桜さくらサクラ・2005(山種美術館)

今日はお天気で気持ちが良くて、大岡川沿いを二駅分歩いてしまい
ました。すっかり緑に衣替えたソメイヨシの桜並木の中に、何本か
山桜が混ざっていて、花をつけていました。これからどんどんあた
たかくなるんだろうな。

神保町で知り合いの結婚パーティがあったので、その前に山種美術
館に行く事にしました。飯田橋から武道館へ向かって早稲田通りを
歩いていきます。通りから靖国神社に入るあたりの深緑がとても美
しかった。鳥居の脇の銀杏並木もすっかり緑色です。

山種美術館は昨年の速水御舟展から気になる存在です。この美術館
は近現代の日本画を専門にしています。日本画には日本のモチーフ
が多く描かれているわけで、桜を画題にした作品も沢山収蔵してい
て、毎年春になるとその中から様々な桜を見せてくれるそうです。

桜とひとくちに言っても、遠くから眺める森としての桜、近づいて
見る木としての桜、そして一輪一輪見つめる花として桜、昼の桜、
夜の桜、咲く桜、散る桜...実に様々な桜がありますよね...そんな
桜の姿形を、日本画の達人たちはいろいろな切り口で作品にしてい
ます。

大観の桜が二点ありました。『山桜』と『春の水』。ともに葉桜で、
地面や水面にわずかな花びらが見られます。だけど全然さびしい感
じがしない、むしろあたたかな春の陽気が感じられます。特に『春
の水』の川の流れは生き生きとしていて、少し肩の力が抜けた、優
しい大観が感じられます。

菱田春草も二枚あります。

『桜花美人図』は春草二十歳の作品です。桜の樹の下に女性が三人。
何を話しているのでしょう。その立ち姿の緩やかな曲線に少しなま
めかしい色気を感じました。また、女性の足元には小さな野花が花
をつけています...以前、春草の代表作と言われる『落葉』という作
品を観たことがあります。葉っぱが落ちきった明るい何気ない木立
なのですが、落葉や幹の描き込みが異常に細かくて、とても不思議
な気持ちになりました。今回の足元の草花に、後年のこだわりを持
った描写の萌芽が感じられました。また、画面右下のかわいらしい
子犬は春草の若さ故の愛敬でしょうか。

もう一枚は『春』という作品。月夜の桜を描いた作品です。こちら
は余白の美しさというか、朦朧とした月と克明な桜の対比、そして
どこか不安感のある枝ぶりに、独自の美意識が感じられました。

小林古径の『桜花』と速水御舟の『夜桜』を並べる演出はニクいと
思いました。古径の桜は昼間の桜。山桜なのでしょう。葉の色の朱
がとても鮮やかで落ち着きがあります。一方、御舟は夜の桜。絹の
上に墨で浮かぶ桜は、これまた別の美しさが感じられます。二枚の
絹本彩色の掛け軸を観て、日本画はやっぱり掛け軸だなぁ...なんて
単純に考えてしまいました。

現代の作家では東山魁夷や加山又造の桜がそれぞれ印象的です。東
山の『春静』を構成する山と桜と空の簡潔で無駄のない空間、ある
いは闇夜の月明かりを背景にした加山の『夜桜』の色っぽさ。とも
に六十前後の作品なのですが、完成された個性が遺憾なく発揮され
ています。

他にも伊東深水の『吉野太夫』の着物の美しさ。奥田元宋の『湖畔
春耀』の山の風景、土田麦僊の堂々とした大屏風『大原女』など、
観所がたくさんありました。俵屋宗達と本阿弥光悦の短冊帖もよい
感じです。短冊に書かれた和歌が読めたらいいのにな...一度でいい
からこういった書物を手にとってみたいと思いました。

展覧会場をあとにして、千鳥ヶ淵を散策しました。桜はすっかり散
っていますが、ツツジが色づいています。湯島の根津神社あたりも
そろそろ見頃だろうか...ツツジは漢字で書くと躑躅ですが、何だか
おっかない感じがします。色づいた躑躅。毒づいた髑髏。あんまり
変わらないような気が...

お堀では子どもがカヌーの練習をしていました。前後に引率の先生
が付いて、二列に三人ずつがオールを漕いでいます。
にーーーーっいち、にーーーーっいち、にーーーーっいち...
『にーーーーっ』のところで水をかいて『いち』でオールを戻す動
作です。気持ち良さそうだったな。

その後、靖国通りに出て、幸せ者を祝いに神保町までてくてく歩い
て行ったのでした...

『桜さくらサクラ・2005』は 5/8 まで...