月扇堂手帖

観能備忘録
あの頃は、番組の読み方さえ知らなかったのに…。
今じゃいっぱしのお能中毒。怖。

坂東玉三郎 中国・昆劇合同公演

2008年03月25日 | 歌舞伎・舞踊・文楽
(京都・南座 08/3/6-3/25)

京劇のミャオミャオした声やジャンジャカジャンジャンという銅鑼の音があまり好きではないのでどうしようかなと思いつつ、どんなものか一応は拝見しておかねばと千秋楽にでかける。

どうやら、昆劇は京劇とはかなり趣の異なるもののようだった。日本人から見ればその違いなどはなかなかわからないけれども、数ある(現在でも三百種以上あるそうだ)中国の伝統演劇の中で、京劇とは対照的な存在ということができるらしい。より流麗で雅やかな音曲は「水磨調(すいまちょう)」と呼ばれ、周恩来は昆劇のたおやかさを蘭の花にたとえたとか。

曲目にもよるだろうから一概には言えないけれども、少なくとも今日「牡丹亭」を観たかぎりでは、なるほどなと何となくわかったような気はした。

「牡丹亭」
深窓の令嬢が夢の中で出会った男性に恋い焦がれて死んでしまうというお話。後段、当の男性がやってきて彼女の魂を呼び戻しハッピーエンドとなるらしいのだが、今公演では彼女が亡くなるところまで。

この杜麗娘(とれいじょう)、恋の病に倒れてしまう美女ということで観客の同情を一身に買う役どころだけれども、「自分が死んだらこんなに美しい娘がいたことを世間は知らずに終わってしまうだろうから今のうちに絵に描いておこう」と自ら鏡を覗き込んで自画像を描くあたり、相当ナルシストだし、夢に観た男性に焦がれて慕情を詩にして書き付けるあたりはかなり感傷的だし、それでも一心に思い詰めて死んでしまうのは哀れだけれども、強力な愛の力で復活するなんて凄まじい執念の持ち主だ。

お能の世界だったら間違いなく地獄落ちキャラクターだと思う。

杜麗娘役を三人の男性、董飛、劉錚、玉三郎が演じた。

董飛から玉三郎に切り替わる場面が見事だった。花道に恋人柳夢梅が現れて、誰もがそちらに気を取られている間に舞台中央では紗幕の後ろでそっと杜麗娘役が交替していた。やられた!

「写真」の段、病み窶れた杜麗娘を演じた劉錚が三人の中で一番ごつい顔立ちだったのはちょっと皮肉か。

中国演劇も女性を男性が演じるのだと思い込んでいたけれども、どうやら中国では女方(男旦というそうだ)は減っているらしい(絶滅危惧種的に)。この公演にも女性が多数出演していたし、22年前に「牡丹亭」東京公演で杜麗娘を演じ玉三郎を感動させたのも女優だった。

日本人の玉三郎が発音も正確にマスターして女方を演じたというところに意味があるのかもしれない。けれど、その成否はわたしには判断できないことで、お芝居全体を観てどうだったかと言われると、お能を初めて観たひとにはその良し悪しを判断するのが難しいのと同様、まあ、とりあえず昆劇とはこういうものなんだなと思った、というところか。

それでもいろいろ楽しかった。面白かったのは、夢の神とか花の神とかが出てくるのだけれども、その長いお髭がかぶり物と一体になっていて、両耳のあたりから口の前に渡した針金にぶら下がっていたこと。前から見るとすごく豊かなお髭に見えるのだが、役者はその髭の後ろで大きく口を開いて台詞が言えるのだ。

音楽も素晴らしかった。舞台右手に紗幕で囲われたオーケストラ・ピット(?)がありその中で奏でられていた。聞いたこともない楽器もあるので、書き出しておくと、笛、司鼓、笙、琵琶、三弦、楊琴、古筝、中阮、大阮、提琴、二胡、革胡、銅鑼。

で、わたしが一番拍手をしたい相手は、侍女春香を演じた朱瓔媛。いつもお嬢様のことを思ってちゃかちゃかと働いている姿がとても愛らしかった。小さい身体で大きな椅子を運んでいるところなど、手伝ってあげたいくらいけなげ。それでいて動きがバタバタせずに滑らか。主役よりよかったのではないかしら。

「楊貴妃」
これは、歌舞伎を中国語で演じるという企画。だいたいお能の「楊貴妃」と同じ構成で、これが原作夢枕獏というのはどういう意味なのかなと首を傾げる。

音楽は、長唄の旋律に中国語をのせて唄う。あまり違和感なかった。まあ、長唄でも全部聞き取れているわけではないし。

牡丹の絵柄の大きな扇を両手に持って舞う玉三郎はさすがの貫禄。あんなふうに扇を扱える舞い手は他にいないだろうなと思わされる。

それでも、玉三郎の美しさを表現するには、やはり日本の歌舞伎世界が一番だなとあらためて思った。「牡丹亭」にも言えることだけれども、「楊貴妃」の衣装も中国風で、ひとことでいうと薄手でフォルムが小さいのだ。それでは男性の体格をごまかせない。お姫様の幾重にも重ねて着込んだ袿とか、花魁のどっしりとした装束とか、豪華な鬘などがあって初めて男性の顔が小さく可憐に見えるのではないだろうか。チャイナドレスはちょっと不利でしょう。

★今日の物欲:ウィンドウの中に、玉三郎の隈取りを絹の布に移したものが飾られていて、とても綺麗で表情があって物欲をそそられました。ファンだったら絶対ほしいだろうなぁ。でも、あれを手に入れるには、50万円の写真集『五代目坂東玉三郎 特別愛蔵版』を買わねばなりません。無理デス。

*****

昆劇「牡丹亭」
  杜麗娘:董飛(遊園)、劉錚(写真)、坂東玉三郎(驚夢、推花、離魂)
  春香:朱瓔媛 柳夢梅:兪玖林 杜母:陳玲玲 睡夢神:呂福海 
  大花神:楊暁男 花神:周雪峰 他

歌舞伎「楊貴妃」
  楊貴妃:坂東玉三郎 方士:周雪峰


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2 コメント

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Unknown (クリコ)
2008-03-27 22:39:27
クリコです、こんばんは~♪

実はコレ、クリコもポスターを観て、気になってたんですよね・・・。南座の前で(笑)。

50万円の写真集ですか・・。
桐の本箱つきとかなのでしょうか。
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写真集 (月扇堂)
2008-03-27 23:27:59
もちろん桐箱入りです♪ 
舞台衣装の端切れもおまけでついてます♪
一組、いかがですか(^_^)?

普及版は38、000円です♪
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