さて、ポメラニアン・・・。
くりくりとしたつぶらな瞳。
フワフワの被毛を持つ体。
いつまでも仔犬の様な顔立ち。
まさに生けるぬいぐるみ!
スタンダードに被毛を伸ばしても、サマーカットにしても、可愛いったらありゃしない!
そんな可愛いポメラニアン。
私が1番最初に一緒に暮らしたワンコも、この犬種。
ポメラニアンのヤシチである。
彼もまた、性格は暴君ながらも非常に愛らしい見た目をしていた
当然、私の中でポメと言えばヤシチを一番に思い浮かべる。
しかしそんな私がヤシチ以外にも深く心に残るポメがいた!
勤めていたサロンに来ていた、ピポちゃん♀である。
出会いは、そのサロンで働き出してから1年程の頃。
うららかな春の日に、ピポちゃんはやって来た
私はその日『えーっと、次のワンコは・・・』とカルテを手にとった。
常連さんでもご新規さんでも無いが、一年勤めてそのカルテを見るのは初めてだった。
だけど『(カルテが)真っ白ではないと言う事は、当分どこか他のサロンへ行ってて、戻って来たのかな?』と想像した。
そして次に、そこに書かれた注意書きの多さに驚いた。
『状態によっては何もしないで返す事!』
『嫌がる事は、例え少しでも無理強いしない!』
『シャンプー、ドライヤー、全ての作業を短時間で!』
『室温、お湯の温度、扱い、とにかく全ての作業に気を配るべし!』
これらは全て、どんなワンコにも気をつけないとイケナイ、基本的な事。
だから普通は書いてません。
しかし敢えて書いてあるって事は・・・??
そして歴代の先輩トリマー達による書き込みの、特に最後の書き込みに、私は固まった。
『マメに呼吸確認!』
ええーーーーーっ!!?
( ̄□ ̄;)
呼吸確認て、呼吸確認て、息してるか確認って事!?(←当然)
私はピポちゃんの入っているゲージを見た。
するとコチラに背を向けて静かに眠る、一頭のポメラニアンを発見。
『ピポちゃん・・・』
名前を呼んでみる。
が、全くの無反応。
どうやら耳は全く聞こえていない。
と、ピポちゃんの名を呼んだ私に、先輩トリマー達が顔を上げた。
『あ、ピポちゃん来たんだ?』
『わぁー、嬉しい!まだまだ頑張ってるんだねぇ』
『ピポちゃーん、また会えたねぇ』
にわかに暖かい空気が流れる。
ピポちゃんと初対面な私はただただ『???』
すると1人の先輩が私に言った。
『あ、驚いた?実は、ピポちゃんはねぇ、ハタチなんよ』
へぇ、ハタチ・・・・・
って、ハタチぃい!!!????
ここで言うハタチとは勿論、人間でいうおめでたい系の、成人式とかのあのハタチとはまた別物である。
犬の20歳。
人間の年齢に換算すると96~100歳ぐらい
驚愕系のハタチなのである
ナルホド、一年勤めてやっと初対面でも不思議は無い。
ピポちゃんは気候の良い春、一年に一回だけサロンにやって来るのである。
『ははぁー。ピポちゃん、よろしくね』
私はゆっくりそのポメを抱き上げた。
するとピポちゃんはやっと私に気付いた様子で、
『ん・・・?』てな感じで顔を上げた。
目は勿論白内障で真っ白。
歯が無い為に、舌もペロリと出ている。
でもすごく可愛い、子犬の様な顔立ちはまだまだ健在。
でも、ちょっと恐い
何が恐いって、トリミングは少なからず犬にとっては負担になる。
先輩曰く、ピポちゃんは過去に何度もトリミング中に旅立ちかけたと言うのである。
飼い主さんの姿が無い場所で、逝かせたくは無い
私は歴代の先輩からの数々の注意事項をしっかりと心にとめ、トリミングを始めた。
まず、嫌がる事は無理強いしない。
幸いこの頃のピポちゃんは爪切り等にそれ程のストレスを感じない様で、ウトウト。
『ホッ』
お次は、シャンプー短時間で!加えてお湯の温度に注意。
熱くも無く冷たくも無いぬる目のお湯で、シャンプー開始。
流石にピポちゃんも、体を濡らされる事には反応した。
特に嫌がって暴れる訳では無かったが、お風呂の中でヨロヨロと歩こうとする。
これは素早く終わらせなきゃ!
でも一年に一回だから入念に洗ってあげたい!
でもでも時間はかけられない!
