駆られた。
そっと伸び上がり、触れるだけの口づけを落とす。
日向の少し乾いた唇が、荒れている様に感じて、その場所をチロリと舐めた。舐めた事で、もっと深く合わせたいと欲が出たが、日向を起こしてしまうと思って、唇を離した。
そっと息を吐く。
「どうした?」
もう一度寝てしまおうと、日向に寄りかかり、目を閉じた若島津は、思わぬ声にビクリと震えた。
見上げると、日向の瞳が薄っすらと開いている。
「すいません、起こしちゃいましたか」
口付けたことに、気が付いていないだろうか?
悪い事をした訳ではないが、知られると恥ずかしい気がして、若島津は顔を見られない様に日向に擦り寄った。
「で、どうしたんだ?」
日向の手が頭を撫でる。高い体温が、冷えていた髪から伝わって、気持ちが良い。
「俺、寝ちゃって…」
「そうだな。起こしても起こしても、全然起きなかった」

やっぱり…。

若島津は自分の失態に、シュンと気持ちが落ちていくのを感じた。
「…折角日向さんが、甘やかしてくれるんだったのに、寝ちゃって勿体なかったな」
「良いじゃねぇか。グッスリ眠れて何よりだしな。お前、シーズン中は熟睡できてなかっただろ?」
日向の指摘に、パチクリと目を瞬かせる。
「…そうかな?…そうだったかも」
思うようにいかない自分の動きに、些か苛立っていたのは、自覚していた。でも夜はちゃんと眠れていると、思っていたけど…
「だからもう一度寝ておけ。甘やかすのは明日やってやるから」
「えっ?誕生日過ぎちゃうけど、やってくれるんですか?」
誕生日限定だと思ってた。
そう言う若島津に、日向はニヤリと笑った。
「延長料金はもらうけどな」
悪い顔で笑う日向に、延長料金って一体…と、疑問を抱きつつも、甘やかしてくれる事が嬉しくなる。
「よろしくお願いします」
フワリと微笑んで日向に抱きつく。

「おやすみなさい」
「おやすみ」

日向の体温を感じて、再び眠くなってくる。
幸せな温度を心にも感じながら、若島津は眠りについたのだった。





*******************

と言う訳でこんばんは!
年末9連勤、7連勤目ののまれ助です。
後2日!後2日で終わりだよ!

でも今日は体は疲れても心はウッキウキです🎵
だって若島津の誕生日だもーん!

さあ、今年も声の限り叫ぼう!

若島津!お誕生日おめでとう〜ぅぅぅ!

今年はそこそこの若誕話も書けたし、大変満足です( ´ ▽ ` )

日向誕は書きかけだけどね…うん。
イチャイチャを待ってくれている方々には申し訳ないけど、日向誕は年明けかもです(^◇^;)

それではまた次回にお会いしましょう!
若島津好きだ〜!!

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

声を聴きたくて

2019-12-31 23:26:00 | 若誕



目を覚ました日向は、ガバリと起き上がった。慌てて時計を見る。
時刻は17時を2、3分過ぎたところだった。
その時刻を見るなり、日向は青くなった。
自分の迂闊さに目眩がする。

やっちまった…

スリープ状態のパソコンからスカイプを立ち上げると、3つ受信履歴が残っていた。
全て同じアカウント。若島津だ。

日向は頭を抱えた。3回と言う数が怖い。仏の顔も3度までと言われているようだ…

日向は折り返してかけてみようかと思ったが、8時間の時差がある日本では、すでに夜中の1時を過ぎでいる。
かと言ってかけないのも、罪悪感で胃が痛くなりそうだ。

しばらく逡巡していたが、遅くなってもかけないよりは良いと、日向は若島津のアカウントに呼び出しをかけたのだった。

やっぱり出ないか…

待っていても応答のない画面に、日向は諦めのため息をついた。
寝こけていて、約束をぶっち切ってしまったのは、自分なので仕方がない。
ガックリとしながら切ろうとしたその時、若島津が応答した表示が現れた。
暗かった相手画面に、 見慣れた部屋が映る。
最初に長い指の手。それからゆっくりと座わる、体のライン。
最後に…少し不機嫌そうな、愛おしい顔が現れた。

「…遅かったですね」
そう言って、目を瞬かせる。
不機嫌かつ眠そうな若島津は、いつもは見せない無防備さと幼さか感じられて、不意に抱きしめたい衝動に、日向は駆られた。

「日向さん?」
答えない日向を不審に思ったのか、若島津が呼びかけてくる。
「やべえ…今、お前の事を無茶苦茶抱きしめたい」
「っ…!」
途端に眠そうだった目が見開かれて、若島津の顔に朱が立ち昇った。
「あんた、約束破っておいて、開口一番がそれですか?」
呆れた口調。でも日向に向けられた瞳には、既に不機嫌な光は無くなっている。

