英雄百傑
第三回『豪傑、凡人を担ぎ世直しを決意す』
―あらすじ―
昔々、巨大な大陸を統治する皇帝がいた時代。
東国のある郡の町の牢の中、無銭飲食の罪で捕えられた口ばかりの優男は、
犯した罪を棚に上げ、自分の今の境遇を嘆いていた。
そんな優男が牢屋の冷たい石の壁に窓を発見し
そこに見える星空の見事さに目を奪われ、自分は皇帝を救った
英雄の末裔だと嘯いた。
もちろん役人は信じなかったが、その時、星空の明かりの影に隠れ
優男と同じ牢の暗がりから男がニュッと現れ優男に話しかけてきた。
―――――――――――――――――――――
「…その話は本当か?」
牢屋の暗がりの中からの声に少し驚いた優男であったが、
どこか自分に酔っていたと言うか、ヤケになっていたので、
再び胸を張り、こう答えた。
「おう、本当だとも。100年前、時の大臣ゴーロギーンの専横を破った平民出の英雄ガムダが嫡流。ザンゴーとは俺のことよ!」
「おぉ…なんと数奇な縁でしょうか」
暗がりから震えるような声が響くと、影はすくと立ち上がり
輝いた星空の光に当たるように優男の前に出て行く。
スタ…スタ…ズゥン!!
月と星の光が当たると、まるで牢屋の天をも貫くような
熊のような大男が、優男の前に姿を現した。
「ひっ、ひい」
「何を驚きなさる、わしはガムダ様と一緒に闘った武家の一門の者。名をスワトと申す」
「そ、そうなのか。う…うん、このような場所でかつての戦友に出会うとは、なんとも、そ、そのう、す、数奇な運命じゃ、じゃのう」
優男はスワトと名乗った男を見て、動揺を隠し切れなかった。
その余りの長身骨太、相手を威嚇するような真っ直ぐな目、
筋骨隆々な肢体から繰り出される威圧に加え凄みの利いた声に、
今までの怒りなど何処吹く風
優男の体は一瞬ですくみあがってしまった。
「しかし本当に数奇な縁ですな。ガムダ様の一族は皇帝を救った後、官職につくでもなく、誰にも見つからぬように東山の奥に隠れたという噂であったが…」
「は、はは。やっ、山暮らしも退屈でな。そろそろ都に降りて、天下に蔓延る悪党でも退治しようかと思ってなぁっ」
「そ!それではザンゴー様も気づかれていたのですか!」
「えっ?」
「今、天下に蔓延る悪党。つまり現皇帝をないがしろにする者達、『頂天教』の教徒と、その教祖『アカシラ』の野望に!」
「え?え、ええ、ええ!ああ!うん!もちろんです・・・いや!もちろんだ!アカシラの野望は実に!実に許せませぬな!」
「新帝が御即位なされてから、この数年で相次ぐ天変地異が起き、人々は不安を抱え、神を作り、崇めた!その時流によって伸し上がった頂天教は、ついに牙をむき出しにし皇帝陛下に逆らって、南北国の数郡を抱き抱え謀反を起こしたのです!」
「そ、その噂は、聞き及んでおりま・・・おるぞ!」
「アカシラの魂胆はわかっています!皇帝を倒し、自分が新しい皇帝になろうとしているのでしょう!」
「む、むう!その罪万死に値するぞ!アカシラの奴め!」
「流石ザンゴー様!今こそ我々が立ち上がり、忠を国に広める時ですぞ!」
「そ、そうじゃ!忠じゃ!義じゃ!帝を救うのじゃ!」
熱く語るスワトに対し、内心嘘がバレて殺されないかとひやひやしていた優男は
持ち前の演技で英雄の嫡流を演じていたが、外見から見ればバレバレ
むしろバレていないことのほうが不思議に感じれるくらい
不自然な表情と相槌であった。
しかし、この優男は世の中の情報を知っていた。
『頂天教』のことや教祖のことなどは、地元や噂話で聞いていたので
なんとかスワトの話も飲み込めたのが好転していた。
そして優男は、スワトの熱弁が止むその一呼吸の間に