何とかシャンプーを終え、これもクリアー
お次はドライヤー。
ピポちゃんはドライヤーの温風で、またウトウト。
が、油断は出来ない!
ここでさっきのマメな呼吸確認が必要になって来るのである。
ぶおおおおおん(ドライヤーの音)
↓
一旦ドライヤーを止める。
↓
『プスー、プスー』(ピポちゃんの寝息)
ホッ
ドライヤー再開
↓
ぶおおおおおん(ドライヤーの音)
↓
数分後、また一旦ドライヤーを止める。
↓
『プスー、プスー』(ピポちゃんの寝息)
ホッ
ドライヤー再々開
↓
ぶおおおおおん(ドライヤーの音)
↓
数分後、またまた一旦ドライヤーを止める。
↓
『・・・・・・・・』
『!?』
↓
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
ちょちょちょっとぉぉぉおおおお!!!!!
( ̄□ ̄;)
息して!息っ!!!
私は心臓が止まりそうな思いでピポちゃんの鼻に耳を当てた。
が、やっぱ息してない!!!
急いで人工呼吸!
舌を横へ引き出し、鼻を咥えて息を吹き込む。
同時に先輩が手際よく心臓マッサージ。
すると、良かった!!!自発呼吸再開!!!
ピポちゃんはまるで『ん?何かあった?』みたいな感じで頭を上げ、コチラを向いてきた。
私は『ゴメンねゴメンね!私のトリミングが負担かけちゃったのかな?』と
安堵からへたり込んだ。
すると先輩が『え?あぁ!違うで!何年か前から、ピポちゃんはいつもトリミング中1回はこうやねん』と言った。
まぢですか!?!?!?
( ̄□ ̄;)
いつもこんな、命の瀬戸際が1回はあるんか!!!?
念のため飼い主さんに連絡を入れると、
『ああ、また止まったんですか・・。それでまた戻らせてくれたんですね。ありがとうございます』
とアッサリしたもの。
未だ動悸の止まらない私が
『病院へ連れて行きましょうか?』と聞くと
『いいんですよ。本当にいつもの事なんです。大丈夫だと思うので、そのまま仕上げてやって下さい』との事。
凄い・・・・
私はその時、そう思った。
どうやら慌てていたのは、ピポちゃんと接するのが始めての私だけだった
飼い主さんも先輩も、落ち着いている。
それは勿論、ピポちゃんへの愛情が無いとかでは無い。
達観と言うか、悟りと言うか、そんな感じがした。
私は電話を切った後、落ち着いて手早くトリミングを終えた。
そして飼い主さんのお迎えの時間。
飼い主さんは私達に厚くお礼を言ってくれ、
目を細めて『来年も、来れるといいねぇ』とピポちゃんに話し掛けながら帰って行った。
大切な宝物を抱くように、体を丸めてピポちゃんを抱く飼い主さん・・・。
その後姿を見て、私は自分の勘違いに気付いた・・・。
達観なんて、出来る訳が無い・・・。
ただただ一生懸命、
『やがて来る時』と向き合おうとしているんだ・・・・・
ピポちゃんと飼い主さんが始めて出会った時、飼い主さんは20代。
それから20年の時を、2人はずっと一緒に過ごした。
そして飼い主さんは40代。
でも、何ひとつ変わらない愛が、そこにはあった。
その年の冬の朝、ピポちゃんは眠る様に息を引き取ったと、数年後に街で会った飼い主さんから聞いた。
『悲しかったけど、悔いは残って無いんよ』
と大切な時間を思い出すような、優しい目で語ってくれた。
悲しいけど、動物は人間よりはるかに早く年をとる。
悲しいけど、永遠の命は無い。
だからこそ、命ある限りせいいっぱい愛する事が、大切・・・である。
私も、悔いが残らないぐらいに愛したい。
P・S
昨年末に愛犬キナコが前庭疾患で倒れ、数日前にまた愛犬アズキが前庭疾患。
(こちらは1時間程度で持ち直しましたが)
2頭とも無事ではあるものの『もう年なんだなぁ』としみじみ感じます。
ウサマは、愛犬が私に『私ら、もう年なんよ。いつかそのうち、お別れは来るんよ』
と教えてくれてるんじゃない?と言っていました。
それでかな?どうも最近、よくピポちゃんと飼い主さんの事を想い出します。
どんなに愛しても『もっともっと』と悔いは残りそうですが、
『出来ないこと、してやれない事があった』の後悔は別として、
『出来るのに、してやらなかった』の後悔が無い様にしたいです
くりくりとしたつぶらな瞳。
フワフワの被毛を持つ体。
いつまでも仔犬の様な顔立ち。
まさに生けるぬいぐるみ!