「ああ、そうだよな。まずはこれを言わねぇと」
日向は居住まいを正すと、若島津に向き直った。

「誕生日おめでとう。遅くなっちまってすまん」

「ありがとう…遅くなっても、あんたに言われるのは、すごく嬉しい」
綺麗な笑みを浮かべる若島津に、日向は言葉を失った。

「あーっ、やっぱり来年はお前の所に帰るわ」
ガシガシと頭を掻き毟る日向に、若島津は驚きの目を向けた。

「何?急に?」
「そんな顔見せといて、キスどころか抱きしめる事もできねぇなんて、生殺しだろ?」

ニヤリと笑った日向の、悪戯を思いついた様な顔を見て、若島津の顔が赤くなる。
「まさか明日来るなんて、言わないですよね?」
「その手があったか!」
ポンと手を打った日向に、慌てて若島津が立ち上がる。
「嘘でしょ?」
その様子に、日向はとうとう吹き出した。

「日向さん、あんたね!」
揶揄われた事に気がついて、若島津の眦が上がる。
「怒るなよ。お前に会って抱きしめながらキスして、ベッドに押し倒したいのは本当だからよ」
「だから〜」
茹で蛸の様に赤くなった若島津が、更に何か言おうとしたが、諦めた様にため息をついた。
「もういいです」
そしてポツリと呟いた。
「俺もあんたに会って、抱きしめてキスしたいよ…」
「若島津…?」

「ごめんなさい。もう寝ます」
よく聞き取れなかった日向が、聞き直そうとしたが、若島津は不意に通信を切ってしまった。


「………なんだよ?」
モヤモヤの残る会話に、日向はマジで日本に帰ろうかと本気で悩んだのだった。




*******************

こんばんは!まれ助でございます( ^ω^ )

日向誕が途中ですが、どうしても12月中に若誕を書きたくて、12月ギリギリ滑り込みです。
遠く離れた2人の、日常の会話をお楽しみくださいね!

今回スカイプを登場させましたが、実際には使った事が無いので、使用方法については間違っている表現もあるかもしれません(^◇^;)
その場合は、まれさん知らないのねと、生暖かく見守っていただければと思いますm(_ _)m


今年は嫌に忙しかったり、体調がよる年波のせいかイマイチだったりでしたが、少しでも更新できて良かったです。

来年は日向誕の続きから始めたいと思っています。
どうぞまた立ち寄ってくださいね( ^ω^ )

それでは今年はこの辺で!

皆さまどうか良いお年をお迎えください。
ありがとうございました♡

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

手/を/と/り/あ/っ/て

2018-12-29 18:44:06 | 若誕



日向はふと目が覚めた。
暗いことに違和感を覚え、起き上がる。
部屋の中には月の光が差し込み、カーテンが淡い影を描いていた。

傍らには穏やかな顔で寝息をたてている、若島津がいる。
時計を見ると既に夜の八時を回っていた。

今年は天皇杯が十二月上旬で終わってしまい、いつもよりも早い正月休みが、チームに訪れていた。

そして今日は若島津の誕生日だ。
日向は朝から、あれやこれやと若島津の世話を焼き、若島津といえば、いつになく上機嫌だった。

昼日中にベッドに誘ったのも若島津だった。
珍しい彼の行動に日向が驚くと、若島津は誕生日だからと顔を赤くした。
そんな若島津をよく見たくて、遮光カーテンを引かずに睦み合ったのが二時過ぎだった。


事が終わってから、四時間以上も寝てしまったらしい。
昼寝には長すぎたなと、日向は苦笑した。
しかし起きる気にはなれず、もう一度布団に潜り直す。
間近にある若島津の温かさを肌で感じて、日向は幸せな気持ちになった。その気持ちのまま、若島津の顔を眺める。
ピッチに出なくなった分、幾分か白くなった肌は、淡い光の中光輝いているように見える。
四十近い男を美人と言うなと若島津は怒るが、日向にとって、若島津以上に綺麗だと思う顔はなかった。

若島津の長い睫毛の下に、僅かな涙の跡を見つけて、日向はそっと拭った。
「んっ…」
小さな声を漏らして、若島津が日向の手を払おうとした。その手が日向手に行き当たると、払わず反対に握ってきた。
日向も起こさないようにそっと握り返す。

白く長い指。
突き指を繰り返してきた指は、僅かに変形していた。爪が割れて痛みをこらえながら、ゴールを守っていたこともある。

愛おしさが込み上げて、日向は指に唇を寄せた。


《手/を/取/り/合/っ/て》

《こ/の/ま/ま/い/こ/う》


若島津が今、自分の傍らにいてくれる奇跡を。
誰よりも愛する人が生まれた日に。

《愛/す/る/人/よ》

《静/か/な/宵/に/光/を/灯/し》


「おめでとう、若島津…。
生まれてきてくれて、ありがとう…」
そっと囁く。


《愛/し/き/教/え/を/抱/き》


「お前を、誰よりも愛しているよ…」



淡い光の中、若島津が微笑んだ気がした。









**********************



皆さまこんにちは!
毎度まれ助でございます!


