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「骸骨島」

2014-01-12 17:55:14 | 少年もの
高木彬光少年小説コレクション1巻「覆面紳士」には「骸骨島」も収録されるというので、今回は「骸骨島」について。


「骸骨島」
※昔、サイトに掲載していた文章を元に加筆修正しています。




小学6年生1950年12月号。画:飯塚羚児。



【初出】
小学6年生1950年4月号~中学生の友1951年5月号(全15回 増刊号含む)
※最初は「探偵小説」と銘打っていたのが途中から「科学探偵小説」と変っている


【今回のテキスト】
「骸骨島 復刻版」2002/07/20 神月堂
…いや、雑誌資料出すの面倒だし、自分でまとめて読みたくて本にしたのだからw


【あらすじ】
世界的な原子科学者高柳博士は渡米の途中大平洋上で行方不明となる。秘密結社「骸骨団」に掴まってしまったのだ。一方、高柳博士の親友で一緒に研究をしていた柴田博士も骸骨団に付け狙われ、研究資料を奪われてしまう。二人が研究していたのは原爆を超えるエネルギーを持つ水素エネルギーについてだった。これが兵器として使われれば大変なことになる。
高柳博士の娘笛子の誘拐を目撃した神津恭介は骸骨団と対決することになるが、今度は柴田博士をも誘拐されてしまった。
不思議な円盤、謎の骸骨島。
そして、東京には新たな危機が迫っていた。
果たして、神津恭介はそれを阻止できるのか。

 







【ここから↓さっくりと少しネタバレもあるので注意】
これは冒険活劇です。神津の探偵小説ではないですね。
でも、今まで読んだ中で一番面白かった(というか私のツボ)と思っています。
もう、最初から最後までワクワクしながら読みました。
次々と迫る危機にスピード感溢れる展開。
神津恭介の鮮やかなヒーローっぷり、そして柴田博士の筋の通った生き方。
アイテムもキーワードもあの時代によく書いたな、というかあの時代だから書けたのか。謎の円盤やら、骸骨の形をした島、移動要塞、その上ナチの第三帝国の残党や、駐日米軍との連係プレー、そして水爆。
これは、かなり楽しめました。

ただ、神津の活躍だけでなく、息をつかせぬ展開と柴田博士始めの登場人物達の漢っぷりに心奪われてしまって、今ではこの「骸骨島」は、私の中では「神津の少年もの」というより、「(神津の出てくる)戦後の冒険活劇小説」として位置づけられています。
いや、神津もかっこいいよ。かっこいいんだけど、それだけじゃないんだよー。



強く感じたもの。
昭和25~26年に連載されたものだからか、戦後のそして戦争を生き抜いた子供達への
平和へのメッセージが色濃く表れている気がします。

まだ、戦後の混乱期を完全に抜け出せていない昭和25年。
日本兵の引揚げはほぼ終ったものの、日本はまだGHQの統制下にあり、政治の安定にはまだ遠く、労働運動やらレッドパージやら。
とはいえ、物価統制も徐々に解除され朝鮮戦争の特需もあり経済的には立ち直りつつある。湯川秀樹のノーベル賞受賞、白井義男、古橋広之進らスポーツ選手の国際的な活躍など日本人を支える明るいニュースもあり、この時代は絶望の過去から希望の未来へ進もうとしていた大転換期なのです。


そこには科学への期待と恐れがあります。
水爆というアイテムからは原子力という新しいエネルギーに対する期待と恐れが溢れています。投下から五年、原爆の被害はひどい後遺症という形で伝えられているはずで、夢の未来エネルギーとなるべきものが使い方を間違えば恐ろしい結果を生むという事実を肌で知っている「時代」のメッセージは柴田博士の言葉が表していると思う。

「光夫君、よくおぼえておいてくれたまえ。これが科学者の道なんだ。」
「原子力の発見というのは、人類にとって、火の発見につぐ、大きな段階なんだ。自然の秘密、宇宙の秘密の大きな鍵を、初めて人類は手につかめたんだ。この力を善に働かせるのも、悪に働かせるのも、それは人類の決心1つ…人類が初めて幸福に平和に暮らせるようになるのも、この地球の上から1人残らず、姿を消してしまうのも、この原子力の発達と、使い方だけにかかっているということを忘れずにいてくれたまえ。」

