さくらおばさんの ひとりごと

日々の想いを綴ります。

「人間の未来へ ダークサイドからの逃走」展

2006-04-30 | 美術・写真

 部屋へ入ったとたんに、胸に圧迫感を覚えたのはなぜなのでしょう。この部屋は、金属ブロックを組み合わせて作った人体像が展示されていて、とくに「戦争」を思わせるものではないのに。
 これからの展開を、私の体が勝手に予感してしまったのか。建物の構造のためなのか。

 なんといっても、マイケル・ライトさん(アメリカ)の『100 SUNS』からの36点の写真が衝撃的でした。
 ギャラリーガイドに「(アメリカ軍の原水爆)実験にかかわった多くのアメリカ人は、人体に及ぼす脅威の真実を知ることなく、その強大な破壊力と美に魅せられている。」(マイケル・ライト談)とある通り、「美しい」画像です。キノコ雲の様々な形態が目を惹きつけます。けれど、その手前で実験を見ている人たちの─多分、人体実験だと思うのです─表情や姿に私が違和感を覚えるのは、放射能というものを多少でも知っているからでしょう。この方たちの多くは癌によって亡くなったそうです。
 最も胸のつまった作品でした。

 橋本公(いさお)さん(日本)は「わかりやすく、見るほうにも抵抗感のないものを創り」、展示していました。隣の部屋にいても始終「ピッポッ」という電子音がきこえていました。
 壁面にある大きな世界地図(パソコンやテレビの画面を大きくしたようなもの)のあちこちで、せわしなく光が点滅し、電子音が鳴っていました。
 1945年から1998年までに7カ国で行われた2053回の核実験を、1カ月を1秒に縮めて示したものです。
 チェルノブイリの事故も日本人に影響を与えているというのですから、こんなにたいへんなことが世界中で行われているのでは、地球は、人間は(他の生物も)どうなるのだろうと、体がこわばりました。

 広河隆一さん(日本)の写真は、『DAYS JAPAN』や写真集で見ていましたし、昨年の「フリーランス フェスティバル」ではお話をきくこともできましたので、強い関心をもってみました。
 アフガン難民やチェルノブイリの犠牲者を撮ったものが展示されています。
 幼い子どもの、何を見つめているのか“パッキリ”と開いた暗い目には、絶望しか映っていないのではないでしょうか。
 そもそも911そのものが「仕組まれたもの」という見方が広がっている、アフガニスタンやイラクへの軍事行動です。
 なんでこんなにも多くの人びとを苦しめなければならないのでしょう。
 その場にうずくまりたいのをやっとこらえました。

 展示作品のほとんどが、単純に明るい未来を指し示してはいません。むしろ暗澹たる思いに駆られます。
 そのような中にあって、長倉洋海(ひろみ)さん(日本)の、「生まれたばかりの赤ん坊を取り囲む難民の子どもたち」や、二人の幼い男の子と女の子が歩む後姿を撮ったユージン・スミスさん(アメリカ)の「楽園への歩み」が、私にとっての「人間の未来」をつくる原動力なのではないかと思わせてくれました。

 展示されたもののなかには、私の“好み”とは異なるものもあります。けれど参加した芸術家たちは、それぞれ「このやり方でしか表現できない」というギリギリの想いだったのではないでしょうか。そんなことも感じました。

 トルストイや池田香代子さんのことば、谷川俊太郎さんと茨木のり子さんの詩が、とても的確な場所にパネルで配置されていて、暗くなる気持ちをはげましてくれます。

 展示期間は5月7日(日)までです。

 

 水戸芸術館          http://www.arttowermito.or.jp/atm-j.html

 911 In Plane Site   http://www.wa3w.com/911/ 

 NHK BS 1 「チェルノブイリ 20年目の歌声」 再放送
  5月5日(金) 17時10分
  広河隆一さん出演

コメント (2)
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