マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 




(写真)店舗外観

 先日、ちょっとした記念日を祝うために、「ミシュランガイド東京」2009年版に掲載された2つ星の現代フランス料理店「エディション・コウジ シモムラ」に行って来ました。

 「エディション・コウジ シモムラ」(Edition Koji Shimomura)は、シェフ・下村浩司氏が、フランスで「トロワグロ」等の「星つき」レストランで修行し、国内でも何店舗かで勤務した後、2007年7月30日に自分のお店として開業したもの。これが、「ミシュランガイド東京」に初登場ながら「2つ星のお店」として掲載され、話題になりました。広い国土で生産された複数の素材を合わせ、これに同じく広い牧場を擁する畜産農家で生産される乳製品と組み合わせたソースが特徴のフランス料理ですが、下村シェフは、「私の素材へのアプローチは日本的かもしれません。素材本来の風味や色彩を最大限に生かすために、何をすべきか。日々、素材と向き合い、考えます。」と表明しており(公式サイトから)、バターやクリームなどの油脂をほとんど使用しないことを信条にしているようです。このお店を選んだのは、そうしたシェフの姿勢がどのような形でフランス料理として結実しているのか、興味があったのと、「ミシュラン・ガイド東京」の評価がどの程度妥当するのか、確認したかったからです。訪問日の約3週間前に電話で予約を入れると、3日前になって予約確認の電話がお店からありました。

 お店は、六本木の「アーク森ビル」近くにある、ガラスを多用した真新しいビル(ちょうど、首都高速3号線と都心環状線に挟まれた三叉路にある。)の1階で、一見しただけでは単なるビルのテナントの一つ。他の飲食店系テナントと同じようにも見えてしまいます。しかし、入り口から右に入ってガラス張りの自動ドアを開けると、品のいい受付にいた店員さんが上品な表情で出迎えてくれ、席に案内されました。このあたりの雰囲気というか風格は、フランスの星つきレストランそのものです。店内は全28席だそうで、他に厨房が見える個室席(というより、仕切られた空間)もあるそうですが、この日は個室も含めて全席満員でした。黒、グレー、白、肌色、木目で彩られた店内は、リヨンの2つ星レストラン「ニコラ・ルベック」の内装にも通じるものがあります。落ち着いた感じでさすがは「星つき」ですが、お客さんの話し声が若干耳に入るのが、気になると言えば気になりました。

(写真)突き出し。下の白い円筒形のものはおしぼりで、お湯をかけると円筒形になってニョキっと生えてくる。

(写真)仏料理に欠かせないパン。ただし、店主の方針からかバターはなし。

 料理は、基本的にコース料理のみで、お昼のメニューには6000円台のリーズナブルなものもありますが、私は1万3650円の「シェフお任せのメニュー」を注文(ちなみに、メニュー表は、男女別にはなっていない。)。
 このメニューは、前菜2皿、メイン2皿(魚料理、肉料理)、デザートで構成される食事を、お客さんの好みに応じてシェフがコーディネートするもので、まずはお客が給仕さんに希望の食材(食べられない食材を含む。)や味付け(濃い味がいいか、薄味がいいか)を伝え、これをもとに厨房でメニューを調整。結果を給仕がお客さんに伝えて了解をとり、その後で厨房が調理に取り掛かることになります(もっとも、上述のような下村シェフの方針を覆滅するような注文はさすがにできない。)。私は、アミューズ・ブッシュとして出された「生ハムとケッパーの茎、バジル風味のミニハンバーガー」とグラスシャンパンを味わいつつ、1皿目を下村シェフオススメの白アスパラガスと小エビにした上、2皿目にフォアグラ、3皿目にオマール海老、4皿目に子羊を使った料理をお願いしました。
 ちなみに、ワインリストのほうは、全てフランス語表記(注文をメモする給仕の伝票も仏語表記)で、地方別、色別に並んでいるのは本場・フランスと同じ。また、グラスワインもあり、銘柄は忘れてしまいましたが、注文したブルゴーニュの赤は、ボーヌ(Beaune)で試飲したグラン・クリュの赤と同じ、独特の深みと仄かなかび臭さがある「ホンモノ」でした。

