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風刺画と文明の衝突

2006-02-06 21:27:30 | 日々のニュース
デンマークのユランズ・ボステン紙が掲載したマホメット(ムハンマド)の風刺画の問題。
日を追うごとに事態が深刻になっているような感があります。
レバノンではデンマーク総領事館に対する放火など暴動に近い状態のようですし、シリアでも放火が相次ぎ、イラクでもデンマーク・ノルウェーの企業との契約を凍結するという事態に至っているようです。
イラン・シリアといった国際的に孤立している国が反撃材料として今後の外交局面でこの問題を使うことも容易に想像できます。
その後、イランがホロコーストの風刺画を公募するような対応もしているそう。ま、確かにこれも表現の自由といえば自由でしょうけれどね。

ちなみに、その風刺画がどういうものなのか、興味があったのですが、「プチソ連」のぺり公さんが発見していてくれたので、それを拝借させていただきました。
ここから

今度の事件が投げかけるのは文明の衝突など、色々な要因に渡るのでしょうけれど、根本的な問題とては、表現の自由がどこまで及ぶのか、ということになるでしょう。
もっと言えば、表現の自由にタブーを認めるか否かという問題。

で、まあ、私は「女神転生」というゲームのことを思い出します。
これは世界各地の宗教関係を雑多に混合させ、かつ神々同士が殺しあうという恐ろしく豪快なゲームです。YHWH(神の名前を恐れ多くも口にしてはならないということで、こう呼ぶそう。WはVなのかもしれませんが)を倒すなんてキリスト教徒やユダヤ教徒なら卒倒しそうな話ですが、そんなことをやってしまうシリーズもあったはずです。が、確かアッラーはいなかったと思うんですね。
アズライールなど、イスラーム圏の天使もいなかったんじゃないですかね。ガブリエルとかミカエル等重なる(イスラーム圏ではジブリール、ミカイール)天使もキリスト側に立っていますし。
何でアッラーがいないのか? もちろん怖いからですよね。ゲーム製作によって、「悪魔の詩」を書いたラシュディ氏のように「死刑宣告」なんか食らいたくないからでしょう。
この例をもって宗教間の対比としてしまうのも強引ですが、要はイスラームが表現の自由にプレッシャーを与えているのかと言われれば、多分与えているのではないかといいうるわけです。昔ポケモンを排除したりもしましたし。

全ての対象は表現の自由による吟味を免れ得ないということに表現の自由の本質があると考えるなら、その吟味すら認めないイスラームのありかたは確かに表現の自由を侵害しています。表現の自由はイスラームという聖域を認めないんだという立場で今回のような風刺画を出す、というのは決して不当とはいいえない気もします(他の大勢の人と同じく、爆弾までいくと単なる中傷だとは思いますけどね。あと、容疑者みたいな扱いを受けているのもどうなのかと…。そのあたりは限界事例とはいえますが、現実にキリストを揶揄った風刺画が存在する以上、マホメットを揶揄すること自体許されないという論調は不公平なのではないかと思います。日本のブロガーの大半はムスリムではないのでしょうし)。

ただ、ややこしいのはイスラームに対する表現は、その対象がイスラーム圏の生活文化にまで及んでしまうという部分もあるんですね。これがイスラームのもっとも厄介(あるいは特徴的)なところと思うのですが、イスラームは社会共同体と密接につながっている。吟味を免れ得ないとしても日常生活を風刺されると、これは即怒りにつながるのは無理もありません。
で、イスラームが政教一致、社会の中に同化してしまっているのを批判するのも、この宗教が元々厳しい砂漠での生活の中から生まれた宗教であるという本質を損ねる点で妥当とはいえません。一夫多妻や過度の忠誠・誠実さを要求する点を不可解に思う人もいるでしょうけれど、厳しい砂漠の隊商生活においては守れる者が女性などを守らなければならず、また規律遵守なども重要だったわけです。イスラームが社会生活に過度に密接なのも、そもそも掟としてスタートした部分もあるわけですから、これを批判するのも失当。

ま、もちろん、砂漠の宗教である以上、砂漠でない国でどうしてもイスラーム法を遵守しなければ困るというわけでもないはずですし、現代では砂漠生活でもテクノロジーを使うことで困難も解消できる部分もあるでしょう。が、そこまで機能的に問題を片付けられるのでしたら誰も苦労はしません。
それを突き詰めれば全ての哲学・宗教を否定することにもなるでしょうし(笑)。

