報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「富士宮の夜」

2017-11-12 09:44:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月3日17:40.天候:晴 静岡県富士宮市ひばりヶ丘 スーパーホテル富士宮]

 予約したタクシーは何故か中型で来た。
 首都圏ではお馴染みの車種なのであるが。
 まあ、イリーナという、場所が場所ならVIPになるような人物が同行しているのだからそれでもいいかと思った稲生だった。

 タクシーがホテル前に到着する。

 稲生:「それじゃ、カードで支払います」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 稲生は予め預かっていたイリーナのカードを使った。
 案の定、イリーナは運転席の後ろで寝ていた。
 そんな彼女を引きずり降ろすのは、マリアの役目。

 イリーナ:「ふぃ〜っ!やっと着いたねぇ!早いとこチェック・インして、ディナーにしたいよ」
 稲生:「そうですね」

 ホテルの中に入る。

 スタッフ:「いらっしゃいませ」
 稲生:「予約を入れていた稲生ですが……」
 スタッフ:「はい、稲生様ですね」

 稲生はチェック・インの手続きをしながら、ふとあの魔道師師弟について思った。

 マリア:「師匠、酔っ払ってるわけじゃないんだから、自分で立ってください!」
 イリーナ:「ディナーで酔うから、その予行演習だお」
 マリア:「はあ!?」
 稲生:(長身でポンッキュッポンの先生を普通に支えられてる小柄のマリアさん、意外と体力はあるんじゃないだろうか……)

 と。

 スタッフ:「……ありがとうございます。お支払はいかがなさいますか?」
 稲生:「カードでお願いします」

 現金での支払いの場合は、フロント横にある自動精算機による事前精算である。
 その機械から出てくる領収書に、部屋番号と暗証番号が記載されている。
 稲生のようにカード精算の場合は、フロントスタッフを介して領収書が発行される。

 イリーナ:「ねぇねぇ、ここから枕持って行くの?」
 スタッフ:「浴衣もこちらからどうぞ。枕はお部屋備え付けでございますが……」
 マリア:「要は部屋の枕が合わなかったら、ここから持って行くってことでしょう」
 イリーナ:「んー、どれがいいかねぇ……」
 マリア:「いや、師匠の場合はどの枕でも爆睡できると思います」
 稲生:「ははは……」

 稲生は普通にMサイズの浴衣だけを取った。

 稲生:「部屋は3階です。行きましょう」
 イリーナ:「抱き枕は無いの?」
 スタッフ:「も、申し訳ありませんが、そのような物は……」
 マリア:「元々家にも無いでしょ!何言ってんですか!」

 エレベーターの中で、稲生はどうしても師弟漫才という言葉が頭から離れなかったという。

 
(スーパールームの室内。左奥のドアがコネクティング仕様になると解錠され、廊下に出ずに隣室に行ける仕組み)

 エレベーターを3階で降りて、割り当てられた部屋に向かう。
 部屋のドアは4ケタの暗証番号式になっている。
 その為、チェックアウトの際はフロントに立ち寄らずにそのまま出れる。
 ピッピッとドアノブの上にあるテンキーを打ち込んでドアを開けた。

 稲生:「それじゃ先生とマリアさん、荷物を置いてすぐに夕食に行きますか?」
 イリーナ:「そだね。そうしよう」
 マリア:「異議無し」

 尚、このスーパールーム、シングルで予約しても割り当てられることがある。
 プランによるものなのかは分からないが、少なくとも作者はこの富士宮店で、仙台から遊びに来た友人は大宮店で体験済み。
 で……。

 稲生:「ありゃ!?」

 稲生の場合もスーパールームを1人で使う形になっているわけだが、左奥のドアが解錠されていた。

 稲生:「マリアさん!?」
 マリア:「おわっ!?……あ、何だ。ミラーじゃなかったのか……」

 マリアはびっくりした様子だった。

 イリーナ:「これなら気軽に遊びに行けるね。いつでもおいで」
 稲生:「いや、これはちょっと……。このドアは閉めておきますね」

 稲生は白いドアを閉めた。
 もちろん閉めたところで、客室のドアと違って施錠されることはない。

 イリーナ:「別にいいのに」

 稲生はドアを閉めてから、どうしてこういう風になっているのかが分かった。
 スーパーホテルには、基本的に室内に電話機が無い。
 つまり、内線も外線も掛けられないわけだ。
 もちろん、外線にあっては手持ちのスマホなどを使えば良いわけだが……。
 フロントに用がある場合、エレベーターホールにある電話機を使うことになる。

 稲生:(なるほど。先生達を起こしに、電話が使えないってわけか……)

 因みにスマホを持っているのは稲生だけ。
 マリアは人間時代にガラケーを持っていたことはあったようだが、人間として『死亡』した際に手放した。

[同日18:15.天候:晴 同市内富士見ヶ丘 ガスト富士宮店]

 イリーナ:「プハハーッ!仕事終わりの一杯は最高だねぇ!HAHAHA!」
 マリア:「作者みたいなこと言って……」

 イリーナは角ハイボール、マリアはワイン、稲生はビールを頼んでいた。

 稲生:「マリアさん達は何をしていたんですか?」
 マリア:「富士山の麓に行って魔界の入口探しと、あと魔法具の材料で使えそうなものを集めたりとか」
 稲生:「何だか大変そうですね」
 マリア:「魔法具の材料は貴重だから、門内の仲間に高く売れるのだよ」
 稲生:「なるほど。相互扶助の精神ですね」
 マリア:「いや、よく分かんない」
 イリーナ:「そこのカッコいいお兄さん!ハイボールお代わり!」
 店員:「は、はい!」
 稲生:「先生。ハイボールだけに、テンションまでハイになり過ぎないように……」
 イリーナ:「まあまあ、いいじゃないの!日本の諺にもあるでしょ?『旅の恥は掻き捨て』って」
 稲生:「いや、まあ、それはそうですけど……」
 イリーナ:「今夜は私が奢るからね。ジャンジャン飲んで食べてよ!」
 稲生:(といっても、ファミレスな辺りがタカが知れてる部分もあるんだけど……)
 マリア:「そんなに材料は見つからなかったのに、随分と嬉しそう……」

 マリアは訝し気にワインを口に運んだ。
 その時、イリーナがまるで獲物を狙うような目で藤谷達を見送るシーンを思い出したのだった。

 マリア:(まさか……な)

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