知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

Winny 最高裁判決

2011-12-21 20:05:30 | 最新知財裁判例

1 最高裁判決の要旨

1-1幇助の客観的成立要件について

幇助の客観的成立要件について、最高裁は、「刑法62条1項の従犯とは,他人の犯罪に加功する意思をもって,有形, 無形の方法によりこれを幇助し,他人の犯罪を容易ならしむるものであ」り。「幇助犯は,他人の犯罪を容易ならしめる行為を,それと認識,認容しつつ行い,実際に正犯行為が行われることによって成立する」と判断し、原判決について,「インターネット上における不特定多数者に対する価値中立ソフトの提供という本件行為の特殊性に着目し,「ソフトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供する場合」に限って幇助犯が成立すると解するが,当該ソフトの性質(違法行為に使用される可能性の高さ)や客観的利用状況のいかんを問わず,提供者において外部的に違法使用を勧めて提供するという場合のみに限定することに十分な根拠があるとは認め難」いと判断しました。

1-2 幇助の客観的成立要件(故意)について

幇助の客観的成立要件(故意)について、最高裁は、価値中立の「ソフトの提供行為について,幇助犯が成立するためには,一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり,また,そのことを提供者においても認識,認容していることを要するというべきである。すなわち,ソフトの提供者において,当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,その公開,提供を行い,実際に当該著作権侵害が行われた場合や,当該ソフトの性質,その客観的利用状況,提供方法などに照らし,同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で,提供者もそのことを認識,認容しながら同ソフトの公開,提供を行い,実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り,当該ソフトの公開,提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である」と述べた上、被告人には故意嵌ないと判断しました。

2 大谷反対意見の要旨

この多数意見に対して、大谷裁判官の反対意見が付されています。

2-1 幇助の客観的成立要件

大谷裁判官は、まず、幇助の客観的成立要件について、「本件の被告人の提供行為の可罰性を判断するに当たり,侵害的利用についての具体的でより高度の蓋然性が客観的に認められる状況下で提供されることを要件としたが,この点は幇助行為の可罰性の違法要素であり,構成要件要素とも考えられるのであり,そうすると犯罪成立の主観的要素(幇助の故意)として,この高度の蓋然性について認識・認容も求められることになる(なお,具体的な正犯の特定性については,いわゆる概括的な故意としての認識・認容で足りよう。) 」と判断しました。

2-2 幇助の主観的要件

また、大谷裁判官は、幇助の主観的要件について、「同様に,幇助犯としての主観的要素としては,この高度の蓋然性についての認識と認容が認められることをもって足り,それ以上に正犯行為を助長する積極的な意図や目的までを要するものではない」と述べて、多数意見とほぼ同意見を提示しつつ、当てはめに関して、「本件において,被告人に侵害的利用の高度の蓋然性についての認識と認容も認められると判断するものであり,多数意見に反対する理由もここに尽きるといえよう」と判断しました。

2-3 違法性阻却事由

大谷裁判官は、このように幇助の客観的成立要件と主観的成立要件の成立を肯定しつつ、さらに、すすんで、違法性阻却事由について検討されています。すなわち、まず、「被告人のWinnyの開発・提供の主目的は,P2P方式によるファイル共有ソフトの効率性,匿名性をこれまで以上に高め,それ自体多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に行うことを可能にするという技術的有用性の追求にあったことが認められ,また不特定多数の者にこれを提供して意見を徴しながら開発を進めるという方法も,特段相当性を欠くとは認められ」ず、、「本件において,行為の目的,手段の相当性,法益侵害の比較,あるいは政策的な配慮などを総合考慮し,社会通念上許容し得る場合,あるいは法秩序全体の見地から許容し得る場合に違法性を阻却するとする実質的違法性の問題についても検討の余地はあろう」と述べつつ、「個々の侵害行為におけるソフトの果たす役割が大きくないにしても,前述のように,本件Winnyは,侵害的利用の容易性といったその性質,不特定多数の者への無限定の提供というその態様などから,大量の著作権侵害を発生させる素地を有しており,現にそのような侵害的な利用が前述のように多発もしていたのであって,法益侵害という観点からは社会的に見て看過し得ない危険性を持つという評価も成り立ち得よう。侵害される法益は,侵害に対しては懲役刑(本件当時長期3年以下の懲役)をもって保護される法益である。 一方,被告人の開発・提供行為は,ネット社会においてその有用性について一定の評価がなされているが,このような分野での技術の開発はまさに日進月歩であり,開発中のソフトについて,その技術開発分野での十分な検証を踏まえて客観的な評価を得ることも甚だ困難を伴う。このような本件Winnyの持つ法益侵害性と有用性とは,「法益比較」といった相対比較にはなじまないともいえよう。本件Winnyの有用性については,幇助犯の成立について,侵害的利用の高度の蓋然性を求めるところでも配慮がなされているところであり,改めてこの点を考慮しての実質的違法性阻却を論ずるのは適当ではない」と述べています。