…と考えると、結局のところ融和のできない部分に迂闊に入ってしまったという部分があるかもしれません。どちらが悪いと言うのも難しいですが。
共存を言うのはたやすいですが、絶対に融和できない部分があるということは知らなければいけないわけで。そういう部分に踏み込む場合、どういうリスクが発生するかはきちんと考える必要もあるんじゃないでしょうかね。
どちらも過剰反応さえ示さなければ、という部分もあると思うんですよね。ノルウェーの新聞が表現の自由だ、みたいなことで転載しなければイスラーム社会がここまで暴動を起こすこともなかったはず。せいぜい、「あの新聞社は地獄に落ちる」くらいで、新聞社に「行き過ぎた」という事実を認めさせさえさせれば済んだ気もします。一方でイスラーム社会が過剰に反応したからこそ、他国も表現の自由の危機だと立ち上がったわけで…

まあ、もっとも、融和が不可能に見えつつも、イスラーム国家なのに政教分離を成し遂げたトルコのような例外もあります。実際、今のところトルコで大きな暴動が起きたという話はないようですし。今後起きないとも限りませんが。
ムスタファ・ケマル・アタトュルクのような傑物が10人単位で生まれれば、どうにかなるんですかね。ま、もっとも10人いればいたで船頭多くして、とか両雄並び立たずなんてことになるのかもしれませんが。
いみじくも、イラン大統領が言った「神が我々の敵を愚か者から選んでくれたことに感謝する」というのがある面あてはまっている気がします。ただし、「神は我々の味方まで愚か者の中から選んでしまったことが残念だ」という文句もつけておいた方がいいでしょうけど。

う~む。
結局、何を書きたかったのかよく分からない右往左往の文になってしまいました。
ま、今後少しずつ考えることにします。

代わりにこちらをどうぞ
預言者戯画事件の恐怖と困惑(プチソ連)
今回の顛末の経緯について詳細に記されています。
一枚の風刺画が大暴動の因に (沢里尊の言葉のプロレス)
表現の自由の行き過ぎに危惧を抱いておられます。
ムハンマドの風刺画(トーキング・マイノリティ)
歴史的に見ればどっちもどっちだという意見を展開されています。
風刺画(HYBRID THEORY)
日本で同じことをされたらどうだろうという考えを提起されています。
民度が疑われる風刺漫画暴動(◆映太朗の映像批評)
今回の事件は言論の自由とは少し違うのではないかと指摘されています。
欧州メディアの風刺画問題についてのメモ(崖道::ブログ)
先進国が発展途上国を見下しているのではないかという疑問を呈しておられます。


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5 コメント

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女神転生やりました。 (ぺり公)
2006-02-07 01:27:21
キリスト教の神や天使がいつもキツい描かれ方ですねー。

米国大使も魔神だったような記憶が。



私個人としては今回の事件、異なった価値観を持つ者同士の融和しがたさをわかりやすくかつ乱暴に明示しているように思え、その点に興味があります。他者を理解できないこと自体が悪いとは思いませんが、それが人的・物的な損害につながったりするのは大問題…ですね。

おろそかにはできないリスク回避。でもどこまで譲歩すればいいのか。あんまり対岸の火事という気はしないです。
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>ぺり公様 (川の果て)
2006-02-07 06:33:30
私も大体似たような感覚です。理解できない部分、融和ができない部分があるということで。

政教分離の欧州と政教一致のイスラーム圏を同じ価値観で捉えようということ自体に無理があります。



国家とか文化に限らず、男女間とか世代間とか、個人にもあてはまりそうな話ですね。そう言いつつ、中々日常的な出来事でそこまで配慮できないのが現実でしょうけれど。
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TBありがとうございました (mugi)
2006-02-07 20:41:35
初めまして、私の記事をリンクしていただき、ありがとうございました。



「女神転生」というゲームをここで初めて知りましたが、いかにも信仰の薄い日本ならではですね。

トルコ史研究家の大島直政氏が著書『イスラムからの発想』で書いてましたが、中東ではイスラム、キリスト、ユダヤ問わず宗教は冗談の対象になりにくいそうです。基本的に己の宗教は絶対で、基本的に異教徒と理解し合おうという考えはないとか。



欧州とイスラムに限らず、異文化圏がそう簡単に理解し合えるなら、とっくの昔に文明の対立はなくなっていると思います。
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>mugi様 (川の果て)
2006-02-07 21:14:29
こちらこそ初めまして。



>基本的に異教徒と理解し合おうという考えはない

一神教は基本的に排他的ですからね。



>欧州とイスラムに限らず、異文化圏がそう簡単に理解し合えるなら、とっくの昔に文明の対立はなくなっている

理解しあうのは未来永劫無理でしょう。

ただ、理解できないということを理解するだけでも無用な争いが大分減るはずで、そのくらいは工夫如何によってできるものと思いたいのですが…

それも理想論なのでしょうか。
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あらら…、 (映像批評の映太郎)
2006-02-13 02:06:36
 私のブログがこんな所で紹介されていたとは…。



 一応、トラバ承認しておきましたので、ご確認にでもまたお越しください。では。
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