精神科医山内の心の相談室

日常の臨床経験から得た心の悩みに役にたつことをわかりやすく説明します

自分がする、自分でする、ということ

2012-08-10 | 日記
あるうつ状態の人が、回復していく過程で、こう語ります
「仕事ができていた頃の自分は、他人によく評価されてきた、
しかし、どんなに評価されても、それで自信には繋がっていなかった。
うつを経験し仕事から随分遠ざかっていた。
風呂にも入るのが苦痛だった状態から、
やっと、良くなっていくとき、それまでの自分と違う経験をした、
まず自分がしたいことをしようとしていた、
それは髭を剃る、風呂に入る、という些細なことからであったが、
そのような些細なことでも、
他人に評価されることからでなく、自分がしたいことをする、
それで以前とは経験したことない、良い感じを経験するようになった。
それで、仕事も、少しずつ、はじめてみた。
周りの評価を最初に考えたりするのでなく、
我儘かなと思いつつも、自分がしたい仕事をする、すると意外と、
周りもそれで良いと評価してくれ、戸惑う」
この例で説明したいことは、
「他人の評価が先でなく、自分の気持ちに従って、行う体験が、
自信になる」ということです。

幼児が、食事など、日常の風景で、「自分で」「自分で」、と親にせがむ、
これは自分でしてみたいのだという、自己主張で、親もそうか、そうかと、
微笑ましい光景がある。
精神分析学を学び始めた頃、幼児と親との間の、相互的な関係が大事だという
記載が、とても良いと思いました。
丸々と健康的な幼児がにこにこと、「自分で」と言い、親もつい、ほほ笑む。
その逆に、ミルクを嫌がり、よく泣く、手のかかる子に、親はついつい顔もきつくなる。
よく泣く子は、泣くという自己主張で精一杯で、
「自分で」したい、ということを殆ど言ってない、その機会を逃している。
親も、自分でさせてみようという余裕が、手のかかる子を前になくなっている。
よく泣く子にも、親にも、両方、言い分があるのだが、
やはり親の言い分が強いもので、よく泣く子は、我慢して、
小学生になる頃には、親のいうことをよく聞く良い子になっている。

うつが長引いている方や神経症性のうつと思われる方、また摂食障害の方には、
私が説明してきた強迫性の強い方が多いです。
そういう方は、子供の時から、よく我慢してきたのでは、と思われることが多いです。
良くなるためには、その我慢から、解き放たれ、
自分の、したいこと、好きと思うこと、それを「自分で」してみることが大事になります。
「失敗が怖い」といわず、できないのではなく、「やっていないだけ」だと、
踏み出してみることが大事です。