はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

自分の後始末

2009-10-07 18:01:33 | はがき随筆
 2度目のペースメーカーの手術を終えて退院する日に、元気だった夫が急逝した。
 私はパニックに陥り、体の自由も失った。歩行困難と激しい腰痛……。葬儀は介助してくれた人々のおかけで車いすに乗って何とか終え、一周忌に納骨することもできた。ただ1人暮らしの重度障害者で、左手は肩の高さまでしか上がらない。何でも右手だけでするが、物を落として壊すこともある。歯がゆい。
 80歳という年も考え、自分の後始末をつけておかねばと、4月下旬に広島の妹夫婦に来てもらい、一緒に司法書士を訪ねて遺言状の作成を依頼した。その面倒な手続きに驚き戸惑ったが、何とか公正証書が出来上がった。
 健常な心を持つ今の状態 ▽認知症の気配が感じられた時 ▽死後──その3期にわたる説明と文書の確認が求められた。迷惑をかけたくないので尊厳死宣言公正証書を追加した。献体をし、葬儀、埋葬、供養は不要とした。書類を提出し、公証役場を出た時は、何とも言えない不安と寂しさに食事ものどを通らなかった。
 土地家屋は自分が処分したいが、思うようには進まない。すべてを背負う妹には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。現在体調が悪く呼吸困難を感じる時もある。そんな私を励まそうと常に電話をくれる優しさに救われている。
 ありがとう。迷惑をかけてごめんね。
 鹿児島県薩摩川内市 上野昭子・80歳 2009/10/7 毎日新聞の気持ち欄掲載

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