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CO2から資源、「厄介者」の変身 温暖化対策が進化

2020年01月14日 | 新技術

CO2から資源、「厄介者」の変身 温暖化対策が進化
2020/1/14 日経新聞

「これはロッテルダムのだね。北京のも持っているよ。東京のはまだないな」。オランダ人デザイナーのダーン・ローズガールデ氏は笑いながらひとつの指輪を見せた。指輪と聞いてまずは思い浮かぶのが、透明に光り輝くダイヤモンドだが、彼の手に光るのは真っ黒な宝石。この"黒いダイヤモンド"は地中から掘り出した炭素の結晶ではなく、空気中から寄せ集めた微細な粒子からできている。その黒い輝きは人間社会による大気汚染の不都合な事実と持続可能な未来に向けてともり始めたかすかな光を映している。

オランダ人デザイナーのダーン・ローズガールデ氏は空気中から寄せ集めた微細な粒子から「黒いダイヤモンド」を作る=ロイター
■汚染された空気を指輪にして販売
2013年、ローズガールデ氏は大気汚染が進む北京の空を眺め、ある思いを巡らせた。「わたしたちは皆、きれいな空気を享受する権利があると同時に、きれいな空気を保つ役割もある」。人々が集まる場所の空気をきれいにできないかと考え、巨大な空気清浄装置を設置する案を思いついた。

巨大な空気清浄装置「スモッグ・フリー・タワー」は多くの人が集う公共の公園などに設置する(北京)=Studio Roosegaarde提供
15年9月、オランダのロッテルダムにアルミニウムなどでできた高さ7メートルの空気清浄装置「スモッグ・フリー・タワー(SFT)」が初めて出現した。SFTは取り込んだ空気の中から微細な粒子を吸着し、1時間当たり3万立方メートルのきれいにした空気を排出する。使うのは1170ワット程度の再生可能エネルギーが生み出した電力だけだ。これまでに中国や韓国など計7カ所でタワーを試験的に設置する「スモッグ・フリー・プロジェクト」を実施した。

環境保全に関心を持つカップルから人気があるという=Studio Roosegaarde提供
ローズガールデ氏はSFTで集めた粒子を圧縮・成型して指輪にすることを発案。できたのが「スモッグ・フリー・リング(SFR)」だ。1つのSFRを作ることで、1千立方メートルの清浄な空気をもたらす。16年10月には北京のちりから作ったSFRを1つ250ユーロ(約3万円)で販売した。リングを買うことが環境保全につながると考えるカップルから人気があるという。
「経済的発展は海面上昇や気候変動、二酸化炭素(CO2)排出などの問題を生み出した。いまこそが創造的にその問題を解決するときなのだ」と強調するローズガールデ氏。地球を持続可能なものにするために、身の回りに無制限にあるように思える空気に価値を見いだした。

18世紀後半の英国で進んだ産業革命では蒸気機関が新たな動力源となった。工業化の恩恵をもたらすとともに、石炭や石油といった化石燃料の大量消費が始まった。今に至るまで大気や土壌の汚染など環境問題が世界各地で起きているが、今、地球が直面する大きな問題が地球温暖化だ。その元凶とされるCO2排出量は増加の一途をたどる。国際研究プロジェクト「グローバルカーボンプロジェクト」によると、19年の世界のCO2排出量見込みは368億トン。19世紀末ごろの20倍以上になった。
「この10年の間に、地球の気温上昇には累積的なCO2排出量が決定的な要因になっているという認識が広がった」と地球環境戦略研究機関の田村堅太郎上席研究員は言う。1月に運用が始まった地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」では、産業革命前からの気温上昇をセ氏2度未満、できれば1.5度に抑えることを目標とした。1.5度目標を達成するには50年ごろには温暖化ガスの実質的な排出量をゼロにする必要があるとの研究もあるが、現行の国・地域別の削減目標のままでは達成が難しいとされる。
■化学品や燃料にリサイクルへ
現状では世界のCO2排出量の3割強を石炭が占める。世界の機関投資家や金融機関が化石燃料を扱う企業への投融資を引き揚げる「ダイベストメント」に傾くが、安価な燃料である石炭の利用を劇的に減らすには至っていない。発電所などから出るCO2を回収し、地中に埋める「CCS(二酸化炭素の回収・貯留)」も動き出したが、CO2を地中に埋めるだけでは価値を生み出さない。一時的な時間稼ぎにすぎないという批判がつきまとう。

