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ブラジルでの工場見学(その12) アマゾンの工業都市・マナウスの不思議

2009-09-20 21:05:07 | ものづくり・素形材
 アマゾン河流域に広がるジャングルはあまりに広大で、「緑の魔境」という言葉もあるぐらいです。そんなアマゾンのど真ん中に、マナウスという人口約150万人の大都市があります(地図はこちら)。アマゾン河の水運の重要な拠点で、かつて19世紀に天然ゴムの生産をアマゾンが独占していた時代に大いに繁栄したという歴史を有します。天然ゴムの生産は東南アジアでも行われるようになり、さらに石油化学によって合成ゴムが作られるようになるとマナウスの経済は一気に衰えていったのですが、20世紀中盤にこの都市の工業に優遇税制が適用されたことから工業化が急速に進み、現在ではブラジルを代表する工業都市の1つとなっています。


 ホテルの窓から撮影したマナウスの町並みです。

 しかしマナウスは、ブラジルの大市場であり部材供給基地でもあるサンパウロまで直線距離で2,700km、大西洋の港町ベレンまで1,300kmという、物流面で極めて不利な場所にある都市です。そんな辺鄙な都市だとたかが優遇税制を適用したところでとても産業が立地するとは思えない、というのが日本人の常識だと思いますが、ブラジルではそうではないのです。税制が複雑でかつ税率が高いブラジルの中にあって、マナウスでの大幅な減税措置は企業にとって大変な魅力なのです。しかも、一昔前のブラジル政府は極端な国内産業を保護する政策を敷いていて、輸入品に対して高い税率を課していたのですが、マナウスだけは自由な貿易が許されたのです。このため、部品を輸入してブラジルで加工組立型のものづくりをしようという多くの外資系企業がマナウスを目指したのです。
 このブラジル政府の政策は、産業誘致の大成功事例として数える学者もいるそうですが、なんのことはない、あまりにもブラジル政府の国内産業保護政策がきつすぎて、輸入部品に大きく依存する業種の外資系企業はマナウスにしか進出する余地がなかっただけの話です。


 町の中を歩いてみました。

 現在、マナウスにはブラジルにおける二輪車産業の生産能力の9割以上が集中しています。また、電機産業の状況も二輪車に近いものがあります。マナウスの中心市街地に近い工業団地には、二輪車関連メーカーと共に、松下電器、ソニー、サムスン、LG、そしてEMSのジェイビルサーキット、フォックスコーン、フレクストロニクスなどの工場がずらりと立ち並んでいます。日本人の感覚では秘境そのものの大アマゾンのど真ん中に、世界を代表する大メーカーの工場が立ち並んでいる様は壮観です。


 市街地から郊外の工業団地に向かいます。


 有名メーカーの工場がたくさんあります。

 なお、マナウスの工業団地では、外界から半ば隔絶された特殊な立地条件もあって外資系企業同士で助け合う伝統が根付いている、という話を現地で聞きました。
 かつて日系エレクトロニクスメーカーが、ホンダの二輪車工場の成形機を借りてテレビの筐体を生産したことがあったのだそうです。逆に、プレス機械の故障で部品生産に支障を来したホンダが、韓国の家電メーカーのプレス機械を借りることによって部品生産を続けたこともあったそうです。このように業種や国籍を超えて外資系企業が助け合うという例は、他所ではなかなかありえないでしょう。

 こんな世界でも稀な、不思議な工業都市・マナウスに進出している日系企業の姿を、次回以降紹介したいと思います。

※なお上記の内容は2006年1月に訪問したときに伺ったお話を基にしており、現在は 事情が変わっている点があると思います。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
現在マナウスに滞在中です。 (和田 好司)
2009-09-21 18:41:42
現在マナウスの滞在中ですが、時宜を得た記事をトラックバックして頂き有難う御座います。トメアスーから始まりべレン、マナウスのアマゾン移住80周年を祝う式典に参加しました。BLOGに写真とともに掲載して行く積りです。
またブラジルで一緒にお仕事させて貰いたいですね。
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コメントありがとうございます (kunihiko_ouchi)
2009-09-21 20:25:47
こんばんは。MLでマナウスに滞在とのことを知り、アップしました。これから時間があればマナウスのことをアップして行きたいと思います。こちらこそまた一緒にお仕事させてください。
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