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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

しあわせのたね

2009-02-02 22:12:45 | 好きな本
突然ですが。
オムニバス形式の映画や、物語が好きです。

この本に出てくるエピソードは、すこしづつ重なっている部分も
あるので、オムニバスといっていいのかどうかはわかりませんが。

クリーブランドのダウンタウンの一角にあった、ゴミ溜め場と化して
いた空地が、だんだんと畑に変わっていくさまと、
そこへ集まってきた(畑を作っていった)13人の、それぞれの物語は、
映画を観ているような気持にさせてくれました。
(ちょっとショートカッツみたいと、思ってしまいました)

種をまく人
  ポール・フライシュマン 作 片岡しのぶ 訳

表紙に描かれている顔からもわかるように、【畑】に集まってきた
人たちは、年齢も、人種も、それまでの生き方もみな様々です。
共通しているところがあるとしたら‥欠けているところを持っている
ということでしょうか‥

最初に、空地にライマメの種を埋めたキムはヴェトナム人で、
生まれたときからお父さんがいません。母や姉は、父の思い出が
あるので、それを懐かしがって泣くことができますが、キムには
その思い出さえないのです。

16歳で妊娠してしまった、マリセーラはメキシコ人。
大きくなってきたおなかを疎ましく思い、畑仕事をやるように進められた
ことが嫌でたまりません。

移住してから、言葉の壁により、殻に閉じこもっていた人や、
病気の人、年老いてしまった人、つらい記憶からなかなか
立ち上がることができなかった人も、ぽっかり空いてしまった
自分の空洞を、持て余していたといってもいいでしょう。

「種をまく人」たちは、土のにおいを感じること、土に触れることで、
自分の中にあった「欠けている部分」を少しづつ埋めていきます。



多かれ少なかれ、人はみな欠落を抱えていると思うのです。
欠落は、凹凸だったり、ゆがみだったり、陰りや、曇りや、ひび
だったりもしますが‥
人は決して、みな平等ではないのです。

だからこそ。

幸せの種を、見つけること。見つけようとする気持ちが
大切なのだと思うのです。
文字通り、その種を見つけ、うまく育てていかれたら、そこに
ささやかだけれど、かけがえのない「花」が咲いてくれるに
ちがいないから。

種は、小さくて、うまく育ってくれる保証なんてないけど、
でも、蒔いてみなければ、芽を出すことはありませんものね。







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14 コメント

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Unknown (マーガレット)
2009-02-04 07:59:11
ポール・フライシュマンの本だいすきです。
もちろんこの本も。
ちょっとした他人への興味が社会へのつながりになり、それが最後には花だけではなく町が心地よくなるなんて素敵です。

でももっと素敵だなと思ったのが、rucaさんのことば。
「幸せの種を、見つけること。見つけようとする気持ちが大切なのだと思うのです。
文字通り、その種を見つけ、うまく育てていかれたら、そこにささやかだけれど、かけがえのない「花」が咲いてくれるに
ちがいないから。」
何度も読みました。
返信する
私も (jasumin)
2009-02-04 10:35:35
ポール・フライシュマンの他の本も、この本大好きです。

この本は、まずは表紙が大好きだし(笑)
人種の違いや貧困さは、なかなか想像しづらい部分なのですが
種を撒いて育てることで、誰かと関わり何かと接する経過は
とても人間らしく安心させてもらえます。

幸せの種を見つけようとする気持ち、大事に持ち続けたいです。
返信する
読んだことありません (こもも)
2009-02-04 13:29:54
私は、読んだことがありません。
表紙だけは、どこかで見たことがあるけれど。
オムニバス形式の映画や物語。私も好きです。
そこに、ほんの少しでも、はっとする繋がりが
隠されていたりすると、もう、宝物を見つけた
ような気になって、嬉しくてたまらなくなります。
是非、読んでみたいです。
うまく育つ保障なんてないけれど、蒔かなければ
芽は出ない。当たり前だけれど、大切なことですね。
返信する
マーガレットさんへ (ruca)
2009-02-05 10:53:25
こんにちは。
ポール・フライシュマンの絵本って
ウェズリーの国がそうですよね?
あんまり意識して探したことも読んだことも
なかったのですが、たしか、少し前に
琴子さんが、別の本を紹介していて‥
それで、『種をまく人』から読んでみようと
思ったのでした。

