アメリカのサブプライム・ローンの焦げ付きによる波紋が、世界の金融機関におよび、世界経済にまで影響を与えている。世界経済へのさらなる影響が懸念され、多くの論説には「恐慌」という文字さえ飛び交っている。
しかし、たった一国の住宅ローンの焦げ付きが、世界経済にまで影響を与えるというのは、あまりにも話ができすぎている。誰が損をして、誰が得をしたのかを考えると、これを「不可抗力」だと考えることはできない。
●誰もが知っている犯人
誰がサブプライムを仕掛けたのか、世界の金融機関はとっくに、その犯人を知っている。ただ、誰もそれを口にしようとはしないだけだ。そして、この事態は「見えざる手」によってもたらされたのだという暗黙の了解を受け入れている・・・フリをしている。王様は、まるはだかなのだが、金融関係者は誰もそれをはっきりと指摘したがらない。王様の怒りを買いたくないのだ。
この事態の犯人は、FRB(米連邦準備制度理事会)だ。
共犯は、格付け会社だ。
米財務省は目の前の犯罪を黙認し続けた。
FRBは、破綻が歴然としているサブプライム・ローンを拡散するための下地づくりに励んだ。FRBの政策によって、住宅ローンを販売する金融機関は業務を拡大し続けた。こうした金融機関は、ローンを束ねて証券化商品(住宅ローン担保証券)を作り、それを投資銀行に売却した。投資銀行はこの証券化商品にさらに別の債権(社債、消費者ローン、自動車ローンなど)を組み合わせて、新たな証券化商品を作った。そしてそれを世界中の機関投資家やヘッジファンドに売りさばいた。その額は2005年と2006年で1兆2000億ドルという。
格付け会社はこうした証券化商品に高い格付けを付与して販売を容易にした。
さまざまな債権を組み合わせた証券化商品はきわめて複雑で、購入する金融機関はほとんどその仕組みを理解していなかったようだ。世界の金融機関はあまりにも安易に格付けを信用し、高配当に誘惑され、内容を理解してもいない金融商品を買い続けた。
FRBやウォール街は、こうした世界の金融機関のお粗末な実態を知り尽くしたうえで、サブプライムの罠を仕掛けた。
2007年12月19日付けの『インターナショナル・ヘラルドトリビューン』紙によると、「米国には、このようなローンを禁止する法律があるのだが、少数の人びとが警告を発していたが、アラン・グリーンスパン連邦準備制度理事会議長はこれを無視した」と報じた。
そのなかの1人は、昨年9月の亡くなった連邦準備制度理事会の理事であったEdward Gramlich であった。彼は、すでに7年も前に、これら低所得世帯に住宅ローンを供与することが危険であると警告していた。彼は理事会の監事に対して、サブプライム・ローンの貸金業者の親会社または資金貸し手の米国の銀行を調査することを提案したが、グリーンスパン議長によって無視された。
2008.01 グリーンスパンはサブプライム・ローンの違法性を無視
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/
ブラインダー・プリンストン大学教授(元FRB副議長)は、彼[アラン・グリーンスパン]が金融業の監督に興味を示さず、モーゲージ業者検査の提案に耳を貸さなかった点は問題だったと批判している。
2008.04.10 米財務省とFRBに亀裂?「ポールソン案」が呼んだ波紋
http://diamond.jp/series/money_market/10027/
サブプライム・ローンに対するさまざまな警告や警鐘は、グリーンスパンFRB議長(当時)によって無視され、握りつぶされた。FRBが明確な意図を持って、危険なサブプライム・ローンを無制限に拡散した仕掛け人であることは明白だ。世界の金融機関が、FRBや格付け会社を無防備に信用しているかぎり、今後も世界経済は振り回され、富を奪われることになる。
サブプライム・ローン問題発生後、その責任を問われたグリースパン前FRB議長の発言は一貫性を欠き、傲慢とも言える。
「重大さに気づかなかった」としらを切ったかと思うと、「融資基準緩和のリスクには気づいていた」と、正反対の発言をする。あるいは、「起きるべくして起きた」「回避するためにFRBができることは少なかった」と責任逃れの弁明をする。しかしながら「過去の決定に一つも後悔はない」そうだ。そして、「もし私が国民に変動金利モーゲージ(ARM)を使うよう勧めたことが有罪なら、禁固30日の罪だろう」と、自分の罪はほんの微罪であると強調している。