「覆面紳士」でも語られた「科学に善悪はありません。ただそれを使う人の心によって善ともなり、悪ともなるのです。」というメッセージはここでも繰り返されています。

ちなみに、あのビキニの水爆実験は昭和29年3月のことで、そこから核に対する世間の興味はより強くなり、反核運動は急速に盛り上がるけど、その前にこのテーマで小説があるというのはすごいような気がします。
ただ、昭和25年には放射性同位元素初輸入、米原子力委員会がデュポン社と水爆製造工場の建設契約を締結と発表などのニュースもあり、水爆についての話題が大きく取り上げられていた時期なのかもしれません。



冒険活劇。
神津恭介も拳銃を使うだけでなく、格闘して相手を締め落としたり。
強い強い。
この神津恭介は心技体揃ったスーパーヒーローです。
……やはり、大人ものの神津とは別人だよ…。

一方では、なんと、松下課長も落下傘でアジトに潜入したり、警察官も大活躍。
都内のアジトに総攻撃をかける武装警官達は警視総監の命令一下、果敢に戦って命を落としていきます。
そう、結構たくさんの人が死んでいるのです。



【自分の為の覚書:この時期の警察と自衛隊】
この時期に自衛隊のような組織はなかったので、骸骨島への潜入攻撃には在日米軍の協力も不可欠でした。爆撃や救助船も当たり前の様に米軍です。
都内での総攻撃には「警視庁予備隊」(現在の機動隊)が活躍したのでしょう。
現在の自衛隊や警察をイメージしているととても違和感があります。
この辺は若い読者には伝わらないかもしれません。

Wikiによると、
戦後「警視庁予備隊」が創設されたのは昭和23年(21年に創設された防護隊が拡大された)。その後、昭和27年に機動隊となります。

一方、朝鮮戦争が勃発したのが昭和25年6月、それにより同8月、GHQの指令に基づくポツダム政令により自衛隊の前身である「警察予備隊」が組織されました。これは「警視庁予備隊」とは別組織で、昭和27年に「保安隊」(現在の陸上自衛隊)として発展的解消します。
機動隊は戦後すぐからあって、自衛隊は丁度連載されていた時期に出来た、と考えるのが良さそうです。



今回読み返して。
これ、深夜アニメで1クールくらいでやってくれないかなあ…と思ってしまった。
かなり面白いと思うんだけど。
時代背景が合わないから難しいかな。
それに。
うん、まあ神津のキャラデザには必ず文句つけると思うけどねw




「覆面紳士」

2014-01-07 17:44:08 | 少年もの
今年こそは高木彬光の少年もの全集が出るというならば、
まずは宣伝を兼ねて「覆面紳士」の紹介と感想など。
あと、少年ものの神津について徒然。
昔、サイトに掲載していた文章を加筆修正しています。



「覆面紳士」
偕成社 書き下ろし。
1949.05.15が初版らしい。
挿絵、カバーは伊藤幾久造。
今回のテキストは偕成社S29.2.15発行のもの。





「姿なき凶盗の出現!警視庁は色めきラジオは恐怖をつとう。名探偵神津氏は早くも活動を開始、手に汗を握る冒険物語。」(巻末の偕成社のリストより)



【あらすじ】
古沢三郎博士は秘密裏に「生物を透明にする」研究をしていた。ある夜、博士は研究とともに行方不明になってしまう。心配した家族は近所に住む松下研三に助けを求める。一方、その頃、都内ホテルでは透明人間によるとしか思えない不可解な宝石盗難事件が発生していた。
翌朝、松下兄弟にそれぞれ相談を持ちかけられた神津恭介は2つの事件の繋がりに気づく。そして、事件を追ううちに宝石強盗団X団と対決することになる。


