高木彬光少年小説コレクション1巻「覆面紳士」には「骸骨島」も収録されるというので、今回は「骸骨島」について。
「骸骨島」
※昔、サイトに掲載していた文章を元に加筆修正しています。
小学6年生1950年12月号。画:飯塚羚児。
【初出】
小学6年生1950年4月号~中学生の友1951年5月号(全15回 増刊号含む)
※最初は「探偵小説」と銘打っていたのが途中から「科学探偵小説」と変っている
【今回のテキスト】
「骸骨島 復刻版」2002/07/20 神月堂
…いや、雑誌資料出すの面倒だし、自分でまとめて読みたくて本にしたのだからw
【あらすじ】
世界的な原子科学者高柳博士は渡米の途中大平洋上で行方不明となる。秘密結社「骸骨団」に掴まってしまったのだ。一方、高柳博士の親友で一緒に研究をしていた柴田博士も骸骨団に付け狙われ、研究資料を奪われてしまう。二人が研究していたのは原爆を超えるエネルギーを持つ水素エネルギーについてだった。これが兵器として使われれば大変なことになる。
高柳博士の娘笛子の誘拐を目撃した神津恭介は骸骨団と対決することになるが、今度は柴田博士をも誘拐されてしまった。
不思議な円盤、謎の骸骨島。
そして、東京には新たな危機が迫っていた。
果たして、神津恭介はそれを阻止できるのか。
【ここから↓さっくりと少しネタバレもあるので注意】
これは冒険活劇です。神津の探偵小説ではないですね。
でも、今まで読んだ中で一番面白かった(というか私のツボ)と思っています。
もう、最初から最後までワクワクしながら読みました。
次々と迫る危機にスピード感溢れる展開。
神津恭介の鮮やかなヒーローっぷり、そして柴田博士の筋の通った生き方。
アイテムもキーワードもあの時代によく書いたな、というかあの時代だから書けたのか。謎の円盤やら、骸骨の形をした島、移動要塞、その上ナチの第三帝国の残党や、駐日米軍との連係プレー、そして水爆。
これは、かなり楽しめました。
ただ、神津の活躍だけでなく、息をつかせぬ展開と柴田博士始めの登場人物達の漢っぷりに心奪われてしまって、今ではこの「骸骨島」は、私の中では「神津の少年もの」というより、「(神津の出てくる)戦後の冒険活劇小説」として位置づけられています。
いや、神津もかっこいいよ。かっこいいんだけど、それだけじゃないんだよー。
強く感じたもの。
昭和25~26年に連載されたものだからか、戦後のそして戦争を生き抜いた子供達への
平和へのメッセージが色濃く表れている気がします。
まだ、戦後の混乱期を完全に抜け出せていない昭和25年。
日本兵の引揚げはほぼ終ったものの、日本はまだGHQの統制下にあり、政治の安定にはまだ遠く、労働運動やらレッドパージやら。
とはいえ、物価統制も徐々に解除され朝鮮戦争の特需もあり経済的には立ち直りつつある。湯川秀樹のノーベル賞受賞、白井義男、古橋広之進らスポーツ選手の国際的な活躍など日本人を支える明るいニュースもあり、この時代は絶望の過去から希望の未来へ進もうとしていた大転換期なのです。
そこには科学への期待と恐れがあります。
水爆というアイテムからは原子力という新しいエネルギーに対する期待と恐れが溢れています。投下から五年、原爆の被害はひどい後遺症という形で伝えられているはずで、夢の未来エネルギーとなるべきものが使い方を間違えば恐ろしい結果を生むという事実を肌で知っている「時代」のメッセージは柴田博士の言葉が表していると思う。
「光夫君、よくおぼえておいてくれたまえ。これが科学者の道なんだ。」
「原子力の発見というのは、人類にとって、火の発見につぐ、大きな段階なんだ。自然の秘密、宇宙の秘密の大きな鍵を、初めて人類は手につかめたんだ。この力を善に働かせるのも、悪に働かせるのも、それは人類の決心1つ…人類が初めて幸福に平和に暮らせるようになるのも、この地球の上から1人残らず、姿を消してしまうのも、この原子力の発達と、使い方だけにかかっているということを忘れずにいてくれたまえ。」
「覆面紳士」でも語られた「科学に善悪はありません。ただそれを使う人の心によって善ともなり、悪ともなるのです。」というメッセージはここでも繰り返されています。
