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バーミンガム・ロイヤル・バレエ「美女と野獣」(再録)

2006-08-12 23:52:59 | 思い出し観劇記・バレエ
来年11月にバーミンガム・ロイヤル・バレエが来日するそうです。演目はピーター・ライト版「コッペリア」とデヴィッド・ビントリーの「美女と野獣」二本立て。

昨年12月に後者を見る機会があったので、以前、別ブログで記載していたレポを再掲載することにしました。見る際の参考にしていただけたら、嬉しいです。

って、一年以上先の話なのですけれどね
ディズニーの映画・舞台版が有名な題材ですが、BRB版はコクトーの映画版のような、ゴシックさをほんのりと漂わせた作品です。初演は2003年。
さらに被り物満載!ラブリーでございます


バーミンガム・ロイヤル・バレエ、クリスマス公演
美女と野獣
2005年12月13日、バーミンガム・ヒポドローム
振付:デヴィッド・ビントリーDavid Bintley
音楽:グレン・ブフールGlen Buhr

Cast
ベルBelle- Ambra Vallo
野獣(王子)The Beast- Chi Cao
商人、ベルの父The Merchant, Belle's father- Michael O'Hare
フィエール(下の姉)Fiēre- Angela Paul
ヴァニティー(上の姉)Vanitē- Lei Zhao
ムッシュー・コチョンMonsieur Cochon- James Grundy
ワイルド・ガールWild Girl- Carol-Anne Millar
子狐Vixen- Laura Purkiss
大ガラスRaven- Joseph Caley
隠者Woodsman- Lee Fisher
ベイリフBailiff- Valentin Olovyannikov
祖母Gramdmere- Victoria Marr
狩人、鳥達、宮廷の獣達、結婚式の招待客Hunters, Birds of the Air, Birds of the Forest, Court Beasts, Wedding Guests-Artists of Birmingham Royal Ballet


この日演じたのは、イタリア出身のアンブラ・ヴァッロと中国出身のチー・チャオ、二人のプリンシパル。そしてベルのパパ役は元プリンシパルで現在はキャラクテール兼アシスタントマネージャーのマイケル・オヘア。


第一幕
ピアノとハープを用いたダークな前奏曲に続いて幕が開く。

第一場
商人の家

 幕が開くと、白いワンピース姿のベルが大きな書棚に掛けられたはしご段に座って本を読み始める。すると小さな狐がぴょこんと書棚の後ろから飛び出してくる。こうして彼女が読む物語の世界に入っていくわけだ。そのまま舞台を駆け回った狐は、下手からのそのそとやってきた隠者(とんがり帽子+長マントとという定番のいでたち)のマントに飛び込む。

そこへ王子が3人の従者をしたがえて登場。王子は黒い毛皮の縁取りのついた臙脂色のジャケットに黒いブーツ姿で片手に乗馬用ムチ。19世紀初頭っぽく後ろ髪を結んでいる。

 
猟銃を持った黒尽くめの従者が隠者に「獲物をどこにやった!?」と詰め寄ると、マントの影から飛び出したのは小さな少女(ワイルド・ガール)。そのまま隠者は少女を連れて退場して、従者も後を追う。残った王子は懐中から酒を取り出してあおる。この王子様は何かにすさまじく苛立っていて、狩りで鬱憤を晴らしているんだな。


そうこうするうちに隠者が再登場。追いすがってきたした従者達が飛びかかろうとすると、隠者が手をかざす。そこで三人それぞれに獣の耳/前足/尻尾が生える。ここは演出が面白い。ぶっちゃけ3人は再登場したときに皆様それぞれの「変身パーツ」をつけているのだが、立ち位置や照明などでうまく隠されている。隠者が魔法を掛けるときにプイーっと金管が鳴ってスポットライトが当たり、そこで初めて彼らの変身がわかると。


従者達はよろめきながら逃げ去り、一人残された王子はぶちきれて隠者に襲い掛かろうとするが、隠者は杖で反撃して手を振り上げる。すると王子は苦しみだし手で顔を覆ったまま、転がりながら奥に消えてゆく。

今までの映画などではおざなりにしか触れられないエピソードだけれど、最初に王子の顔を出したのは正解でしょう。それにこの物語をベルが知ることで何となく二人の間には縁があるんだよ~と後の展開もスムーズになるってものです。

やがてベルは本を閉じてはしご段を下りてくる。同時にするりと仕切りが降りてきて、立派な暖炉のある居間に早変わり。 

下手の方から借金取りが差し押さえた家具、クローゼット、椅子、高そうな絵を運んでくる。 彼らの後をおろおろした様子の商人が追いかけてくる。お父さんはいいかにも男やもめで一生懸命がんばってきました!という雰囲気が漂っている。