とてもいい話でした。
かつて自分の国で農業していた人が、アメリカの
スラムで、また土いじりを始めることで
自分自身の誇りを取り戻していくなんて、
とても人間的で、とても心が休まります。
返信する
jasuminさんへ (ruca)
2009-02-05 10:59:49
こんにちは。
私もこの表紙、読み終わった後に見たら、すごくいいなあと
思いました。
読み始める前は、なんか難しくて、悲しい話のように
なぜか思えたのです。
でも、そういうわずかな「壁」を越えて、読んでみて
ほんとによかったです。

16歳で妊娠しちゃうメキシコ人の女の子がいたでしょ?
あの子が、人間も植物も自然の一部だと、聞かされた後
おなかの赤ちゃんに対する嫌悪感がへっていることに
気が付くところがなんだかよかったです。
返信する
こももさんへ (ruca)
2009-02-05 11:09:57
こんにちは。

この『種をまく人』は、13人についての短編なので
とても読みやすいです。(ページ数も多くないし)
きっとすぐに読めてしまうので、とてもお薦めです。

そして、同じくオムニバス好きなこももさんにお薦めしたいのが、
DVDの「ショートカッツ」です。

この映画は、レイモンド・カーヴァーの短編を元に
作られているのですよー
そして上映されたときに、春樹氏もなかなかよかった
というようなことを言っていたと思います。
(ずいぶん前に観たきりなので、なんかここで
話していたらDVDが欲しくなってきました)
返信する
Unknown (ひなこ)
2009-02-05 17:01:53
私も初めて知る本です。
開いてみたいです!
少し前の「ねずみ女房」もすごく開いてみたいですし。
ここはひとつ ことりさんのドアをノック でしょうか。
「ショートカッツ」も面白そうですネ
誘惑に心がふわふわするのは、楽しいことです^^

rucaさん、いろいろとありがとうございました。
とんとんとん。
返信する
私も好き (miyaco)
2009-02-06 17:42:03
作者の名前まで覚えていなかったし
もう、内容もおぼろげなのですが。。。
私もこの本好きです。

ウチの隣が図書館なのですが、
たまーーーに、ふらりと覗きにいくのです。
で、オススメの棚にあったから読んだんだなー。
2年くらい前かしら?

今借りているのは、
rucaさんオススメの『~マイリ』と『ねずみ~』。
それから、
トムヨーク&デヴィッドバーンの対談がのっている
ロキノン08年12月号などですーーw
返信する
ひなこさんへ (ruca)
2009-02-07 12:08:40
こんにちは。
外へ出ると寒いのでしょうが、窓越しの陽射しは
ぽかぽかです。

ねずみ女房も、種をまく人も、どちらも短いので
すぐに読めてしまいます。

そして、何度も読み返したくなる本です。


背中なでなでも、とんとんも、きっと
ひなこさんの方が、数段上手だと思います。
優しさの幅がちがうもの。
私はいつも口だけの、カラ元気タイプです・笑
返信する
miyacoさんへ (ruca)
2009-02-07 12:12:31
こんにちは。
毎日毎日、【あの】新しいアルバム聴いてます♪

homeのあの浮遊感というか‥なんていうのかな‥
よくわからないけど、聴いていてとっても気持ちがいいですね~
あと、4曲目が、私たちのお気にいりです。

海と島のマイリを読むと、思いだす映画があるのですが、
そのタイトルが思い出せないんです・笑
またそんな話も、つらつらとしたいです。

私は、昨年より、いしいしんじブームが来ていて
今は『プラネタリウムのふたご』を読んでます。
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