今日は若島津の誕生日ですね〜

声を枯らすほど叫びたい!

若島津、おめでとう〜!!☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆




さてさて、なんとか宣言通りに、若誕話を2本上げられました!えらい!自分で褒めちゃうぜ!


前回の「この恋の行方は」は、書いたらすぐに上げてしまったので、何のテキストもなくてすみませんでした(^◇^;)

初出が16年と言うね、何年かかって書いとんのじゃ!って感じですが、書き終えられて良かったです。
淡い恋の物語は、やっぱり難しい〜!
読むのは大好きなんですけどね〜!


今回の「手/を/と/り/あ/っ/て」は親父シリーズの2人です。
題名は現在再々ブーム中のQ/u/e/e/nのアルバムの中にある、曲からです。
《》の中は、Q/u/e/e/nが日本語で歌ってくれている部分。

英語部分はちょっと悲しいんだけど、この日本語の部分がすごく美しくて、借りさせてもらいました。
大人の事情で、/が入っていてすみません(;´д`)


今年は若誕で、最後の記事となります。

振り返れば、身内が相次いで亡くなったり、車上荒らしにあって全てを無くしたり、うっかりで交通キップを切られたりと、だいぶ波乱万丈な年でした。

来年はもう少し、更新頻度が上がったら良いなと思っています。
……息子の小学校入学が終わってからかな〜(T ^ T)4月までは、準備に死んでいると思われ爆


それでは、今年もご覧いただき、ありがとうございました!
どうぞ良いお年をお迎えくださいね!


まれ助拝





コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

この恋の行方は(10)

2018-12-25 13:45:22 | 若誕





翌朝、日向の姿は若島津家の門の前にあった。

「あら、小次郎ちゃん」
対応したのは若島津の姉だった。
「朝からすいません。あいつ、これを置いてっちまったんで‥」
そう言っておでんの入ったタッパーを渡す。

「あらあの子ったら、好物のおでんを置いてっちゃうなんて、珍しいこともあるもんね」

「昨日は帰すのが遅くなってすみませんでした」
ペコリと頭を下げる。
「いいのよ。男の子なんだもん、たまには羽目を外したって。
そう言えば‥昨日はやたら焦った顔で帰ってきたんだけど、なんかあったの?」
ジッと顔を見つめられて、日向は目を白黒させた。

「いえ‥別にこれと言って‥」
何かあったと言えば確かにあった。でもそれを香子に言う訳にはいかない。

「‥‥まあいいわ。小次郎ちゃん、持ってきてくれてありがとうね。
健にもお礼を言わせたいんだけど、あの子は今年最後の早朝稽古に行ってるの。何だったら会ってく?多分もうすぐ終わるから。裏山の道場よ。知ってるでしょ?」
日向は頷くと、香子に頭を下げて門を出た。

若島津家の生垣をぐるりと回って、裏門に向かう。
裏門の正面にある細い坂道を上っていくと、車道に繋がる道と石段の道に分かれる。
日向は記憶を頼りに石段を上がった。

小高い山の上にある道場は、何度か若島津と行ったことがあった。まだ自分の父親が生きていた頃、流星群を見るために、三人で登ったこともあった。
あの時はまだ、若島津に出会ったばかりだった。
学校以外でできた友達が嬉しくて、二人してはしゃぎまくって、親父に怒られた。
懐かしい気持ちが一瞬湧き上がる。


まさかその若島津に、こんな感情を抱くなんて思いもしなかった。
知らない土地で若島津がいる安堵感。触れてしまいそうになる衝動。
男である若島津に、そんな気持ちになる罪悪感。


だが若島津はそんな自分を、好きだと言ってくれた。
不意に押し付けられた唇の感触が蘇る。
赤くなりながら、グイッと拳で自分の唇を拭う。思い出したら、若島津に触れたい衝動が蘇ってしまう。
頭を振って煩悩を追い出すと、日向は再び石段を登り始めた。



道場の建つ頂上は、記憶よりも閑散として見えた。直ぐに木を切って、広場を作ったからだと気が付く。駐車場も見え、車で来る道があったのかと驚いた。
道場は静かだ。香子がもう終わると言っていたから、既に終わっているのかもしれない。
入り口を前にして、入ろうかどうしようか躊躇する。扉の向こうから素人の日向でも分かるような、緊迫した空気が感じられたからだ。

「礼!」
「ありがとうございました!」

その途端に緊迫した空気が、緩んだのが分かった。
ホッとしていると、戸が引き開けられた。

「なんだ小次郎ではないか」
出てきたのは若島津の父だった。
「おはようございます」
慌てて挨拶をする。
若島津の父はそんな日向に、少し目元を和らげて挨拶を返すと、日向が登ってきた来た道を下っていった。

