「ここらへんに樫食堂ってとこがあるらしい」
大仙市の太田町付近を走っている時、ツレにそう言うと、
「じゃあ探してみるか」ということになった。
が、探せども探せども食堂はなくて、とうとうあきらめたのが去年のこと。
昨日、またそこらへんを通った。
わたしは去年の後、一生けん命地図を見て、食堂の場所を覚えた。
でもそれからずいぶん時間が経ったから、はっきり思い出せなかった。
ツレに場所を説明したけど、案の定、女の説明は訳が分からないとか何とか散々だった。
わたしは久しぶりのお出かけで楽しい気持ちが、だんだんしぼんでいった。
でもね、春が話しかけてくる。
これからみんな始まるんだよね。
ぐるぐる探し回って、さっき通った時より草が伸びたんじゃないかな、つぼみが開いたんじゃないかな。
ここらは散居集落で、田んぼや畑の中に農家が散在している。
雨が、降っている。
春は雨も美しいんだな。
そうしているうちにツレが食堂を見つけてくれた。
野道を行くと、グリム童話の中の森のおうちみたいなところだった。
周りは林と田んぼと、少し向こうに川があった。
静かで、本を読みたくなった。
ページから目を上げて、木枠の小さな窓から、雨に濡れる田んぼの土と、川岸の桜を見た。
キツネやウサギのご夫妻が、料理や給仕に出て来てもいいような雰囲気だったよ。
わたしたちの後から、おじいさんとおばあさんの客がやってきた。
おばあさんは着物を着ていた。
帰り道、ツレが俺らもあんなふうになるぞと言った。
少しうれしかった。