アラン・グリーンスパンはFRB議長を5期連続再任され、18年5ヵ月も世界の金融界の頂点に君臨した。在任中は、ほとんど金融の神のごとく崇められていた。しかし、サブプライム問題が顕在化する前の2006年1月に、さっさと退任して、ベン・バーナキンにあとを引き継いだ。
世界の金融機関も、FRBとグリーンスパンの長い呪縛から多少は目が覚めたのではないだろうか。
●共犯者:格付け会社
かつて、格付け会社は、エンロンやワールドコムのような企業に高い格付けを行って、両社の犯罪を容易にし、被害を拡大させた。格付け会社は、破綻する直前まで高い格付けを維持し続け、すべてが手遅れになってから、ようやく格付けを下げた。エンロンやワールドコムの犯罪には、大手会計事務所も加担していた。当時の投資家が、エンロンやワールドコムの詐欺を見抜けなかったのは無理もない。
しかし、過去にこうした事例がありながら、世界の金融機関はあまり教訓を得ていなかったようだ。
「仕組み金融の世界で、格付け会社が公平だという考えはお笑いだ」とロスナー氏は語る。「発行会社は、誰にでも入手できるモデルを使って仕組み商品を設計し、あとは望み通りの格付けになるよう、格付け会社に微調整してもらう」のだという。
5年にわたる不動産ブームがピークに近づきつつあった05年、ウォール街は最も信用力の低い借り手向けのサブプライムローンに基づく新手の証券を販売していた。大手格付け会社から安全資産のお墨付きをもらいながら、これらの証券は同格付けの他の証券よりも高いリターンをもたらした。グローバル・インサイトの金融・経済ディレクター、ブライアン・ベスューン氏によると、投資銀行は、05、06年でこれらの証券1兆2000億ドル相当を販売した。
信用リスクに関するウォール街の3大審判であるムーディーズ・インベスターズ・サービス、S&P、フィッチ・レーティングスの関与がなければできなかったことだった。このような証券の約80%は、米国債と同じ「AAA」の格付けが付与されていた。
格付けは、ウォール街が高リスクのサブプライムローンに基づいた証券を世界の市場で売りさばくのに役立った。ウォール街のバンカーたちによる発明を原動力に、サブプライム証券の市場は05、06年に急拡大。同商品は世界の隅々まで行きわたり、欧州やアジアの銀行、公的基金のポートフォリオに入り込んだ。
2007.12.20 サブプライムの罠、ウォール街の「神様」の審判で世界の隅々に拡散
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=90003001&refer=jp_commentary&sid=a1ZEInxFORv0
いくつかの公的機関や民間機関は格付け会社に対して、調査や召還、提訴などを決定している。しかし、たいした罪に問われることはないだろう。今後も世界を罠に嵌めるためには、格付け会社は必要な役者だ。格付け会社の失墜した信用は、FRBや米財務省、二大政党などが回復してくれる。健全化したと思い込ませることは難しくはない。不正の再発を防止するりっぱな法律を作って、投資家を安心させればよい。ただし、存在するだけで永久に執行されることはないだろう。法律や規制ができたからといって安心はできない。
「通常の銀行業務による利ザヤが小さいため、ますます多くの金融機関が、彼らも理解できないような利ザヤが大きくリスクも高い商品に投資するようになっている」
2007.09.03 ドイツ銀行業界の混乱、再編の必要性示す=財務相
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-27687520070903
投資銀行の発明する金融商品の仕組みを、世界の金融機関が理解する日はこないだろう。理解できるような商品は最初から作らないのだ。こうした金融商品は時限爆弾のようなものだ。いつ爆発するかわからない。しかし、いつかは爆発する。金融機関は何度騙されても、結局、同じことを繰り返すのかもしれない。どうせ失うのは他人から預かった金なのだ。
「結局、ウォール街ではなく最も小口の投資家が損失を被ることになる。むやみに格付け会社を信じた運用者を信用したためだ」
2007.12.20 サブプライムの罠、ウォール街の「神様」の審判で世界の隅々に拡散
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=90003001&refer=jp_commentary&sid=a1ZEInxFORv0
●大恐慌の再来?