特に何も言われなかったことにホッとする。
改めて道場の戸に手をかけた途端、またしても戸が引き開けられ、岩のようなガタイの男たちが、ドヤドヤと出てきた。
思わず横に飛びのいて通り道を開ける。
その中の男が一人、日向に気が付いて剣呑な目を向けたが、周りに促されて何も言わずに歩き去った。

ゾロゾロと道着を着た男たちが出ていってしまっても、若島津は出てこなかった。
ソロリと中を覗く。
すると若島津が一人、道場の雑巾掛けをしていた。
「若島津」
声をかけると、若島津は驚いたのかビクリと震えて日向に顔を向けた。
「日向さん!あんた何でここに‥」
強張った顔に、何と声をかけていいのか分からず立ち尽くす。すると若島津が深くため息をついた。
「寒いからそこ閉めて、上がってください」
言われるまま戸を閉めて、たたきから上がり框に足をかける。
道場に入る前、日向は思い出したように、ペコリと頭を下げた。
その様子を見て、若島津の表情が緩む。
「覚えてくれていたんですね」
昔この場所に日向と来た時、道場は神聖な場所だから、入る前に礼をするのだと教えたのは若島津だった。
「一人で掃除してんのか?」
「今日の稽古では、俺が一番下の弟子だからね」
そして若島津は、再び黙々と雑巾をかけ始めた。


「で、どうしたんですか?」
やっと若島津が口を開いたのは、道場の雑巾をかけ終わってからだった。
しかも日向の顔を見ようともせず、雑巾を洗っている。

昨夜の事を忘れたような若島津の態度に、ムッとなる。自分は心臓が飛び出そうな思いで、ここに来たというのに。

「どうしたじゃねぇだろ?」
その腕を掴んで自分の方に向かせると、真っ赤になっている、若島津の顔があった。
「なっ‥」
「離してください」
若島津がその手を振りほどこうとしたが、日向は離さなかった。
「人が…人が折角平静を保とうとしてるのに、何で突っかかってくるんですか…」
怒っているのか泣きそうなのか、自分でも分からなくなっている若島津に、日向は抱きしめたい衝動に駆られた。
「若島津…」
腕を引いて、その体を抱き込む。
「ひゅっ、日向さん?」
戸惑う若島津に構わず、頰を寄せる。寒気に晒されていたはずの頰は、ほんのりと温かかった。
「若島津…お前が好きだ」
耳元に低く囁くと、若島津の体がビクリと震えた。


「ダメです!」
そのままキスしようと、顔を寄せた途端、日向は渾身の力で吹っ飛ばされていた。
受け身を取る暇もなく、床に頭を打ち付けた日向は、声もなく痛みに悶えた。
頭を抱えて床を転がる日向に、若島津は慌てて駆け寄った。
「すっ、すいません!大丈夫ですか、日向さん!」
アワアワと雑巾を投げ出して、奥の扉に消えた若島津は、氷嚢に氷を入れて戻ってきた。
「兎に角、これで冷やしてください」
氷嚢で冷やされて、やっと起き上がれた日向は、ジンジンと痛む頭で若島津を恨めしそうに睨んだ。
「昨日は自分からしておいて、これはねぇんじゃね?」
「だって…」
シュンとして項垂れた若島津は、チラリと日向を見上げた。
「だって…ここ道場だし…心の準備もいるし…」
心の準備と聞いて、思わず日向は吹き出した。
「笑わないでください…!」
真っ赤な顔で叫ぶ若島津に、日向は悪いと手を振った。
「心の準備も何もできてなかった俺に、キスしてきたのはお前だろうよ」
「だって!だってあれは…!日向さんが俺があんたの事好きだって、信じないから…」

しどろもどろになりながら、言い訳をする若島津が可愛くて、日向は再び抱きしめた。
「なんだ、俺たち相思相愛じゃん」
日向は嬉しさと可笑しさが込み上げてきて、ゲラゲラと笑ってしまった。
自分が相手を好きなんだと、言い合っていることに気付いて、若島津もプッと吹き出す。
「本当だ。相思相愛ですね」
「馬鹿みてぇ」
そうして二人で笑い合う。


好きな奴が、自分の事を好きだと言ってくれた。
それがこんなに、幸福な気持ちになるとは知らなかった。
日向は笑いながらも、胸の奥にほの温かさを感じ、若島津を抱きしめ続けたのだった。



コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

この恋の行方は(9)

2017-08-17 14:30:17 | 若誕





当時を思い出し、若島津は薄く微笑んだ。

「あんたが助けてくれなかったら、俺は泣きながら一晩過ごしていましたよ」
「まさか、お前なら這ってでも家に帰ってたろ?」
日向がからかっているのかと思ったが、その横顔は意外な事に真顔だった。
「俺はあの時ここに来て、すげえラッキーだったと思ってる。あの日ここに来なかったら、お前に会えなかったし、お前がサッカーすることもなかった。俺はこうして東邦に来てサッカーなんてしてられなかった」