ちなみに、あのビキニの水爆実験は昭和29年3月のことで、そこから核に対する世間の興味はより強くなり、反核運動は急速に盛り上がるけど、その前にこのテーマで小説があるというのはすごいような気がします。
ただ、昭和25年には放射性同位元素初輸入、米原子力委員会がデュポン社と水爆製造工場の建設契約を締結と発表などのニュースもあり、水爆についての話題が大きく取り上げられていた時期なのかもしれません。
冒険活劇。
神津恭介も拳銃を使うだけでなく、格闘して相手を締め落としたり。
強い強い。
この神津恭介は心技体揃ったスーパーヒーローです。
……やはり、大人ものの神津とは別人だよ…。
一方では、なんと、松下課長も落下傘でアジトに潜入したり、警察官も大活躍。
都内のアジトに総攻撃をかける武装警官達は警視総監の命令一下、果敢に戦って命を落としていきます。
そう、結構たくさんの人が死んでいるのです。
【自分の為の覚書:この時期の警察と自衛隊】
この時期に自衛隊のような組織はなかったので、骸骨島への潜入攻撃には在日米軍の協力も不可欠でした。爆撃や救助船も当たり前の様に米軍です。
都内での総攻撃には「警視庁予備隊」(現在の機動隊)が活躍したのでしょう。
現在の自衛隊や警察をイメージしているととても違和感があります。
この辺は若い読者には伝わらないかもしれません。
Wikiによると、
戦後「警視庁予備隊」が創設されたのは昭和23年(21年に創設された防護隊が拡大された)。その後、昭和27年に機動隊となります。
一方、朝鮮戦争が勃発したのが昭和25年6月、それにより同8月、GHQの指令に基づくポツダム政令により自衛隊の前身である「警察予備隊」が組織されました。これは「警視庁予備隊」とは別組織で、昭和27年に「保安隊」(現在の陸上自衛隊)として発展的解消します。
機動隊は戦後すぐからあって、自衛隊は丁度連載されていた時期に出来た、と考えるのが良さそうです。
今回読み返して。
これ、深夜アニメで1クールくらいでやってくれないかなあ…と思ってしまった。
かなり面白いと思うんだけど。
時代背景が合わないから難しいかな。
それに。
うん、まあ神津のキャラデザには必ず文句つけると思うけどねw
「骸骨島」
※昔、サイトに掲載していた文章を元に加筆修正しています。
小学6年生1950年12月号。画:飯塚羚児。
【初出】
小学6年生1950年4月号~中学生の友1951年5月号(全15回 増刊号含む)
※最初は「探偵小説」と銘打っていたのが途中から「科学探偵小説」と変っている
【今回のテキスト】
「骸骨島 復刻版」2002/07/20 神月堂
…いや、雑誌資料出すの面倒だし、自分でまとめて読みたくて本にしたのだからw
【あらすじ】
世界的な原子科学者高柳博士は渡米の途中大平洋上で行方不明となる。秘密結社「骸骨団」に掴まってしまったのだ。一方、高柳博士の親友で一緒に研究をしていた柴田博士も骸骨団に付け狙われ、研究資料を奪われてしまう。二人が研究していたのは原爆を超えるエネルギーを持つ水素エネルギーについてだった。これが兵器として使われれば大変なことになる。
高柳博士の娘笛子の誘拐を目撃した神津恭介は骸骨団と対決することになるが、今度は柴田博士をも誘拐されてしまった。
不思議な円盤、謎の骸骨島。
そして、東京には新たな危機が迫っていた。
果たして、神津恭介はそれを阻止できるのか。
【ここから↓さっくりと少しネタバレもあるので注意】
これは冒険活劇です。神津の探偵小説ではないですね。
でも、今まで読んだ中で一番面白かった(というか私のツボ)と思っています。
もう、最初から最後までワクワクしながら読みました。
次々と迫る危機にスピード感溢れる展開。
神津恭介の鮮やかなヒーローっぷり、そして柴田博士の筋の通った生き方。
アイテムもキーワードもあの時代によく書いたな、というかあの時代だから書けたのか。謎の円盤やら、骸骨の形をした島、移動要塞、その上ナチの第三帝国の残党や、駐日米軍との連係プレー、そして水爆。
これは、かなり楽しめました。
ただ、神津の活躍だけでなく、息をつかせぬ展開と柴田博士始めの登場人物達の漢っぷりに心奪われてしまって、今ではこの「骸骨島」は、私の中では「神津の少年もの」というより、「(神津の出てくる)戦後の冒険活劇小説」として位置づけられています。