FRBやIMF(国際通貨基金)は、世界経済が後退に向かっているかのような発言をしているが、世界経済が後退に向かっているのではなく、彼らが世界経済を後退させたいのだろう。
FRBやIMFの発言の中には、「大恐慌」という言葉が意図的に盛り込まれている。「資金支援は1929年に始まった大恐慌以来」、「大恐慌以来最も深刻な状況」「大恐慌以来最大の金融ショックに発展」というように。あくまで「大恐慌以来」という表現で、歴史的な比較をしているにすぎないという文章上の体裁を取っている。
しかし、これは、読み手の心にキーワードを埋め込むためのレトリックだ。いっさい具体性のない表現だ。大恐慌と比べてどのくらい「深刻」なのかを示してはいない。読み手に対して「大恐慌と同じくらいひどい状態である」という印象だけを植えつけようとする表現方法だ。つまり、プロパガンダだ。事実を述べているわけではない。サダム・フセインの「大量破壊兵器」と同じだ。
世界の金融関係者や財界人、経済学者にとって「恐慌」というのは、二度と再来してほしくないものの代名詞だ。本来、こうした不吉極まりない言葉の使用は極力忌避される。少なくとも不安を鎮め、経済を安定させたいと思っていれば、こういう言葉は避ける。ただでさえ金融市場は、根拠のない風評にも過剰に反応することがある。
FRBはサブプライム・ローンの罠を世界の金融市場に仕掛け、「大恐慌」の再来を待ち望んでいる。しかし、一向に恐慌に突入しない世界経済に苛立ち、意図的に「大恐慌」という言葉を使用して火をつけようとしているのだ。
では、FRBやIMFが「1929年の大恐慌以来」と意図的に表現する、その「大恐慌」とはどのようなものだったのか。
そこには、一九二七年にアメリカ国民に株式市場へ投資しつづけるように推奨し、株式市場の相場師たちのサクラを演じる合衆国大統領カルヴィン・クーリッジの哀れな光景があった。膨張した市場の条件には不安があったが、合衆国大統領、財務長官および連邦準備制度理事会議長に、ブローカーの貸付残高が高すぎることはなく株式市場の状況は健全である、と言明させることによって銀行家たちはその力を示したのである。
p325 『民間が所有する中央銀行』 ユースタス・マリンズ著
「実際に、それは世界の金融権力によって計算された国民の『刈り取り』であり、ニューヨーク金融市場における事前に計画されたコール・マネーの突然の供給不足が引き金となったのである」
連邦準備制度理事会はすでに一九二九年二月六日に、株式市場から手を引くよう連邦準備銀行の株主たちに警告していた。しかし、それ以外の人びとには、あえて何も伝えようとはしなかった。ショウを演出しているウォール街の銀行家以外には、なにが起こっているのかわからなかった。
p342 同
ライト・パットマン議員は『月曜日の入門書』のなかで、一九二九年から三三年までのあいだにマネー・サプライ(通過供給)が八〇億ドル減少し、全部で二万六四〇一行の合衆国の銀行のうち一万一六三〇行が破産したと述べている。
p341 同
1929年にはじまる大恐慌は、最初から仕組まれたものだった、ということだ。そしてこれと同じことがサブプライム・ローンを使って、世界規模で繰り返された。
サブプライムの影響で、アメリカのいくつかの大手金融機関も損失を計上しているが、本当に損失が発生しているのかは実にあやしい。当の金融機関にはまるで危機感がない。しかし、中小銀行はそうはいかない。