「日向さん‥」
戸惑う若島津にやっと顔を向けると、日向はどこか自嘲的な笑みを浮かべた。
「俺だってそん位の事は思ってるんだぜ?」
そのまま沈黙が流れる。
日向との沈黙は苦痛ではない。だが今日は居心地が悪かった。

「若島津」
居心地の悪さに帰ろうと促す前に、日向が口を開いた。
「東邦でなんとか生活できてんのも、気のつくお前に甘えまくっているからだと思う。俺は勝手な奴だ。こんなこと言ったって、お前を困らせるだけだって分かってるのに、言わずにはいられなくて、この神社まで来ちまった」

日向は言葉を一旦切ると、若島津に向き直った。

「お前が好きだ。若島津」

一瞬何を言われているのか分からなかった。
だいぶ遅れて、日向の放った好きという言葉が脳に届く。それと同時に自分の顔に血が昇るのを感じた。

「‥悪りぃ‥困るよな。こんなこと言われたって」
黙ったままの若島津が、自分の言動に困惑していると思った日向は、ため息をつくと立ち上がった。

「帰ろうぜ。流石にお前んちも心配するだろうし」
「‥待って!待ってください!」

このまま帰ってはいけない。そう思った若島津は、咄嗟に日向の腕を掴んだ。


日向は掴まれた腕を振りほどかず、時が止まったように若島津を凝視していた。

若島津といえば、日向の腕を掴んだはいいが、喉を絞められるような感じがして、声が出せなかった。

言わなくては。自分の想いを。

そう思うのに最初のひと声が出てくれない。
若島津は今までに感じたことのない、酷い緊張を覚えた。
その内呼吸さえも上手くできなくなり、ヒューヒューと喉が鳴り始める。苦しくなって胸元の服を握りしめた。
「馬鹿っ!何やってんだ!」
若島津の異変を察した日向は、苦しさに震えだした若島津の顔を、自分の胸に押し付けた。
「若島津!息を吸うよりも吐くことを考えろ!」
促しながら、おでんを入れていた袋を取り、若島津の鼻と口を覆う。
「このままゆっくり深呼吸すんだ」
日向に言われるまま、若島津は深呼吸を繰り返した。
どの位繰り返したか、分からないほど深呼吸をする内に、やっと普通に呼吸ができるようになる。
「もう大丈夫だな」
ホッとした日向は安堵のため息をついた。
「‥過呼吸起こすなんて、何やってんだよ?」

日向の2番目の弟が、構ってもらえない寂しさで、よく過呼吸を起こしていた。だから若島津の状態で、それが過呼吸を起こしていると分かって対応できたが、知らなかったらパニックになっていただろう。

「‥ごめんなさい‥」
ショボンとした若島津が謝る。
そのどこか幼い顔に、日向は苦笑した。
「遅くなっちまった。帰ろうぜ。」
22時を過ぎ、流石に中学生がうろつく時間ではない。若島津の手を掴んで立つように促すと、若島津が思いがけない力で、日向の手を握り返した。

「‥日向さん‥。あんたさっき、俺の事が好きだって言いましたよね‥?」
「ああ、言った。だけど伝えたのは俺の自己満だ。お前が気にしなくて良い。嫌なら俺から離れたって‥」
「あんた分かってない!」
日向の話を遮って、若島津は叫んだ。

「俺も‥俺もあんたが好きです‥」

日向は驚きで目を見開いた。若島津の言葉が頭の中で反響するが、それを信じられない。
「まさか‥嘘だろ?」
パンッと頰が鳴った。痛みで目がチカチカとする。
視力が回復する前に、唇に柔らかいものが押し付けられた。
「‥これで信じる?」
漸く見えるようになった日向の目に、夜目にも分かるほど赤くなった若島津の顔が映った。

「帰る!」
日向と目が合った若島津は、踵を返すと日向が止めるのも構わず、神社の階段を駆け下りていった。
「わっ、若島津‥!」
慌てて追いかけようとした日向だったが、置き去りにされたおでんに気を取られている内に、若島津は見えなくなってしまったのだった。




********************************************



皆さまご無沙汰しております。
まれ助でございます。

今日は我らが日向さんの誕生日ですね!
なのにまだ若誕書いてるお馬鹿さんがここに‥(^◇^;)
しかもまだ終わってないよ〜!
いや、ここで終わらせちゃっても良いんだけどね。残りは、ほんのちょこっとのエピローグだけなんだし。

毎回言ってるけど、学生の告白する話は、難しいです(;´д`)
日向さん、中3なのになんだかオヤジ臭いですしね‥
今回も日向さんの言動に悩みましたわ〜(>人<;)
あと1回あるので、また悩んで遅くならないようにしますね!