では、CO2を有効活用できないのか。CO2を化学品や燃料などの「有価物」に変えようという「カーボンリサイクル」の動きが世界で加速しつつある。「CCU(二酸化炭素の回収・利用)」は大気中に放出したCO2を回収する経済的なインセンティブを高める。デロイトトーマツグループの庵原一水パートナーは「CCSやCCUが動き始めている背景にはCO2は資源になるとの見方がある」と指摘。欧米ではCO2を効率的に回収したり、利用したりする技術を持つスタートアップ企業が立ち上がり始めているという。ローズガールデ氏が空気中の粒子を集めてリングを作ったように、CO2が地球の「厄介者」から資源へと変貌するディスラプション(創造的破壊)への道が切り開かれようとしている。
ドイツ西部にある石炭火力発電所から排出されるCO2を活用する「ALIGN(アライン)―CCUS」プロジェクトには、欧州各国などの補助金を得て30を超える研究機関や企業が参画する。水を電気分解して得られる水素と、発電所から回収したCO2から燃料を合成。輸送や発電に使用し、温暖化ガスの削減効果を検証する。19年から同発電所にCO2の回収や電気分解などの設備を設置して試験運転を開始。今年1年をかけて効果を実証する。
CO2を活用するその先には、大気中のCO2を減らすシナリオが続く。再生可能エネルギーを使って水を分解すれば、CO2を排出せずに燃料の合成に使う水素を得られる。プロジェクトに欧州子会社を通じて参画する旭化成の竹中克クリーンエネルギープロジェクト長は「いずれは再生エネを使い、CO2を排出せずに化学品も作れるはずだ」と未来を予想する。CO2を利用するだけでなく、排出量以上に回収する「ネガティブ・エミッション」への道が開ける。
CO2から価値あるモノができれば、集めることの重みが増す。発電所や工場だけでなく、大気から回収する「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」への注目には、そうした背景がある。欧米の研究研究機関やスタートアップがしのぎを削っているが、日本では地球環境産業技術研究機構(RITE)が製鉄所や発電所から出るCO2を分離・回収する技術の蓄積を生かし、DACを研究する。カギとなるのはCO2を吸着する性能がある「アミン化合物」だ。独自開発したアミン化合物は、吸着したCO2をセ氏60度程度でほぼ全量分離して回収できる。19年夏からは火力発電所から排出されるガスを使い、化合物の性能などを確認する試験を実施。20年度以降は規模を大きくした実験を検討している。
RITEの余語克則・副主席研究員は「DACはネガティブ・エミッションを実現するためには必要な技術だ」と強調する。CO2濃度が大気中よりも高くなりやすいオフィスビルや複合施設などは排気設備が整い、屋内の排熱なども活用できるため実用化に近いとみる。今後は、複数の民間企業と実用化に向けた検討を進めたい考えだ。
■究極のエコ 人工光合成に挑む
約100年前にドイツの化学者らによって、空気中の窒素と水素から肥料原料のアンモニアを工業的に量産する技術が確立した。「空気からパンを作る」ともいわれ、20世紀の食料増産と人口増加を支えてきた。空気に包まれた地球に生き続ける私たちを21世紀に支える技術は何か。今、注目されているのが太陽光を利用した人工光合成の技術だ。
便利な生活を享受するのに欠かせないプラスチックなどを生産する化学産業は、CO2排出量が多い産業の1つ。炭素と水素を原料とする化学製品を、化石資源に頼らずに作り出すことは排出削減のカギになる。人工光合成は太陽光という無限のエネルギーを使い、化学製品の生産をCO2を排出せずになし遂げる可能性を持つ。
12年度に始まった共同研究「人工光合成プロジェクト」は現在、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業として三菱ケミカルや東京大学など20近くの企業、大学、研究機関が加わる。光触媒で水を分解。分離した水素とCO2から化学原料を作ることを目標に掲げている。石油由来の原料を直接的に使わないため、基礎的な化学原料をつくるときの実質的なCO2排出量はマイナスとなるという。
プロジェクトリーダーを務める三菱ケミカルの瀬戸山亨エグゼクティブフェローは「人工光合成は日本が世界の中心的な役割を担っており、気候変動問題に貢献する技術として世界に発信できる」と話す。中東など赤道に近い地域では、太陽光のエネルギーが日本よりも高く、大規模で効率的な設備を導入できるとみる。すでに人工光合成の技術を生かし、化学原料を量産するプラントの将来像も描いている。
CO2排出量を削減するには、水力や風力といった再生可能エネルギーの利用を増やしバイオマス資源を活用するなど多様なアプローチがある。だが、どれも万能な解決策とはなり得ない。「空気からパンを作り出す」と例えられたように、今度は太陽光と水と空気でプラスチックを作り出す――。人工光合成が実現すれば、温暖化を防ぐ手立ての幅が大きく広がる。
文 三輪恭久、桝田大暉、杉原梓

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2 コメント

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低フリクション化も前進 (ナノベアリングファン)
2020-05-07 00:28:43
 まあこれはコロナウィルルス発生の混乱にも関わらず人類史的偉業になるだろう。ニュートンの万有引力の発見の当時ペストが流行っていた時代背景にも似ている。さて境界潤滑とは機械の潤滑油を介した摩擦であり、誰もがつかっているにも関わらず真剣に考えてこなかった。そのため実験結果はものすごくバラツキ、巷にはデマが飛び交い、特効薬が開発されてもそれがどうしてよくするのかも分からない世界がトライボロジーにおける問題点だった。
 それに果敢に挑戦しているのがダイセルリサーチセンター久保田博士他数多くいるのも確かだ。あるトライボロジストはノーベル賞物理学者ヴォルフガングパウリの「表面は悪魔がつくり、結晶は神が作った。」という引用のもと、これを嘆くのだがCCSCモデルほど具体像を示せなかったのも事実だろう。
極圧添加剤の秘密 (パイエルス)
2020-11-12 12:32:34
画期的な二次元格子電子系物質による摩擦制御理論は脱帽します。今はイノベーションパーク(網干)に在籍のようですね。ピストンリングの社会実装にも成功なさってどの会社のどの車種なんでしょうね。人類史上初の出来事なので、新車購入と行きたいところですが、不明ですね。