報道写真家から(2)

中司達也のブログ 『 報道写真家から 』 の続編です

惑星と衛星のダンス

2011年06月30日 15時07分08秒 | 政党政治の虚構


宇宙はさまざまな力が作用して調和を保っている。
引力がなければ、宇宙は無秩序だ。
太陽系から放たれてしまえば、惑星や衛星は宇宙の塵のひとつになる。
引力がリズムを奏で、宇宙はダンスを踊る。

いま、われわれの目の前にいる惑星と衛星も、ある種のダンスを踊っている。
こちらの引力が発しているのは、耐え難いノイズだ。


衛星政党の本懐

この数ヵ月間、国民をうんざりさせ続けている菅直人首相や閣僚、そして民主党幹部は、被災地や被災者を放置し、国土や国民が放射能汚染に晒されても無頓着だ。国民の健康と安全という基本的概念は彼らにはない。そのかわり、消費税の増税には異様に熱心だ。

民主党の議員や党員でさえ、首相や閣僚、党幹部に多大な不信感をつのらせている。マニフェストは何一つまともに実行されず、未曽有の大災害を前に被災者は打ち捨てられている。しかし、自身の党でいま何が進行しているのかを彼らは理解していない。ましてや国民は悪質な詐欺に嵌められたようなものだ。

いったい民主党に何が起こったのか!?別に何も起こってはいない。もともとそういう存在なのだ。

2005年の「郵政選挙」時、民主党代表は岡田克也(現幹事長)だったが、彼には重要な選挙を戦うという気概はどこにも見られなかった。片や、小泉純一郎は「改革を、止めるな。」をスローガンに、声を枯らすほど熱弁し、国民に向けてストレートに訴えかけた。世論は郵政民営化の是非で真っ二つに分かれ、選挙の行方は浮動票が握っていた。したがって、勢いも重要な要素だ。ところが岡田克也は政見放送で、抑揚もなくぼそぼそとしゃべるだけだった。政見放送に挑む党代表の姿ではない。共産党も同じだ。志位和夫は、視線を落とし、トーンの低い、まったく生気のない声でしゃべった。国民ではなく、目の前の床に語りかけていたのだろう。小泉純一郎の明朗闊達な語り口に比して、彼らの口調は亡霊の独り言に等しい。

そもそも、事実上「郵政民営化」の是非を争う選挙にあって、民主党のスローガンは「日本を、あきらめない。」、共産党は「たしかな野党」、だ。世論が郵政民営化の是非で二分されているというのに、争点とは無縁で、あまりにも見当はずれの国民を愚弄するようなスローガンだ。小泉純一郎が「改革を、止めるな。」と掲げるなら、「偽りの改革を糺す」と応じるべきなのだ。要するに、両党とも本気であの選挙を闘う気などなかったのだ。

「郵政選挙」で自民党が歴史的な大勝を手にしたのは、野党群のサボタージュと小選挙区比例代表のたまものだ。得票数そのものは、与野党でほぼ半々と拮抗していたのだ。もし野党群が本気で選挙に挑んでいれば、結果は大きく違っていたはずだ。問題は、あの重要な選挙で、なぜ見当はずれのスローガンを掲げ、亡霊のような政見放送を行ない、浮動票を自民に誘導したのかということだ。

もちろんそれは、勝ってはいけない選挙だということを野党陣営が十分理解していたからだ。世論はこれ以上ないほど盛り上がり、真っ二つに分かれていた。浮動票は些細な要因でシーソーの上を行き来する。そんな状況で野党陣営が本気を出したら、自民党の大勝は見込めない。特に最大野党の民主党は決して国民にアピールしてはいけなかった。スローガンと政見放送にその本音が如実に表れている。

国民新党を除いて当時の野党群は「郵政民営化」などもともとどうでもよかったのだ。野党のフリをするために反対したまでにすぎない。その証拠に、与党になった民主党は、2010年6月に郵政改革法案を棚上げしてしまった。国民新党の亀井静香金融・郵政改革担当相は抗議の辞任をした。今後、民主党政権下でこの法案が真剣に審議されることはなく、宙ぶらりんのまま放置されるだろう。

自民党以外の政党というのは、議会制民主主義が機能しているかのように見せるために存在しているにすぎない。単なるお飾りであり、決して自立できない衛星政党なのだ。惑星の引力があるから姿勢を保っているにすぎない。惑星の引力が弱まれば、宇宙の彼方に飛ばされてしまう。したがって、自らの引力を弱めてほどよいバランスをとらなければならない。自民党が戦後60年かけて放出した引力を、民主党はたった数年で破棄するという離れ業を演じた。いま、われわれはそれを目の当たりにしているところだ。社会党はもっと分かりやすく、親方を救うために自爆して消滅した。決して、衛星は惑星に取って代わってはならないのだ。

民主党は、国民の期待を徹底的に裏切るために、暫定的に政権に就くことを許されたにすぎない。国民の大いなる期待を受けて政権に就いた民主党は、鳩山由紀夫と菅直人によってごく短期間に、みごとに回復不能の損傷を受けた。