5月の終わりに、志賀島みいさんにお会いできて、数時間小次健話をしてきました!
4月からだいぶ心身ともにやられていたので、小次健話で、かなり気持ちが浄化されたんですけどね‥
なんで前回からこんなに間が空いちゃったんだろ〜( ´△`)


8月のうちに、日向誕もやりたいので、気合を入れ直して頑張ります!


それでは以下次号!

本日もご覧いただき、ありがとうございました(о´∀`о)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

この恋の行方は(8)

2017-05-13 06:10:44 | 若誕





日向に手を引かれて階段を登る。
防犯の為か常夜灯があるので、足元には不自由はなかった。

登り切るとそこは小さなお社があるだけの簡素な神社だった。常駐の神主はいない為、夜は無人になっている。
日向は手を叩いて祭壇に挨拶をすると、石段の縁に腰をかけた。
「座れよ」
そして自分の隣を叩いて、若島津に座るよう促す。言われるまま若島津は日向隣に腰を下ろした。
「今日は楽しかったか?」
「うん‥」
そのまま沈黙が流れる。

若島津は薄暗い神社に、日向と2人きりという状態に心ざわついていた。心臓の音ばかりが耳に響き、周りの音が聞き取れない。
これが寮の部屋だったらなんて事はないのだ。
だが夜も更けた神社に、しかもよりによってこの神社にいる事が、若島津の鼓動を激しくさせていた。

「‥‥てるか?」
「えっ?なんですか?」
自分の鼓動に気を取られていた若島津は、日向の声が聞こえず聞き返した。
「だからここの神社を、覚えてるかって聞いたんだよ」
ビックリした顔の若島津に苦笑しながら、日向が繰り返す。
「そりゃあ‥」
忘れるわけがない。ここは日向と初めて会った所なのだ。


それは4年生になったばかりの時だった。

その日若島津は、空手の稽古中に禁じ手を使ってしまい、師範に反省として町内のランニングを命じられた。
途中この神社の階段を上がって、下れば折り返しというところで、若島津は神社の木の上に何かが引っかかっているのを見つけたのだ。
気になった若島津は登ってみることにした。
木登りは得意だったし、怒られたことでムシャクシャしているのもあった。大人の意に反することをして、僅かながら反抗してやろうという気持ちもあった。

だがこれがいけなかった。

引っかかっていると思ったのは鳥の巣で、怒った親鳥に攻撃されてしまったのだ。
慌てて木から降りる途中、若島津は足を滑らせて木から落ちた。
ほとんど降りていたので、普通に落ちれば打ち身程度で済んだはずだったのだが、登った時に折ってしまった枝が引っかかり、若島津の脚を切り裂いたのだ。
丈夫なはずの道着は無惨に切れて、赤く染まった。

最初に思ったのは不味い!だった。こんな不手際を起こしてまた怒られると。だが立とうとして激痛が走り、そのまま座り込んで動けなくなると、今度は恐怖が湧いてきた。

既に日が傾いてきている。助けを呼ぼうにも、この神社には滅多に人が来ないのを知っていた。

‥‥どうしよう‥

泣きそうになるのをこらえて、若島津はギュッと目をつぶった。
どうにかして自分で帰らなくては。そう思った矢先だった。

「おい!お前大丈夫か!?」

不意に声をかけられ、若島津はビクリとして顔を上げた。

「怪我してんじゃねぇか!」
声をかけた主は驚いたように駆け寄ってきた。
歳は自分よりも少し大きいだろうか。そこには見たことのない少年が立っていた。走っていたのか、汗の浮いた額を袖でグイッと拭く。
「どうしたんだよ?お前1人か?」
若島津が頷くと、少年はチッと舌打ちをした。
「家はどこだ?」
「‥6丁目‥」
若島津が告げると、少年はマジかよ!と天を仰いだ。
「仕方ねぇ、俺ん家の方が近いから、俺ん家行くぞ」
そう言うと少年は若島津に背を向けた。
「えっ?」
事態が飲み込めず狼狽える若島津に、少年は何やってんだとばかりに振り返った。
「おぶってやるから乗れよ。それとも自分じゃ無理なのか?」
少年は返事を待たずに、若島津の手を取った。戸惑っているうちに、腕を引っ張られ背に引き上げられる。
「しっかり掴まってろよ」
同じ位の体躯のどこにそんな力があるのか、少年は若島津を背負うと、ふらつくことなく神社の階段を降りていったのだった。


その時の少年が日向だった。
偶然が偶然を呼んだ出会いだった。
あの時日向の家に連れていかれ、日向の母に手当てをしてもらった。
この縁で日向と友達になり、サッカーを教えてもらうようになったのだ。

この出会いが若島津の運命を変えた。
あの時うっかり禁じ手を使わなければ。使ってランニングをしても木に登らなければ。木に登っても落ちなければ‥
どれ1つ欠けても、日向とは出会えなかった。自分は今もサッカーをせずに、地元で空手だけに励んでいただろう。




*************************************


そんなこんなで以下次号です

どうも皆さまこんにちは〜!
毎度まれ助でございます!