ベルがそんな父を慰めていると、下のお姉さんが駆け込んでくる。
お父さんのもとに行くのかな?と思いきや、直行先はクローゼット。勢いよく戸を引き上げて中に吊り下げられていたドレスをぐぁしっ!と引っつかみ駆け去る。

入れ替わるように上のお姉さん登場。「何やってるのよ!」と借金取りにくってかかるが、すぐに絵画を引っつかんで去ろうとする。素直だね、キミ達

お姉さん方のショボさが浮き彫りになることで、コメディっぽくなる。 

また、お姉さん方とベルでは服装も違う。清楚さが際立つベルに対して、姉二人は顔くらいの大きさのパフ・スリーブと派手なレース付きワンピース+どでかい頭飾り(上の姉はレース付帽子、下の姉は大きなリボン)で、お洒落に血道をあげすぎて却って滑稽になってしまいました!という感じになっている。

そうして大騒ぎしていると、近所の金持ち、ムッシュー・コチョン登場。豚鼻に太鼓腹。薄茶色のウィッグに白っぽい衣装も手伝ってまさしくブタそっくり。コチョン役のジェイムズ・グランディ、素顔は男性的魅力溢れるいい男なのだが、ウソのようなブタっぷりがすごかった。

そしてお姉さん達の「玉の輿争奪戦」的踊りがあったりと大騒ぎの末、商人に吉報が届き、商人は出かけることになる。お姉さんはドレスと宝石をねだり、ベルは控えめにバラがほしいという。このシーンはマイムが多かった。ロシアのバレエと比べると圧倒的に多い。

さて、舞台は森に埋もれた城へ。

重いチェロと速いヴァイオリンの音楽に嵐の中を歩いていく商人一行。
だが、4匹の獣(最初に出てきた元・王子の従者達)に脅かされて商人の従僕はとっとと逃げ去り、トランクも取られてしまう。一人、途方にくれた商人だが、門に気づいておそるおそる入っていく。

面白いのが舞台転換。門をはさんだ両脇の塀を先述の獣くんたちが二匹ずつ、左右のセットを押して舞台中央部に折り込むと、お城の中になるようになっているのだ。まるで仏壇みたいに。
 パッタンと舞台が変わると照明が切り替わり、上手にテーブルが置かれているのが見える。上には食べ物とカップ、ボトルと燭台が置かれている。 


やがて中央の扉が開いて商人が入ってくる。瞬間、燭台にボッと火がつく。ビクっと驚いた商人が恐る恐るテーブルに歩み寄ると、今度は上手奥から、大きな椅子がゆっくりと動いてきて商人の背後にまわって、彼を座らせる。 腰掛部分が商人のひざ裏にあたってコキンっとくるんです。びっくりしてるお父さんが可愛い。更に卓上のゴブレットがひとりでに中身をカップに注いでくれたりする。
シンプルながら魔法な世界だ~。素敵でした。

かくして満たされた商人は椅子に座ったまま眠り込む。すると肘掛が動いて商人の体を包み込むような感じに・・・うぉい!一瞬ホラーに見えましただ。


そうしていると先ほどのトランクが滑り出てくる。目を覚ました商人がトランクを開けてみると中から光が!彼はびっくりしたように中から金のドレスとアクセサリーを取り出して大喜び。ベタだなあ~(褒めてます)。


大喜びでトランクを引きずって商人がドアの向こうに消える。お城の外。ノバラが咲く庭園。商人はそこでバラを摘み取る。

とたんに物憂げな音楽が盛り上がって、野獣が飛び出してくる。プロローグと同じ赤いジャケットを着ているが、その体は黒い毛に覆われて、顔はクマと犬を掛け合わせたようなマスクで覆われている。早い話が着ぐるみだ。 この重装備で野獣は踊る。結構体力勝負な振りだ。それでも綺麗に踊る。そうして無礼な振る舞いをした商人に飛び掛ろうとする。怖っ!


