『女神記』 サブタイトルに『新・世界の神話』とあります。
カバー絵は、加山又造作『花明り』(部分)
桐野夏生さんは、どうも心穏やかに読めないし
しかもこのカバー絵では内容が思いやられる…
恐る恐る読み始めたのですが、なんのなんの
いにしえの南の島の人々の信仰や生活 が
不思議な力で私をグイグイと物語に引き込んでいったのです。
一つ違いの姉妹、カミクゥとナミマ、陽と陰の対の巫女
島の掟、自分の運命を受け入れられないナミマは
禁を犯して島を抜けます。
しかし彼女は娘、やよい(夜宵)を産み落としてまもなく
訳のわからぬまま愛する夫、マヒトの手にかかって亡くなり
黄泉の国へやってくるのです。
そこはイザナミ様の国
イザナキの命に裏切られたイザナミの命の恨みつらみは尋常ではありません。
お二人は、別れのときに売り言葉に買い言葉で仰ったお互いの言葉に
その後何百年、いや千年もの間縛られ続けていくのです。
イザナミの命は1日に千人の命を奪い
イザナキの命は1日に千五百人の命を与える…
ナミマは、何故自分がマヒトによって殺されたのか
その後マヒトと夜宵がどうなったのか知りたくて
ついにスズメバチの姿を借り、故郷の島へ。
しかしそこで知った事件の真相は
ナミマにとって許しがたいものでした…
一方、大昔にイザナミの逆鱗に触れてしまったイザナキの命が
ついに気がつくときが来ました。
忠実な可愛がっていた従者と引き換えに
不老不死の肉体を脱ぎ捨てて人間になったのです。
不思議な縁に導かれて命が向かったのは
あのカミクゥとナミマの島。
明日は上陸という夜、命たちの舟の前に
身投げをしたものがいました。
なんと大巫女のカミクゥが石を抱いて飛び込んだのです。
カミクゥの遺体が遺志に反して上がってしまったので
夜宵の運命が急転回しました。
毒を仰いで自死することを求められた夜宵
おびえる夜宵とイザナキの脱出行…
しかしイザナキの命が夜宵を娶れば
夜宵はイザナミの命に生命を奪われてしまいます。
イザナキの命はイザナミの命に会いに行くことを決心します。
大昔にただ一度そうしたように…
生と死、男と女、恨みや怒り…
淀んだやりきれない空気の中で
カミクゥの心が救いです。
いつもナミマに優しかったカミクゥ
夜宵の殉死を避けたいと願っていたカミクゥ
夜宵はその後どうなったのでしょうか?
『古事記』の世界と『島』の世界がなんとも自然に絡み合って
惹きこまれてしまいました。
スリルとサスペンス、スピード感にあふれた新しい神話。
決してかび臭くありません。
『古事記』の内容をご存じでなくても大丈夫。
物語の中で稗田阿礼が語ってくれます。
面白いです。お奨めです。