金星太郎日記

教室は宇宙船 どこへだって行ける けやきのこずえに続く青空… 谷川俊太郎の詩より 

分校の文化祭2013

2013年09月11日 21時35分54秒 | Weblog


Y小学校の卒業生5人が進学している「Y高校T分校」の文化祭を見に行った。全校生徒30名、標高1040mにある日本で一番高い所にある高校だ。

生憎の雨、気温18度の低温にもかかわらず、その小さな学校はアットホームのぬくもりを漂わせていた。
 旧T小学校を改修して造られた校舎は、外観が古めかしい割に内装は新しく、廊下や階段は新築の雰囲気を醸していた。
受付で氏名を記入してパンフレットをもらった。手作りのパンフレットの表紙のデザインはWさん。迫力がある龍の絵が繊細に描かれていた。ポスターの絵柄はTさん。9頭の龍をユーモラスに描いていた。

「第50回 K祭」~掴め青春!つなげ絆!巻き起こせT旋風!!~
なんと、このテーマの発案者はY小卒業生のAI君と聞いて驚く。

廊下でAI君がクマの着ぐるみをまとい、お客さんを案内していた。写真をリクエストされて、ひょうきんなしぐさで応じる姿は小学生時代の恥ずかしがり屋の彼からは想像もつかない。まさに・・・じぇじぇじぇ!である。


展示発表のコーナーは普段の学習の成果が良く現れていて見ごたえがあった。総合的な学習で取り組んだ野菜の栽培、蕎麦打ち、竹細工は、地域の特産と結びついて貴重な体験学習となっていた。

竹細工の笊を一つ一つ丁寧に親切に説明してくれたI君。見てもらえるのがうれしくてたまらないといった表情で、熱弁をふるっていた。
『作品は多少いびつでも、I君の心はまっすぐだよ・・・。』

野菜の販売は袋に詰め放題で100円。(さっそく購入して家でフライドポテトとナスの揚げ浸しを作り、美味しくいただいた。)高校生たちの苦労と学習の成果が詰まっていると思うと、なおのこと味わい深い。

トリックアート作品はグループで協力して製作されていた。この学校の生徒たちは一つのことに打ち込めば、かなり高度な仕事ができるのではないかと思わせるほど、繊細で綿密な筆使いで描かれていた。

家庭科の作品でリバーシブルトートバッグが並べられていた。とても上手にできていて、思わず買いたくなって値札を探したが、非売品だった。残念!

保護者の方のパネル写真展示にも驚きました。特に東日本大震災津波の映像はとてもリアル。こうした現実と向き合ってこそ、復興の道が開けるのではないかと考えさせられた。

ビデオ上映は学校生活と修学旅行の様子を紹介するものだった。少人数ならではの温かい雰囲気に包まれ、生徒たちがのびのびと育っている日常が良くわかった。


時間があったので、「カフェ」でお抹茶をいただいた。レジ担当のN君、注文を取りに来たM君もY小の卒業生だ。二人とも当時に比べて背が伸びてスマートになってビックリした。 手際良く接待する姿に成長の跡を感じ取れた。

体育館で太鼓の演奏があるというので、聴きに行った。5人の生徒が赤・黄・青・緑・紫の法被を着て整列していた。(ゴレンジャーか? はたまた「地域カッセイカマン」か?)
代表として前に立ったYH君。


「手に豆ができるほど、いっしょうけんめいに練習してきたので、聴いてください!」
自信に満ちた張りのある声であいさつ。彼はこの文化祭の実行委員長も立派に務めあげた。小学生のころの彼とは違って、まるで別人のようだ。
太鼓に向かう5人の生徒の姿勢は、腕がまっすぐに伸び、腰を落として安定感があり、目は宙の一点を見据えていた。
軽快なバチさばきの技、そして力強く弾けるようなリズム。さらに太鼓の周りをぐるぐる回りながらの連続打ちは聴く者の心に深く沁み渡った…。まるで「巻き起こせ!T旋風!」そのものだった。
感動した!!!


