知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

意匠の類否判断(その3)

2012-04-10 00:53:28 | 意匠法

6 意匠の対比
6-1 物品の状態
意匠の対比の際には、需要者が実際に物品を購入する状態を前提とすべきである。なぜなら、物品に意匠を施し、需要者に一定の美感を生じさせようとする理由は、需要者の購入意欲を促進することにあるからである。

6-2 類否判断
6-2-1 総合判断
類否判断の際には、前記のとおり、両意匠の注目される部分について、共通点と差異点とを抽出し、総合評価して判断することになる。
結論として類似と判断する場合には、差異点について、①微差であり、あるいは、②周知のありふれた態様等であるために、共通する意匠部分が需要者に与える美感の共通性を凌駕しないという評価がなされることが多いが、疑問である。すなわち、類否判断は総合判断であるから、差異点が①微差である、②周知のありふれた態様であるとの点も、総合判断の一要素にすぎないと理解すべきである。
このように考えると、共通点については、共通点が存在する部分の注目される程度、共通点が有する形態の特別顕著性(「ありふれた」の反対概念)の程度(注目される程度)が考慮要素となる。また、差異点については、差異点が存在する部分の注目される程度、差異点が有する形態の特別顕著性の程度、相違の程度が考慮要素となる。共通点が注目されない形態であることを理由の一つとして非類似と判断した裁判例として、大阪地方裁判所平成18年(ワ)第14144号(カーテンライナー事件)がある。

6-2-2 公知意匠の位置づけ
それでは、公知意匠についてはどうか。
まず、現行法においては、特許法104条の3が準用されているから(意匠法41条)、意匠権侵害訴訟において、当該登録意匠が意匠無効審判により無効とすべきものと認められるときは、当該意匠権者は、その権利行使をすることができないことになるから、。登録意匠と同一又は類似の公知意匠が認定された場合(意匠法3条1項3号、22項)には、当該意匠権の権利行使は否定される。
次に、共通点の有する形態が公知意匠である場合はどうか。この点、混同説を徹底すれば、「混同可能性」の有無が判断基準であり、公知意匠は、その公知性の程度に応じて注目される程度が小さいという意味で考慮されるにすぎないことになる。これに対して、修正混同説に立てば、共通点の有する形態が公知意匠であることが、「注目される程度が小さい」という判断を通じて、常に、類似を否定する方向に働くファクターとなり、また、共通点の有する形態が新規性・創作非容易性を有する意匠であることが、「注目される程度が高い」という判断を通じて、常に、類似を肯定する方向に働くファクターとなるとの判断を導くことができる(前掲「知的財産訴訟の実務」122ページ参照)。そうとすれば、この限度において、「混同可能性」の有無の判断には、擬制が伴うといわざるを得ない。

6-2-3 機能に由来する形態
それでは、機能に由来する形態はどうか。
機能に由来する形態であっても、それが機能上不可欠な場合を除き、類否判断の考慮要素となるというべきである。なぜなら、機能上不可欠な形態でない限り、機能に由来する形態であっても、美感を考慮して選択されたものといえるからである。
もっとも、機能に由来する形態の場合、取り得る選択肢が機能実現の観点から限定されるため、ありふれた形態といえる場合が多いと思われる。

6-2-4 類否判断の基準時
混同説を徹底すれば、「混同可能性」の有無が判断基準であり、それは、実施行為時点における「混同可能性」を問題にするものであるから、類否判断の基準時は、実施時行為となるのが一貫している。このように、類否判断の基準時が実施時行為であるとすれば、多くの裁判例が指摘する「周知のありふれた形態」(周知意匠)であるか否かも実施行為時に判断すべきことになろう。しかし、現実の裁判例は、周知意匠か否かを登録意匠の出願時を基準に判断している。この点、創作説に立てば、周知意匠か否かを登録意匠の出願時を基準に判断することは当然となろう。この矛盾は、修正混同説の立場に立ち、登録意匠の保護範囲(登録意匠の構成及びこれに類似する意匠の範囲)は出願時に決まると解することにより解決する他ないと思われる。この意味においても、「混同可能性」の有無の判断には、擬制が伴うことになるのである。なお、後願の意匠に関して、公知意匠に準じて扱ったものとして、前掲東京地方裁判所平成20年(ワ)第1089号(ハンガー事件)がある。


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