スタンダードに被毛を伸ばしても、サマーカットにしても、可愛いったらありゃしない!
そんな可愛いポメラニアン。
私が1番最初に一緒に暮らしたワンコも、この犬種。
ポメラニアンのヤシチである。
彼もまた、性格は暴君ながらも非常に愛らしい見た目をしていた
当然、私の中でポメと言えばヤシチを一番に思い浮かべる。
しかしそんな私がヤシチ以外にも深く心に残るポメがいた!
勤めていたサロンに来ていた、ピポちゃん♀である。
出会いは、そのサロンで働き出してから1年程の頃。
うららかな春の日に、ピポちゃんはやって来た
私はその日『えーっと、次のワンコは・・・』とカルテを手にとった。
常連さんでもご新規さんでも無いが、一年勤めてそのカルテを見るのは初めてだった。
だけど『(カルテが)真っ白ではないと言う事は、当分どこか他のサロンへ行ってて、戻って来たのかな?』と想像した。
そして次に、そこに書かれた注意書きの多さに驚いた。
『状態によっては何もしないで返す事!』
『嫌がる事は、例え少しでも無理強いしない!』
『シャンプー、ドライヤー、全ての作業を短時間で!』
『室温、お湯の温度、扱い、とにかく全ての作業に気を配るべし!』
これらは全て、どんなワンコにも気をつけないとイケナイ、基本的な事。
だから普通は書いてません。
しかし敢えて書いてあるって事は・・・??
そして歴代の先輩トリマー達による書き込みの、特に最後の書き込みに、私は固まった。
『マメに呼吸確認!』
ええーーーーーっ!!?
( ̄□ ̄;)
呼吸確認て、呼吸確認て、息してるか確認って事!?(←当然)
私はピポちゃんの入っているゲージを見た。
するとコチラに背を向けて静かに眠る、一頭のポメラニアンを発見。
『ピポちゃん・・・』
名前を呼んでみる。
が、全くの無反応。
どうやら耳は全く聞こえていない。
と、ピポちゃんの名を呼んだ私に、先輩トリマー達が顔を上げた。
『あ、ピポちゃん来たんだ?』
『わぁー、嬉しい!まだまだ頑張ってるんだねぇ』
『ピポちゃーん、また会えたねぇ』
にわかに暖かい空気が流れる。
ピポちゃんと初対面な私はただただ『???』
すると1人の先輩が私に言った。
『あ、驚いた?実は、ピポちゃんはねぇ、ハタチなんよ』
へぇ、ハタチ・・・・・
って、ハタチぃい!!!????
ここで言うハタチとは勿論、人間でいうおめでたい系の、成人式とかのあのハタチとはまた別物である。
犬の20歳。
人間の年齢に換算すると96~100歳ぐらい
驚愕系のハタチなのである
ナルホド、一年勤めてやっと初対面でも不思議は無い。
ピポちゃんは気候の良い春、一年に一回だけサロンにやって来るのである。
『ははぁー。ピポちゃん、よろしくね』
私はゆっくりそのポメを抱き上げた。
するとピポちゃんはやっと私に気付いた様子で、
『ん・・・?』てな感じで顔を上げた。
目は勿論白内障で真っ白。
歯が無い為に、舌もペロリと出ている。
でもすごく可愛い、子犬の様な顔立ちはまだまだ健在。
でも、ちょっと恐い
何が恐いって、トリミングは少なからず犬にとっては負担になる。
先輩曰く、ピポちゃんは過去に何度もトリミング中に旅立ちかけたと言うのである。
飼い主さんの姿が無い場所で、逝かせたくは無い
私は歴代の先輩からの数々の注意事項をしっかりと心にとめ、トリミングを始めた。
まず、嫌がる事は無理強いしない。
幸いこの頃のピポちゃんは爪切り等にそれ程のストレスを感じない様で、ウトウト。
『ホッ』
お次は、シャンプー短時間で!加えてお湯の温度に注意。
熱くも無く冷たくも無いぬる目のお湯で、シャンプー開始。
流石にピポちゃんも、体を濡らされる事には反応した。
特に嫌がって暴れる訳では無かったが、お風呂の中でヨロヨロと歩こうとする。
これは素早く終わらせなきゃ!
でも一年に一回だから入念に洗ってあげたい!
でもでも時間はかけられない!
