家の中がうるさくて、確たる宛もなく昼前から外にでた。とりあえずバスに乗った。終点まで行くつもりだったが、途中で心変わりし映画館に入った。二本立てで、一本は世代の異なる三姉妹を洗練されたタッチで描くベトナム映画の『夏至』。もう一本は1999年スペイン映画『蝶の舌』。喘息持ちの8歳の少年モンチョと定年間近のグレゴリオ先生との出会いと別離を描く。春が来ると先生は生徒たちを野に連れて行く。モンチョにとっては「蝶の舌」について教えてくれた先生の言葉が忘れられないのだ。
時は1936年、スペイン内戦の前夜である。グレゴリオ先生は物静かだが、確信的な自由主義者、共和派だった。やがて反革命派の政権奪取があり共和派は迫害される。昨日までモンチョの父親も共和派だったのだ。それが反革命政権誕生とともに、昨日までの思想を隠し保身に走らねば、その町では暮らしも立たない。そればかりか父親には、息子モンチョが毎晩、その日の学校での様子を楽しそうに語ることからもグレゴリオ先生のことは、心から尊敬していたことも重々わかっていたのである。ある日、いつものように野外での授業中にモンチョが喘息の発作を起こしそうになった。とっさの判断で先生はモンチョを抱き上げ、そのまま川の中に入っていった。これで発作はおさまってしまったのである。腕のよい仕立屋でもある父親は先生へのお礼にスーツを一着仕立ててやった。だがこの父親は、先生が連れ去られるとき、まっさきに反共和派を演じてみせなければならなかった。教会から綱をつけられた先生が広場に出来てきた。トラックに乗せられ官憲に連れ去られていくシーンである。モンチョの父親は先生を「アカ!」と罵倒した。モンチョも去っていくトラックを追いかけながら「アカ!アカ!」と先生に罵声を浴びせ石を投げた。それが先生とのお別れだった。
時は1936年、スペイン内戦の前夜である。グレゴリオ先生は物静かだが、確信的な自由主義者、共和派だった。やがて反革命派の政権奪取があり共和派は迫害される。昨日までモンチョの父親も共和派だったのだ。それが反革命政権誕生とともに、昨日までの思想を隠し保身に走らねば、その町では暮らしも立たない。そればかりか父親には、息子モンチョが毎晩、その日の学校での様子を楽しそうに語ることからもグレゴリオ先生のことは、心から尊敬していたことも重々わかっていたのである。ある日、いつものように野外での授業中にモンチョが喘息の発作を起こしそうになった。とっさの判断で先生はモンチョを抱き上げ、そのまま川の中に入っていった。これで発作はおさまってしまったのである。腕のよい仕立屋でもある父親は先生へのお礼にスーツを一着仕立ててやった。だがこの父親は、先生が連れ去られるとき、まっさきに反共和派を演じてみせなければならなかった。教会から綱をつけられた先生が広場に出来てきた。トラックに乗せられ官憲に連れ去られていくシーンである。モンチョの父親は先生を「アカ!」と罵倒した。モンチョも去っていくトラックを追いかけながら「アカ!アカ!」と先生に罵声を浴びせ石を投げた。それが先生とのお別れだった。