若干の平静を取り戻すために、スワトの顔を見、恐れながら口を開く。
「・・・し、しかしスワト殿。我々は今や囚人の身。どのように申しても、この強固な鉄牢が我らの歩みを止めましょう」
「ん?こ、これが強固な鉄牢ですと?ふっふっふ、あーっはっは!!」
スワトは怪訝そうな優男の表情を見て
静まった夜の牢屋だというのに、そぐわない大笑いを始めた。
流石にこれには疑問を浮かべた優男は、追随するように質問する。
「す、スワト殿?何がおかしいのですか?」
「ハッハッハ…いや、余りにもそれがしの力を過少に評されるので、つい場をわきまえず笑ってしまったわい」
「過少な評ですと・・?」
優男の表情が疑問で塗りつぶされる中、スワトはニヤッと笑いながらスッと
鉄の格子が張ってある牢の前に立ち、スゥッと息を吸い込み、大声でこう言った。
「やいやい牢番!今からそれがしがこの牢を破るぞ!しかし牢を破るのは私事や罪を逃れるためではない!全て我が忠義のために破るのだ!それが判らば少しの間、我らの邪魔をせず、我らが獄を脱するのを許したまえ!それでは御免!!!」
大声と共に鉄の牢の格子に手を付くとスワトは、
全身の力を腕に込めて、格子の真ん中を揺るがし始めた!
ガキッ!ガキッ!
「す、スワト殿、いかにお主が万力でも鉄の牢を相手にそれを破れるなど夢現の出来事では…」
ガシッ!ガシッ!!ガキッ!!グァキィッ!バギィンッ!
その瞬間、優男の声を掻き消すように鈍い音が牢に響く。
そして小さな壁の岩片が若干沸き立ち降ると、
優男の前には恐るべき光景が広がっていた。
「ば、ばかな。俺は夢を見ているのか・・!?」
優男がそういうのも無理は無い。
そう、およそ人間には考え付かない。
常軌を逸した現実が目の前に広がっていたからだ。
ズ、ズシーン。
なんと!スワトが握っていた鉄の格子は、天井と床に刺さっている
上下の格子を分断するように亀裂が入り、格子は大きな音を立てて
スワトの前に倒れているではないか!
「ふんっ、なんと柔らかい牢よ。オナゴの二の腕のようじゃのう、ハッハッハ!」
スワトはそう言い笑うと、長身を牢から潜らせ
振り返り、優男を見てこう言った。
「ザンゴー様。さあ行きましょう我々の忠義を天下に示しに!」
「・・・」
「どうされました?ザンゴー様」
「・・・こ、こしがぬけた」
「はっはっは!だらしの無い英雄様じゃ!それがしの腕に掴まりなされ!」
「う、うむ・・・うおあ!?」
「しっかり掴まっていなされ!ハッハッハ!そおうれっ!」
スワトの腕に優男が掴まると、スワトは包むように自分の脇に
優男を抱え持ち、重厚感ある足音で颯爽と牢内を駆けて行く。
「牢破りだー!」
「脱獄だー!」
「追えっ!追って捕まえよ!」
その異様な光景と音に集まっていた牢番達は声を荒げると沸き立ち、
夜だというのに牢屋は祭りの如く騒ぎたてられた!
数にしておよそ20人の牢番達がスワトの逃げる姿を追い、
他の30人の牢番達はスワトの逃げるその方向を察知し
武具を持つと、一斉に出口周りを囲み始めた。
「いたぞー!追えーッ!」
「なんだ、もう見つかったか。だが今我々を止めるものはおらん!」
「ひぇー!あ・・・あ・・う、うぐぐ」
牢番20人に見つかったが、物怖じすることなく
スワトは脇に抱えた優男をギュッとしめるように脇に力を入れると
その場を出口に向かい風のようにかけた!
追いかける牢番の執拗な追い込みも凄いものであったが
恐ろしかったのはスワトの驚くべき脚力だった!
いくら優男とは言え、人一人を抱え追いかける20人の牢番達を
速さにおいて寄せ付けなかったのだ!
