国立大学職員日記
メインコンテンツ
国立大学職員日記:記事一覧




■はじめに
 今回のエントリーは最近ニュース等でいろいろと取り沙汰されている東日本大震災復興特別会計についてです。
 自分は総務系の部署にいるので普段の業務で復興特別会計に携わることはほぼ無いのですが、「調べたらきっと国立大学にもいろいろと使われているんだろうな~」と思って調べてみたら案の定いろいろと出てきました。そこで今回はその内の「国立大学法人等施設整備実施事業」、特にこれによってどのような建物・施設が新増改築・改修されたかに焦点を絞ってエントリーを書いてみようと思います。


■国立大学法人等施設整備実施事業とは?
 最初に「国立大学法人等施設実施事業」について説明します。この事業は一言で言ってしまえば「国立大学法人等の建物を改修したり新増改築したりする事業」のことです。
 国立大学には実に様々な建物があり、特に自然科学系の部局には実験・研究を行うための高度に専門的な施設が必要となってきます。こういう施設は新設・改修で数億円にも及ぶ費用がかかることがザラであり、また長期にわたる利用を行うためには綿密な事業計画が欠かせません。国立大学法人等施設整備実施事業とはこれらの施設整備を効率的・計画的に行うものであり、国から支出される「施設整備費補助金」を主な財源として実施されています(詳しくは下記「国立大学法人等の施設整備の仕組み」を参照)。
 ここで「施設整備費補助金」についても少し説明しておきます。通常、国立大学の予算と言えば「一般運営費交付金」がまず頭に浮かぶかと思いますが、実は国立大学の建物の新築や改修の費用はこの財源からは出ていません。「一般運営費交付金」はその名称の通り「運営費」に関する交付金であり、施設整備に関する財源は「施設整備費補助金」という名称で、運営費交付金とは区別されて支出されているのです。
 また「施設整備費補助金」と「一般運営費交付金」は毎年「一般会計」の枠組みから支出されるものですが、平成24年度予算ではこれに加えて「特別会計」である「東日本大震災復興特別会計」からも一部支出がなされているという特徴があります。一見すると単に財源元となるカテゴリーが違うだけのようですが、「特別会計」とは特定の目的に限定して支出される予算のことですから、平成24年度の国立大学の施設整備については「復興目的である施設整備」という「縛り」が付いているものがある、というのが毎年度と違う点なのです。

 以上、今回のエントリーを総合すると「毎年国立大学の施設整備に対して支出される施設整備費補助金に、平成24年度は東日本大震災復興特別会計からも支出がされているから、この復興特別会計を使って国立大学でどんな施設整備を行ったのか見てみよう」という訳です。施設系でも会計系でもない自分にこれを書かせるなんて一種の拷問だろ、と作っている途中で思ったりもしないでもなかったのですが、興味のある方の参考になれば幸いです。


【文部科学省ホームページ:国立大学法人等の施設整備の仕組み】
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2012/03/26/1317911_1.pdf

【文部科学省ホームページ:国立大学法人等施設整備予算額の推移】
http://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/kokuritu/__icsFiles/afieldfile/2012/04/13/1318156_1_1.pdf

【みずほ研究所ホームページ:東日本大震災復興特別会計】
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/research/r120301keyword.pdf


■データについて
 今回のデータは文部科学省が公表している「平成24年度国立大学法人等施設整備関係予算」の「実施事業」の内、「特別会計に計上している事業」の掲載がある整備実施事業を集計しています(平成24年11月1日までに掲載分のみ)。
 データには事業内容の概要の他、面積のみを掲載しており、その交付額までは掲載していません。これは「入札予定価格を推知される恐れがあるため事業完了分のみの公表」するという文部科学省の方針によるものです。大体の金額を知りたい場合は、例えば「平成23年度国立大学法人等施設整備実施事業の交付決定に係る情報」に昨年度の実施事業の交付金額が記載されていますので、事業内容や改修・新増改築面積等で似たような事業を探せば、各事業の交付金の目安になるかもしれません。
 なお平成24年度予算における総額自体は財務省のホームページから確認でき、それによると「一般会計予算」からは国立大学法人施設整備費として54,569,632千円が、「特別会計予算」の「東日本大震災復興」から同じく国立大学法人施設整備費として43,527,190千円が歳出予定であることが分かります。今回のエントリーは復興特別会計のみ掲載しているので、次に掲げる事業は全部合わせて約440億円くらいな訳です。平成24年度だけなのか、実施年度合計でなのかちょっとわからないですが、結構な金額ですね。


■各国立大学のデータ






















































































































































































■東日本大震災復興特別会計の使い道における「適切」とは何だろうか?
 最初にも書きましたが、東日本大震災復興特別会計はその使用用途をめぐって見直しの動きも出ているようです。そういう流れの中では、上に挙げた国立大学法人の施設整備事業に対する復興特別会計からの支出も、その「適切性」が問われなくてはなりません。
 ニュースや新聞報道等で判断されるこの「適切性」がどのような判断枠組みに従っているのかについて、自分は詳しくは知りません。しかし、もし自分がその「適切性」を考えるのであれば、次の判断枠組み使用すると思います。


