出すことのない手紙

出すことのない手紙を書く。宛先はまだわからない。

小倉(3)

2008-11-29 19:46:28 | 日々平安
  鍛冶町1丁目の家で20分ほど過ごした。その間この家を訪れたのはひとりの女性だけだった。屋敷内では時間が止まっているが、周りは飲食店やビルなどがたち並んでいて生活のにおいのする時間が流れている。北九州市はこの建物を保存するため、土地・建物を3億円ほどで買収した。収益を生まない費用だが、この建物がある限り未来永劫ここを訪ねる人が途絶えることはないだろう。その意味では素晴らしく有効な投資といえるだろ . . . 本文を読む

小倉(2)

2008-11-27 03:33:23 | 日々平安
  鴎外は明治32年6月、陸軍第12師団の軍医部長として小倉に赴任した。37歳だった。師団司令部は小倉城の本丸跡にあった。最初の妻を離縁し、2度目の結婚をする前の独り身の時代だった。    門から玄関まで訪なうひとのために敷石が二列に敷かれていた。右手は背の高さほどの生垣で、その向こうには庭がある。左手は丸く刈り込まれた低木が行儀良く並んでいる。開け放たれた玄関には、「履き物を脱がれてこちらからお . . . 本文を読む

小倉(1)

2008-11-21 18:08:36 | 日々平安
  さいきん鴎外を読んでいない、とふとおもった。「鴎外だけか?」と聞かれると返答に困るのだが、鴎外を読むことは私にとって少し特別なことである。正座して本を披こう、鴎外を読むときにはそんな気持ちになる。いっぽう漱石は寝転んで読みたい。  鴎外も漱石も日本文学における古典であり、折にふれ読むことはとても有益なことだろう。語彙の豊富さ、それによって表現される感覚のみずみずしさ、論理の確かさなど、彼らの文 . . . 本文を読む

憂きはなし

2008-11-18 18:38:02 | 今日の能書き
  田母神前航空幕僚長の問題を司馬さんならどう評しただろう。ほかの誰でもない司馬さんの感想を聞きたかった。たぶん開いた口がふさがらないほど驚かれただろう。民主化された日本の自衛隊と否定されたはずの旧軍との間にこれほど深いつながりがあることがあきらかになったのだから。  司馬さんは晩年、土地バブルに狂奔する社会の劣化を憂慮し、日本の行く末について深刻な警鐘を鳴らしていた。このままでは日本は亡びると焦 . . . 本文を読む

電話帳

2008-11-14 18:09:12 | 今日の能書き
  筑紫氏が答えた愛読書は「時刻表」。時刻表が書物といえるのか疑義がないわけではないが、少なくとも常識で凝り固まった頭からは金輪際出てこない答えだろう。ただしこの手の答えは、二番煎じは禁物。即不採用になるだろう。  筑紫氏が昨年「タイトル・アワード」に選んだのは「不都合な真実」。原題「An inconvenient Truth」。「inconvenient」を「不都合な」と訳したところを評価した。 . . . 本文を読む

筑紫さん

2008-11-12 18:22:09 | 今日の能書き
  筑紫さんを見るといつもリベラルという言葉が浮かんだ。感情的な物言いとは無縁の落ち着いた語り口で聞く人は彼の議論から、事象を理性的にとらえる知性と、弱者に対する温かい共感を感じとっただろう。私なりの表現で言えば、彼は温かいハートとクールな頭脳を併せ持っていた。そのような存在は近年ほとんど絶滅種の仲間入りをしつつある。  最近はリベラルより保守主義のほうが目新しく(かっこよく)感じられるらしい。機 . . . 本文を読む

念のため

2008-11-07 18:09:51 | 今日の能書き
  私の友人には礼儀正しく心やさしい紳士、淑女が多い。その幸運には感謝するばかりだが、残念なことに世の中はそんな人ばかりではない。マナーも知らず、他人を困惑させることに喜びを見出す倒錯した人もいる。特にインターネットの世界ではその手の輩が多い。彼らのコメントは即刻削除することにしている。(幸か不幸か、そんな験しはほぼ皆無であるが。)  そうすることに特にコメントする必要もないのだが、いちおう判断基 . . . 本文を読む