「ウスノロ牢番め。これが日ごろの訓練の違いよ!」
そう言っていたスワトだったが、
そのうち、出口へと走る前を牢番達にふさがれてしまったのだった。
「チッ、追いかける足が無い割には仕事が速いじゃないか、ここの牢番は」
「もう逃げられぬぞ牢破りめ!覚悟して縄につけい!」
「ふん。どうやらそれがしの力をまだわかっていないようだな!牢番!」
「貴様がいくら怪力だろうと、30人の武具をつけた番兵にかかれば赤子の手をひねるようなものよ!番兵隊!奴は人一人殺し獄を破った大罪人ぞ!手向かえば切り殺してもかまわん!それっかかれーっ!」
「愚か者め!我らの忠義の想い!止められるものなら止めてみせよ!」
スワトは抱えた優男がすでに気絶しているなど気にも止めず
ダッと再び走りだすと30人の番兵達に襲い掛かった!
バキッ!グシャ!
「ぐわーっ!」
まずは正面で剣を構えた番兵の顔面に一撃を当てた!
拳が当たったとは思えない音を出すと、兵士はその場に血を噴出し倒れた。
ブーンッ!ガンッ!
「うわーっ!」
体勢そのままに、右に居た兵士二人に長身から繰り出される後ろ回し蹴りを
浴びせると、兵士は剣を突きたてることもなく壁に吹っ飛ばされた!
「このやろう!」
ヒュウ!
スワトが体勢を戻す前に、槍を突き立てる番兵の一人!
「甘いわ!」
パシッ!ガキッ!
「ぐ、ぐむーっ!」
しかし槍はスワトの体を捕えることなく、かわされ
スワトの上段からの手刀の振り下ろしで兵士は首ごと地面に叩きつけられた!
「そうれ!お仲間だぞ!」
グワッ!ブーン!
叩きつけられた番兵の鎧の一片を片手で掴むと
多数の番兵が待ち構える群の中に物凄い勢いで放り投げた!
「わわわ!」
「うおあーっ!」
「ぎゃーっ!」
「むぎゅーッ!」
鎧を着けて重量が増した番兵の体が待ち構えていた者達に当たる!
まるで巨大な石の塊のような物体が、勢いをつけてとんでくるのだから
いくら武装した番兵と言えどひとたまりもなく、その場に無様な様相を
晒すのはしかたがなかった!
「このような鈍(なまく)らどもでは相手にならんぞ!ハッハッハ!」
「ぬうう!このままではマズイ!少し引いて弓で射殺せ!」
「ふっふっふ、少々遊びが過ぎたな!それではお暇するとするか!」
番兵が出口からスゴスゴと引くとのを見たスワトは
グイッと足に力を入れると、猛獣のように出口に向けて走りだした!
「ザンゴー様!少しゆれるが我慢いたせよ!」
ドンッ!
そういうとすでに気絶している優男を再び脇の上に抱え上げ、
締めを強くすると、出口の所で何を思ったかスワトは
そのまま足元を深く踏み込むと番兵が控える所までジャンプした!
「な、なにーっ!」
出口の後ろで弓を構え始めていた番兵達が、自分達の眼前を飛ぶ
スワトを見て思わず声を上げる。
距離にしておよそ10m程の大跳躍をその男はやったのだ!
まさしく歴史に残る大跳躍を!
「さあて、じゃあまたいつぞ会う時までさらばだ!鈍ら番兵ども!」
そういうとスワトは番兵達に手を振り
再び足に力をいれ、颯爽と立ち去った!
「あ、あ・・・お、お前たち何をしている!ゆ、弓じゃ!罪人を射殺せ!」
「は、はっ!」
ヒュン!ヒュンヒュン!
