美術と本と映画好き...
徒然と(美術と本と映画好き...)




正月、実家で、晩酌しながら親父と美術の話をしました。その時に、
もし一点何か持ち帰っていいと言われたら、迷わず東京国立博物館
の如来像を拝借するのだが、と親父が言いました。コートの中に隠
して持って帰りたいくらいの勢いで...

ポケットブッダ?

どちらかと言えば洋風好みの親父が持って帰りたい小さな仏像って
どんなだろう。興味が湧きます。

美術館は好きでときどき訪れるのですが、私はどうも博物館が苦手
です。美術品には興味があっても、生活の品々にはあまり心が動か
ない。歴史が苦手だというのも背景にあります。

なので、初めて自分から博物館に行ったのは、数年前の東博。雪舟
展と横山大観展くらいでした。独立行政法人になったからでしょう
か。とても見応えのある展覧会でした。

しかしその後は特に足を運ぶ機会は、なかったのですが、ブログを
始めていろいろな場所へ行かれる方々の書き込みを読んで、もう少
し興味を持ってもいいだろうと、訪れたのが『博物館に初もうで』。
その時にもポケットブッダを探したのですが、見つからず。閉館時
間が来てしまいました。夕暮れの上野公園を目指してふらふらと出
口へ向かうと、右手の奥に、なにやら建物があります。

そういえば、黒門の向こう側の建物にあるって言っていたっけ...

飲んだときの記憶を掘り起こしながらそこが法隆寺宝物館であるこ
とをチェックして、次回に備えたのでした...そして、今日、都内に
出るついでに上野に寄りました。もちろんポケットブッダを探すため...

入り口からまっすぐ左手に進みます。そこには軽やかな建物があり
ました。大きな直方体の箱と、それを少しずらして大きさの異なる
直方体の枠。箱の部分が展示スペースになっていて、枠の部分がエ
ントランスになっています。手前は水を湛えた広いスペースになっ
ていて、とても気持ちよい。何だかいい雰囲気だな。そう思いまし
た。

ガラスを使った意匠は安藤忠雄の建物を思い起こさせつつ、もっと
シンプルで、もっと開放感がある。谷口吉生さんの設計です。略歴
を調べると、山形県にある土門拳記念館も彼の作品だというではな
いですか。学生の頃、日本海側をひとりで旅行した事があって、そ
の時に訪れたのが土門拳記念館でした。やはり水をはった空間にイ
サム・ノグチの作品が置かれていて、とても印象に残っています。

また、一度は行ってみたいと思っている香川県の猪熊弦一郎現代美
術館
や、つい最近、開館したMOMAの本館も彼の作品だそうです。

上野のこんな近い場所のこんな建物に気づかなかったなんて、うか
つうかつ。

そしてエントランスから展示スペースに入ると静謐な空間が広がっ
ておりました...

数十体の菩薩像がひとつずつ、ガラスケースに陳列されています。
背の高さは三十センチほどでしょうか。冠をかむったり胸飾りをさ
げたり、水甕を持ったり玉を持ったり、八頭身だったり五頭身だ
ったり、金色だったり金色がはげて鋼色だったり、それぞれに個性
的な菩薩を端から順番に観ていきます。

平成館の企画展示『仏像のひみつ』によると、菩薩は修行中の身で
印度の貴族の格好をしているそうです。なるほどそれぞれに身なり
がよくて、だけど、悟るには至らず少し辛そうな表情です。

仏像としての意匠も様々で、流麗で柔らかに表現された衣もあれば、
様式的で羽のような衣もあります。私は玉を両手で包み込んだ細身
の菩薩像がよいなと思いました。ここら辺は見る人の好みでしょう
が、あれだけの数があれば、きっとぴんとくる仏様に出会えるので
はないでしょうか...

親父は確か如来と言っていたのに、展示されているのは菩薩ばかり
です。聞き違えたかな、とパーティションで仕切られた向こう側に
行くと、そこには如来の世界がありました...

如来は悟りを開いた仏様で、着るのも一枚布の簡素なもの。飾り付
けが凝っていた菩薩の着物に比べるとシンプルですが、こだわりを
捨て去る事ができた穏やかさを感じます。端から観ていく中で、小
さいけれども目を引く如来様が立っています。これだ、きっと...

着物の柔らかい線がとても美しく、その表情に暗い影はありません。
大振りの像がならぶ中に、それだけ小さく穏やかな如来。右の手の
ひらは正面に空を指しつつ、左手は地を指すポーズ。これはきっと
親父の好んだ仏像に違いない。私は暫し、その場に佇んでいました...

宝物館には他にも飛鳥時代の様々な日用品が展示されています。ほ
の暗い照明とガラスケースの向こうの淡い灰色が、遠い昔の遺物を
そこはかとなくみせています。二本の匙の展示は並べ方が絶妙で、
とても美しく思えました。龍頭の水差しはとても恐ろしいけれど、
観入ってしまいました...

そこまで観たら閉館時間になったので、『唐招提寺展』はおあずけ
です。木肌が模様のように浮かび出た黒門をくぐって帰りました。

こういうちょっとした宝探し気分の鑑賞も悪くないなと思いました。

コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
なんだか・・・ (DADA.)
2005-02-12 21:31:56
今日のlysanderさんの日記は小説みたいですね。味わい深い・・・。



僕が何かひとつ持ち帰れるとしたら・・・

・・・

・・・

・・・

・・ちょっと考えてみます。
 
 
 
Re: なんだか・・・ (lysander)
2005-02-13 02:16:19
DADAさん

コメントありがとうございます!

励みになります!



> 僕が何かひとつ持ち帰れるとしたら・・・



私も悩みます...あるいはそういった作品に

まだ、出会えていないのかもしれません...

あるいは気付いていないだけなのか...



そんな作品に巡りあうために、あるいはその

存在に気付くために、これからも何度でも展

覧会に足を運ぶのかな...



と、今の私は思います。
 
 
 
困るなあ (おけはざま)
2005-02-15 00:42:55
こんばんは.



「なにか1つ持って帰ってよい」と言われたら,困るだろうなあ.



国宝の管理なんか出来ないし・・・



法隆寺館休憩所のソファかな.(ヘタレだなあ・・・)
 
 
 
Re: 困るなあ (lysander)
2005-02-15 23:56:35
> 国宝の管理なんか出来ないし・・・



おけはざまさんリアルすぎです...



> 法隆寺館休憩所のソファかな.



それって中二階(?)にあるコルビジェ風のソファですか?

http://plaza.rakuten.co.jp/tecktonka/12013



だとしたら、私が思わず腰かけた奴かも...
 
 
 
Unknown (ユリノ)
2005-02-18 21:51:08
こんにちは。

楽しいですね、何か1つ「自分の物」になるとしたら。

私、展覧会は欲張りな眼で見ています。

どうせ選び切れないのですが‥。
 
 
 
素敵!! (Julia)
2005-05-08 22:42:28
lysanderさん



お父様の宝物探し・・とっても素敵な

お話でしたので、心が和みました



このところ、谷口氏の記事関係が

私のblogでも賑わいを見せている

ものですから、今日は

「法隆寺宝物館」へ飛んで行って

しまいました。



TBさせて頂きます。



 
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