今回はチラッと日向と若島津の出会いを書いてみました( ̄▽ ̄)
まれ助の所は、若島津が怪我をしているのを、日向が助けて出会ったと言うのがどの話でもデフォになっております。

日向と若島津は同じ町内ですが、出会った頃はかなり離れていて学区は別。
日向父が亡くなったことで引っ越して、前よりはかなり近くなったけど学区はやっぱり別です。
なので一緒の学校は中学校から。
お互い学校での姿は見たことがなかったから、きっと新鮮だったろうなぁ‥なんて妄想しています(笑)


それでは本日もご覧いただき、ありがとうございました!
次回で終われるかな?
頑張りまっす(●´ω`●)


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

この恋の行方は(7)

2017-05-08 11:04:12 | 若誕





おやっさんのおでんは、今日が仕事納めという人も多く、年の瀬でも大人気だった。
厳しい冷え込みの中、湯気を立てるおでんと赤い提灯は、誘蛾灯の様に人を引き付けた。
今日は手伝いではなく、お客として来たつもりの2人だったが、忙しそうなおやっさんの様子に自然と手伝い始めたのだった。

「悪いな、2人とも。今日は俺が誘ったのによ」
ビールを運んだり食器を洗ったりする2人に、店主は申し訳なさそうに言った。
「この状態で座ってるだけなんて、それこそケツがむず痒くなっちまいますよ。好きで手伝ってるんだから、気にせんで下さい。なあ、若島津」
日向言葉に、若島津もコクンと頷く。
「そうは言ってもよう、小次郎はともかく健坊にまでやらせてんのはなぁ」
「俺は楽しいです」
若島津はニコニコと食器を洗っている。
楽しいんならいいけどよ。店主はため息をつきながらそう言って、お客の注文を捌いていったのだった。

客足が落ち着いたのは21時を回っていた。
途中念願のおでんにもありつけた若島津は、終始機嫌良く働いて、今はいつもとは違う疲れを心地良く思っていた。

「すまん!だいぶ遅くなっちまったな。親御さんが心配するだろうから、もうお前たちは帰りな」
そう言われて帰り支度を始めた2人に、おでんのお土産とむき出しの5000円を握らせた。
「おやっさん!」
驚いて日向は返そうとしたが、ちっと早いけどお年玉だと店主は受け付けず、2人はお礼を言っておやっさんのおでん屋台を後にしたのだった。

「結局働かせちまったな」
悪そうにそう言う日向に、若島津はかぶりを振った。
「楽しかったです。おやっさんのおでんも食べたし、お土産までもらったし」
若島津の穏やかな笑みに、ドキリとした日向は慌てて目を逸らした。
「遅くなっちまったな。早く帰んねぇと」
すると若島津はちょっと寂しそうな顔をした。
「もう帰らないとダメかな‥俺、もうちょっとあんたといたいな‥」
若島津にとってもこんな誕生日は初めてだった。
大好きな日向と大好きなおでんを食べて、しかも夜に出かけている。
中学生という年齢の若島津にとって、それはとても特別な事だった。それがもう終わりと告げられて、少し寂しくなってしまったのだ。

だが年末の慌ただしさで、末弟にまで構っている余裕のない自分の家に比べて、日向には家族が待っている。滅多に帰ってこない長男を、できるだけ側に置いておきたいと思うだろう。
思わず言ってしまった言葉を、若島津はすぐに後悔した。
「‥ごめん。みんなあんたの事待ってるよね」
「‥そうだな、10時までに帰れば大丈夫じゃねぇか?」
えっ?と俯いていた若島津は顔を上げた。
「この辺で座れるところって‥ああ、あの神社に行こうぜ」

そうして戸惑う若島津の手を引いて、日向は神社の階段を登ったのだった。




***************************************


皆さまご無沙汰しております!
久しぶりのまれ助でございます!

お待たせしました、やっと若誕の続きです。
先月末に家庭訪問が終わって、やっと小学校入学フィーバーが終わりました〜!
いやぁ‥入学準備も大変だったけど、その後の書類地獄とか、子供が慣れるまでの通学補佐とか色々ありました‥(>人<;)

やっと終わったと思ったらGW突入‥
我が家は残念ながら両親共に仕事なので、私の仕事場に連れて行って見ながら仕事をするという、親子共々苦行のGWでしたorz
GW明けの今日、娘は泣きながら学校に行きましたよ(^◇^;)

そんな訳でこちらもひと段落つけました!
今までよりもペースを上げて、若誕の話を進めたいと思います。
ってももう少しなんですけどね〜(^◇^;)

