歐亞茶房(ユーラシアのチャイハナ) <ЕВРАЗИЙСКАЯ ЧАЙХАНА> 

「チャイハナ」=中央ユーラシアの町や村の情報交換の場でもある茶店。それらの地域を含む旧ソ連圏各地の掲示板を翻訳。

ロシア人がリスペクトする武将(1)

2009-03-19 05:31:48 | ロシア関係

前回の記事でも書いた通り、普通のロシア人にとっては東アジアの諸民族の違いなんてあやふやなのですが、インテリ層を中心にそっち方面の伝統文化に関心を寄せる人々は多く、詳しい人は別に研究者とかではない一般人でも詳しいです。

そして、彼らの東アジア文化についての知識は、日本のそれがベースになっている場合が多いですね。ソ連時代に物心のついた、今の30代以上の世代は特にその傾向が強い。

これには、1960年代以降の中ソ対立が大きく影響していると言われます。当時のイデオロギー対立に端を発した両国の対立は、事実上の冷戦に発展したばかりか、1967年にはアムール河(黒竜江)沿いの国境地帯で武力衝突←ダマンスキー(珍宝)島事件まで引き起こしました。

中共側は、武力だけではなく“ソフトパワー戦術”も必要だと感じたのか、河沿いにあるソ連領の町の方に巨大スピーカーを向けて、”ソ連修正主義批判“やら“毛沢東語録”のロシア語訳を大音量で、しかも昼夜を問わず流し続けたりもしたらしい。文字通り、国家レベルの「口喧嘩」ですねw。

さすが大陸だけにスケールがでかい!というか、それ以上に偉大なる毛主席の御言葉であるからには、露助も謹んで聴くことだろう!という、紅衛兵たちのどこか硬直した思考様式が窺い知れるエピソードだともいえます。あちらの住民からしたら、単なる嫌がらせにしか思えなかったことでしょう。ちなみに、金日成が文革を批判した関係で、北朝鮮にたいしても鴨緑江の対岸から金日成の悪口が大ボリュームで流されたらしいw。

ソ連側もよほどウンザリしたのか、国内では反中プロパガンダを強化していきました。その流れで、当局が東アジアの伝統文化に言及する場合も中華圏のものは避けられ、日本のそれが優先されるようになったというのです。イデオロギー的には、資本主義国である日本の方がより優先順位の高い“敵”のはずなんですけどね。核を持ち、長大な国境を接する中国の方がより“リアルな脅威”だったということか。

 当時のソ連では、本を出版する権限は党=国家が一手に握っていましたから、当然、日本文化関係の本が多く世に出回るようになります。漠然と「東アジア文明」に関心を持つソ連人はその手の本を読んでは、どんどん「旧き日本」の信者になっていったのでした。

何しろ、社会主義体制下で外部の情報は限られ、出版物の点数も限られていた時代です。そういう人の多くは、“日本”と名のつくものは専門書であれ何でも貪欲に読み込んでいたようで、特に、伝統とか歴史についての知識にはかなりの厚みがありますね。“知的な地肩”がとてつもなく強いというべきか。こちらの、義務教育程度の日本史などの知識では、しばしば太刀打ちできなかったりするんですよ。

ただ、困るのは、過去の日本を愛し、理想化するあまり“日本はいかに近代化しても、未だ伝統的で精神的な生活を送ってるに違いない” みたいな強固な信念を持つ人が非常に多いことです。この辺りは、ネットやゲーム、アニメを介して日本を知るようになった、若い世代の日本好きとは明らかに異なります。

そういう人に対して、リアル日本人たるこちらが、「いやいや、そんなことは….」と水を差そうものなら、まるで「お前は米化した偽日本人だ!」とでも言わんばかりの反応が返ってくることもあって、何か凹んでしまいますね。

こちらから言わせれば、細かく見れば、日本人もそう単純に欧化したり米化したりしてきてるわけじゃないんだけど、実際に日本に住んだことの無い人々にそれを説明するのはけっこう難しいもので......。

※字数制限に引っかかったので2つに分けることにします。(2)に続く。
 



最新の画像もっと見る

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (裸族のひと)
2009-03-19 22:30:55
ふむふむ。今の露西亜人の日本と日本人に対するイメージは、悪くは無いのですな。ちゅうこく&ちゅうこくちんと比較したら、かなり良いと思って良いらしいですな。
少なくとも過去の日露戦争の敗北は大東亜戦争で意趣返ししたと彼らは思っているはずだから、今は対等か多少の優越感でも感じてるのか?
逆に今の露西亜人が特定アジアの連中の様に、仮想敵又は忌み嫌う国は何処なのだろう?まあ露西亜も広いので、極東・中央アジア近郊・モスクワなど、歴史や民族が異なれば地域差は結構有りそうだけど。やっぱ米と米人が一番なのか?