 まず、東日本大震災復興特別会計は「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」に基づき支出され、またこの措置法は「東日本大震災復興基本法」の基本理念に則り作成されています。
 そしてその基本理念とは次の通りです。


【基本理念】
第二条  東日本大震災からの復興は、次に掲げる事項を基本理念として行うものとする。
一  未曽有の災害により、多数の人命が失われるとともに、多数の被災者がその生活基盤を奪われ、被災地域内外での避難生活を余儀なくされる等甚大な被害が生じており、かつ、被災地域における経済活動の停滞が連鎖的に全国各地における企業活動や国民生活に支障を及ぼしている等その影響が広く全国に及んでいることを踏まえ、国民一般の理解と協力の下に、被害を受けた施設を原形に復旧すること等の単なる災害復旧にとどまらない活力ある日本の再生を視野に入れた抜本的な対策及び一人一人の人間が災害を乗り越えて豊かな人生を送ることができるようにすることを旨として行われる復興のための施策の推進により、新たな地域社会の構築がなされるとともに、二十一世紀半ばにおける日本のあるべき姿を目指して行われるべきこと。この場合において、行政の内外の知見が集約され、その活用がされるべきこと。
二  国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の連携協力並びに全国各地の地方公共団体の相互の連携協力が確保されるとともに、被災地域の住民の意向が尊重され、あわせて女性、子ども、障害者等を含めた多様な国民の意見が反映されるべきこと。この場合において、被災により本来果たすべき機能を十全に発揮することができない地方公共団体があることへの配慮がされるべきこと。
三  被災者を含む国民一人一人が相互に連帯し、かつ、協力することを基本とし、国民、事業者その他民間における多様な主体が、自発的に協働するとともに、適切に役割を分担すべきこと。
四  少子高齢化、人口の減少及び国境を越えた社会経済活動の進展への対応等の我が国が直面する課題や、食料問題、電力その他のエネルギーの利用の制約、環境への負荷及び地球温暖化問題等の人類共通の課題の解決に資するための先導的な施策への取組が行われるべきこと。
五  次に掲げる施策が推進されるべきこと。
イ 地震その他の天災地変による災害の防止の効果が高く、何人も将来にわたって安心して暮らすことのできる安全な地域づくりを進めるための施策
ロ 被災地域における雇用機会の創出と持続可能で活力ある社会経済の再生を図るための施策
ハ 地域の特色ある文化を振興し、地域社会の絆の維持及び強化を図り、並びに共生社会の実現に資するための施策
六  原子力発電施設の事故による災害を受けた地域の復興については、当該災害の復旧の状況等を勘案しつつ、前各号に掲げる事項が行われるべきこと。


 次に、財務省が作成している平成24年度の「特別会計予算」には「東日本大震災復興特別会計」からの歳出項目について、各歳出の説明が記載されています。それによると今回のエントリーで紹介した「国立大学法人施設整備費」についての説明は次の通りです(801頁から引用)。


【説明文】
1 地域における暮らしの再生を図るため国立大学法人が施行する教育研究施設の復旧に要する費用の同法人に対する補助
2 大震災の教訓を踏まえた国づくりの推進を図るため国立大学法人が施行する教育研究施設の耐震改修に要する費用の同法人に対する補助


 以上に沿って、もし「国立大学法人の施設整備に対する東日本大震災復興特別会計からの支出のあり方の適切性」を考えるのであれば、自分はまず第一に「「東日本大震災復興基本法」における「基本理念」の適切性」、第二に「平成24年度の「特別会計予算」において上記説明文を理由として国立大学法人施設整備費へ補助を支出することの適切性」、第三に「平成24年度の「特別会計予算」において記された上記説明文に沿って実際に国立大学法人が事業を実施しているかの適切性」という順に検証します。
 ニュースや新聞報道等だといきなり予算に対する復興との因果関係を議論にしていますが、一応上のように順を追って検証した方が良いと思います。


■おわりに
 以上、今回は国立大学法人施設整備事業というかなりマイナーな話題における、東日本大震災復興特別会計絡みのやや時事的なエントリーでした。
 「適切性」に関する部分は検証方法だけ書いてかなり尻切れトンボになっていますが、正直な話、自分は今回の施設整備への特別会計からの支出が「適切であるか否か」についてはあまり興味がありません。と言うのも、自分にとっては「事業が適切であるか」を判断してる暇があるなら、「事業が適切に決定されたものと仮定して、現場レベルでその事業を適切に実施していくために何をしなければならないか」を考えている方が面白いし建設的だと思うからです。だからニュース・新聞報道等を見ても、「そんな一生懸命不適切である証拠を探すよりも『一度成立させてしまったからには国立大学は最低限こういうことを成し遂げなくては責任が果たせないぞ』と脅しでもかけてくれた方がやることも明確になるし、そっちの方が自分としては嬉しいんだけどな」と思います。
 さすがにこんなこと考えている人間しかいない組織はかなり危ないと思いますが、多少作戦がまずくても最前線にノリノリで切り込んで行く兵士はそれはそれで使いようがある気がするので、当面は好奇心と勢いにまかせて事業整備だろうがなんだろうがやれることなら全部やってやろうと思っています。