何とかシャンプーを終え、これもクリアー
お次はドライヤー。
ピポちゃんはドライヤーの温風で、またウトウト。
が、油断は出来ない!
ここでさっきのマメな呼吸確認が必要になって来るのである。
ぶおおおおおん(ドライヤーの音)
↓
一旦ドライヤーを止める。
↓
『プスー、プスー』(ピポちゃんの寝息)
ホッ
ドライヤー再開
↓
ぶおおおおおん(ドライヤーの音)
↓
数分後、また一旦ドライヤーを止める。
↓
『プスー、プスー』(ピポちゃんの寝息)
ホッ
ドライヤー再々開
↓
ぶおおおおおん(ドライヤーの音)
↓
数分後、またまた一旦ドライヤーを止める。
↓
『・・・・・・・・』
『!?』
↓
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
ちょちょちょっとぉぉぉおおおお!!!!!
( ̄□ ̄;)
息して!息っ!!!
私は心臓が止まりそうな思いでピポちゃんの鼻に耳を当てた。
が、やっぱ息してない!!!
急いで人工呼吸!
舌を横へ引き出し、鼻を咥えて息を吹き込む。
同時に先輩が手際よく心臓マッサージ。
すると、良かった!!!自発呼吸再開!!!
ピポちゃんはまるで『ん?何かあった?』みたいな感じで頭を上げ、コチラを向いてきた。
私は『ゴメンねゴメンね!私のトリミングが負担かけちゃったのかな?』と
安堵からへたり込んだ。
すると先輩が『え?あぁ!違うで!何年か前から、ピポちゃんはいつもトリミング中1回はこうやねん』と言った。
まぢですか!?!?!?
( ̄□ ̄;)
いつもこんな、命の瀬戸際が1回はあるんか!!!?
念のため飼い主さんに連絡を入れると、
『ああ、また止まったんですか・・。それでまた戻らせてくれたんですね。ありがとうございます』
とアッサリしたもの。
未だ動悸の止まらない私が
『病院へ連れて行きましょうか?』と聞くと
『いいんですよ。本当にいつもの事なんです。大丈夫だと思うので、そのまま仕上げてやって下さい』との事。
凄い・・・・
私はその時、そう思った。
どうやら慌てていたのは、ピポちゃんと接するのが始めての私だけだった
飼い主さんも先輩も、落ち着いている。
それは勿論、ピポちゃんへの愛情が無いとかでは無い。
達観と言うか、悟りと言うか、そんな感じがした。
私は電話を切った後、落ち着いて手早くトリミングを終えた。
そして飼い主さんのお迎えの時間。
飼い主さんは私達に厚くお礼を言ってくれ、
目を細めて『来年も、来れるといいねぇ』とピポちゃんに話し掛けながら帰って行った。
大切な宝物を抱くように、体を丸めてピポちゃんを抱く飼い主さん・・・。
その後姿を見て、私は自分の勘違いに気付いた・・・。
達観なんて、出来る訳が無い・・・。
ただただ一生懸命、
『やがて来る時』と向き合おうとしているんだ・・・・・
ピポちゃんと飼い主さんが始めて出会った時、飼い主さんは20代。
それから20年の時を、2人はずっと一緒に過ごした。
そして飼い主さんは40代。
でも、何ひとつ変わらない愛が、そこにはあった。
その年の冬の朝、ピポちゃんは眠る様に息を引き取ったと、数年後に街で会った飼い主さんから聞いた。
『悲しかったけど、悔いは残って無いんよ』
と大切な時間を思い出すような、優しい目で語ってくれた。
悲しいけど、動物は人間よりはるかに早く年をとる。
悲しいけど、永遠の命は無い。
だからこそ、命ある限りせいいっぱい愛する事が、大切・・・である。
私も、悔いが残らないぐらいに愛したい。
P・S
昨年末に愛犬キナコが前庭疾患で倒れ、数日前にまた愛犬アズキが前庭疾患。
(こちらは1時間程度で持ち直しましたが)
2頭とも無事ではあるものの『もう年なんだなぁ』としみじみ感じます。
ウサマは、愛犬が私に『私ら、もう年なんよ。いつかそのうち、お別れは来るんよ』
と教えてくれてるんじゃない?と言っていました。
それでかな?どうも最近、よくピポちゃんと飼い主さんの事を想い出します。
どんなに愛しても『もっともっと』と悔いは残りそうですが、
『出来ないこと、してやれない事があった』の後悔は別として、
『出来るのに、してやらなかった』の後悔が無い様にしたいです