>国家レベルの「口喧嘩」
北朝鮮→露西亜、中共→北朝鮮ですかww でも最近は日本も始めたようでござる。(といっても、日本政府はヘタレなので民間レベルだがw)以下は青木直人BLOGからのコピペです。

また北朝鮮向け放送「しおかぜ」についても、こちらからバンバン、内幕情報を北朝鮮内部に流してみたいとも考えています。中国共産党が金日成が毛沢東に当てた援軍要請の親書を公開することにした、それは外国人でも中国人でも誰でも見ることが出来るように展示されるとか、北京空港で金日成バッチをつけた北の留学生を酔っ払った中国人が『乞食め!』と罵った話とか、であります。
*「しおかぜネットワーク」は、『特定失踪者問題調査会』が主催
 http://aoki.trycomp.com/2008/07/post-55.html


>ただ、困るのは、過去の日本を愛し、理想化するあまり~
そうだよなぁ。昔の気骨有る先達達と比較されちゃぁ、駄目駄目な俺なんか涙目。・・・orz でも今の日本人が昔より良いところだって、有るよなあ。いや有って欲しい。きっと、有るに違いないもんね~!
返信する
Unknown (円谷@管理人)
2009-03-20 05:05:04
>裸族殿

国家どうしは仲が悪いですが、ロシア人自体は結構親日的だと思いますけどね。

>逆に今の露西亜人が特定アジアの連中の様
>に、仮想敵又は忌み嫌う国は何処なのだろう?

TVではソ連時代の昔から独ソ戦の映画ばかりやってますが、ロシア人の大半は独逸が大好きですね。ロシアが日中や日韓みたいなどろどろの関係にあるのは、バルト三国やポーランドです。最近ではグルジアもそうか。かつては同じ陣営に属した連中が、西欧人気取りで好き放題にロシアの悪口を言ってくる(と彼らは思っている)のが気に食わないみたいで。これについては、後ほどネタにしようと思っています。




>北朝鮮向け放送「しおかぜ」

いや、電波だと届くかどうか怪しいから、やっぱり丹東とかあの変まで行って、大型拡声器でやるべきですよw。というか、それよりも平壌に住む支配層の若い奴らに、中国経由でオタ向けコンテンツを浸透させた方が謀略としての効果は高いんじゃないでしょうかw。


>昔の気骨有る先達達

ロシア人が理想化してる日本人像にしても、その大元になっているのは明治以降の近代日本人が「再解釈」した歴史とか伝統文化なわけで、実際の所はどうなんでしょうね。とりあえず、そういうものに対して生身の我々は永久に勝てないのではないかとww。


返信する
Unknown (  )
2009-03-27 05:23:52
大変おもしろおかしい話です。
一般のロシア人に日本好きが多いとはよく聞きますが、まさかそんな歪んだ事情があるとは想像もしませんでした。
現代の中国を忌み嫌うが、論語や三国志など大昔の中国を美化する日本人が多いことに似ています。
返信する
Unknown (Unknown)
2009-03-28 03:44:48
随分前から、ロシア人の対日感情は悪くない(むしろ、良い)ことは知っていたのですが
なんで悪くないのか、今の今までさっぱり理由がわかりませんでした。
こちらのブログを拝見して、目からウロコが落ちましたm(__)m
国家同士の口喧嘩、中国の騒音撒き散らしは、現場を見なくても、なんとなく雰囲気が想像できてしまいます。ソ連も大変だったんですね・・・
返信する
Unknown (円谷@管理人)
2009-03-28 06:01:46
>2009-03-27 05:23:52殿
>現代の中国を忌み嫌うが、論語や三国志など
>大昔の中国を美化する日本人が多いことに似
>ています。

これは戦前からの伝統でしょうけど、結局、日本人は「論語・聖人ベース」を基準にみてしまうから、リアルな漢民族を必要以上に低く評価してしまうんじゃないでしょうか。ロシア人の場合(悪者がデフォルト)はまったく逆ですがw。

>Unknown (Unknown)殿
>ロシア人の対日感情は悪くない(むしろ
>、良い)

といっても、底の部分では日本と中国の区別なんてついてないですけどね。我々は「よき漢民族」扱いだと思われた方がいいかもw。 

返信する