箱庭を騙る檻の中の書庫

漫画や小説、音楽などに対する主観的感想。
最近偏り気味です。

魔人探偵 脳噛ネウロ「世界の果てには蝶が舞う」 : 松井優征/東山彰良

2007-08-23 00:20:24 | 小説
■魔人探偵 脳噛ネウロ:週刊少年ジャンプ連載中

ジャンプに連載中の漫画のノベライズ(小説化)。
「D.Gray-man」のノベライズから、ジャンプの小説はすべて単行本サイズになったため、
書店で見ると漫画の新刊なのか小説なのか少し悩む。

今回の主人公は、連載当初から登場し弥子と深い関わりを持つ刑事、笹塚衛士。
能力の高さとテンションの低さが持ち味。
# ちなみに、彼とアヤ・エイジアがこの作品ではお気に入り。

国家公務員試験を控えたある日。
笹塚は家族全員を何者かに殺害され、失った。
切り刻まれた父母の遺体、見開かれた妹の目は、笹塚の精神に異常をきたすに十分だった。
逃げるように日本を飛び出したものの、自分が何をすればよいのか分からず
ただ闇雲にもがく日々。

復讐の二文字を掲げた彼の元に、南米のある町で羽に記号を描かれた蝶が導かれるようにやってくる。
その記号の意味を探ろうと立ち寄った町で、エマという日系人の少女に出会う。
祖父の影響で「~である!」という言葉遣いなのが可愛い。

エマの祖父はマフィアのボス。一般的に言われている、スラムのヒーローの姿がそこにはあった。
…まぁ、笹塚に「メシを食っていけ」と笑顔で銃を突きつける人物ではあるが;
家族を殺される痛みを知っているマフィアに囲まれ、痛みが薄れ憎しみを忘れることを恐れつつも
以前のような精神状態からは脱した笹塚。
しかし、笹塚が滞在する間に、このファミリア内で殺人事件が起こる。
警察の手を借りずに事件解決に乗り出すが、しかし更なる事件が彼らを襲う。

物語的には、原作と差異なく読み進められた。
ただ、漫画で読むとさらに面白いだろうなとも思う。
笛吹と笹塚の厳しくも深い関わりも窺えたのが印象深い。
また笹塚が、ファミリアに身を寄せている元軍人のトガシから、銃の扱いや射撃の腕、
体術などを数ヶ月かけて習得したことも語られている。
爆弾魔ヒストリアの事件で披露した射撃の腕前には、こういう背景があったらしい。

エマとトガシ、笹塚のやりとり(といっても喋るのは主にエマとトガシだが)がとても楽しい。
200ページちょっとの作品だが、さくさくと一気に読めた。

にしても、表紙裏カバーの3Dは必須なんだなぁ。

アフリカ旅商人の冒険 : エラリー・クイーン

2006-09-05 23:28:20 | 小説
主人公は、作者と同名のエラリー・クイーン
ある日、ハーヴァード大学で「応用犯罪学」講座の教鞭をとることになった彼は、
書類選考で選ばれた2名の青年、そして飛び入り参加の女性1名の計3人で、
実際にホテルで起こった殺人事件の謎を解くことにする。

現場の状況や被害者との人間関係を調べた彼らが出した結論はそれぞれ違うもの。
どこに推理の穴があるのか、見落としている部分はなかったか。
「授業」という形を取りながら、エラリーがその全ての謎に答えを出す。

というのが、この物語の大筋。

エラリー・クイーン(Ellery Queen)は、アメリカの推理作家。
その代表作として、『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』や
『ドルリィ・レーン』シリーズなどがあるが、正直そっちは読んだことない;

小学生時代に、まず言わずと知れた名探偵ホームズにハマり、
次にアルセーヌ・ルパンにハマったが、最終的にすっ転んだのが
このエラリー・クイーンだった。

有名な小説家であり、探偵であるエラリー・クイーンは長身の青年。
父であるニューヨーク市警察捜査課のリチャード・クイーンが手掛ける事件に
首を突っ込んでは、解決へ導いていく。
とはいえ、探偵としてのエラリーを頼って持ち込まれる事件も少なくないし、
旅行先で否応なしに巻き込まれたケースだって存在するが。

エラリー・クイーンの醍醐味は、ユーモアの溢れた言葉のやり取りだと思う。
リチャードの部下の巨人ヴェリー部長、検死医のプラウティー医師とのやりとりもまた楽しい。

出版社ごとに翻訳が異なるが、一番好きなのは、エラリーがリチャードを
『お父さん』『おやじさん』と呼び、リチャードが『エル』と呼ぶ創元推理文庫版。
長編もよいなと思うけど、短編集のが読みやすい(^^;)。
さくさく進むし、いろんな話が詰まっているので、こちらの方がオススメだな。
ちなみに『アフリカ旅商人の冒険』は、『エラリークイーンの冒険』という
短編集に収録されている。

ブギーポップは笑わない : 上遠野 浩平 / 絵:緒方 剛志

2006-06-23 21:53:48 | 小説
メディアワークス/電撃文庫。

深陽学園の3年生である竹田啓司は、同じ学校に通う2年の宮下藤花と付き合っている。
彼はある日、あっけらかんとした面を持つ藤花にデートをすっぽかされ、
その出来事から、彼女に別の人格が潜んでいるのではと疑いを持つ。
果たして、竹田の目の前に「不気味な泡(ブギーポップ)」と名乗る人格が現れる。
実はブギーポップというのは、『その人が1番美しいときに殺してくれる死神』として
女子生徒の間では都市伝説のような噂になっている名前なのだが、
もちろん竹田はそれを知らない(笑)。

ブギーポップは、自分は『周囲に異変を察したとき自動的に浮かび上がってくる』といい、
学園に危機が迫っていると告げる。
竹田は、決して笑わないが小難しい事を話すブギーポップと親交を深める。
時たま、見たものによって色々な感情が読み取れる左右非対称の表情を浮かべ、
ワーグナーのニュルンベルクのマイスタージンガーを口笛で奏でるブギーポップ。
彼(?)が竹田の前から姿を消すとき、一つの事件が終焉を迎えた。
けれどそのことは、その事件を体験した当事者のみが知り得ることなのだ。

というのが、ざっとのストーリー。

この本を知ったのはもう何年も前だが、きっかけは妹からの薦めだった。
正直、第1章を読み終えたときには、ただの青春モノにしか見えず
何がそんなに面白いのだろうと思ったものだが、第2章以降を読み進めていくと、
その理由が分かった。面白い。
そりゃ漫画にアニメ、実写版映画も作成されるよなぁ。

章によって語る人物が異なり、それぞれがそれぞれの視点で物事を捉える。
彼らは、自分の身に起こった事柄から「あれはこういう事件だった」という
結論を導き出す。
一方読者は、あらゆる側面をパズルのピースのように組み合わせることにより
その事件の全容を知ることができるのだ。

この作品はシリーズ化しており、続編が沢山出ているが、
ある作品で語られた出来事が、別の作品で別の視点で描かれていたりと
物事を多角的視点から見ようとする手法が随所で見られる。
# もちろん、同一作品内でも、この手法が使われているが。
それでも、その手法が一番輝いているのは『ブギーポップは笑わない』だろうな…。

機会があったら、このブギーポップシリーズの他作品についても語りたいところ。
とりあえず、この本は一気に読むべし☆


=========================================================
 起こったこと自体は、きっと簡単な物語なのだろう…。
 でも、私たち一人ひとりの立場からその全貌が見えることはない。
 物語の登場人物は、自分の外側を知ることはできないのだ。

 「僕は自動的なんだよ」
=========================================================