詰め寄られた商人は「せめて死ぬ前にひと目娘の姿を!」と半泣きに頼む。と、野獣が合図をして魔法の鏡を持ってこさせる。手鏡仕様だったディズニー版とは異なる銅鏡みたいな形の丸い大きな飾り鏡だった。二人が覗き込むと照明がゆらゆらしたものになり、その揺らめきの中をベルが不安げな様子で歩いてくる。

彼女を見届けた二人、野獣は商人を家に帰す代わりにベルをここへよこすように命じる。早くも一目ぼれか?「ひええ~」と及び腰で断ろうとするおとうさんだが、「聞けないっつーのかよ、あぁ!?」と顔も態度も怖い野獣に逆らえず、とぼとぼと帰路につく。ここら辺のマイムでの掛け合いが面白かった。商人はやわらかい物腰で、野獣の方は振りが一々バシっと音が出そうなほど張り詰めた振りをする。なんだかおかしくて、失礼かもしれないが笑ってしまった。

さて、商人が力なくトランクを引きずって前に出てくると壁下りてきて商人のおうち。喜んで出迎えにきたベルにバラを渡して野獣との顛末をマイムで語る。
 後ろでは同時進行で、お姉さん達がお土産を取り出しているが、ドレスとアクセサリーはなぜか灰にまみれたようになっていて怒り全開。

大騒ぎをしながら、お姉さんが父親を引っ張って退場し、途方にくれたベルだけが取り残される。 そこにぴょこりと飛び出してくる者がある。プロローグに出てきた狐の少女(ワイルド・ガール)で、くるくる回った挙句、トランクの上にぴょいっと飛び乗って、面白そうにベルの顔を覗き込む。当然ベルはこの少女の正体を知らないわけだが、好意を持ったようで首をかしげて、彼女と同じポーズで座ってみたりする。すると少女は二カッと笑うと足をひねってポーズを変える。ちょうどお座り姿勢の猫が、後ろ足で自分の顎を掻くように。

鐘の音がなって、鳥の声が聞こえる。ふと気づくと、壁の上部に取り付けられた数体の鳥の木彫りが動き出して羽を広げている。先ほどのテーブルもそうだけれど、この舞台、こうしたさりげない所の細工が実に素敵でロマンティックだ。そして木の鳥たちに導かれるように、大ガラス(Raven)がひらりと飛び込んでくる。

このカラス、黒いタイツに、同色の鎧のような上着を着て腕にはやはり黒い羽が付いている。顔も黒い小さめの羽根で縁取られていて、目から鼻にかけては黒いクチバシ状の仮面を被っている。カラスはベルに向かって会釈し、同時に雄雌混合のカラス軍団が飛び込んでくる。
雄ガラスは親分ほどの光沢性は無いが同様の衣装で、雌ガラスは黒いシースルー袖のついた紫の胴衣に黒いタイツで少しセクシーだ。羽根を広げてベルの周りを飛び回る、もとい踊り回った挙句、男性陣は総出でベルを持ち上げて、リーダーに率いられた女性陣が彼らを先導するように羽根を広げて動き始める。

 
このシーンは素敵だった。カラス達は深い息をつきながら、微妙な緩急で腕を上下して脚もそれに見合うように動く。群舞というには乱れているが、とても綺麗だった。

そうしてお城の中。カラス達は彼女を降ろして退場して、ベル一人が取り残される。心細げなベルは上手に置かれた例の椅子におずおずと座る。 すると背後にあった壁時計が時を打ち、奥の扉が開いて野獣が現れる。先ほどまでの高圧的な様子はどこへやら、恐る恐る椅子に近づいてゆく。少し間があってようやく彼の存在に気づいた彼女はおののくのだが、ただ「きゃー!」と騒ぐのではなく、怖いけれど好奇心もあるように動く。

二人の最初のパ・ド・ドゥ。お見合い的な感じ。少し後に野獣はいきなりベルの手をとってなめる。求婚のつもりだろうけど、あからさまにベロ~ンという感じでやらしかったぞ。結果、余計に怯えた彼女は彼の手を振り払って逃げようとする。おまけにどういうわけか知らないが、野獣は自分の上着を脱いで自分の毛皮を見せている。なんだこれは?

とにかく逃げようとする彼女を斜めにリフトしたりする振りなどを加えた二人の押し問答的踊りは続く。そしてクライマックスに野獣はベルの手を取って自分の左胸に押し当てる。マクミラン版「ロミオとジュリエット」のように。
するとベルはびっくりしたように彼を見つめてくたくたと崩れ落ちる。野獣は失神した彼女を抱き上げて椅子に寝かせると、犬のように足元にうずくまる。
これはおそらく「自分もまた血の通った生き物なんだよ、化け物ではないんだ!」と分かってほしい気持ちを心臓の鼓動を感じることで知ってほしかったんだろう、野獣は。
 しかしベロリ~ンはないと思うぞ。


第一幕終了。

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