あっけにとられていた番兵だったが、やっと我を取り戻し
弓矢を構えるが、もうスワトは夜の闇に消え
矢は暗闇の中へと吸い込まれていった。
闇にそびえる夜空には、輝かしい星空が
キラキラと豪傑スワトの道筋を照らすように浮かんでいた。
第三回『豪傑、凡人を担ぎ世直しを決意す』
―あらすじ―
昔々、巨大な大陸を統治する皇帝がいた時代。
東国のある郡の町の牢の中、無銭飲食の罪で捕えられた口ばかりの優男は、
犯した罪を棚に上げ、自分の今の境遇を嘆いていた。
そんな優男が牢屋の冷たい石の壁に窓を発見し
そこに見える星空の見事さに目を奪われ、自分は皇帝を救った
英雄の末裔だと嘯いた。
もちろん役人は信じなかったが、その時、星空の明かりの影に隠れ
優男と同じ牢の暗がりから男がニュッと現れ優男に話しかけてきた。
―――――――――――――――――――――
「…その話は本当か?」
牢屋の暗がりの中からの声に少し驚いた優男であったが、
どこか自分に酔っていたと言うか、ヤケになっていたので、
再び胸を張り、こう答えた。
「おう、本当だとも。100年前、時の大臣ゴーロギーンの専横を破った平民出の英雄ガムダが嫡流。ザンゴーとは俺のことよ!」
「おぉ…なんと数奇な縁でしょうか」
暗がりから震えるような声が響くと、影はすくと立ち上がり
輝いた星空の光に当たるように優男の前に出て行く。
スタ…スタ…ズゥン!!
月と星の光が当たると、まるで牢屋の天をも貫くような
熊のような大男が、優男の前に姿を現した。
「ひっ、ひい」
「何を驚きなさる、わしはガムダ様と一緒に闘った武家の一門の者。名をスワトと申す」
「そ、そうなのか。う…うん、このような場所でかつての戦友に出会うとは、なんとも、そ、そのう、す、数奇な運命じゃ、じゃのう」
優男はスワトと名乗った男を見て、動揺を隠し切れなかった。
その余りの長身骨太、相手を威嚇するような真っ直ぐな目、
筋骨隆々な肢体から繰り出される威圧に加え凄みの利いた声に、
今までの怒りなど何処吹く風
優男の体は一瞬ですくみあがってしまった。
「しかし本当に数奇な縁ですな。ガムダ様の一族は皇帝を救った後、官職につくでもなく、誰にも見つからぬように東山の奥に隠れたという噂であったが…」
「は、はは。やっ、山暮らしも退屈でな。そろそろ都に降りて、天下に蔓延る悪党でも退治しようかと思ってなぁっ」
「そ!それではザンゴー様も気づかれていたのですか!」
「えっ?」
「今、天下に蔓延る悪党。つまり現皇帝をないがしろにする者達、『頂天教』の教徒と、その教祖『アカシラ』の野望に!」
「え?え、ええ、ええ!ああ!うん!もちろんです・・・いや!もちろんだ!アカシラの野望は実に!実に許せませぬな!」
「新帝が御即位なされてから、この数年で相次ぐ天変地異が起き、人々は不安を抱え、神を作り、崇めた!その時流によって伸し上がった頂天教は、ついに牙をむき出しにし皇帝陛下に逆らって、南北国の数郡を抱き抱え謀反を起こしたのです!」
「そ、その噂は、聞き及んでおりま・・・おるぞ!」
「アカシラの魂胆はわかっています!皇帝を倒し、自分が新しい皇帝になろうとしているのでしょう!」
「む、むう!その罪万死に値するぞ!アカシラの奴め!」
「流石ザンゴー様!今こそ我々が立ち上がり、忠を国に広める時ですぞ!」
「そ、そうじゃ!忠じゃ!義じゃ!帝を救うのじゃ!」
熱く語るスワトに対し、内心嘘がバレて殺されないかとひやひやしていた優男は
持ち前の演技で英雄の嫡流を演じていたが、外見から見ればバレバレ
むしろバレていないことのほうが不思議に感じれるくらい
不自然な表情と相槌であった。
しかし、この優男は世の中の情報を知っていた。
『頂天教』のことや教祖のことなどは、地元や噂話で聞いていたので
