「くぅ~ん」な彼女を紹介します
今年の一月に新人の女性が入所してきました。
よりによって、わたしの勤務日と同じ日になっています。
「なんだろな?」と思いつつ、日々が過ぎて2月になりました。
「むーじょさん、新しい人がくるからよろしくね。有名私立大の法学部を出たお嬢様だからね。ちなみに趣味は海外旅行だっていうから、話が合うでしょ」
と、やけに嬉しそう。
むーじょ「・・・」
ホント、所長さんたら、お嬢様好きなんだから。
やってきました、お嬢様。予定より一ヶ月遅れてご出社です。
所長さんからお昼の会食に、と渡された1万円札握り締めて、展望レストランへGoGoGoです。やった、ひとり5千円のコースかな。
懐石料理がランチサービス4000円とお手ごろだったので、お嬢様にお伺いをたてたところ、さっきのお店の1800円の中華ランチにしませんかとのこと。(えぇー?一人5000円の予算だよん。奥ゆかしすぎませんかー)
たのしいランチ。でもなんでこんなに彼女を優遇してるのかしら。
ちょっと不思議だったので、お嬢様にたずねてみました。
「ええ、なんだか、この春で辞めちゃうひとがいるということで、募集していましたよ」
(え?そうなの?あの彼女が辞めるの?・・・そんなわけないしな。
も、もしかしてわたしのこと!)
やばい。
何年か前に、ほかの職場でそんなことがあった。
あとから入社してきた子に、置き換えられてしまったのだ。
雇用者からすれば、おばさんなんかより、若くてキレイなお嬢様のほうが、ずーっといいに決まってる。
世の中そんなもんなのだ。
とりあえず、お話をつづけなきゃ。
お嬢様、海外旅行はどちらえ行かれました?
グァムへ一度・・・南の島、いいですよねー。海はきれいで、やしの木なんか茂っちゃって。わたし行ったことないんです。
どちらから通勤してるんですか?
練馬から自転車・・・健康によさそうですね。
おじい様が練馬の農家で駅前にマンション3つ持ってるのですか、はぁ。すごいです。
どうやら、お金持ちのようである。
練馬から池袋まで、自転車で来てしまう、パワフルなお嬢様なのである。
「くぅ~ん」なおねえさまは、好きですか
彼女がパソコンに向かっています。
多少わかりずらいことがあるのでしょう。
ちいさな声で何度も「くぅ~ん」と鳴いています。
その泣き声を察して、所長が嬉しそうに教えています。
以前の職場は、「くぅ~ん」すれば誰かが飛んできてくれたのでしょう。
所長が外出で居なくなりました。
それで、たぶんわたしにむかって「くぅ~ん」と鳴いています。
放置プレイしてました。
出社したりしなかったりする、気まぐれなお嬢様
2時間おきにケータイがブルブルしているお嬢様
「丸井の前に・・・え、これから今すぐ? ダメよ・・・ひそひそ」 丸聞こえ、どうやら不倫をなさっているご様子のお嬢様
わたしの知っていたお嬢様も、気まぐれだったっけ。
現金を持っていなくてカードしか使ったことがなく、学食でカードが使えないと困っていたっけ。
友達の現金でおごってくれた天ぷらうどんを食べてたっけ。
7月に入ると毎年いなくなる。
夏の3ヶ月はフランスにあるパパのお城で過ごすのが恒例だっていってたっけ。フランスだけでもお城を3つ持っているともいってた。
免許を取りたてでいきなりフェアレディーZの新型新車を乗って学校にきてたっけ。
「これ、日本車なんだけど、好きなんだ」って、恥ずかしそうにいってたっけ。
そんなのが、わたしの知っているお嬢様なんだけどな・・・。
わーい
お嬢様、居なくなる
「むーじょさん、彼女、来られなくなってしまいましたよ。なんでも、癌だそうで・・・」
わたし
「癌 ですか。かわいそうに。まだ若いのにね。練馬から池袋まで自転車で来る人が、何の癌なのでしょう・・・・困」
所長さんの残念そうな顔ったら、ないです。
わたしのせいぢゃ、ないです。
4回しか一緒に仕事しなかったんだから。
どうみても、エセお嬢様です、メッキです。身分詐称です。
以前にいて、辞めちゃったお嬢様の話を、所長さんが昔よく話していましたが、
もうお嬢様で選ぶの、止めにしません?
この事務所で、わたしだけでしょ、トイレ掃除やゴミ出し、床磨き、飲料水やトナーの買出ししているの。
お嬢様にはそんなこと、絶対させないでしょ。
お嬢様の出社なさる日には、ケーキを食べながらの午後3時のお茶会するでしょ。
お給料も、いきなりわたしと同額でしょ。
古株のわたしはもう、所長からいいかげん飽きられてしまったのでしょうねぇ。
あー、危なかった。危機は去った。
でも、またいつお嬢様が再び現れるかわかりません。
ここの事務所では、誰でも知っている有名大学を出ている裕福層以外の人は、みんな馬の骨。わたしも田舎出身の馬の骨
でも、そんなもんで、わたしもリスクヘッジ。
今、人材バンク登録をしまくっていました。
これからの社会、雇われる側もリスクヘッジを考えてないと、急にどうなるか、わかったもんじゃないざんすの。
これからは、「ヘッジワーカー」の時代なのさっ!