 

3 コメント

3-1 多数意見について

3-1-1 結論

まず、結論には賛成です。

 

2-1-2 理由

次に理由ですが、幇助の成立要件については、価値中立のソフトであるからといって、幇助の成立要件を変更する根拠にはならないと解されるため、多数意見に賛成です。もっとも、価値中立の「ソフトの提供行為については,合法的利用の可能性もあるのですから、幇助犯が成立するためには,その客観的要件として、一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり、主観的要件として、「そのことを提供者においても認識,認容していることを要する」といえます。これをより、具体的に述べると、「ソフトの提供者において,当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,その公開,提供を行い,実際に当該著作権侵害が行われた場合や,当該ソフトの性質,その客観的利用状況,提供方法などに照らし,同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で,提供者もそのことを認識,認容しながら同ソフトの公開,提供を行い,実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り,当該ソフトの公開,提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たる」というべきことになります。

なお、被告人に故意が認められるか否かについては、証拠を検討していないため、意見を留保します。

 

3-2 大谷反対意見について

大谷反対意見については、「被告人のWinnyの開発・提供の主目的は,P2P方式によるファイル共有ソフトの効率性,匿名性をこれまで以上に高め,それ自体多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に行うことを可能にするという技術的有用性の追求にあったことが認められ,また不特定多数の者にこれを提供して意見を徴しながら開発を進めるという方法も,特段相当性を欠くとは認められ」ず、、「本件において,行為の目的,手段の相当性,法益侵害の比較,あるいは政策的な配慮などを総合考慮し,社会通念上許容し得る場合,あるいは法秩序全体の見地から許容し得る場合に違法性を阻却するとする実質的違法性の問題についても検討の余地はあろう」と述べて、違法性阻却事由について検討されている点は共感できます。Winnyのような価値中立のソフトの提供が犯罪となるか否かを決定する本質的問題は、括中立ソフトの有用性とその副作用として正犯の行為を介して生じる法益侵害のいずれを選択・甘受するか、という法益比較(利益考量)の問題であると考えるからです。

これに対し、大谷反対意見が、「個々の侵害行為におけるソフトの果たす役割が大きくないにしても,前述のように,本件Winnyは,侵害的利用の容易性といったその性質,不特定多数の者への無限定の提供というその態様などから,大量の著作権侵害を発生させる素地を有しており,現にそのような侵害的な利用が前述のように多発もしていたのであって,法益侵害という観点からは社会的に見て看過し得ない危険性を持つという評価も成り立ち得よう。侵害される法益は,侵害に対しては懲役刑(本件当時長期3年以下の懲役)をもって保護される法益である。 一方,被告人の開発・提供行為は,ネット社会においてその有用性について一定の評価がなされているが,このような分野での技術の開発はまさに日進月歩であり,開発中のソフトについて,その技術開発分野での十分な検証を踏まえて客観的な評価を得ることも甚だ困難を伴う。 このような本件Winnyの持つ法益侵害性と有用性とは,「法益比較」といった相対比較にはなじまないともいえよう。本件Winnyの有用性については,幇助犯の成立について,侵害的利用の高度の蓋然性を求めるところでも配慮がなされているところであり,改めてこの点を考慮しての実質的違法性阻却を論ずるのは適当ではない」と判断されている点は疑問です。

確かに「法益比較」は困難ではありますが、仮にそれが不可能な場合には、ソフトの有用性が立証される限り、「疑わしきは被告人の利益に」の観点から実質的違法性阻却事由ありと判断すべきように思われます。また、「本件Winnyの有用性については,幇助犯の成立について,侵害的利用の高度の蓋然性を求めるところでも配慮がなされている」とされていますが、ここでは、実質的には、有用性の有無(=価値中立のソフトか否か)が考慮されているだけであり、有用性の程度が考慮されておらす、この点は実質的違法性阻却事由の有無というレベルで考慮すべきと考えます。

 


コメントを投稿