*** june typhoon tokyo ***

Especia@六本木VARIT


 ダイバーシティ(多様性)とメタモルフォーゼ(変身)。

 マンスリー・モーニング・ライヴ企画〈Hotel Estrella〉の2016年内ラストはクリスマス・イヴに〈Hotel Estrella -EVE-〉として開催。朝の飯倉片町、六本木VARITにぺシスト(Especiaのファン)たちが足を運んだ。
 ワム!「ラスト・クリスマス」のカヴァーなどBGMも当然クリスマス仕様。だが、開演時刻10分後の暗転からはクリスマスムードは影を潜め、身体が無意識に反応する心地良いグルーヴがフロアを支配し始める。爽やかなイヴの朝もEspeciaのグルーヴは不変だ。

 前回の〈みなと亭〉では新曲「Danger」「レイニー・ブルース」に「Over Time」「オレンジ・ファストレーン」初披露および森絵莉加のリード・ヴォーカルというトピックがフロアを沸かせたが、今回の〈-EVE-〉でも新たな仕掛けを組み込んできた。
 フロアの沸点が一気に上昇したのが、MC明けの「ナイトライダー」。EP『DULCE』に収録された初期のファンキー・ディスコ曲で、Especiaの原点とも言える楽曲(Especiaのアイデンティティ……とまで言うのは大袈裟か)の一つを森のメイン・ヴォーカルで披露。以降、冨永悠香のメイン・ヴォーカルに戻って初披露となる「スカイタイム」、前回初披露した森リードの「オレンジ・ファストレーン」とEP『AMARGA』収録曲を続けると、旧知のEspeciaサウンドを愛するオーディエンスの身体の揺れも必然と激しく熱を帯びていくのを肌で感じた。それからファンキー・ポップな新曲「Danger」への高揚をもたらした展開は、過去と現在を結び付けただけでなく、編成の変容がありながらも彼女たちがEspeciaを“継続”しているという偽らざる事実をも体現したかのようにも思えた。
 
 序盤では「Savior」に続いてミア・ナシメントがリードを執った「雨のパーラー」も披露。これまでの森とミアはバック・ヴォーカルとダンスで脇を固めてきたが、ここに来てさまざまな可能性にチャレンジしている模様。森は低音から高音へと激しい抑揚のあるメロディの楽曲では、従来あまり喉が強いタイプではなさそうなゆえ苦しそうな場面も見られ、ミアもハマる声域とそうでない声域での質の差にバラつきが見られるなど、正直なところ課題も多い。ただ、クオリティの高い楽曲を単に歌い披露するというだけでなく、リード・ヴォーカルを変えたり、コーラス・アレンジやフェイクを組み込むことによって楽曲自体の懐の深さを導き出す効果は確実に生まれている。ハモリを駆使するパートでは楽曲や歌唱に重層的な厚みを加えることに成功。喩えれば、青いバナナがようやく黄味を帯びてきたというくらいのまだ微かな深みではあるが、色香や心の機微が歌からも伝わり、楽曲と詞世界の行間とが巧みに重なることでよりヴィヴィッドな心象風景を描けていけるような予兆も感じられた。

 森やミアのリードがもたらす効果はそれだけではなく、特に冨永がサイドに回ることで全体のヴォーカルワークの強度を目覚ましいほど高めていた。表現力という意味ではグループ1だった冨永だが、これまではメインを張ることがかえって重圧となり、力みが不安定なピッチや感情の希薄さにも繋がっていたこともあった。しかしながら、コーラスでハモリなどメイン・ヴォーカルとは異なる描写や声の押し引きを知り、愉しみを覚えているのか、彼女のヴォーカルからは明るい表情やメリハリも生まれ、時折織りなすフェイクにもようやく余裕(力みがないという意味での)が窺えるようになってきた。それを示した最たるものがこちらも初披露となった「West Philly」。元来、冨永の見せ場の多いけぶったブルース・ソウルだが、当初はそのアダルトな曲世界を上からなぞっていたものが、声だけでなく体躯から心情に訴えかける“滲み出るもの”へと変化しつつあるようだ。「ナイトライダー」が表のトピックであるなら、「West Philly」はグループとしての表現力の底上げを感じた陰の大きな要素に違いない。

 「新体制でこの朝企画シリーズや対バンその他のイヴェントで場数を踏んできた結果が、少しずつ余裕となって表われてきているのかもしれない」と前回のライヴレポートで記したが、彼女たちのさまざまな可能性を確かめ、トライする場としても有効に機能し始めているのではないか。確かに、決して大きな規模ではない企画イヴェントの域を出ない朝ライヴではある。それでも、ファン・ベースに披露する切磋琢磨や、その先の成長と躍動の芽吹き、多様な可能性が花開くまでの過程を垣間見られるという意味においては、興味深いステージには他ならない、今だからでしか体感出来ない貴重なステージと言えるだろう。

 2017年のEspeciaはどのような変化と刺激をもたらすのか。その幕開けは1月9日のLUCKY TAPESとの2マン・イヴェントになる。

◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Nothing
02 Savior
03 海辺のサティ
04 雨のパーラー
05 Mistake
06 West Philly
07 ナイトライダー
08 スカイタイム
09 オレンジ・ファストレーン
10 Danger
11 FOOLISH(12" Vinyl Edit)
≪ENCORE≫
12 レイニー・ブルース
13 Boogie Aroma(2016 Ver.)

<MEMBER>
Especia are:
Haruka Tominaga(vo)
Erika Mori(vo)
Mia Nascimento(vo)


◇◇◇

【〈Especia the Second〉(新体制)以降の記事】
・2016/06/25 ESPECIA@渋谷Club asia
・2016/08/12 Especia「Mirage」
・2016/08/28 Especia@渋谷CHELSEA HOTEL
・2016/09/11 Especia@O-nest
・2016/10/16 Especia@六本木VARIT
・2016/11/13 Let's Groove@六本木VARIT
・2016/11/27 Especia@六本木VARIT

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