徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

柄前の新規作成

2010-12-29 02:41:25 | 拵工作
年末の集中工作第二弾! 柄前が完成しました。



オーナー様のご意向は、鮫皮の黒塗りと紫の柄巻きであること。
その他のディテイルは、全てお任せいただくことになり、工作を開始いたしました。
全てお任せの拵えでは、お客様からそれだけ信頼いただいているというありがたいご依頼である反面、プロとして御刀の良さを引き出す最高の技術が要求されているというプレッシャーも感じます。

逆に、金具指定などのご依頼の場合は、ある程度バランスと使用感を調整することで作成いたしますが、全てお任せいただく場合は、拵え師のセンスと御刀の性能を最大限に引き出す能力が要求されるわけです。

まず、柄成りを考えてから刀装具の選択に移るなど、一般的な金具の選択とは順番が異なってきます。
しかも、当御刀のオーナー様は、伝統文化や工芸品に正しいご理解をお持ちのお客様なので、ますます悩みに悩みます(この時間が楽しかったりもしますが…)。
ラフスケッチを何枚も描いては破り、描いては破り…最後にたどりついた構想は、私以外に作る人がいないであろう拵えを作る!ということ。半ば挑戦的な発想から、完成したのが下の柄前です。



刀装具の形状は、肥後金具ですが、金属の下地を研ぎ出し加工した鮫皮で覆っています。
現代の拵えで、このような加工を施した拵えは恐らく世界に2つとないでしょう。
頭金具には、「山路」などと呼ばれる武士道の人生観を表現する登っては降りる山の道を表現しました。目貫には、素剣に龍の図(倶利伽羅竜)を選択。
ちなみに、柄巻きは通常の太さの柄糸ではなく、できるだけ細い柄糸を用いて仕上がりの美しさにこだわりました。



私にとって拵え製作とは、精神的な意味合いが非常に強いこともあり、作り上げた時の達成感と疲労感は想像を絶するものがあります。
というわけで、休憩!

柄前製作を終えて

2010-12-27 12:42:19 | 拵工作
今年も残すところ、あとわずかとなりました。
クリスマス期間中ゆっくり過ごしてしまったこともあり、年末にかけて集中して拵え工作に専念するつもりです。というわけで、まず一振り目のお刀が完成!



当該御刀は以前に柄前製作をご依頼いただいており、今回は以前製作した柄前のアフターフォローと新たな柄前の作成です。
以前手掛けた拵えが戻ってくると、なんとも言えないうれしい気持ちになります。
今回は、他の刀装具を用いて新しい柄前を製作します。
一つの御刀に数種類の拵えをお作りになることからも、御刀を大切にされていることが伺えて好印象です。

以前の工作の様子はこちらから。
http://blog.goo.ne.jp/kosiraeshi/e/b8d3851fe2bbd9c4861f20656e570910



前回の柄前↑ 今回の柄前↓



この度のご依頼は、前回同様の柄糸にて、柄成も同一というものでした。
しかしながら、柄頭が前回の金具に比べて非常に大きいため、柄下地が多少肉厚になったことは否めません。このように、金具によっても拵えの工作工程が若干変わることがあります。



リピーターのお客様にご支持いただけることは、職人冥利に尽きます。
理由が「極端に安いから」ではなく、「何処の拵師よりも腕が良いから」と言われる様に日々精進していきたいと思います。

製作中の拵え

2010-12-25 19:20:33 | 拵工作
刀剣の柄前製作は、大きく分けて3つの工程からなります。
それは、柄下地・鮫皮加工・柄巻きです。

中でもあまり表面に見えませんが、最も重要な部分が、柄下地です。
下地の製作に関しましては、以前にメンバーサイトでご紹介しましたが、唯一刀身と接する部分でもあり、慎重な工作が要求されます。
今回のお客様ご指定の刀装具は、頭金具が一般的なものよりも深く、太刀拵えや半太刀拵えに見られる兜金のように、金具の中にも下地を作る必要があります。

