Kitten Heart BLOG -Yunaとザスパと時々放浪-

『きとぅん・はーと』でも、小説を公開している創作ファンタジー小説や、普段の日常などの話を書いているザスパサポーターです。

【小説】「パスク、あの場所で待っている」第28話

2016年11月30日 14時25分51秒 | 小説「パスク」(連載中)
「いないのか……」
 古びた木造建ては、歩くたびに床が低い唸り声を上げていた。奥に続く廊下を歩いているわけだが、さほど広くはなく人がギリギリすれ違えるほどだった。
 廊下の奥まで突き進むと、幅が狭く急な階段が備え付けられていた。明かりとなるものがなく、途中は薄暗く、踏み板すらよく見えなかった。オレは滑り落ちないように手をかけながら上り詰めた。
 二階まで来てみたが、人の気配は無かった。この階には大広間があり、よく寝転げているのを見ることができたが、今日に限ってはそれはなかった。
「ちょっと待ってみるか……」
 大広間の窓を開放して外の景色を覗き見た。乾いた風が室内へ吹き込み、動き回って熱くなった体を程よく冷まして心地よかった。長旅の疲れもあり、自然と力が抜けてきた……。

「パスクさんじゃないですか!」
「……あ?」
 オレの顔をのぞき込むように、ひょろっと現れたのは長身の男だった。どうやらオレはこの大広間で転た寝をしてしまったらしい。
「どこへ行っていたんだよ、ナラン。探しだぞ」
「だからって……。人の家に上がり込んで、なにしているんですか?」
 やや茶色がかった髪をかき回していた。
「わざわざ会いに来てやったのに……。それはないだろう」
「その『わざわざ会いに来て』、どうしたんですか?」
「コリエンテのことをどう思っているかな?」
「パスクさんと一緒だと思いますよ。先に行かれた……って」
 昔、候補者入りを目指してコリエンテとナランハイヨの三人で争った。結果、オレとコリエンテが認められた。ナランに関しては翌年候補者入りすることができた。
 まして、コリエンテとナランハイヨは蓋名島出身同士。
「だろうな。オレも同じだよ」

「粗茶ですが……」
 ナランは、奥の方から茶菓子と共に持ってきた。謙遜しているとおり、一級品クラスの茶葉で入れたくらい味で分かった。
「コリエンテさん、それなりに『twenty』でがんばっているみたいですよ。実際は分からないですが」
「そうか……」
「基本、王室勤務の二人以外は地方護衛。土地勘がある出身地近辺にされることが多いから、この辺りだとたまに見かけますよ」
「元気でやっているなら、いいが……」
「会ってないんですか?」
「約束だからな、それまでは会うつもりはないな」
「……と言うよりも、会いづらいんでしょ? だから、情報収集にこっちに来たんでしょ」
 図星だった。正直、今の成績じゃ厳しいし現状も伝えづらい。
「……いや。お前がどうなっているのか、それも確認しに来た」
 とりあえず誤魔化してみたが、ナランは疑いの目をやめない。
「まあまあ……ですよ。パスクさんと変わらないと思いますよ」
 ナランもなんか誤魔化そうとしているようで、顔をこちらから反らした。そうか……。ナランも苦労しているんだな。
「しかし、今回の選考会は厳しいものになりそうですよ。なんでもとんでもないやつがいるとか」
「そうなのか?」
「え……? 知らなかったんですか。どちらかと言えば、パスクさんの地元付近だから知っていると思っていたんですが……」
「強いのはいろいろいるからな……。そういえば、ひとり聞いたな。覚えづらい名前で忘れた」

「さてと」
 話も終わりを迎え、日も暮れてきたので立ち上がろうとした。
「まさか、パスクさん。選考会参加同士がこれで終わりにするつもりなんですか?」
「そんなわけ、ないだろ」
 分かっていたが、やっぱりダメか……。


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