地盤を持たない菅直人という政治家は、ある意味、この任務に適任だと言える。この非常時に被災地と被災者を放ったらかしにし、とことん体たらくを演じ、人々をウンザリさせ、嘲笑を浴び、それでも権力にしがみつく、こんなぶざまな首相はあり得ない。あり得ないものを演じるのが衛星政党の長に与えられた使命だ。民主党の議員や党員はそんなことを知る由もなく、党幹部にいたずらに不満をつのらせるばかりだ。


時間稼ぎ

いま、惑星自民党は、衛星の足並みに合わせて適当なダンスを踊っているにすぎない。醜態を演じる菅直人を攻撃するフリをしているだけだ。手に手を取り合って、辞めろ、辞めないというダンスを延々と踊っている。そうしている間は、被災地のことに関わらなくて済むのだ。舞踏会場の外で、多くの国民の健康と安全が脅かされていても関係はない。

自民党は、菅直人が首相の座にしがみついているから、復興に取り組めないと主張する。菅直人は、自民党が協力を拒むから復興政策が遅れていると言い張る。後々まで責任のなすりつけ合いを演じることができる。形式上、誰も責任をとらなくていいのだ。先行き不透明な段階でこの難事業に誰も関わりたくないのだ。また、もともと政府にはその能力も機能も備わっていない。へたに動けば必ず失策をすると怖気づいている。被災者を放置しておいた方が政治的に安全なのだ。過失は裁かれるが、無能を裁く法はない。

菅直人は、無能で姑息な権力の亡者を演じることによって、民主党の引力を破棄すると同時に、親方自民党が復興政策に関わらなくてすむようにしている。

しかし、その間、この国に巣食う利権集団が休眠しているわけではない。広範囲長期にわたる復興事業は、またとない新たな利権の創出と既存利権の再配分の好機なのだ。政治機構の見え透いた迷走は、その下準備の時間稼ぎでもある。当分の間、この国の政治部門は無能を演じ続けるだろう。

今後被災地は救済されるどころか、食い物にされる恐れがある。すでに、被災地にはヤミ金業者が出没している。義援金の分配が遅れれば遅れるほどヤミ金業者が跋扈するだろう。そして義援金が分配されたときには、多くの人々の善意が、ヤミ金の懐に流れ込むことになる。もちろん政府はそんなことに関知する気はない。これはほんの手はじめなのだ。


集団的幻想

日本が議会制民主主義国家などと信じている限りは、いま、この国で起こっていることを理解することはできない。制度は勝手に機能するわけではない。

アフガニスタンも形式上は議会制民主主義国だ。しかし、それはまったく機能していないし、今後も機能することはない。最初から、機能するようには作られていない。アフガニスタンは永遠に安定してはならない定めなのだ。なぜなら、国際社会による「民主化」の見本としての役割を担っているからだ。「民主化」とは、恫喝の道具であり、恒久的な国民生活の破壊という意味だ。過去に「民主化」された国々の現状を見てみればすぐに理解できる。リビアのカダフィ大佐が、国際社会と徹底抗戦しているのは、「民主化」の意味を十分理解しているからだ。

理念的に優れた制度だからといって、額面どおりに機能すると考えるのは間違いだ。議会制民主主義とは集団的幻想にすぎない。「民主的」制度があるという安心感が大いなる罠なのだ。たまたま指導者が無能なだけであって、制度には問題がないと考えてしまう。したがって、指導者の首を挿げ替えれば事態は良くなると安直に判断してしまう。しかし、指導者の首を何度挿げ替えても事態が好転しなければ、それは制度が機能していないと知るべきだ。

この国の政府には国家を運営する機能はそなわっていない。制度を機能させるのは、社会を構成する一人ひとりの意識だ。政治は選ばれた代表者が行なうものと考え、投票さえすれば義務を果たしたと思っている限りは、制度は機能しない。私物化されるだけだ。