コメント ( 8 ) | Trackback ( 0 )


« 科学研究費補... 平成24年1... »
 
コメント
 
 
 
勉強になりました (しろう)
2012-11-06 01:48:18
はじめまして,国立大若手教員です.予算などについて細かく説明してくださり,とても勉強になります.特に今年度分の交付額は示さないのは,「入札予定価格を推知される恐れがあるため事業完了分のみの公表」という理由があったことなど知りませんでした.また,自分の所属先の工事について情報を得られたのはよかったです.これからも楽しみにしています.
 
 
 
Unknown (丸井)
2012-11-22 11:31:53

こんにちは
突然申し訳ありません。
私は来春から私立医科大学事務員として働くものです。たぶん病院勤務になるかと思います。

ネットで見ると大学病院は激務。国立大学職員で病院配属になった人は激務すぎてメンタルをやられる等が書いてありました。
大学病院はそんなに大変な職場なのでしょうか?

よろしくお願いします。


すみません
たぶん二重投稿してしまったと思います。
 
 
 
Re:丸井さん (管理人)
2012-11-22 20:48:32
そんなこと無いですよ~とかアドバイスしたいんですが、実は自分も病院勤務時期にメンタルやられてしばらく頭のお薬を飲んでました(笑)。

とにかく業務量も多いし、何より医師も看護師もかなり大変な状態で仕事をしているので、事務手続き側もやはり神経を使わなくてはならないんというのが応えるんですよね~。ただ丸井さんの場合は「私立医科大学」とあるので、全員が病院勤務みたいな状態だと思います。そうであれば最初から対策等も取られているんじゃないでしょうか?国立大学だとかなり暇な部署なんかもありますし、そういうところと病院とのギャップでやられてしまう、という感じがします。

まぁしばらくは奮闘するしかないと思います。ただ、案外良くも悪くも想像とは違うことが多いので、あれこれやる前から考えすぎずに、まずは飛び込んでみるのが良いと思います。そういう意味ではこのサイトも含め、あまりネットにある情報ばかりは見ない方が良いのかもしれません。
 
 
 
お返事ありがとうございます (丸井)
2012-11-23 00:41:29
お返事ありがとうございます

病院勤務はそんなに大変なのですか笑
業務量が多いということはやはり大学勤務よりも残業も多くなると思うのですが、、、
差し支えなければ病院勤務時代の月平均の残業時間を教えていただけますでしょうか?
よろしくお願いします。
 
 
 
Unknown (丸井)
2012-11-23 00:48:15
連続投稿申し訳ありません。

病院勤務が大変とありますが、大変なのは医事課だけでしょうか?
それとも総務や財務も含めて病院勤務は大変なのでしょうか?
よろしくお願いします。
 
 
 
Re:丸井さん (管理人)
2012-11-23 07:29:47
自分は総務課でした。その中の特に人事関係だったので、特別に忙しいほうだったと思います。医事課もかなり大変らしかったのですが、そのせいで今は外注化されてます。あとは財務やら管理やらですが、「激務」という程ではないにしても、軒並み忙しい部類に入っていました。

残業時間ですが、大体23時半くらいに帰るのが一般的でした。9時に帰れた日に「今日は早いな」と思ったのが特に印象に残っています。ただこのあたりも今は非常勤職員を増やしたりしてかなり緩和されていると聞いています。大学全体の業務もシステム化を進め、業務量はかなり改善しているようです。
 
 
 
お返事ありがとうございます (ペペロンチーノ)
2012-11-23 12:25:33
なるほど。
国立病院機構もあまり評判が良くないので何となく病院の大変さが想像できます。

人事からは医事課の月平均残業は20~30時間と聞いているのですが信用できるのでしょうか笑?

病院が忙しいというのは民間企業と比べても大変なのでしょうか?
業務量というよりも医師、看護師という中でヒエラルキーの底辺事務員として仕事をする方の大変さでうつ病になる方が多い気がするのですが、、、

よろしくお願いします。
 
 
 
Unknown (cheap football shirts)
2016-07-21 15:00:17
さすがにこんなこと考えている人間しかいない組織はかなり危ないと思いますが、多少作戦がまずくても最前線にノリノリで切り込んで行く兵士はそれはそれで使いようがある気がするので、当面は好奇心と勢いにまかせて事業整備だろうがなんだろうがやれることなら全部やってやろうと思っています。
 
コメントを投稿する
 
現在、コメントを受け取らないよう設定されております。
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。