(バーナンキ議長は、米上院銀行住宅都市委員会において)「いくつかの銀行が破綻する可能性がある。例えば、住宅価格が急落している地域の不動産に多額の投資をしている小さな銀行や、あるいは、多くの場合、新設されたばかりの銀行がそうだ」と述べている。
「大手行の自己資本比率は依然、健全だ。金融システムの大部分を構成する、国際金融業務を行っているような大手銀行は、その種の深刻な問題に陥るとは考えていない」
2008.03.02 米預金保険公社総裁、バーナンキFRB議長の銀行破たん発言に反論
http://www.gci-klug.jp/masutani/08/03/02/frb_49.php
1929年に限らず、「金融危機」があるたびに世界の金融業界の寡占化が進行している。日本のバブル崩壊後、日本のほとんどの主要金融機関には欧米資本が参入している。旧日本長期信用銀行(現新生銀行)のような露骨な例もある。1997年のアジア通貨危機では、タイ、韓国、インドネシアの多くの金融機関が外国資本に売却された。日本のバブルもアジア通貨危機も、最初から仕組まれたものだ。こうした罠にはまっていなければ、いまごろ東アジアの経済圏は、世界経済を先頭で牽引していただろう。
しかし、東アジアの経済が成功するということは、欧米の金融機関の出る幕がまったくないということだ。それどころか、脅威となることは目に見えている。それを、手をこまねいて座視しているような相手ではない。経済史上では、日本のバブルもアジア通貨危機も、「自業自得」ということになっている。しかし、これらの危機は最初から仕組まれたものであり、危機から利益を享受したのは常に欧米の巨大金融機関だ。金融危機を繰り返すことによってそれらは巨大化し、寡占化している。
バーゼル銀行監督委員会は、サブプライム危機を受けて、「銀行の自己資本比率の計算方法を厳しくする」と発表した。自己資本比率規制(BIS規制)は、日本ではバブル崩壊後の1993年に適用され、日本の銀行への重い負担となり、欧米の金融機関の参入を容易にした。今回のバーゼル委員会の措置も同じだ。サブプライム危機で弱っている世界の銀行をさらに苦しめ、巨大金融機関による支配を推進するためだ。
こうした巨大金融機関は、安定した経済からはほとんど利益を得られない。
株価や為替相場がいっさい変動しなければ、取引利益が発生しないのと同じだ。
急変する相場ほど、利益も大きくなる。
「危機」の創出こそが巨大金融機関の富と支配の源泉なのだ。
●本来、無用のFRB
FRB(連邦準備制度理事会)の株式が、欧米の巨大金融機関によって100パーセント所有されていることは周知の事実だ。アメリカの中央銀行であるFRBは、公的機関ではなく民間会社だ。アメリカ政府は、FRBの株を一株も持っていない。
FRBは世界の中央銀行のなかの中央銀行ともみなされている。実質的に世界の中央銀行の頂点に君臨していると言ってよい。そのFRBは、ごく一部の巨大金融機関の手足でしかないのだ。
FRBは政府からは完全に独立しているが、株主からは独立していない。
「もし、連邦準備制度がなかったなら、実際に起きたようなひどい投機的状況はおこらなかっただろうと思います」
1931年、アドルフ・C・ミラー理事
p344 『民間が所有する中央銀行』 ユースタス・マリンズ著
FRB、サブプライム・ローンの仕掛け人 : 参考資料
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/ba1e05aecc3a6d02726d7ad5bfa3b6e8