と、書いてみましたが、少年向け冒険小説なので、古沢博士の息子の古沢三千夫少年が活躍します。
三千夫少年は父の行方を探すため、家に手紙を持って来た男の後をつけ、怪しい洋館に辿り着くのですが、そこには……。




イメージとしては江戸川乱歩の少年探偵団シリーズを思い浮かべていただければいいでしょう。古沢少年が小林少年、明智が神津という構図です。
これらは名探偵シリーズですからメインは名探偵と犯罪者の対決なのですが、少年向けなので読者が感情移入できる主人公として「少年」の存在が必要不可欠となっています。
それが少年探偵団の小林君であり、この作品の古沢三千夫少年というわけです。
ただ、「覆面紳士」においては古沢少年は神津の助手ではなく父を救うという使命により事件の渦中に飛び込んでいくことになります。この後のシリーズでは助手的役割もあるのですが。

それから、特徴的なのは「透明人間」が本物であるということ。
トリックではなく「透明人間」が普通に登場人物として出てきます。
これは海野十三の影響とも言われていますが、私はあまり詳しくないのでその辺は専門家の解説に任せましょう。

お話としてはハラハラドキドキ一気読みの展開の、じっくり推理ものというよりミステリ風味の冒険活劇ではないでしょうか。
もちろん、宝石の行方や透明人間、さらに首領の正体など謎解きの楽しみもしっかりあるのですが。後半~ラストの急展開はジェットコースターです。


それから神津恭介の萌えファンにはなかなか重要なのは、古沢博士の娘、古沢美和子(18)の登場。
一部ファンの間では、大麻鎮子と結婚しなかったならば彼女が結婚相手だろうと言う人もいるくらい親しい存在です。
当時神津は30歳くらいだから一回り離れているけど、まあ、釣り合い的には珍しくもないし。
なかなかの美少女で聡明なお嬢さんらしいです。
私も清水香織は絶対に許せないけど、美和子ならまあいい感じだと思っています。








さて。
少年ものの神津と大人ものの神津について。
最近は同一視してもあまり問題はないなと思わないでもないのですが、十数年前、初めて少年ものを読んだ時は「少年ものの神津と大人ものの神津は別人である」と断言していました。
現在も、時間軸や事件は同じではあるけれど、主人公の神津自体は少し次元のずれたパラレルな存在ではないかと考えています。

高木先生自身がどう考えていたかはわかりませんが、子ども向けに分かりやすいカッコイイ頼れるキャラづけが必要だった為に違ってしまったのかなあ、と。

「東大医学部を、学校はじまっていらいという、優秀な成績で卒業して、しばらく研究室で研究を続けていたのだが、その後、軍医として応召し、このながい戦争の間ずうっと、北支からジャワの方ですごして来たのだった。」
「まだ三十をいくつもこえていないくらいの青年なのだが、このようにやさしい顔をした貴公子にどうしてあのようなするどい智慧がひらめくのかと、その顔を見る者は誰一人として、感心しない者はいなかったのである。」

前半の描写は大人ものとさほど変わりはありません。女のように優しい顔をした天才青年という描写。

「しかし神津恭介は、ほんとうの勇気にみちあふれている快男子だった。彼は自分の身にどんなことが起ころうと、あくまでこの透明人間と闘いぬく決心をかためたのだった。」
「恭介は軍隊時代には、ならぶ者がいないといわれた拳銃射撃の名手だった。」

しかし、後半は活動的で運動神経も抜群なスーパーマンというイメージが浮かび上がります。

「快男子」「射撃の名手」……思いつきもしない言葉ですね。
確かに大人向けの方でも勇気はあるし、従軍していたのだから射撃の名手ということもありえるかもしれないんですが、どちらかといえば線の細い蒲柳の質であるイメージが強かったので思わず驚いてしまった一文です。
だって、学生時代は病弱で「お嬢」と呼ばれていたこともあるのに。まあ、従軍してあの南方の激戦地を生き抜いて来たのだから健康で射撃も体術もある程度は出来なくてはいけなかったのでしょうけど。
これなら近藤神津も村上神津も仕方ないというものです。