この場合、下記のような頭下地を作成します。金具を被せてガタツキが出ないように微調整を繰り返します。



次に重要な工作が鮫皮加工です。

『鮫』皮は、実際には『エイ』皮ですが、なぜ『鮫』なのか?は諸説あるようです。
恐らく、語源は鮫=SHARKではなく、ましてエイでもないでしょう。理由は、柄前に用いるエイが日本近海で取れないことで、昔の人は魚介類由来とすら思わなかったかもしれません。むしろ、沙目(細かい粒)⇒鮫(当て字)ではないかと思います。
ちなみに、鮫や巨大な魚のことは、ワニとかフカといった表現が用いられていたようです。



そんな鮫皮ですが、一枚の鮫皮から取れるのは、柄前1つ分に過ぎません。
私は、一般的な鮫皮よりも一回り大きな鮫皮が好きなので、写真のような鮫皮を用いています。

柄下地の製作と鮫皮の加工工程や艶出しの作業には、とても多くの時間と根気が必要です。

拵え製作の悩み

2010-12-16 02:49:25 | 拵工作
拵えを作っていると、技術的な悩みが絶えません。ここ数日ずっと悩まされていることがあります。
事の発端は、あるお刀の柄前製作依頼から始まります。

そのお刀の柄前は、以前当工房にて製作させていただいたもので、お客様が居合や試斬にお使いになっています。
このたびオーナー様から、刀装具(縁・頭)の交換を検討される旨のご相談をいただきました。早速拝見すると、新しい金具が現状のものと違う形状であり、安易に交換をするには強度面・バランス面にて不安が残るため、現在の柄前はそのままに、新しく柄下地から柄前を作製する運びとなりました。

柄前製作自体はさほど問題ではないのですが、私の悩みの種は鞘にあります。
実は、当のご依頼をお受けする際に、素人の方がお作りになった鞘に収めてお預かりしたのです。その鞘はなかなかの力作で、DIY感が実に微笑ましい塗鞘でした。猛烈に漂うカシュー漆の臭いも、時が経てばじきに納まるでしょう。
しかしながら、問題は自家製鞘ということではなく、その鞘の掟が守られていないということなのです。
鯉口金具が逆さまに取り付けられていることは無視するとして、鯉口の角度が違う方向を向いてしまっています。
本来、鯉口は鞘の反りに合わせて角度のある位置になければならないのですが、この鞘はくり型と水平の位置に鯉口があります。

打刀の拵えの図

DIY塗鞘に柄前を作った場合の完成予想図

実際に柄下地を作ってみたところ、やはりというか当然鯉口と柄縁の部分に段差が生じるのです。
また、目の錯覚も働いてか…鍔が斜め上を向いているような拵えになります。

このたびのご依頼は、鞘に合わせての工作ということなので、この形で製作するしかないわけですが、せめて柄に合わせて鞘を作っていただけたらなあ~と思う瞬間でした。

あとは柄成を整形し、できるだけ不自然さの目立たない拵えに仕上げていきたいと思います。

柄前修復&鍔加工

2010-12-10 14:07:26 | 拵工作
明日納品予定でお預かりのお刀が完成しました!



オーナー様が女性ということもあり、何の変哲もない黒い柄糸を、パッと華やかな柄糸に変更し、巻き上げました。



握りにくいゴロンとした柄成りを整形し、お持ちになった目抜きと交換。滑る柄糸を写真の紐に変更、摘み巻きから諸捻り巻きへ…(居合等にお使いになられる柄前は諸捻りをお勧めしています)。



切っ先が重いお刀のバランスを調整するため、軽い透かし鍔から写真の鍔へ変更。
オーナー様のたってのご希望により、鉄鍔を金(24K)を用いて加工しました。



波に桜の図の鍔を選択。鍔の表は、帯刀した状態で見える様に、桜(静)を強調。裏は、抜刀した状態で見える様に、荒波(動)を強調しました。

デザインのバランスと使用感のバランスを考えて工作いたしました。
女性ならではの華やかな拵えに仕上がりました。