なんとかスワトの話も飲み込めたのが好転していた。
そして優男は、スワトの熱弁が止むその一呼吸の間に
若干の平静を取り戻すために、スワトの顔を見、恐れながら口を開く。
「・・・し、しかしスワト殿。我々は今や囚人の身。どのように申しても、この強固な鉄牢が我らの歩みを止めましょう」
「ん?こ、これが強固な鉄牢ですと?ふっふっふ、あーっはっは!!」
スワトは怪訝そうな優男の表情を見て
静まった夜の牢屋だというのに、そぐわない大笑いを始めた。
流石にこれには疑問を浮かべた優男は、追随するように質問する。
「す、スワト殿?何がおかしいのですか?」
「ハッハッハ…いや、余りにもそれがしの力を過少に評されるので、つい場をわきまえず笑ってしまったわい」
「過少な評ですと・・?」
優男の表情が疑問で塗りつぶされる中、スワトはニヤッと笑いながらスッと
鉄の格子が張ってある牢の前に立ち、スゥッと息を吸い込み、大声でこう言った。
「やいやい牢番!今からそれがしがこの牢を破るぞ!しかし牢を破るのは私事や罪を逃れるためではない!全て我が忠義のために破るのだ!それが判らば少しの間、我らの邪魔をせず、我らが獄を脱するのを許したまえ!それでは御免!!!」
大声と共に鉄の牢の格子に手を付くとスワトは、
全身の力を腕に込めて、格子の真ん中を揺るがし始めた!
ガキッ!ガキッ!
「す、スワト殿、いかにお主が万力でも鉄の牢を相手にそれを破れるなど夢現の出来事では…」
ガシッ!ガシッ!!ガキッ!!グァキィッ!バギィンッ!
その瞬間、優男の声を掻き消すように鈍い音が牢に響く。
そして小さな壁の岩片が若干沸き立ち降ると、
優男の前には恐るべき光景が広がっていた。
「ば、ばかな。俺は夢を見ているのか・・!?」
優男がそういうのも無理は無い。
そう、およそ人間には考え付かない。
常軌を逸した現実が目の前に広がっていたからだ。
ズ、ズシーン。
なんと!スワトが握っていた鉄の格子は、天井と床に刺さっている
上下の格子を分断するように亀裂が入り、格子は大きな音を立てて
スワトの前に倒れているではないか!
「ふんっ、なんと柔らかい牢よ。オナゴの二の腕のようじゃのう、ハッハッハ!」
スワトはそう言い笑うと、長身を牢から潜らせ
振り返り、優男を見てこう言った。
「ザンゴー様。さあ行きましょう我々の忠義を天下に示しに!」
「・・・」
「どうされました?ザンゴー様」
「・・・こ、こしがぬけた」
「はっはっは!だらしの無い英雄様じゃ!それがしの腕に掴まりなされ!」
「う、うむ・・・うおあ!?」
「しっかり掴まっていなされ!ハッハッハ!そおうれっ!」
スワトの腕に優男が掴まると、スワトは包むように自分の脇に
優男を抱え持ち、重厚感ある足音で颯爽と牢内を駆けて行く。
「牢破りだー!」
「脱獄だー!」
「追えっ!追って捕まえよ!」
その異様な光景と音に集まっていた牢番達は声を荒げると沸き立ち、
夜だというのに牢屋は祭りの如く騒ぎたてられた!
数にしておよそ20人の牢番達がスワトの逃げる姿を追い、
他の30人の牢番達はスワトの逃げるその方向を察知し
武具を持つと、一斉に出口周りを囲み始めた。
「いたぞー!追えーッ!」
「なんだ、もう見つかったか。だが今我々を止めるものはおらん!」
「ひぇー!あ・・・あ・・う、うぐぐ」
牢番20人に見つかったが、物怖じすることなく
スワトは脇に抱えた優男をギュッとしめるように脇に力を入れると
その場を出口に向かい風のようにかけた!
追いかける牢番の執拗な追い込みも凄いものであったが
恐ろしかったのはスワトの驚くべき脚力だった!
いくら優男とは言え、人一人を抱え追いかける20人の牢番達を
速さにおいて寄せ付けなかったのだ!