でも、実は射撃の名手ってのはありかな…うん。ちょっとかっこいいし。
ただ、「快男子」っていうのは…やはりちょっと。
「さわやかで、気持ちの良い男」という意味なら間違いはないのだけれど、言葉のイメージとしてこう、冒険家の肉体派なイメージがあるからなあ。快男児とは違うのだろうけど…うーむ。
細身で長身、知的な学者さんのイメージではない言葉な気が。


大人ものでは「女の手」事件などでもわかりやすく大立ち周りしていたりしますが、やはりイメージが違うんですよね。
当時の子どものヒーローは「悪人を『自分で』やっつける」は必須だったからかなあ。
それとも話の筋ありきだったからだろうか(※)。

そんなわけで私は微妙にパラレル説をとっています。


ちなみにいつもの登場人物の紹介を抜粋すると、
松下英一郎は
「でっぷりと太った眉毛の濃い、鼻と口の大きな、それでいてやさしそうな、象のような眼をした」「柔道三段のスポーツマンで、悪者たちの間では鬼松といわれて怖がられていた猛者」

松下研三は
「まだ年も若く、この間軍隊から復員して来て、いま大学の医学部にかよっているのだが、なんでも、この頃はお兄さんのお仕事を助けて、たいへんなてがらを何度もたてている」「のっぽで、いつもの癖で帽子もかぶらず、ぶしょうひげをはやして、つよい近眼鏡の底から、人なつこい眼をして笑いかけた。」

松下兄はいいおじさん、頼りがいのあるやさしいおじさんの面が強調され、研三も人のいい面白いお兄さんとして描写されています。
研三も瓶底眼鏡をかけたバンカラ学生っぽい感じで神津よりかなり年下なイメージでちょっと違う感じです。



神津に関しては大人になってから少年向けを読んだので、やはり最初は子供の頃に読みたかったなあと思いました。明智とルパン、ホームズ等は素直にジュブナイルから入ったのだけれど、同じ小学生の時に、神津ものは父の本棚にあった大人のものを読んでいたからなあ。その時に受けたイメージが強いのです。
でも、少年ものを最初に読んでいたら神津に対するイメージも随分変わっていたことでしょう。



※この作品は昭和24年に公開された「透明人間現わる」の小説化?作品だそうです。私は未見なのですが、wikiによると原案:高木彬光で、もちろん神津は出てきませんが、あらすじはほぼ同じみたいです。映画の字幕に出てくる「科学に善悪はありません。たヾそれを使う人の心によって善ともなり、悪ともなるのです。」というメッセージは、覆面紳士においては神津の言葉として物語を締めくくっています。


高木彬光少年小説コレクション

2014-01-05 17:34:04 | 少年もの
年末のコミケでスペースにお立ち寄りくださった方、どうもありがとうございました。

さて。
今年は…今年こそは論創社さんから神津恭介シリーズの少年ものが発行されそうです。
あ、神津だけで無く少年もの全般ですが。


日下三蔵さんの日記より詳細予定を。

●高木彬光少年小説コレクション
1 覆面紳士 『覆面紳士』+『骸骨島』
2 死神博士 『死神博士』+『白蝋の鬼』
3 黒衣の魔女 『黒衣の魔女』+『吸血魔』
4 悪魔の口笛 『悪魔の口笛』+『オペラの怪人』
5 深夜の魔王 『夜の皇帝』+『深夜の魔王』
6 幽霊馬車 『幽霊馬車』+『妖鬼の塔』

高木は各巻に短篇を併録。可能であれば、もう一冊、SFの巻も加えたいとのこと。
日下さんは夏か秋には高木をスタートさせたいそうですが、黒田さんによると冬にずれ込む可能性もあるそうです。

とりあえず、その前に鮎川コレクションが出てそれが売れないとまずいらしいので、鮎川も買いましょう。
いや、面白いですし買って損はないですよ?

あと、光文社の「刺青殺人事件」がひっそりと新装版になってます。10月に。
カバー絵がなかなか素敵ですので、お持ちでない方はぜひ。





そんなわけで神津的には幸先の良いニュースで始まる2014年。
今年もどうぞよろしくお願いします。