いや、神津もかっこいいよ。かっこいいんだけど、それだけじゃないんだよー。
強く感じたもの。
昭和25~26年に連載されたものだからか、戦後のそして戦争を生き抜いた子供達への
平和へのメッセージが色濃く表れている気がします。
まだ、戦後の混乱期を完全に抜け出せていない昭和25年。
日本兵の引揚げはほぼ終ったものの、日本はまだGHQの統制下にあり、政治の安定にはまだ遠く、労働運動やらレッドパージやら。
とはいえ、物価統制も徐々に解除され朝鮮戦争の特需もあり経済的には立ち直りつつある。湯川秀樹のノーベル賞受賞、白井義男、古橋広之進らスポーツ選手の国際的な活躍など日本人を支える明るいニュースもあり、この時代は絶望の過去から希望の未来へ進もうとしていた大転換期なのです。
そこには科学への期待と恐れがあります。
水爆というアイテムからは原子力という新しいエネルギーに対する期待と恐れが溢れています。投下から五年、原爆の被害はひどい後遺症という形で伝えられているはずで、夢の未来エネルギーとなるべきものが使い方を間違えば恐ろしい結果を生むという事実を肌で知っている「時代」のメッセージは柴田博士の言葉が表していると思う。
「光夫君、よくおぼえておいてくれたまえ。これが科学者の道なんだ。」
「原子力の発見というのは、人類にとって、火の発見につぐ、大きな段階なんだ。自然の秘密、宇宙の秘密の大きな鍵を、初めて人類は手につかめたんだ。この力を善に働かせるのも、悪に働かせるのも、それは人類の決心1つ…人類が初めて幸福に平和に暮らせるようになるのも、この地球の上から1人残らず、姿を消してしまうのも、この原子力の発達と、使い方だけにかかっているということを忘れずにいてくれたまえ。」
「覆面紳士」でも語られた「科学に善悪はありません。ただそれを使う人の心によって善ともなり、悪ともなるのです。」というメッセージはここでも繰り返されています。
ちなみに、あのビキニの水爆実験は昭和29年3月のことで、そこから核に対する世間の興味はより強くなり、反核運動は急速に盛り上がるけど、その前にこのテーマで小説があるというのはすごいような気がします。
ただ、昭和25年には放射性同位元素初輸入、米原子力委員会がデュポン社と水爆製造工場の建設契約を締結と発表などのニュースもあり、水爆についての話題が大きく取り上げられていた時期なのかもしれません。
冒険活劇。
神津恭介も拳銃を使うだけでなく、格闘して相手を締め落としたり。
強い強い。
この神津恭介は心技体揃ったスーパーヒーローです。
……やはり、大人ものの神津とは別人だよ…。
一方では、なんと、松下課長も落下傘でアジトに潜入したり、警察官も大活躍。
都内のアジトに総攻撃をかける武装警官達は警視総監の命令一下、果敢に戦って命を落としていきます。
そう、結構たくさんの人が死んでいるのです。
【自分の為の覚書:この時期の警察と自衛隊】
この時期に自衛隊のような組織はなかったので、骸骨島への潜入攻撃には在日米軍の協力も不可欠でした。爆撃や救助船も当たり前の様に米軍です。
都内での総攻撃には「警視庁予備隊」(現在の機動隊)が活躍したのでしょう。
現在の自衛隊や警察をイメージしているととても違和感があります。
この辺は若い読者には伝わらないかもしれません。
Wikiによると、
戦後「警視庁予備隊」が創設されたのは昭和23年(21年に創設された防護隊が拡大された)。その後、昭和27年に機動隊となります。
一方、朝鮮戦争が勃発したのが昭和25年6月、それにより同8月、GHQの指令に基づくポツダム政令により自衛隊の前身である「警察予備隊」が組織されました。これは「警視庁予備隊」とは別組織で、昭和27年に「保安隊」(現在の陸上自衛隊)として発展的解消します。
機動隊は戦後すぐからあって、自衛隊は丁度連載されていた時期に出来た、と考えるのが良さそうです。
今回読み返して。
これ、深夜アニメで1クールくらいでやってくれないかなあ…と思ってしまった。
かなり面白いと思うんだけど。
時代背景が合わないから難しいかな。
それに。
うん、まあ神津のキャラデザには必ず文句つけると思うけどねw