「ウスノロ牢番め。これが日ごろの訓練の違いよ!」
そう言っていたスワトだったが、
そのうち、出口へと走る前を牢番達にふさがれてしまったのだった。
「チッ、追いかける足が無い割には仕事が速いじゃないか、ここの牢番は」
「もう逃げられぬぞ牢破りめ!覚悟して縄につけい!」
「ふん。どうやらそれがしの力をまだわかっていないようだな!牢番!」
「貴様がいくら怪力だろうと、30人の武具をつけた番兵にかかれば赤子の手をひねるようなものよ!番兵隊!奴は人一人殺し獄を破った大罪人ぞ!手向かえば切り殺してもかまわん!それっかかれーっ!」
「愚か者め!我らの忠義の想い!止められるものなら止めてみせよ!」
スワトは抱えた優男がすでに気絶しているなど気にも止めず
ダッと再び走りだすと30人の番兵達に襲い掛かった!
バキッ!グシャ!
「ぐわーっ!」
まずは正面で剣を構えた番兵の顔面に一撃を当てた!
拳が当たったとは思えない音を出すと、兵士はその場に血を噴出し倒れた。
ブーンッ!ガンッ!
「うわーっ!」
体勢そのままに、右に居た兵士二人に長身から繰り出される後ろ回し蹴りを
浴びせると、兵士は剣を突きたてることもなく壁に吹っ飛ばされた!
「このやろう!」
ヒュウ!
スワトが体勢を戻す前に、槍を突き立てる番兵の一人!
「甘いわ!」
パシッ!ガキッ!
「ぐ、ぐむーっ!」
しかし槍はスワトの体を捕えることなく、かわされ
スワトの上段からの手刀の振り下ろしで兵士は首ごと地面に叩きつけられた!
「そうれ!お仲間だぞ!」
グワッ!ブーン!
叩きつけられた番兵の鎧の一片を片手で掴むと
多数の番兵が待ち構える群の中に物凄い勢いで放り投げた!
「わわわ!」
「うおあーっ!」
「ぎゃーっ!」
「むぎゅーッ!」
鎧を着けて重量が増した番兵の体が待ち構えていた者達に当たる!
まるで巨大な石の塊のような物体が、勢いをつけてとんでくるのだから
いくら武装した番兵と言えどひとたまりもなく、その場に無様な様相を
晒すのはしかたがなかった!
「このような鈍(なまく)らどもでは相手にならんぞ!ハッハッハ!」
「ぬうう!このままではマズイ!少し引いて弓で射殺せ!」
「ふっふっふ、少々遊びが過ぎたな!それではお暇するとするか!」
番兵が出口からスゴスゴと引くとのを見たスワトは
グイッと足に力を入れると、猛獣のように出口に向けて走りだした!
「ザンゴー様!少しゆれるが我慢いたせよ!」
ドンッ!
そういうとすでに気絶している優男を再び脇の上に抱え上げ、
締めを強くすると、出口の所で何を思ったかスワトは
そのまま足元を深く踏み込むと番兵が控える所までジャンプした!
「な、なにーっ!」
出口の後ろで弓を構え始めていた番兵達が、自分達の眼前を飛ぶ
スワトを見て思わず声を上げる。
距離にしておよそ10m程の大跳躍をその男はやったのだ!
まさしく歴史に残る大跳躍を!
「さあて、じゃあまたいつぞ会う時までさらばだ!鈍ら番兵ども!」
そういうとスワトは番兵達に手を振り
再び足に力をいれ、颯爽と立ち去った!
「あ、あ・・・お、お前たち何をしている!ゆ、弓じゃ!罪人を射殺せ!」
「は、はっ!」
ヒュン!ヒュンヒュン!
あっけにとられていた番兵だったが、やっと我を取り戻し
弓矢を構えるが、もうスワトは夜の闇に消え
矢は暗闇の中へと吸い込まれていった。
闇にそびえる夜空には、輝かしい星空が
キラキラと豪傑スワトの道筋を照らすように浮かんでいた。