(写真)1皿目の白アスパラガス

 公式サイトでは、「バターやクリームなどの油脂を全く使わないこともあります。」と唄っている「エディション・コウジ シモムラ」ですが、実際には「全く使わないこともあります。」というより「極力使わないようにしています。」と言えるほど油脂類を避けているようで、料理とともに出されるパンにも、バターはなし(一時、バターを提供していた時期もあったようですが。)。1皿目の「ホワイトアスパラガスと小海老の冷製ヴルーテ」は、ロワール地方産の白アスパラガスと小エビのサラダを中心に置き、周りを白いスープで囲んだお料理で、スープ部分については、油脂類を全く使っていない由。ところが、事前の予想に反して、クリームを一切使っていないにも関わらず、その味わいは豊かでクリーミー。給仕さんから説明が無ければ、これが普通の(バター類を使った)スープと思ってしまったところでしょう。これが下村流を象徴していて、例えばメインの肉料理についても、肉汁をベースとしたソースを基本にしていて、なるべくバター等は使わないのが基本原則です。

(写真)2皿目のフォアグラ

 2皿目のハンガリー産ガチョウのフォアグラは、季節のキノコとともに適度に炙られて登場。濃い目の味付けを希望したので、キノコの上には薄くきったチョリソーが載せられ、子羊を調理した際の肉汁(ジュ)にチョリソーの辛味を混ぜたものがかけられていました。トロトロにとろけたフォアグラは、シェフの推進する「油脂類を避ける」という方針とは若干矛盾してしまっているのかもしれませんが、やっぱりクリーミーで美味。濃厚な内臓の味は赤ワインにとてもよく合いました。

(写真)3皿目のオマール海老

(写真)4皿目の子羊

 3皿目=メイン1皿目は、オマール海老とキノコ、肉汁を使ったソース。付け合せのキノコは2皿目の付け合せと同じものに見えましたが、オマール海老の深い味わいを堪能できました。そして4皿目=メイン2皿目は、四元交配仔羊と明るい彩のお野菜。子羊はほどよい香りの赤みがかったお肉。羊独特の味わいが、強く自己主張しないように配慮されていました。

 デザートは2品で、1品目が、カカオ味のする薄茶色の「カカオウォーター」とともに、「クリーム未使用」というチョコレートムースに、カカオパウダーのシャーベット。ムースの上に乗せられたお塩の結晶と、同じくムースにかけられたオリーブオイル、更にムース上に乗せられた黒オリーブが、チョコレートの甘さを引き出す仕掛けです。2品目は、アンズのタルティーヌが乗ったプディングでした。

(写真)デザート2品目

 油脂類を使わないフルコースは、食後のお腹もどこか爽快で軽やか。「素材の味を生かす」のが和食だとすれば、下村シェフは、単に新鮮かつ高価な素材を皿の上にただ並べて、加工を拒否して「素材の味を生かしています」と言い訳するのではなく、それらの素材を如何にフランス料理に仕立てていくのか、を試行しており、その試行錯誤が「ミシュラン」の覆面調査員に評価され、「星」を獲得したのだと思います。また、そうした独自の解釈と創造があったからこそ、「1つ星」(単純に「高くて美味なお店」)を上回る「2つ星」の格付けになったものと思われます。その意味で、「エディション・コウジ シモムラ」は、サービス、料理、ワイン等を含めて、仏本国の「2つ星」と比べて全く遜色ない水準だと思いましたし、また「ミシュランガイド東京」が本国の「ミシュラン」と同じ選択眼でお店を格付けしていることが、よく判りました

エディション・コウジ シモムラ
住所:〒106-0032 東京都港区六本木3-1-1 六本木ティーキューブ1F
電話:(予約用)03-5549-4562、(予約済客の問い合わせ用)03-6277-8835
ファックス:03-5549-4563
営業時間:ランチ 12:00~13:30(L.O)、ディナー18:00~21:30(L.O)
定休日:不定休
予算:6000円~2万円(飲み物を除く。)
言語:日本語、英語、(仏語)
予約:事前にしておくことが望ましい。キャンセル料(人数減少を含む。)あり。
交通手段:東京地下鉄南北線「六本木一丁目」駅下車すぐ。
       「六本木ティーキューブ」ビルに地下有料駐車場あり。



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