マイペースではありますが、どうかお付き合いよろしくお願いしますm(_ _)m

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

この恋の行方は(6)

2017-01-07 16:41:50 | 若誕



日が暮れてくると、若島津はソワソワと落ち着かなくなった。

「落ち着きなさいよ。小次郎ちゃん待っててソワソワするなんて、どんだけ楽しみなのよ?」
姉の香子が呆れた声を出したが、若島津はうるさいなぁとその場から逃れる様に、門を覗いてみた。日向の姿はまだ見えない。
「健さん、本当にお夕飯はいらないの?」
エプロンを付けた母が台所から顔を出して尋ねる。今日は大掃除の労いもあって、門下生も一緒に夕飯を取ることになっているので、母は大忙しだった。
「うん。おやっさんのおでんを食べるから」
「分かったわ。ご迷惑にならないようにね」
若島津が1人減ったくらいでは、作る量的になんら変わらないでろうが、少しホッとしたようにそう言うと、おでん代とお金を渡してくれた。
それありがたく受け取った所で日向の迎えに来た声を聞いたのだった。




「寒いな」
風こそ強くないものの、冷え込みが強い夜は寒さもこたえる。
クシュンと鼻の頭を真っ赤にしてくしゃみをした若島津に、日向は眉をしかめた。
「風邪引くんじゃないぞ。あっそうだ。ほら、これやるよ」
ヒョイと首にマフラーがかけられる。
「直子からだ。なんでも自分の腕で編んだんだってよ。」
「腕?腕で編み物ってできるんですか?」
フワフワと柔らかいそれを、若島津はしげしげと眺めた。
「でもなんで俺に?」
「誕生日だからだろ。俺からもあるぞ。おやっさんのおでんだ」
どこかぶっきら棒に日向が告げる。その言葉に、日向が自分の誕生日を、覚えていてくれた事が知れた。
「ありがとうございます。直子ちゃんにもお礼を言っておいてください」
そう言うと日向は面倒臭そうに、フンと鼻を鳴らした。それが日向が照れている時だと知っている若島津は、嬉しくなってニッコリと笑ったのだった。



********************************************



皆さまこんにちは〜!
毎度まれ助でございます(*^▽^*)

あっという間に松の内も終わろうとしていますね。
そんな中、やっと若誕の続きです。
まだおやっさんのおでん屋まで着かないよ‥(´Д` )

次回で少し進展してほしい2人ですが、どうなることやら‥
気長にお待ちいただければと思います。

それでは次回をお楽しみに〜♪
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

この恋の行方は(5)

2016-12-31 20:53:27 | 若誕





年末も押し迫った29日‥


若島津は実家の道場の、大掃除の真っ最中だった。
若島津家では28日に餅つきをし、29日に大掃除。そして30日に新年を迎える準備をして、稽古納めをする。

若島津はバケツの水を、庭に撒くために外へ出た。
「よう」
するとお勝手門の脇に日向がいた。
「どうしたんですか?」
てっきり家族水入らずで過ごしていると思った日向が、自分の家の前にいるので驚いた。
「今晩時間あるか?」
「掃除さえ終われば、大丈夫ですけど」
若島津がそう言うと、日向は少し眉尻を下げた。
「んじゃ少し付き合えよ。おやっさんが今日で仕事納めだから、来いって言ってんだ」

おやっさんとは、小学生の時に日向がバイトをしていた、おでん屋の店主のことだ。
サッカーの事で父親と諍う度に、若島津は日向のいるおでんの屋台へと逃げていた。おやっさんもそんな若島津を諭す訳でもなく、黙ってそこに居させてくれたのだった。

「喜んで付き合いますよ。おやっさんならウチの親も許してくれます」
「そんじゃ後で迎えに来る」
若島津は手を振って日向を見送ると、ふと思い出してその唇に笑みをのせた。

3年前、同じ様に大掃除をしていたら不意に日向が訪ねてきた。
どうしたのかと思ったら、受験が上手くいくようにと、お守りを持ってきてくれたのだ。

「あの時と同じじゃん‥」
なんとはなしに嬉しくなった若島津は、機嫌良く道場へと戻り、門下生に不振がられたのであった。



***************************************



皆さまこんばんは〜!
毎度まれ助でございます!

若誕話、今年中に終わりませんでした( ´△`)申し訳ない‥orz


今年は30周年だったのに、全然更新できなくて反省なとしでした。
来年はもう少し頑張ります!
4月から娘が小学校入学で、環境が変わるのでどうなるか今から心配ですが(^◇^;)

変わらず小次健が好きで、こちらを覗きにきてくださる同士の皆さま!
本当に1年間ありがとうございました╰(*´︶`*)╯
来年もどうかまれ助堂をよろしくお願いします!

新年は5日から通常営業に戻ろうと思っています。

皆さまどうか良いお年をお迎えくださいね!
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする