散歩瞑想記 & ツレの物語

歩きながら自然とエネルギーを循環させる、散歩瞑想をしています
そして、ツレ、物語る

樫食堂

2017年04月27日 23時30分51秒 | 日記

「ここらへんに樫食堂ってとこがあるらしい」

大仙市の太田町付近を走っている時、ツレにそう言うと、

「じゃあ探してみるか」ということになった。

が、探せども探せども食堂はなくて、とうとうあきらめたのが去年のこと。

昨日、またそこらへんを通った。

わたしは去年の後、一生けん命地図を見て、食堂の場所を覚えた。

でもそれからずいぶん時間が経ったから、はっきり思い出せなかった。

ツレに場所を説明したけど、案の定、女の説明は訳が分からないとか何とか散々だった。

わたしは久しぶりのお出かけで楽しい気持ちが、だんだんしぼんでいった。

 

でもね、春が話しかけてくる。

これからみんな始まるんだよね。

ぐるぐる探し回って、さっき通った時より草が伸びたんじゃないかな、つぼみが開いたんじゃないかな。

ここらは散居集落で、田んぼや畑の中に農家が散在している。

雨が、降っている。

春は雨も美しいんだな。

 

そうしているうちにツレが食堂を見つけてくれた。

野道を行くと、グリム童話の中の森のおうちみたいなところだった。

周りは林と田んぼと、少し向こうに川があった。

静かで、本を読みたくなった。

ページから目を上げて、木枠の小さな窓から、雨に濡れる田んぼの土と、川岸の桜を見た。

キツネやウサギのご夫妻が、料理や給仕に出て来てもいいような雰囲気だったよ。

わたしたちの後から、おじいさんとおばあさんの客がやってきた。

おばあさんは着物を着ていた。

帰り道、ツレが俺らもあんなふうになるぞと言った。

少しうれしかった。

 

 

 

 

 

 


ひゅんひゅん鳥

2017年04月12日 22時58分46秒 | 日記

毎年この時期に、ひゅんひゅん鳥はやってくる。

田んぼの雪が解けて、水たまりができたころ。

昼に行ってもいない。

夜はいる。

でも夜は姿が見えないから、なんの鳥かはっきりはわからない。

ひゅんひゅんいう音だけ聞こえる。

たぶんコガモだ。

すごい数だ。

いるのはせいぜい一週間。

ある日突然、一羽もいなくなる。

 

熟睡していないのか、眠い。

仕事がプレッシャーになっている。

そこで「楽しみだあ」とつぶやくことにした。

言っていると、少し楽しみな感じになってきた。

 

 

 

 

 


刺巻湿原

2017年04月08日 23時30分40秒 | 日記

さらさらと水は流れた。

水の中で、無数の白い仏焔苞がゆらめく。

春はまだ早いのだ。

 

ハンノキの林を霧が低く流れていく。

霧といっしょに水の上を歩く。

木道を打つ足音。コン コン コン

木琴のように。

 

水芭蕉の花は、あの白い衣に大切にくるまれた、黄色い芯。

まだ小さくて、水面に少しだけのぞいた、水芭蕉の核心。

雪解け水が地表を覆う。

水があまりゆっくり流れるので、

それに、どこかですっかり浄化されたから、

水面を境にして、もう一つの世界がすっかり見えるのだ。

 

「ほら、赤いのもある」とツレが言う。

ザゼンソウもあるんだね。

やっぱり、赤い衣の内側に、大事なものをそっといだいて。

 


ある帽子の話

2017年04月02日 02時15分19秒 | 日記

「なくした帽子を探しに行くぞ」とツレが言った。

吹雪のスキー場で、姪が「おばちゃん!帽子どこかで飛ばしちゃった…」

と言ったのは3週間くらい前だ。

姪に貸した帽子。

数日後、「落ちてませんでしたか」とスキー場へ聞きに行ったけどなかった。

あの帽子はペルー日本大使公邸占拠事件が起きた年に買った。

なんで覚えているかというと、made in Peruってタグが付いてたからだ。

よって20年物ってこと。


もう営業の終わったスキー場を、双眼鏡をもって歩いて登った。

まだ一面の雪。

帽子は黒地に赤や黄色の模様付きだから、あれば見えるはずだけど、ないなあ。

それでも登ってみる、上々の天気だもの。

 

雪面には、ところどころ穴が開いている。

穴をのぞくと、中には枯葉や木の枝なんかが入っている。

お日様が葉っぱや枝を余計に温めたからだね。

わたしの帽子も、太陽を吸って、雪を溶かして埋まってないかな。

穴をのぞきながら登った。

 

小鳥の羽毛が点々と落ちてる、黒いやつ。

ぬれて雪にへばりついてるけど、ふわふわ感あり。

拾おうかなと思ったが、カラスかもしれないのでやめておいた。

「羽毛が落ちてる」

とわたしが言うと、ツレが振り向いて言った。

「これがおまえの帽子だと思うぞ」

・・・・・・ ( ̄▽ ̄;)

 

「ずっと続いてるだろ。スノーモービルか圧雪車が、巻き込んでいったんじゃないかなあ」

アルパカの毛の帽子だったから、毛足が長くて羽毛みたいに見えたのだった。

毛糸(だったもの)をたどってみると、ゲレンデ全体に散らばっていた。(頂上から車両格納庫まで。小さいスキー場だけどね)

雪が解けたら、あちこちで、山の一部になるんだな、有機物だもの。

帽子は戻らなかったけど、ことの顛末がわかって、しかも忘れられないような物語で、わたしは満足だった。

あの帽子も、そう思っているかもしれない。