地元に伝わる伝統の太鼓は、住民の方が毎年ご指導されているという。頭が下がる思いだ。
地域の人と文化が学校へ入り込んで生徒を育て、地域の中へ生徒たちが飛び込んで行って育つ・・・、そういう相互関係がそこにあった。

何よりこの高校には温かい雰囲気がある。支え合いと育ち合いがある。
教頭先生も
「私たち教師が毎日生徒たちから学んでいます。エネルギーをもらっています・・・。」
と語っておられた。
生徒たちがみんな仲良く、和気あいあいの雰囲気で支え合い助け合っている様子が良く伝わってきた。そして、それをやさしく見守り育ててくださっている先生方の様子も感じ取ることができた。
一人一人はきっといろいろな辛い思いや苦しい境遇を抱えているにちがいない。しかし、それに負けず・・・それを乗り越えて学校に通い続けていることこそが「つなげ絆!」の具現だろうと受け取った。

小さな学校からの発信・・・。たとえ小さくとも人が人として大切にしていること、大切にされなければならないこと、人が人である所以、価値に大小はないはずだ。だからこそ、このT分校に誇りを持って、自信を持って堂々と生きている生徒たちがいるのだ。 そういう潜在的で前向きなエネルギーとして「巻き起こせT旋風!」のK祭を感じとることができた。

昔、山田洋次監督の「男はつらいよ」の映画を見たことがあった。

何作目かは忘れてしまったが、次のような場面が印象的だ。
主人公、渥美清が演じる寅さんの甥、満男君(吉岡秀隆)は、就職試験を20回以上受け続けて、一つも内定が来ない。ある晩のこと。またしても不合格の電話を受けた満男は、たまりにたまった胸の内を父親の博(前田吟)にぶつける。

「・・・面接でしゃべることはいつも同じ。・・・『志望動機は?』・・・ここの会社は将来性があって、・・・『自己PRを言ってください。』・・・僕はおとなしいように見えますが芯は強く、友だちを大事にするタイプで、・・・もう嘘をつくのはイヤだ! こんなセリフを20回も言い続けてるんだぞ! 僕はカセットテープレコーダーじゃないんだ! 父さんに僕の苦しみなんてわかりっこないよー。 大学だって、僕は行きたくて行ったわけじゃない! 父さんが行けって言ったんじゃないか!」
こうして満男君は家を飛び出して、自分探しの旅に出ていく。
映画の続きは・・・、旅先で偶然 寅さんに遭遇して「幸せって、なんだろう・・・?」という(永遠の)テーマについて考えるという・・いつもの展開。

学校教育の本来の目的は「人格の完成を目指し、・・・心身ともに健康な国民の育成」(教育基本法)であるはずなのに・・・、(世の中全体の風潮として)いつの間にか「社会の役に立つ人間」「会社の仕事ができる人間」「有能な人間」が優先され、「○○にとって役立つ人材の育成」にすり替わってしまっているように思えてなりません。
そして、優秀な人材の発掘・育成競争の中で、勝ち組と負け組に分けられて・・・。

学校や家庭で「いい子」を演じざるを得ない子どもがいて・・・。その子どもがかかえる矛盾や辛さを丸ごと受け入れる余裕がなくなり、「いい子」を自立させきれない教育の現状が広がっている。

もし、映画の満男君がそういう苦しみや挫折を経験しないで第1志望の会社に入社し、『幸せ』をつかんだと仮定する。
そういう満男君の姿と大人である私たち自身の『幸せな生活』を重ね合わせた時、彼に対して心からの拍手を贈ることができるのだろうか?

「人格の完成を目指し・・・心身ともに健康な」人間を育てるとは、一体どういうことなのだろうか?
ふと、そんなことを考えてしまった。

他人とは違う自分に自信を持つこと、そのためには、違っている相手を認め、お互いを尊重して付き合える環境を保障すること・・・。

「春の日の 農業クラブ楽しくて 時を忘れて 熱中病」

「本当は みんなと話 したいけど 勇気がでずに ひとりぼっちに」

16歳にして初めて本心を書けるようになったAI君の詩である。彼の心を開いてくれたY高校T分校に・・・感謝したい。
山奥の小さな学校で今日も少年たちが自分探しの営みを続けていると思うと、大人の自分は・・・彼らに背中を押されて生きているような気がしてくる。

2013,9,12