Officer's '70s Theater

'70年代の恐竜的ハイパワー車ファンが昔を懐かしむブログ

フルメタルジャケット

2010-09-05 10:15:47 | 映画(戦争)

Full Metal Jacket- Get Some
1987年
監督:スタンリー・キューブリック
主演:マシュー・モーディーン
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フルメタルジャケットというのは軍用の弾頭のことで、民間用の弾頭は経済性優先で鉛が露出しているのに対して、軍用品は弾頭全面に銅の皮膜が被せられていることからこう呼ばれます。これはダムダム弾(人体に入ってから大きく変形・破裂して致命的被害を与える非人道的弾頭)を禁止した国際条約に基づく形状です。フルメタルジャケットは命中の際に人体を貫通する確率が高い人道的な(?)銃弾という訳です。
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この映画は3つのパートに分類できます。
1.海兵隊の厳しい新兵訓練
2.戦地広報部隊の記者が見た理不尽な現実
3.市街戦

 上の動画は2.の部分で非常に有名なシーンです。移動中のヘリの銃手が農作業中の現地人を無差別に射殺する場面です。
健康な男は街への出稼ぎか戦争に出ているから、田舎で農作業をしているのは年寄り・女・子供などの弱者ばかりです。では、この銃手は気が狂っている殺人狂なのか?というと、そうではありません。
ゲリラ戦の最も厄介な所は、敵兵と一般人の区別が難しいところです。イスラエルやアメリカ、ロシアが苦労しているのは「民間人にまぎれた特攻兵による自爆テロ」で、すでにベトナム戦争時から兵隊は「見えない敵」から多大な精神的圧力を受けていた訳です。
記者から「よく女子供を射殺できるものだな。」と皮肉られると「女子供は動きが鈍いから、簡単だぜ。」と全く的外れな回答が返ってくる場面の「自分の意思が相手に全く通じていない事への恐怖」が印象的です。
「いいぞベイベー!」のアスキーアートが広く知れ渡っています。

Full Metal Jacket - Private Pile

 映画全体から見ると、前半の1.で「鬼教官ハートマン軍曹が軟弱な若者を罵り続ける場面」が非常に大きな比重を占めています。
厳しいシゴキで汗まみれになって頭から湯気の出ている汗臭い新兵を「湯気の出ている大きなバッファローの糞」に例える言葉は比喩表現として納得ですが、「口から汚い糞(言葉)を出す前と後ろにサー(敬語)を付けろ!」と強制するのは、上官の命令への絶対服従という規律意識を叩き込む意図が有るにしても、如何にも理不尽です。
厳しいシゴキの結果、デブでノロマなパイルと呼ばれる兵隊(本名はレナード。本来は優しいお人好し)が次第に周囲から疎外され精神崩壊してゆく様子には恐怖を覚えます。

 3.の市街戦では「遮蔽物が有りながら、わずかな隙を狙われて狙撃兵に撃ち殺される」とか「ブービートラップに引っ掛かって爆死する」といった描写がリアルです。後のプライベート・ライアンなどにも似た場面がありますが、「少しの油断で突然、大切な命を失う」という状況は今も同じです。
 戦場で「殺人マシーン」として行動(非情な現実に対応)する事を余儀なくされた海兵隊員たちがラストで廃墟を行軍しながらミッキーマウスの歌を合唱するのは一見ミスマッチですが、そこに監督のメッセージが込められているように思います。