精神科医山内の心の相談室

日常の臨床経験から得た心の悩みに役にたつことをわかりやすく説明します

薬物療法について

2012-02-14 | 日記
精神分析学が役に立つということをこのブログで書いてきて、
触れていなかった薬物療法について、
今回説明します。

症例(説明のための架空症例)で説明します。
50台の夫婦が受診。夫がうつで、会社を辞めたくなっている。
夫は困惑した表情で殆ど話さない。
その一方妻は夫の気持ちを多弁に解説する。
その夫婦の様子は、問題が夫婦関係にあるのではと思えるほどで診断に迷いました。
面接後半になって、妻の介入の多さを差し引いても、
本人の困惑は強いと考え、内的焦燥の強いうつ病と診断して、
抗うつ薬の処方を行いました。
抗うつ薬は少しずつ効いて、2回目以降の診察からは、症状の改善とともに、
夫自身が少しずつ話ができるようになり、
妻の方も先に話し出す傾向は減っていきました。
うつ病から回復し、治療が終る頃には、
ごく自然な夫婦の会話のやりとりがみられるようになっていました。
この症例で私が説明したいことは、
うつ病など心の病気と言われるものは、
身体の病気に薬が効くように薬は効く、薬物療法は効果的である、ということです。
そして夫婦のことなど心理環境因的なことに問題があると思われるような状況も、
症状の改善に伴い改善する場合があるということです。

一方薬物療法だけでは治療の限界があります。
症例(説明のための架空症例)で説明します。
20代の男子の大学生。幻聴や妄想に悩まされていた。
処方した薬がよく効いて、服薬4週間目にはかなり幻聴は消えていた。
しかし彼はこう言いました。
先生、薬を飲まなかったときのほうが、幻聴があったときのほうが、楽でした。
僕はこの大学に入って良かったのか、今はその悩みのほうが辛いです。
この症例で説明したいことはまず、
幻聴や妄想の改善には薬物療法が効果的であるということです。
幻聴や妄想は、うつ病の症状よりも、まだなお偏見のある症状ですが、
薬物療法の効果があり、症状がなくなることも決して珍しくありません。
次に説明したいことは、
服薬によって症状はなくなっても、
再発しないために如何に服薬を守るか、ということが言われやすいのですが、
ただ服薬を守れば良いというのではなく、症状の意味を考える必要がある、ということです。
症例の彼の悩みの基本は、症状ではなく、大学生としての自分でした。
症状がとれれば良いという関わりであると、
彼は何のために服薬を続けるのかわからなくなり、
生きていることが辛いという方向、即ち自殺の方向を選ぶ心配が出ます。
 
どんな病気でも、薬で治るなら、という気持ちと、
薬は飲まずに他の方法で治したいと、二通りの気持ちを持つのが、
人の心情だと思います。
薬物療法も精神療法もどちらも大事ということは、
当たり前といえば当たり前のことですが、
基本的な大事を確認するうえで、今回のブログを書きました。