根本的なものの見方を変え、集団的幻想から覚醒しなければならない。
でなければ、舞踏会はいつまでも終わらない。
 




<参考資料>

迷走する日本政治
2011.05.01  菅首相の「初めてだから」に自民「恥ずかしくないのか」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110501/plc11050119240011-n1.htm
2011.05.02  役に立たない日本の政治 日本を復興するのか、破滅させるのか  英エコノミスト
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/6426
2011.05.02  復興の命運分けるモノ言う政治家の登場―日本版クリス・クリスティー待望論  ウォール・ストリート紙
http://jp.wsj.com/Opinions/Opinion/node_230860
2011.05.06  菅内閣総理大臣記者会見 
http://www.kantei.go.jp/jp/kan/statement/201105/06kaiken.html
2011.05.11  民主、政治主導取り下げ=野党は「変質」も追及へ
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&rel=j7&k=2011051100962
2011.05.12  増税反対で一致=参院議長と超党派有志
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&rel=j7&k=2011051200016
2011.05.12  臨時増税は不可欠だが、消費税はなじまない 元国税庁長官の緊急提言!
http://diamond.jp/articles/-/12231
2011.05.13  元首相・中曽根康弘 場当たり的な「政治決断」 
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110513/plc11051303190004-n1.htm
2011.05.18  菅首相は自発的辞任を=月刊誌で震災対応批判-山田前農水相
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011051800828
2011.06.02  日本の政界、国民とずれた不協和音  フィナンシャル・タイムズ
http://news.goo.ne.jp/article/ft/politics/ft-20110603-02.html
2011.06.03  被災者置き去りの政争=政治不信、増幅必至
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011060200883
2011.06.03  日本をダメにする政治サーカス  ウォールストリート・ジャーナル
http://jp.wsj.com/Finance-Markets/Heard-on-the-Street/node_245267
2011.06.03  菅内閣不信任が否決=首相、退陣時期明言せず-小沢氏造反、処分先送り・民主
http://www.jiji.com/jc/eqa?g=eqa&k=2011060200595
2011.06.03  菅直人首相の優柔不断 フィナンシャル・タイムズ社説
http://news.goo.ne.jp/article/ft/politics/ft-20110603-01.html
2011.06.03  首相退陣表明「日本の国内問題」=米
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011060300116
2011.06.06  この国の政治はなぜかくも劣化したのか――被災地無視の菅内閣不信任騒動で極まった
http://diamond.jp/articles/-/12568
2011.06.07 「菅首相に石を投げつけても何も変わらない。日本の政治が良くなるには衆院選が2回必要だ」
http://diamond.jp/articles/-/12587
2011.06.09  Who needs leaders?
http://www.economist.com/node/18803423
2011.06.20 「政局」の裏で進む増税シナリオ
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110616/220825/?P=1
2011.06.21  首相と執行部、対立続く
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011062100779
2011.06.24  日本は悲劇を勝利に変えられるか  英フィナンシャル・タイムズ紙
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/12855
2011.06.28  首相、解散でけん制=辞めろコール続出-民主  ♭jiji
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_date3&k=2011062801034
2011.06.28  復興停滞の裏に「菅直人の暴走」と「官僚の脱力感」
http://diamond.jp/articles/-/12893
2011.06.28  野田財務相が菅首相を批判 自民議員の政務官起用で
http://www.47news.jp/CN/201106/CN2011062801000283.html
2011.06.29  与党間の不協和音が拡大 自民議員引き抜きで
http://www.47news.jp/CN/201106/CN2011062901001040.html
2011.06.29  菅内閣の支持率23%に急落 共同通信緊急世論調査
http://www.47news.jp/CN/201106/CN2011062901000639.html
2011.06.29 「急造人事」の不備露呈=細野原発相、海江田経産相との分担曖昧  ♭jiji
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011062900892
2011.06.29 「学芸会は止めて」 福田知事が政局混乱を批判 定例会見
http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/top/news/20110629/553162

その他
2010.06.11  亀井郵政改革相が辞任、連立維持 民主の廃案方針に抗議
http://www.47news.jp/CN/201006/CN2010061001000523.html
2010.10.08  政府、郵政改革法案を閣議決定 野党反対で曲折も
http://www.47news.jp/CN/201010/CN2010100801000206.html
2010.11.08  郵政改革法案/たなざらしは国益損なう
http://www.kobe-np.co.jp/shasetsu/0003591653.shtml
2011.03.06  民主、新人ほぼ全員が署名 郵政改革法案の成立に向け
http://www.47news.jp/CN/201103/CN2011030601000354.html
2011.03.15  中途半端な民営化で日本郵政グループは事業不振の泥沼へ。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/sj/20110315/263807/
2011.03.31  森田総務政務官が辞表 郵政改革法案の扱い巡り抗議?
http://www.asahi.com/politics/update/0331/TKY201103310352.html
2011.05.13  第177回国会 郵政改革に関する特別委員会 第1号
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/177/0239/17705130239001a.html
2011.05.18  郵政改革法 一刻の猶予も許されない
http://www.election.ne.jp/10863/86799.html
郵政改革法案要綱
http://www.cas.go.jp/jp/houan/yusei/kaikaku/youkou.pdf

2005.08.15 「改革を、止めるな。」-小泉改革の原点へ 政治活動用ポスター発表  
http://origin.jimin.jp/jimin/daily/05_08/15/170815a.shtml
2005.08.23
「日本を、あきらめない。」民主党新TV・CM制作発表
http://www.dpj.or.jp/news/?num=7070
2005.08.30  たしかな野党・日本共産党を伸ばし日本の政治に新しい展望を
http://www.shii.gr.jp/pol/2005/2005_08/T2005_0830_1.html
2011.06.07  余命3年か?日本共産党が危ない
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/9556

2011.06.09 「倍にして返せ」…被災地に暗躍するヤミ金
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110609-OYT1T00588.htm
2011.06.16  被災地狙い、ヤミ金暗躍 優しく相談…一変「返さないなら殺す」
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110616/crm11061620520037-n1.htm
2011.06.17  被災地でヤミ金が暗躍 生活難につけこむ
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110618k0000m040085000c.html


参考図書

『日本社会党』 山口二郎 日本経済評論社
『民主党の研究』 塩田潮 平凡社
『民主党10年史』 橘民義 第一書林



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