明るい!?“HARBOR”の未来
僕の中に瞬く間に仮説が出来上がっていく。
収束に向かっている学生運動に、ロマンチック兄弟は居場所をなくしてしまったのだろう。仲のいい兄弟だからこそお互いの存在が刺激になり、次第に純粋に過激になっていった彼らにとって、学生運動の中途半端な終焉は許せないことだったのかもしれない。
動機は異なるとはいえ、小杉さんもまた純粋な . . . 本文を読む
小杉さんの選択
「小杉君、実家に帰ってるのよ」
夏美さんが微笑みながら言った言葉に、僕は愕然とした。小杉さんの逃亡とは、そういうことだったのか。官憲からの逃亡ではなく、闘争そのものからの逃亡だったとは……。
「ずっと悩んでたんは確かなんやけど、まさかねえ、実家に帰るなんて思わへんもんねえ」
「いやいや、びっくりしました。がっかりもしましたけど&h . . . 本文を読む
何が起きていたのか?
僕は咄嗟に理解した。夏美さんとガクさんは、一緒に暮らしている。そして、“HARBOR”は二人の店だ。経緯がどうであれ、夏美さんにとってそれが幸せなことであることは彼女の風情からして疑うべくもない。
洗いざらしのボタンダウンシャツはきっとガクさんのものに違いない。ジーンズにスニーカーというコーディネーションも、二人の日常のものだろう。 . . . 本文を読む
“ディキシー”の変化
はやる気持ちを抑えながら河原町通りをゆっくりと下り、三条通りを越える。路地を左折してすぐ、自販機でタバコを買う。部屋にあったお金はすべて持って出たはずだったが、指に触れた札は多くはなかった。
“ディキシー”に近づく。電飾看板はまだ出ていない。出勤するママと柳田に出くわさないよう、足を速める。しかし、通り過ぎた . . . 本文を読む
心の整理へ
本屋に立ち寄った以外はほとんど走り続け、下宿に戻った。すぐ隅から隅まで新聞に目を通したが、テロ事件に関する記事は見当たらなかった。週刊誌2冊に記事を探してやっとテロ事件の詳細に行き着いたが、新たな情報を手に入れることはできなかった。新たにわかったのは、射殺されたテロ犯2名の名前と、僕が相当長きにわたって社会の情報と隔絶されていたということだけだった。下宿~学校~&ld . . . 本文を読む
屋上の三つの星
構内を歩き回り、学生食堂の前を通りかかった時、東山通り側の窓に人だかりがしているのを見つけた。近付いてみると、視線は道路の反対側にある古い講堂に集まっている。
みんなの視線の先を追うと、屋根の上で数人が作業をしているのが見える。何をしているのかは定かではない。しかし、何か曰くありげではある。
しばらくすると、窓に群がる十数名に二人の学生が駆け寄ってきた。彼らの . . . 本文を読む
平穏。そして、新たなざわめき
テッちゃんの小屋でしばらく佇んでいた。一晩、意のままに操られたのだと思うと、悔しくてならなかった。無防備で未熟な自分が腹立たしかった。
小屋を出ると、日差しの中を粉雪が舞っていた。頬に落ちた一片に触れると、それは灰だった。左右に目を配ると、たき火をしている男を発見した。火勢に煽られ、燃えた紙片が舞い上がっているのが見える。男の身なりは、いかにも浮浪 . . . 本文を読む
真実の行方
「今日は、ほんま、ありがとう」
桑原君の話は僕に深々と頭を下げることから始まった。長髪の頭頂部に付着した枯草に、僕は複雑だ。
「すっきりした~~~」
“ディキシー”の前で僕を待ち受けていた時の桑原君は消え、新聞配達が終わり販売所に帰って来た時の顔に戻っている。
「何かを抱え込むって、それが大切なものかどうか関係あれへんもんなんやなあ。今 . . . 本文を読む